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『愛すべき日々に寄せて 』
アルヴィン = オールドリッチka2378)&エアルドフリスka1856)&ダリオ・パステリka2363

●アルヴィンは綴る
 優しい夜が訪れ、妖精が眠りの粉を振りまく頃。
 アルヴィン = オールドリッチは夜着でデスクの前に座る。引き出しから取り出すのは、深い蒼の皮張りの日記帳。表紙は金の箔押し、隅っこでは四つ葉のクローバーを咥えた兎が小首を傾げている。
 中には、教養の高さを窺わせるよく仕込まれた美しい文字がびっしりと綴られていた。だがやや右に傾いているのが、書いた人物の前のめり気味な性格をよく表しているようでもある。
 アルヴィンは羽根ペンを手に取り、新しいページを開く。
 いつも笑顔を絶やさない彼ではあるが、この瞬間の彼の表情は生き生きと輝き、まるで仲良しの誰かに、今日出会った楽しい出来事を語るかのようだ。
 少し考えた後、さらさらとペンを走らせる。
 そこに広がるのはアルヴィンの目が、意識が、切り取った世界の姿だ。
 愛すべき人々との愛すべき日々。
 アルヴィンは宝物を愛でるように、ひたすら文字を綴っていく。


●○月×日 曇り
 今日はルールーのお店に行ったよ。
 ルールーって今の季節はとっても忙しいらしいんだ。風邪を引く人やホコリで目を傷める人が多いんだって。
 ルールーのお店は不思議な匂いがする。慣れない人は臭いって思うかもしれないね。でも暫くお店にいると、落ちついてくるから不思議。
 どうしてって聞いたら、薬なんだから当たり前だって言われちゃった。
 その間もとっても忙しそうだったから、僕もお手伝いをしたよ。ちょっとは助けになっているといいな。

 * * *

 宿の二階にエアルドフリスの薬局がある。
 階段を上がってくる足音に気付き、エアルドフリスはパイプを咥えたまま奥の部屋から店先に移動する。
 扉が開くのと、彼がカウンターに顔を出すのはほぼ同時だった。
「あいよ、薬局に御用なら……なんだ、アルヴィンか」
 あからさまに声音が変わる。そこには立っていたのは、いつも通りの笑顔のアルヴィンだった。
「こんにちは、ルールー! 外はモウすっかり春ダヨ!」
「そうだな、春だな。お陰で俺は多忙を極めている」
 暗に『客でないなら邪魔するな』を含んだ発言だったのだが、アルヴィンの目が好奇心に輝くのを見て、エアルドフリスは失敗を認めざるを得なかった。だがもう遅い。
「春にナルと薬屋さんは忙シクなるんダネ! どうしてなんダロ?」
「……風邪をこじらせたり、埃っぽい外に浮かれ出て目を病む連中が多いんだ。というわけで、悪いが今日はどこにも付き合え……おいこら、勝手に入るな!!」
 アルヴィンは勝手知ったる店のこと、気がつけば奥の部屋に入りこんできた。
「せっかく春ナノニ、何処へも行ケないナンテ、ルールーって大変ダネ。僕、今日は時間があるカラ、お手伝いスルヨ!」
 エアルドフリスはたっぷり三秒かけて紫煙を吐きだしてから口を開く。
「手伝い? あんたが? ……勘弁してくれ」
 だがそんなことは聞いちゃあいない。
「確かコレ、ごりごりーってスルんダヨネ! 薬草を入れてくれタラ、僕が頑張るヨ!」
 既にアルヴィンは木製の薬研に手を掛けていた。
「単に擦ればいいという訳じゃないんだ、良いからせめて邪魔をするな!」
「アッ、これ何? 何の薬? スゴク変な匂い!」
 当然話なんか聞かずに、アルヴィンは吊るしてあった薬草を掴んで、匂いを嗅いでいる。
「勝手に触るな!!!」
 すぱぁん。ついに愛用のハリセンが飛び出た。

