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『猫を見た夢、猫の見る夢 』
ブルノ・ロレンソka1124)&響ヶ谷 玲奈ka0028)&テオドール・ロチェスka0138)&イオ・アル・レサートka0392)& トライフ・A・アルヴァインka0657)&Kurt 月見里ka0737)&アルマンド・セラーノka1293)&オスワルド・フレサンka1295)&キール・スケルツォka1798)&エリオ・アルファーノka4129


 太陽の下の歓楽街というのは、何とも間抜けな空間だ。
 夜、明かりの下で女たちが妖しく手招き、酔客が賑やかに行き交う通りは、華やかで煌びやかな夢の世界。
 だが朝になれば、そこには気怠く、うそ明るく、空虚な現実だけが残る。
 人通りの絶えた通りには、あちらこちらにゴミや良く分からない落とし物が転がっていた。
 落し物というか、忘れ物というか。ゴミのように見えたものが、寝転がっている人間だったりもする。
 一匹の痩せた野良犬が近付き匂いを嗅いでいると、その男がいきなりくしゃみをした。びっくりした野良犬が酷く吠え立て、くしゃみした男は今度は悲鳴を上げ、あわてふためいて逃げだした。

 そんないつもの光景を灰色の瞳で眺め、一匹の大きな黒猫が通りを闊歩していた。
 彼はブルノと呼ばれていた。もう若くはないが、びろうどのように美しい毛並みに包まれた身体は引き締まり、並みの若猫ならひと睨みで黙らせることができる程の気迫をみなぎらせている。ここは彼の縄張りなのだ。
 逃げていく人間を追いかけていく野良犬をちらりと眺め、いかにも煩そうにブルノは道を変えた。
 近くにあったゴミ箱を経由し、音もなく庇に飛び移る。そこからは歓楽街全体がよく見渡せた。

 少し離れた店の扉が開くと、人間の女が顔を出す。
「にゃ〜ん」
 それを目ざとく見つけて、甘えた声をあげながら駆けて来るのはまだ仔猫のクルトだ。
 女は皿を地面に置くと、近付いたクルトの喉を指先でくすぐった。慣れているのだろう、クルトはゆらりと上げた尻尾を女の足首にまといつかせ、身体をすりつける。
 世渡りの上手い野良猫は相手を見極め、こうして安全に旨い餌にありつくのだ。
「うにゃ〜ん」
 すぐ近くで別の猫が声を上げた。日を受けて輝く金色の毛が美しい。
 レナは明らかに手入れのよく行き届いた飼い猫だが、まだ若く外の世界に興味津々という風情である。女が差し延べた手を嫌がることもない。
 女は慣れた様子でレナを腕に抱きかかえると、楽しそうに何やら語り続けていた。

 ここはブルノの縄張りだが、ブルノはこういう猫を追い立てたりはしない。
 別にあの人間に餌を恵んでもらうつもりもない。
 ことさら自分の気に障ることをした訳でもない限り、彼は他猫に寛容だった。
 今日も彼の縄張りは平和である。
 ブルノは通りの端の屋根まで見回りを済ませると、ひらりと地面に飛び降り、また反対側の建物に飛び移る。そちらの筋にはブルノお気に入りの場所があった。
 並んだ他の建物より少し立派な構えの建物には、南向きの静かなテラスがある。住人が好むのか、低い樹木が葉を広げ、白いガーデンチェアに優しい影を落としている。しかも住人は滅多に顔を出さないときているので、そこは猫にとって理想的な憩いの場だった。



