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『湯けむり温泉紀行、或いは奇行? 』
シグリッド=リンドベリka0248)&レイ=フォルゲノフka0183)&黒の夢ka0187)&ウサミカヤka0490)&ka1566


 今日はみんなでお花見しながら露天風呂。
 の、はずでした。
「おんせんおんせんー、おんせんまだかなー」
 手ぬぐいを頭に乗せて、黒の夢(ka0187)はふわふわ歩きます。
 けれども、歩いても歩いても、温泉は見えて来ません。
「おかしいですね、道を間違えたのでしょうか……」
 白猫のシェーラさんを頭に乗せて、シグリッド=リンドベリ(ka0248)は「特選・秘湯マップ」と書かれた地図を見ました。
 そこに書かれた温泉マークは、確かにこの辺りを示しているはずなのですが。
「シグ坊、その地図ガセなんとちゃうか?」
 洗面器に入れた入浴セットを頭に乗せたレイ=フォルゲノフ(ka0183)が言いました。
 小さな石鹸が箱の中でカタカタ鳴ります。
「そんな筈はないと思うのですが……」
 その地図は冒険都市リゼリオのちゃんとしたお店で手に入れたものです。
 ただ、この世界の「ちゃんとした」は、蒼の世界と比べていくぶんか……もしかしたら、かなり、基準が緩いのではないか、という気はするのですが。
「とにかく、もう少しだけ行ってみましょう」
 あの木々の向こうに出たら、ぽっかり視界が開けて、目指す目的地が見えるかもしれません。
 けれど、どこまで行っても山道が続くばかり、そろそろお腹も空いてきました。
「んー、どこかにニンジンとか落ちてないかなー?」
 頭にウサミミを乗っけたウサミカヤ(ka0490)が、きょろきょろと当たりを見回します。
「これは乗せてるんじゃなくて、生えてるんだよー」
 それに、耳ではなくて髪の毛なのです。
 ぴょこぴょこ動いても、髪の毛なのです。
「うさぎさん、こんな所にニンジンが落ちていたら、それは罠なのですよ?」
 シグくんが心配そうに言います。
「引っかからないように気を付けてくださいね?」
 あと、迷子に注意です。
「って言ってるそばから!」
 大変です、うさぎさんの姿が見えません。
 こんな時には――
「ニャ? 我輩ノ出番デスカニャ?」
 頭にブリキ缶を乗せた――いいえ、頭からすっぽり被った、その名も見たまんまの缶(ka1566)が言いました。
 わんこほどではないけれど、にゃんこだって鼻は良いのです。
「缶ちゃんお願いするのなー」
 なでなで、あんのんさんが缶ねこさんの頭を撫でます。
 喜んだ缶ねこさんは「ニャッ!」と鳴いて、二本足で駆け出しました。
「コッチデスニャ! ニンジンノ匂イガシマスノニャ!」
 藪をかき分け、水溜まりを飛び越えて、缶ねこさんはたったか走ります。
 その向こうから、うさぎさんの声が聞こえてきました。

「すごいすごーい!」
 みんなで追いかけてみると、ぱっと視界が開けました。
 見晴らしは良くなりましたが、辺りには白いもやもやが立ちこめて何も見えません。
 その真っ白な背景の前で、うさぎさんがぴょんぴょん跳ねていました。
「見て見て、すごいよー!」
 うさぎさんは真っ白な世界の向こうを指差しています。
 どうやらうさぎさんには、その向こうが見えているようでした。
「なんやうさみん、何が見えるんや?」
 ゆっくりと歩いて来たレイさんが手を振ると、甘い香りがする風が巻き起こります。
 風は魔法のように、もやもやを吹き払っていきました。
 すると――
「わあ、桜ですよ! 満開です!」
「おんせんだー、おんせん見付けたのなー♪」
 シグくんとあんのんさんが嬉しそうな声を上げます。
 白いもやもやは、温泉から立ち上る湯けむりだったのです。
「桜に囲まれた露天風呂ですね、すごいのです……!」
 シグくんの地図は、間違ってはいませんでした。たぶん。
 ゴツゴツとした黒い岩が取り囲む池が、天然の湯船になっています。
 底の方からは、ぶくぶくと泡が沸き出ていました。
 どうやら温泉は、地下から直接この池に湧いているようです。
 お湯はほんのり桜色に濁って、湯けむりもたっぷり。
 まるで何かに配慮したかの様に、実に良く出来たロケーションでした。
「ちっ」
 誰かの舌打ちが聞こえた気がしますが、きっと気のせいです。
「濁ってるっていうことは、きっと身体に良い成分がたっぷりなんですね!」
「ほう、どんな効き目があるんや?」
「ぼくに訊かないでください」
 レイさんの質問に、シグくんは清々しい笑顔で答えました。
 でも、若返りとか美肌とか、腰痛神経痛ギックリ腰、何にでも効きそうです。