 エアルドフリスは顰め面で、それでもお茶を出した。
「これを飲んだらもう帰れ」
「ありがとう! 面白い匂いのスルお茶ダネ」
 だがアルヴィンは嫌な顔一つせずにお茶をにこにこと飲んでいる。
(気持ちを落ち着けるハーブティーだが……こいつに効くかねえ?)
 エアルドフリスの思惑も知らず、アルヴィンはきょろきょろとあたりを見回す。
「ルールーのお店は不思議な匂いがするヨネ」
「嫌がる奴もいるな」
「デモ暫くイルと、心が落ちツイテくるみたいダヨ。どうしてだろうネ?」
 ほんとうか? そう思いつつ、エアルドフリスは煙を吐いた。
「全部薬だからな、至極当然の事だ」
 本能的に身体に良い物を嗅ぎ分けているのかもしれない、と続けようとした時だった。
「あれー、何コノ本?」
 油断も隙もない。他の本に紛れこませておいた一冊を目ざとく見つけ、アルヴィンが開く。半ば伝説のような不思議な生き物たちの生態を記した希少本だ。
「触るなと言っただろう……!!」
「へえ〜眠っテル人の口に入れタラ、その人の本音を喋らせる虫ダッテ? コンナ虫がイルんだネ!」
 エアルドフリスは眉間を押さえた。学があって勘のいい奴は厄介だ。直ぐに内容を理解してしまう。
「デモこういう本って、珍しいんダヨね?」
「ああ、だが馴染みの本屋に並んでいてだな」
「ふーん幾ら?」
「向こうが欲しがって来る薬をつけるってことで値切って……」
 金額を白状してから、エアルドフリスははっと我に返る。
 アルヴィンがにこにこしながら顔を上げていた。
「ルールーさ、薬屋さんが儲からナイのハ、そういうのが理由ジャないカナ?」
 図星である。そして人は図星を指されると逆上する。
「良いから帰れ!!!」

 * * *

 ルールーはよくハリセンを出したりするけど、とっても面白い人だよ。
 でもね、時々暗い道の方を選んで歩いてるような気がするんだ。
 僕もその道は知ってる。でもそっちに行っても良い事なんかないし、なくなったものは戻って来ないんだ。
 忘れなくてもいいよ。だけどなくしちゃったのはルールーのせいじゃないってことは気付いてほしいな。
 だから一緒に明るい方の道を行こうよ。もし迷っちゃったら、僕が引っ張って行くからね。


●○月△日 晴れ
 今日はいいお天気だったよ。
 お散歩してたらパッティーのアジトの近くを通りかかったんだ。お庭で豊後丸とパッティーが遊んでいたよ。
 豊後丸とパッティーはいつも仲良しだね。パッティーの一番のお友達は豊後丸なのかな。
 お天気がいいから豊後丸もいっぱい欠伸してたよ。犬の欠伸ってすごいね、あごが外れそうなぐらい開いて面白いよ。でもパッティーはあんまり面白くないみたい。どうしてだろうね?
 パッティーは欠伸するたんびに豊後丸に何か言ってた。
 気持ちのいい日は、欠伸ぐらい出たっておかしくないと思うんだけどな。

 * * *

 ダリオ・パステリは自分の家を「アジト」と呼んでいる。それが彼の趣味に合う呼び名なのだろう。
 その庭先に置かれた平たい岩に自身が岩のように座り、静かに語るダリオ。
「良いか。兵法とは書物に書かれた事が全てではないのであるぞ。一見すれば、その教えは間逆であることも珍しくはない。例えるならば、拙速を戒めながら、機を逃す愚を警告しておる。詰まりはその塩梅が肝要であって……これ、聞いておるのか豊後丸!」
 柴犬の豊後丸は黒い宝石のようにキラキラした丸い目で、ダリオを見ていた。
 きりりと巻いた尻尾をぱたぱたと振り、何処か笑っている様な顔はご飯をくれるのかという期待に輝いている。
「それがしとて、兵法の何たるかを全て分かっておるとは言い難い。だが日々、これを生かす努力をするべきであるとは心得ておる。そのほうもそのようにしかと心得よ」
 どうやらまだご飯をくれるつもりは無いらしい。
 聡い豊後丸はそう理解し、右の後ろ足で顔の横をかかかっと掻いた後、伏せの体勢でひやりと心地よい玉砂利に腹をくっつける。
「奇策を弄するにも原理原則を真に理解しておらねば、叶わぬこと。何事も基本が肝要であると……これ豊後丸!」
 ふわあああ〜っと顔が裂けそうな大欠伸にダリオも一瞬釣られそうになって、思わず声を上げた。
 とにかく今日は気持ち良すぎる程のいいお天気だ。
 いつもは冷たく体を支え心を落ち着かせてくれる大岩すら、日の当たっている場所はぬくぬくと気持ち良く、小鳥が一羽ぷるぷると羽を震わせていた。どうやら手水鉢で水浴びして来たらしい。
「確かに穏やかな春の日には、気も緩みがちであろう。だがかような日こそ、油断せず己を戒めねばならぬのだ。日々鍛錬、日々精進。戦場でどれほど悔いたとて、敵は見逃してはくれまいぞ」
 これだけ説教をされていても、豊後丸は相変わらずそこに居て、笑った様な顔で緩く尻尾を振り続けている。
 つまるところ、豊後丸もダリオが大好きなのだ。