 イオは柔らかく優美な色合いの尻尾を、ぱたりと倒した。
 その目が見つめているのは、アルマンドのふさふさの尻尾だ。
 ゆらり、ゆらり。
 暖かな太陽の光を豊かな毛並みに受けて、目を細めて髭を震わせているアルマンドは、無意識のうちに自慢の尻尾を揺らしていた。
 その立派な尻尾が目の前で揺れるものだから、イオには丁度いい暇つぶしと見えてしまう。
 たしっ。
 軽く爪を立てようとするが、寸前で尻尾が逃げる。
 たしっ。たしっ。
 そんなささやかなイオの気紛れは、テオによって遮られた。
「にゃーん」
 がし。
 遠慮会釈なく、テオはアルマンドの尻尾に身体ごと飛び付く。
 流石の太い尻尾も、雄猫一匹を乗せたままでは動けない。
 じろり。
 身を捩って振り向いたアルマンドが睨みつける。
「そんな怖い顔しちゃやだー」
 じりじりと下がったテオは、傍で置物のように動かないオスワルドにぴたりとくっついた。
「ねー、一緒の方があったかいじゃんね?」
「そうだな。こういう日には悪くはない。ところでおまえ、蚤は飼っとらんだろうな?」
 隻眼の老猫はふわあと欠伸をすると、ゆったりと寝そべる。
 時折吹きぬける風が、その毛皮を優しく撫でて行った。
 暫くそうしていたオスワルドが、馴染んだ気配にふと顔を上げる。
「おう、今日も邪魔してるぞ」
「好きにすればいい」
 手摺の上を渡って来たのはブルノだった。



 手摺から飛び降りたブルノは、猫にしては妙に重みのある歩き方で白いガーデンチェアに近付いて行く。
「随分と暇そうだな」
 後足に力を籠めてひょいとガーデンチェアに飛び乗ると、長々とねそべった。日差しを受けた座面は、程良く温まっている。
「冗談だろ。喧しくておちおち昼寝もできないよ」
 アルマンドは背を丸めて大欠伸。
 尻尾にはいつの間にか、またテオががっしとしがみついている。
「おい、いい加減にしろ。邪魔なんだよ」
 精々怖い目をして睨みつけるが、テオは全く悪びれない。
「だってセラってもふもふじゃん? もふもふしてると気持ちいいじゃん?」
「野郎にくっつかれるのなんざゴメンだ」
 くわっと威嚇され、テオはちょっと困ったように首を傾げ、続いてブルノを見た。
 お日様の光を受けて黒い毛並みは暖かそうだ。ととっと近付き、ガーデンチェアに前足を掛けたところで、ブルノがじろりと睨んできた。
 それでもめげずにぐっと近づくと、あり得ないスピードで黒い拳が鼻面を叩く。
「うにゃっ」
 テオは誤魔化すように尻尾を揺らして見せる。これでもブルノはテオには手加減している方なのだ。
(やっぱりおっさんもふもふは無理っぽいねー)
 仕方がないのでその場に寝転び、自分の尻尾を目の前で揺らしてみる事にする。前足を伸ばして自分の尻尾を掴み、テオはひとり遊びを始めた。
 こんなにのほほんとしたテオが野良で生き残っているのも不思議だが、恐らく適当に人間の所を渡り歩いているのだろう。ひょっとしたら自称・飼い主があちらこちらに居るかもしれない。

 と、こんな風にブルノの縄張りではのんびり寝そべる猫たちだが、中には色々と苦労を背負っているのもいる。
 とんっ。
 屋根の方から軽い足音が響いた。
「うなー」
 茶トラの雄猫は、エリオという最近ここに出入りする様になった雄猫だ。

 別のボス猫の縄張りでちょっと余計な事をしでかして、酷い目に遭うところをどうにかこの通りに逃げ込んだ。そのとき偶々近くにブルノが居て、追手をひと睨みしてくれたおかげで命拾いをしたわけだが。
「で。お前は何ができるんだ」
 ブルノは役立たずには容赦がない。
「えーと、俺は……」
 エリオは思った。間違いない、どう見てもこの黒猫はそこらの猫より強い。
 ここに居着くことができれば追手はもう来ないだろう。
「料理にゃんなのにゃ!」
「は?」
 猫が料理とかどういうことだ。ブルノの疑問をよそに、エリオは何処かからくすねてきた魚を焚き火に掛けて(!)焼き魚に仕上げた。
 が、猫に火加減ができる筈もなく。
「これはなんだ。炭か」
 軽く匂いを嗅いだだけで、いかにもヤバい雰囲気が漂ってくる。
「や、焼かない方が本当は得意にゃ!!」
 エリオは結局、別の魚を爪で器用に捌き、進呈した。
「今後とも御贔屓にだにゃ」
 それに対しブルノはそっけなく言ったものだ。
「これからも励め」
 という訳でその後もエリオは、何かと見つくろってきては運んでくるのである。
 今日も何処のお屋敷からくすねて来たのか、まだびちびちと踊っている大きな赤い魚を手土産に持ってきていたのだ。