 お湯の加減もちょうどいい塩梅。
 レイさんは早速、着ているものをすぱーんと潔く脱ぎ捨てました。
 それはもう、上から下まで躊躇なく全部です。
「レイおにーさん、前! せめて前くらい隠しましょう!」
 シグくんが真っ赤になってタオルを差し出します。
 けれども服と一緒に羞恥心まで捨て去ったおっさんは、堂々と仁王立ちしていました。
「お、女の人もいるんですから……!」
「大丈夫や、大事なところは湯気で隠れるように出来とる!」
 隠れてなくても平気そうですけどね、レイさんの場合。
「なに照れとるんや、シグ坊もさっさと脱がんかいな」
 そーれ!
 レイさんはシグくんをふん捕まえると、追い剥ぎのように身ぐるみを剥ぎ取りました。
 まるでゆで卵のようにつるんつるんに剥かれたシグくんを担いでわっしょい、レイさんは温泉にざばざば入って行きます。
「さぁ逝け! お前の男の野生を解き放つんやシグ坊!」
 どっぱーん!
 既にお湯に浸かってまったりしていた、あんのんさんとうさぎさんの間に放り込みます。
「あわ、あわわわわ、ご、ごめんなさいーーー!」
 放り込まれたシグくんの、右はぼよよん左はぺった……ああ、いや、ほんのりと美しい丘でした。
「おー、シグリッドいらっしゃいなのなー♪」
 むにゅ。
「わー、しぐりーが降って来たよー!」
 ぺにょ。
「あーちゃんあーちゃん! しぐりーサンドイッチしよ!」
「それはすてきなのだー」
 せーの、むにゅーん。
 二人にぎゅっと挟まれて、シグくんの顔はあんのんさんのぼよよんなお胸に埋まります。
 あんのんさんのタオルはきれいに畳まれて頭の上、もちろん水着も着ていません。
 すっぽんぽんでドボンするのが正しい温泉の入り方なのです。
「んぐ、んぐぐぐ!」
 とても柔らかなぼよよんに鼻と口を塞がれて、シグくんは息も出来ません。
 けれども苦しがって暴れるシグくんの様子を、あんのんさんは喜んでいるものと勘違いしてしまいました。
「シグリッドが喜んでくれて、我輩も嬉しいのなー♪」
 おや、もうのぼせてしまったのでしょうか。
 あんのんさんは真っ赤に茹で上がったシグくんを抱き上げて、湯船のへりに寝かせてあげました。
 そこは地熱でぽかぽかと暖かく、まるで岩盤浴をしているような良い心地になります。
「缶ちゃんお世話たのむのなー」
「ハイ、オ任セクダサイニャ黒様!」
 缶ねこさんは、もわもわと湯気の立つ温泉にびびりながらも、一生懸命にシグくんのお世話をしようと頑張ります。
 だってあんのんさんは、ふらふらしてるちゃらんぽらんドラ猫な自分に構って遊んで面倒見てくださる方ですから。
 猫的習性で水辺はあんまり好きではないけれど、あんのんさんが喜んでくれるなら何でもするのです。
 冷たい水で濡らしたタオルをシグくんの額に当てて、ついでに下の方も隠してあげて。
 それから尻尾でぱたぱた仰いであげました。
「……あれ、ぼくは一体何をしていたのでしょう……」
 やがて息を吹き返したシグくんが、ぼんやりとした頭を振りながら起き上がります。
「おかしいな、何も思い出せませんよ……?」
 いいのです、思い出さなくていいのです。
「気ガ付カレマシタカニャ、シグリッド様」
「あれ、缶さん……」
 シグくんは寝ぼけまなこで缶ねこさんの顔、と言うか缶をじっと見つめます。
「缶さんは何故缶なのでしょうか」
 ぐい。
 缶を両手で抱えて、持ち上げようとしました。
 けれども――
「駄目デスニャ嫌デスニャ! コレハ死ンデモ取ラナイノデスニャ!」
「寝る時も、ですか?」
 こくり。
「痛くないの、ですか?」
 こくり。
「顔、ふやけないですか?」
 ……。
 どうやらそこは、深く追求しない方が良さそうです。