 だが、この好人物のことが気に入ってはいても、ひとつだけ文句を言いたいことがあるのがアルヴィンだった。
 彼はアジトの生垣の隙間からダリオと豊後丸を覗き見しつつ、ずっと念じている。
(お話はイイからパッティー、豊後丸にちゃんとご飯あげてヨ! 豊後丸、すっごく待ってるヨ!!)
 この強い念に気付かない辺り、ダリオの警戒心も今日は緩んでいるのかもしれないが。
 実はこの点についてはダリオにはダリオの主張があるのだ。
 ほとんど笑顔を崩さないアルヴィンが唯一怒るのが豊後丸のご飯のことなので、ダリオも少し困っているのだが。
 豊後丸はお腹が空けば、自力で餌を調達して来るのである。悪天候だったりして獲物を確保するのが難しいときは様子で分かるので、そのときはちゃんとダリオだって餌を与えている。
 尤も「自力で調達」が野山とも限らない、という点はダリオの知らないことだったが……。

 * * *

 パッティーはいつでも真っ直ぐだよ。
 相手がどんな人間でも、動物でも、いつでもちゃんと真面目に向きあってる。
 戦場で生きて来たから勘は鋭いと思うんだけど、どう生きて来たかより、今どう生きようとしているかを大事だと思ってるみたい。
 だから僕のことも、今の僕だけを見て友人になってくれたんだと思う。
 僕はそれがとっても嬉しかったよ。
 それから本当のことをちゃんと言ってくれるから好きだ。
 こういう人のことを、信頼できる人っていうのかな。
 でもね、飼い主なんだから豊後丸にはちゃんとご飯をあげてほしいな。
 豊後丸は僕があげたご飯を、いつもすごく美味しそうに食べてるよ。


●○月□日 晴れのち曇り
 いつもの通りにアジトに集まり、準備は整う。
「今日はお天気がいいケド、その分影ができやすいカラね、開けた場所ではチョット注意した方がイイと思うんダヨ!」
 いつも通りの笑顔でアルヴィンが言った。
 エアルドフリスは吸い込んだ息を、咥えたパイプの脇から器用に吐き出す。
「あんたの言う通りかもしれん。物陰に入るまではそれぞれに別の方向を確認しながら進んだ方がいいだろう」
「あい判った。豊後丸もかように心得よ」
「わん!」
 ダリオの命に、豊後丸が凛々しく吠えた。

 今日の依頼もこのメンバーなら盤石だ。
 誰もがいつも通りに、平和な日々を綴るために。
 さあ、出動だ。
 互いに背中を預けられる仲間がいれば、きっと明日にはまた穏やかな日常が待っている。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2378 / アルヴィン = オールドリッチ / 男 / 26 / エルフ / 聖導士】
【ka1856 / エアルドフリス / 男 / 26 / 人間(CW)/ 魔術師】
【ka2363 / ダリオ・パステリ / 男 / 28 / 人間(CW)/ 闘狩人】
【豊後丸 / ダリオの忠犬】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました『アルヴィン様の日記帳を覗いてみよう』ノベルのお届けです。
珍しいご依頼形式で、このような形で良かったのかと思いつつも、かなり好きなように執筆致しました。
お気に召しましたら大変嬉しいです。
この度のご依頼、誠に有難うございました!
MVパーティノベル -
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2015年04月17日

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