 目の前の魚が余りにびちびち跳ねるので、イオが興味を示した。
「なあに? これ美味しいの?」
 爪でチョイっとつついたところで、とんっと軽い足音がテラスに降りて来た。
「綺麗なお嬢さんのお口には合わないんじゃないか?」
「あら、トライフさん。珍しいわね」
 イオは痩せぎすの黒猫に向かって、軽く尻尾を揺らして挨拶した。
「どうした役立たずのトライフ。いつもは寄り付きもしない癖に」
 アルマンドがからかうように言った。トライフは仔猫の頃、何かと不器用だったのでそう呼ばれていた。
「野郎に用はないからな」
 トライフは鼻先をしかめて見せる。

 それから屋根に飛び乗ると、小さな球を咥えて飛び降り、イオの前に置くとゴロゴロと喉を鳴らした。
「知ってるかい? 今日は素敵な女の子に贈り物をする日なんだよ」
 何処かで拾って来たようだが、渦巻き模様の入った綺麗な球だ。中に鈴が入っているのか、転がすとちりちりと音が鳴る。
「あら素敵。いいのかしら?」
「勿論。きみの為に持って来たんだからね」
 トライフは得意げに目を細める。そこにテオが飛び付いた。
「わーいおもちゃだー! おれもあそぶー」
「野郎は近寄るんじゃねえ」
 げし。トライフは容赦なくテオに蹴りを入れた。
「ひどいー! みんなで遊べばいいじゃん? イオちゃんもその方が楽しいじゃん?」
「なんだ? やんのか?」
 トライフは実は喧嘩は余り強くない。どちらかというと相手の隙をついて行動するタイプだ。だがいかにものほほんとしているテオ相手なら、話は別である。軽く脅すように尻尾を立て、低く唸る。
 が。
「ぐほあ」
 いきなりアルマンドの猫パンチが横腹に食い込み、トライフは飛び退く。
「ここで騒ぐな。叩き出されたいのかい?」
「わーいセラ、助けてー! なんかひど」
「お前もな」
 ごふ。アルマンド、喧嘩両成敗。

 そこににゃあと鳴いて混ざったのはレナとクルトだった。
 レナは咥えて来た干し魚の入った袋をテラスに置いた。普段はこうして持って来たお気に入りのおやつは、ブルノへの上納金がわりなのだが。
「皆知ってる? 今日はホワイトデーという日なんだよ」
 得意げにレナのひげが揺れている。
「それはなあに? 人間のお祭りなの?」
 イオがそっとレナに寄り添い、身体をすりつけた。温まった毛並みが気持ち良くて、レナも目を細めてそれに倣う。
「うーん、よくわかんないけど。バレンタインデーにチョコレートを配って、ホワイトデーには三倍返しなんだって。……つまりおやつを分ける日……かな?」
 レナは爪で器用に袋を破き、干し魚をそれぞれに分ける。
 アルマンドは貰った干し魚をしっかり確保して、屈みこんだ。
「バレンタインって行事はなァ人間のもんだ。ちょこれいと、ってのは猫には毒なんだぞ」
「アルおじさんて物知りだねー! あ、おさかな、俺にもくれる?」
 クルトはゴロゴロと喉を鳴らし、レナをちらりと見やった。
「もちろんよ。どうぞ」
「有難う!」
「ねえレナ、僕のことは忘れてない?」
 トライフがそれこそ猫なで声で呼びかける。
 レナは少し悪戯っぽい目でトライフを見てから、つっと干し魚を寄せた。
「嬉しいね。でも干し魚よりも僕は……」
 そう言いながらトライフが意味ありげに近付こうとする。と、その背中にどしんと乗る物。
「わーいおやつだー」
「またお前か、テオ!!」
 フーッ! ギャー! からの、アルマンドの猫パンチ再び。