 やがて調子を取り戻したシグくんは、気を取り直して温泉を楽しむ事にしました。
 どうしてすっぽんぽんだったのかは思い出せませんでしたが、誰の仕業かは何となくわかる気がしました。
 改めて海パンを穿いて、その上からタオルを巻いて、猫のシェーラさんと一緒にちゃぽんと温泉に浸かります。
「シェーラさんはお風呂平気なひとなんですよー」
 猫だけど、ひとです。何も問題はありません。
 猫の額に小さなタオルを乗っけて、目を閉じて気持ち良さそうです。
「温泉とか、すごく久しぶりです……」
 ほわんほわん。
 頭の上からは、ひらひら桜の花びらが舞い落ちます。
 けれども湯船には一枚の花びらも見当たりませんでした。
「おかしいですね、こんなに降ってるのに」
 よく見ると、花びらはお湯に触れた途端、しゅわっと溶けてなくなっていきます。
 もしかしたら、このお湯の色は桜の花びらが溶けて出来たのかもしれません。
「花びらが入浴剤になっているのでしょうか……」
 すると、この桜の木も桜に似た異世界特有の何か、なのかもしれません。
 何しろ桜餅草とか、柏餅草とかが平気で存在する世界ですから。
「あ、そうそう。お土産の桜餅草も持って来たのですよ」
 湯気の当たる所に置いておけば、お風呂から上がる頃にはちょうど食べ頃になりそうです。

「皆で身体洗いっこするのなー♪」
 あんのんさんは、うさぎさんの背中を洗ってあげていました。
 タオルに石鹸を泡立てて、ごしごし、しゅわしゅわ。
 ついでにその泡を取った手を前に回して、あわあわ、つるつる。
「あーちゃんくすぐったいー! もっとやってー!」
 背中に当たるぼよよんが、柔らかくてとっても良い気持ちです。
「お返しにカヤさんで洗ってあげる!」
 うさぎさんは自分の体に巻いたタオルにボディソープをポタリと垂らして、しゃわしゃわ泡立てます。
 あわあわもこもこ、真冬のうさぎの様に白く膨らんだうさぎさんは、そのままあんのんさんに抱き付きました。
 ぎゅっとして、すりんすりん。
 身体全体が、あわあわのスポンジです。
「お返しのお返しなのなー♪」
 あんのんさんは、うさぎさんにもきゅっと抱き付いて、ほっぺにちゅー。
 幸せです。二人はこの幸せをみんなにも分けてあげたい気分になりました。
「缶ちゃんもおいでよ、洗ってあげるよ!」
 うさぎさんが、岩場のへりでうずくまっていた缶ねこさんに声をかけます。
「缶ちゃんもおんせん浸かるのなー」
 ざばっとお湯から上がったあんのんさんは、何一つ隠さずに堂々と、缶ねこさんのところに歩いて行きます。
 あんのんさんには、裸は隠すものだという意識がないようで、シグくんに「あんのうんさん、タオル! タオル!」と言われても、何の事やらさっぱりわかりません。
 でも、大体いつもこんなもんなので、シグくんもずいぶん見慣れたみたいですね。
 慣れってすごいです。
 それでもなるべく見ないように目を逸らしている目の前を堂々と通り抜け、あんのんさんは缶ねこさんに手を差し伸べました。
 その反対側からは、うさぎさんが引っ張ります。
「イ、イクラ黒様ノ頼ミデモ、ソレバカリハ! オ許シクダサイニャ!」
 けれども慈愛の眼差しでじっと見つめるあんのんさんは勝てませんでした。
「おんせん、きもちいいねー」
 引っ張り込まれて、どぼーん!
「ミニャ、ワニャニャ、ニャーーーーー!!!」
 びちゃびちゃばちゃばちゃ、缶ねこさんは大喜びです。
 溺れてじたばたもがいているように見えるのは、気のせいです。
「おんせん、たのしいねー」
 あんのんさんは、それを温かく見守っています。
 生温かく、ではありません。
「なになに、お湯のかけっこするの? アタシも負けないよー!」
 うさぎさんは盛大にお湯をはね上げて、みんなにバシャバシャかけていきます。
 胸のタオルがはらりと落ちても気にしません、だって鉄壁の湯けむりガードがありますもの。
「知っとるで、このシーン円盤やと湯気が消えるんや」
「レイおにーさん、それ何の話なのです?」
 首を傾げるシグくんに、レイさんはニヤリと笑いかけました。
「俺も意味は知らんけどな!」
 次の瞬間、シグくんが腰に巻いていたタオルはレイさんの手に!
 でも大丈夫、こんな事もあろうかと、下に海パンを穿いていたのです。
「なんやシグ坊、つまらん事しよるなー」
「水着は混浴のマナーですよ、レイおにーさん」
 と、今度はレイさんの下半身を狙って、黒い手が伸びてきます。
 レイさんのお手本を見たあんのんさんが、それを真似してタオルを取ろうとしていました。
 ああ、しかし、何という事でしょう。
 そこには取るべきものがありませんでした!
 代わりに掴んだのは――
 むにゅっ。
「ふむー、ご立派なのなー」
 むにゅむにゅ。
 はい、多分ここも円盤だと湯気が消えますね。
 どういう意味か、わかりませんけれど。

