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『夢からさめて、さめない夢をみる 』
ツヴァイ=XXIka2418)&クレア=Ika3020


 黒く塗り潰された空。
 標となる金色の輝きが、姿を消す夜。
 吹く風が木々を揺らし、音を立て、歌のように、まじないのように、心の隙間へと流れ込む夜。

 夜明けは、遠く。




 深くて冷たい闇の底、360°見渡す限り何もない。
 ツヴァイ=XXIは、己も溶け込んでしまいそうな闇の中、見慣れた闇の中、両手をだらりと下げて立ち尽くしていた。
(……知っている)
 こぽり、泉から湧き出る水のように、どこからとなく響く声。
 出所を探すことなく、ぼんやりとツヴァイは耳を傾ける。
 こぽり。こぽり。
 声は、言葉は、嘲笑は、悲鳴は、次第に増えてゆく。激しさを増してゆく。
(逃げられないんだ)
 耳を塞いだこともあった。
 小さく丸くなったこともあった。
 力の限り、逃げ回ったこともあった。
 それでも、この声・闇からは『逃げられない』ことを、ツヴァイは知っている。知っている。
 平静を装う振りをしながら、心臓は早鐘のようになっている。
 ポーカーフェイスのその顎を、汗が伝って落ちてゆく。
(来る)
 どろりとした闇が、ツヴァイの脚に絡みつく。嗚呼、そんなことをしたって逃げやしないのに。

「――……、……」

 低い男の声が、己の名を呼ぶ。
 少し枯れた響きで呪詛を吐くのだ。
 影が、こちらを指さして。

 やめてくれ。
 やめてくれ。

「お前も、俺と、同じ――」




 深くて冷たい闇の底、360°見渡す限り何もない。何もない。何もない。
 ――消えてゆく、離れてゆく。
 クレア=Iは、少女の姿で泣き叫び、手を伸ばす。
「待って……! 行かないで、行かないで!!」
 置いていかないで。
 一人にしないで。
 消えてゆく、大好きな背中。
 クレアの脚にはどろりとした闇が絡みついていて、背中を追うことができない。
 叫ぶことしかできない。声が枯れ、涙で頬が痛む。それでも思いは届かない。
 飲み込まれてゆく、背中。
 全てを塗り潰す闇。
 月のない夜。
 全てを失った夜。




 悪夢は、繰り返す。繰り返す。
 呪いのように、忘れさせないように、丁寧に繰り返しては心の傷に触れてゆく。


 闇の中で目を開き、ツヴァイは深く深く息を吐きだした。
 ずっと、詰めていたのだと気付く。
 クシャリと黒髪を掴み、軽く目を閉じてもう一度開く。徐々に、室内の闇に慣れてくる。
 ――毎夜、飽きることなく襲う悪夢。
 夢だと自覚があっても、眠ることは好きになれない。こればかりは、割りきって受け流すことはできなかった。
(夜明け前…… 何時だ?)
 朝まで、あとどれくらいある?
 窓の外の闇に小さな落胆を見せ、それから懐中時計を探した。
 父の、形見である。
 普段掛けている眼鏡は伊達だ、就寝時に外していても視力に支障はない。薄紅色の瞳で睨むように、握りこんだ懐中時計を見つめた。
(自分の……期限は)
 命の、期限は。そんなことを、ぼんやり考える。夢の残滓が、まだ絡みついているようだ。
 文字盤を眺めては、自身に残された時間を数えた。

「……? そういえば、来てたんだったか……」

 時計を握る腕を下ろすと、サラリと冷たい感触が腕に触れた。
 驚いたのも一瞬だけで、すぐに状況を思い出す。悪夢に囚われた意識が覚醒してゆく。
 闇の中へ溶け込む瑠璃紺の髪。太陽の下で見たなら、それはとても美しいことをツヴァイは知っている。
 幼馴染のクレア。
 兄妹の延長のような、線引きの出来ない存在。
 『新月の夜』には、決まってこうして潜り込んでくる。
 腕の中のぬくもりに気づくと、それまで硬かった青年の表情がぎこちないながらも和らいだ。

 夢から覚めて尚、底の見えない闇の中。
 それでも今は、ここには、クレアが居る。
 ひとりじゃない。

 悪夢の象徴だった黒塗りの窓の外へ再び視線を投じ、ツヴァイは母の好んだ歌を口遊んだ。
 柔らかな旋律、優しい詩。
 眠るクレアを起こさないよう、静かに静かに歌う。
 過去に、彼女へ歌ってやったこともある。

「……その歌、好き」

 ぽつんと声が闇に浮かび、ツヴァイの歌が止まった。
「…………起きてたのか」
「んん、いま、起きたわ。歌が、聴こえたの」
 言葉の通り、クレアの表情はまだどこか寝ぼけている。普段は掴みどころのない表情の青い瞳は、子供のようなあどけなさを湛えていた。
 視線が交わる、照れ隠しにツヴァイは顔を背けるも、赤みの差した頬が暗闇の中でさえ隠しきれていない。
「〜〜〜ッ」
「ふふっ」
 長い指で髪をくしゃくしゃに撫でられて、クレアは笑った。
 くすぐったい。暖かい。ツヴァイは、優しい。
 優しいその手を取って、クレアは目を伏せる。
「…………」
 ツヴァイの歌が、聞こえるまで。ずっと、クレアを追いかけていた怖い夢。
 思い出し、振り払い、それから歌の続きを唇に乗せる。
 クレアが握る青年の手から、自然と力が抜けていった。
(なんだろうな、落ち着く……)
 小さな明かりを灯すような歌声に、ツヴァイは救われた思いになる。
 澄んだ響きに、小さな笑みが浮かぶ。
 ゆっくり、ゆっくり、心が凪いでゆくのを感じた。




「まだ時間はあるだろ。寝ろ」
「うん」
 長くはない歌が終わると、ツヴァイはクレアを優しく抱きしめて目を閉じる。温度を、存在を、確認するように。
 クレアもまた、その胸元へ縋るように抱きつく。安寧を求める幼子の仕草だ。
 心をかき乱す風の音が、今なら子守唄のように思えた。
 それでも。
「……新月の夜は、嫌い。大嫌いだわ」
「ああ。知っている」
 だから、こうしているんだろう?
 互いに20という歳をとうに超えて大人になった今だって。
 悪夢を恐れ、記憶を恐れ、心のバランスを失う。
 ツヴァイという支えが無ければ、クレアは今頃、どうなっていただろう?
 クレアが甘えることができるのは、今や彼だけになっている。

(いなくならないで)
 子供のような願い。
(そばにいて)
 子供ではないから、口にはできない願い。
 それは―― どちらの?

 分かち合い、混ざり合い、重なり合っていることに、今は気づくことなく。
 二度目の眠りは、深く、安らかに。



 夜明けは遠い。
 それでも不思議と、恐怖は和らいでいた。
 月ならば、ここに在る。





【夢からさめて、さめない夢をみる 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2418/ツヴァイ=XXI/ 男 /18歳/ 機導師】
【ka3020/ クレア=I / 女 /20歳/ 猟撃士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
暗く、何処までも追掛ける悪夢。暖かく、穏やかな現実。
『ふたり』の空気を、描けていたらと思います。
お楽しみいただけましたら幸いです。
MVパーティノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年04月15日

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