 その騒ぎが収まって、おやつを頂いた頃には、お日様はずいぶん高くなっていた。
 アルマンドが軽く身づくろいをしてから、大きく伸びをする。
「さてと。おいしいおやつのお礼に、お嬢さんたちをとびきりの場所にご案内しようかな」
「とびきりの場所?」
 レナが首を傾げる。
「ここもいいけどね。昼寝に最高。どう?」
「……そうね、皆でお昼寝でも? それなら喧嘩にもならないでしょうし」
 イオは小首を傾げてから了承した。
「わーいお昼寝、お昼寝!」
「おい、何でてめェらまでついて来てんだ……!」
 アルマンドは雄猫を威嚇するが。
「皆、じゃないのかしら?」
 イオのこの言葉に、渋々承諾した。
「ボスはいかが?」
「面白そうだ。行ってみるとしよう」
 珍しくブルノも腰を上げた。自分の縄張りの近くに面白い場所があることに興味を持ったのかもしれない。
 こうしてアルマンドを先頭に、猫たちはぞろぞろと連れだって歩き出す。



 屋根伝いに歩いて行くと、足裏がポカポカと気持ちいい。
「あの建物の裏側だよ」
 アルマンドはそう言って、通りを隔てた古い建物を示した。
 猫たちは降りる場所を探して、それぞれに足場を探る。

 その様子をじっと見ている不穏な目があった。
(あいつら、呑気そうにぞろぞろと歩きやがって……)
 ゴミ箱の陰から顔を上げたのは、この辺りをよくうろついている野良犬のキールだった。金持ちの人間が多い通りなので、餌は豊富だ。時々酔客に追いかけられるが、人間なんざどうということはない。
 だがキールは猫たちが気に入らなかった。
 いつも高い所からこちらを見下ろしているのも気に食わない。
 それなのに都合のいい時だけ喉を鳴らして、人間どもから難なくいい餌を手に入れているのも気に食わない。
(待てよ。今日ならひょっとして……)
 猫達は珍しく、雌猫までもが連れだって移動している。キールはこれにちょっかいを掛けてやろうと思ったのだ。

 この界隈の人間達は、昼間は余り活動しない。
 それを知っているので、猫達は堂々と道を横切っていた。
 だがのんびりとした気分は、不穏な吠え声によってかき乱された。
「ワウワウワウッ!」
 痩せた野良犬が、猛然と突っ込んでくるではないか。
 咄嗟に走り出そうとして、レナやイオが一緒なことを思い出し、トライフは鼻を鳴らした。
「仕方ないか」
 だがテオはさっさと逃げる気満々だった。
「えー、痛いの嫌だし。女の子一緒に先に行っちゃおうねー」
「あっおいっ!!」
 レナとイオを連れて行こうとするテオをトライフが思わず呼びとめる。
 だが一緒の方向に動けば、レナとイオも巻き込まれてしまう。
 非常に不愉快かつ不本意だが、野良犬の意識を逸らす必要があった。
「ごめんなさいね、トライフ」
「助かるわ、ありがとう!」
 イオとレナにそう言われては、強がるしかない。
「良いから早く行きなよ」
「仔猫さん、大丈夫? 一緒にいらっしゃいな」
「わーいありがとう!」
「えっおいっ!!」
 クルトはちゃっかりとイオにくっついて行ってしまった。