 そんなこんなでドタバタやって、お腹が空いたらお食事です。
 料理の担当は勿論、料理屋さんのレイさんです。
「風呂でもつまめるモン、適当に持って来たで。あと作りたての温泉卵な」
 桜餅草も良い具合に柔らかくなっています。
 後はお酒、何はなくともお酒です。
「花見っつったらコレがないとな!」
 レイさんは徳利とお猪口を乗せたお盆をお湯に浮かべて良い気分。
 温泉に浸かりながらお酒を飲んで、桜を見ながらご馳走を食べるなんて、なんという贅沢なのでしょう。
「ぼくはお酒は飲めませんが……」
 せめて気分だけでも味わおうと、シグくんはお猪口にジュースを注ぎます。
 ちょっぴり羨ましいけれど、大人になるまでお酒は我慢の良い子なのでした。
 あ、良い子じゃなくても飲んじゃダメですけどね?
 シェーラさんにはミルク、もちろんご飯も忘れていません。
「おはなはきれいだし、おさけはおいしーねー」
 お酒の匂いだけでふにゃんとなったあんのんさんは、うさぎさんにくてんと寄りかかります。
「にゅふにゅふ」
 くってり。
 そんなあんのんさんを、うさぎさんはひたすらもっふもふしていました。
 そして、缶ねこさんは――
「ヒドイ目ニ遭ッタノニャ」
 えぎゅり、ぐすぐす。
 やっとの思いでお湯から上がり、濡れた服を絞っていました。
 頭の缶もきちんと拭かないとサビてしまいます。
「我輩、サビ猫ジャナイノデスニャ」
 けれど缶ねこさんは、こんな時でも絶対に缶を取らないのでした。
 外して内側もきれいに拭いた方が良いと思うのですけれど、ね。

 そして夜。
 桜に似た何かは、闇の中でぼんやりと淡い光を放ち始めました。
 空には満点の星が瞬いています。
 その光景を、五人は時が過ぎるのも忘れて、じっと見入っていました。
「また来年もみんなで来れると良いですね」
 ほんのり光る桜を見つめながら、シグくんが呟きます。

 次に来た時も、この場所を見付けられるでしょうか。
 ええ、これが夢ではないのなら、きっとまた――




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0248/シグリッド=リンドベリ/シグくん】
【ka0183/レイ=フォルゲノフ/レイさん】
【ka0187/黒の夢/あんのんさん】
【ka0490/ウサミカヤ/うさぎさん】
【ka1566/缶/缶ねこさん】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
いつもありがとうございます。

遅くなりまして、申し訳ありません。
ついでに気が付けば中身もわりと酷い事になっていましたので、そこも謝らないといけないかもしれません(
リテイクはご遠慮なくどうぞ、です。

では、お楽しみ頂ければ幸いです。
MVパーティノベル -
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ファナティックブラッド
2015年04月22日

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