「ま、仕方ないな」
 アルマンドは自慢の尻尾を真っ直ぐ立てて、思い切り膨らませる。
「料理以外でも偶には役に立つにゃ」
 エリオの戦闘態勢も整った。
「お前ら目障りなんだよ!!」
 突っ込んでくる野良犬を左右にぱっと飛びのいてかわし、近くの壁によじ登る。
「チョロチョロと……!!」
 怒り狂って戻ってくる野良犬に、壁から飛び降りてそれぞれが思い切り爪を立てた。 だが荒事に慣れた野良犬は、猫の引っかき傷ぐらいでは驚きもしない。
「ハッ、ふざけんなよ!」
 エリオを乗せたまま、背中を近くの壁にぶつける。
「うにゃー!!」
 流石にこれは効いたらしく、エリオが地面に転がった。アルマンドはエリオをそれ以上追いかけさせないよう、必死で爪を立てている。
 その隙に、物陰から近付いていたトライフが突っ込んで行った。
「何で野郎なんか助けなきゃいけないんだ、全く……」
 だが相手は大きい分、隙だらけに見えた。猫同士の喧嘩と違って、多少は暴れられるかもしれないという期待がトライフを大胆にする。
 思い切り鼻面を引っ掻こうと飛びついた。野良犬はそのトライフを頭からかじろうとするように大きく口を開ける。
(あ、やばい)
 尖った歯が迫ってくる。
 と思った瞬間、野良犬がよろめいた。
「オッサン……?」
 ブルノの大きな身体が、野良犬の横っ腹に頭突きで突っ込んでいたのだ。

 キールが吠えた。
「このクソジジイ猫!!」
 猫の頭突きが思いのほか強烈で、それを喰らったことが悔しくて、その憂さを晴らすためにもキールは戦うしかなかった。
(もうこいつら絶対に許さねえ……!!)
 だが多勢に無勢、しかも相手はすばしこい。引っかき傷も、幾度も重なればかなり痛い。
 ブルノがじろりとキールを睨む。が、その目から不意に凶悪な光が消えた。
「オスワルドか。どうした」
 古い付き合いの老猫が、この緊迫した状況に似合わないのんびりとした調子で割って入って来たのだ。
「何、あんたとやり合うのは、こいつにはちょいと酷だと思ってな」
 オスワルドはそう言うと、キールの前足に柔らかな身体を擦りつける。
「おいジジイ、そこどけよ」
 キールが歯を剥いて唸るが、どう見ても本気ではない。
「まあそう言いなさんな。俺も若い娘さんの後をついて歩くにはちょいと年が行き過ぎてるからな。ほら、頼むよ」
 キールの唸り声が低く小さくなり、ついには消える。
「しょうがねえな。乗れよ」
 少し肩を傾けると、オスワルドが足をかけて器用によじ登る。ブルノはその様子をじっと見ていた。
 背中に収まったところで、キールが吠える。
「今日の所はオスワルドに免じて見逃してやらあ。今度会ったら覚えてろよ!!」
 そして踵を返し、背中にオスワルドを乗せたまま走っていった。
 見事なまでの負け犬の遠吠えである。



 アルマンドの『とびきりの場所』は、確かに快適だった。
 通りから少し入った建物の中庭はもう随分と使われていないらしく、古びた石の土台や崩れかけたレンガ塀が草むらの中から顔を出し、ぬくぬくと日差しを浴びていた。
「どうだい? ここならゆっくりできるだろう」
「悪くないね」
 トライフが早速、石の土台に飛び乗った。
「厚かましいな、一番乗りか」
 呆れたようにアルマンドが言うが、トライフはちらりと見ただけで直ぐにその場に落ちついてしまった。
 痩せて栄養不足の身体には、寒さはこたえるのだ。猫はおおむね日向ぼっこが好きだが、トライフもそうだった。
「皆でくっつけば暖かいわよ」
 イオがレナを誘うと、トライフの傍で丸くなる。
「そうだね! ふふ、イオとくっついたらどっちがどっちかわかんなくなるかも」
 くすくす笑いながら、よく似た姿の雌猫が丸くなる。
「ここが特等席ね」
 イオが悪戯っぽくトライフに笑いかけた。
「僕にとって、かな」
 悪くない。トライフがそう思ったのは一瞬だった。当然他の猫だって、日向ぼっこは大好きなのだ。
「わーい、もふもふー! いれてー!」
 テオがぎゅうぎゅうと身体を押し込み、トライフの背中に顔を乗せる。
「おい、誰が野郎を……」
 文句を言おうとするが、すぐ目の前にレナの耳がぴくぴくしているので我慢する。
「わーいあったかい!」
 いつの間にかクルトもテオにぴったりとくっついている。
 アルマンドもふさふさの尻尾を敷きこんで、身体をくっつけた。
「まあ偶にはいいだろうよ。ほら、もっとそっち詰めろ」
「これは良い場所だにゃ。今度お礼に、とっておきのマタタビを差し入れるにゃ」
 エリオも満足そうに丸くなる。

「旦那はいいのか?」
 アルマンドが顔を上げてブルノに尋ねる。
 既にどこまでが誰の体か判らない程にぎゅうぎゅうの猫団子だ。
 ブルノは周囲を見渡した。
 高い建物の上には青い綺麗な空。全く、こんな所でゴロゴロしていて、烏でも襲ってきたらどうするんだ?
 そうも思ったが、やはり暖かさには逆らえない。
「入ろう」
 どんな役立たずな野郎でも、体温ぐらいはあるものだ。
 ブルノは毛皮にまみれてゆったりと目を閉じながら、オスワルドのことを考えた。
 あいつは野良犬と行ってしまった。こういう場所が恋しくはないのだろうか?
 だがそれもあいつが決める事だ。
 猫は誰にも縛られない。皆が好きなように生きればいいさ。



 赤ん坊の泣き声のような声が間近で聞こえた。
 ブルノは薄眼を開けてベッドの中で身じろぎする。
 カーテンを引いた薄暗い室内に、光る二つの宝石のような目玉。いつの間にか野良猫が迷い込んでいたらしい。
「お前、何処から入ったんだ」
 静かに身を起こし、ブルノが呟く。野良猫は一瞬身体を固くしたが、逃げ出しはしなかった。
「さては奇妙な夢はお前のせいか」
 思わず自分の手を見る。黒い毛皮に覆われた肉球ではなく、ちゃんとした人間の手だった。
 馬鹿げた事を確かめてしまった自分に苦笑いし、ブルノはベッドから立ち上がる。
 手を差し出すと、野良猫はブルノの指に鼻を近付けてきた。
「そういえば今日はホワイトデーだったか。……うちのお嬢猫達は、猫団子や干し魚じゃ納得しないだろうな」
 さて、では一体どんなお返しで驚かせてやろうか。
 ブルノは野良猫を抱き上げ、ひとりほくそ笑むのだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1124 / ブルノ・ロレンソ / 男 / 55 / 『魅惑の微笑み通り』ボス猫・ブルノ】
【ka0028 / 響ヶ谷 玲奈 / 女 / 18 / おてんばお嬢にゃん・レナ】
【ka0138 / テオドール・ロチェス / 男 / 24 / もふもふ大好き・テオ】
【ka0392 / イオ・アル・レサート / 女 / 19 / 気紛れ猫・イオ】
【ka0657 / トライフ・A・アルヴァイン / 男 / 23 / 役立たずのトライフ】
【ka0737 / Kurt 月見里 / 男 / 18 / 世渡り上手猫・クルト】
【ka1293 / アルマンド・セラーノ / 男 / 24 / ふっさり尻尾・アルマンド】
【ka1295 / オスワルド・フレサン / 男 / 56 / 隻眼の老猫・オスワルド】
【ka1798 / キール・スケルツォ / 男 / 37 / 進撃の野良犬・キール】
【ka4129 / エリオ・アルファーノ / 男 / 38 / 茶トラの料理にゃん・エリオ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お待たせいたしました、魅惑の猫団子の夢をお届します。
こう言ってはなんですが、なんとなくこの界隈に集まる普段の皆さんと、にゃんこ達が余り変わらないような……。
夢オチということでしたが、お気に召しましたら幸いです。
この度のご依頼、誠に有難うございました!
MVパーティノベル -
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ファナティックブラッド
2015年04月22日

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