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『イケメンハンター、破滅との出会い 』
レイチェル・ナイト8519)&フェイト・−(8636)


「君、ちょっと」
 声をかけられた。
 ナンパ、ではない。そこに立っていたのは、厳つい2人組の警官である。
「さっきから何やってるのかな。この辺、路上勧誘は禁止って事になってるんだけど」
「えっ……と、ただのビラ配りなんですけどぉ、駄目?」
 とりあえずビラを手渡しながらレイチェルは、上目遣いの眼差しを作って見せた。
 容姿には、いささか自信がある。少なくとも外見は、10代後半の美少女だ。
 こうして哀願の目で見つめると、大抵の男は思い通りに動いてくれる。
 だが、日本の警察官は謹厳であった。
「レイチェル・ナイトの……お手軽お気楽懺悔サービス? おい風俗じゃないのか、これは」
「君、年齢は? 高校生くらいに見えるんだけど、学校はどうしたの」
 警官が、レイチェルの格好をじろりと観察する。
 禁欲的な修道服に、ぴったりと瑞々しく浮かんだボディライン。
 ベールから溢れ出し、しなやかな背中を撫でるように伸びた髪は、きらきらと艶やかな黄金色だ。
 修道服の裾には際どいスリットが入り、形良く膨らみ締まった太股がチラリと露出している。
 確かに、風俗業関係者に見えない事もない。
「あ、あたしJKでも風俗嬢でもありませんから! こう見えても本職のシスターなんですよう。年齢は」
 レイチェルはとっさに、283年ほど鯖を読んだ。
「……17歳です。べっ別に17歳教に入ってるわけじゃないですよ!? こちとらバリバリのカトリック教徒ですから、ええ」
「17歳だろうが何歳だろうが、こんな白昼堂々、いかがわしい客引きをやられちゃ困るんだけどね」
 警官が、受け取ったビラを睨みながら言う。
「この懺悔サービスってのは何。どういう事やってるわけ?」
「んっふふふふ、よくぞ訊いて下さいました」
 レイチェルは、警察を相手に営業を始めた。
「レイチェル・ナイトのお手軽お気楽懺悔サービス! 罪に苦しむ貴方の心、優しく優しくお救い申し上げまぁす。救われない心に潜む魔物退治に悪霊討伐その他、聖なるお仕事いくらでも承っておりまぁす♪ 金縛りレベルの霊障から魔王クラスの悪魔払いまで! あと聖痕が出ちゃったり、首が180度回転しちゃったり、何か自動書記が止まんなくなっちゃったり、コックリさんやエンジェル様が帰ってくれなくなっちゃったりでお困りの方! まずは、こちらの電話番号かメールアドレスまで御連絡を。あ、ちなみにこの連絡先はお仕事用。プライベートのアドレスはヒ・ミ・ツ♪」
「……まあ何でもいいけど、適当に切り上げて早めに家へ帰りなさい」
 警官たちはレイチェルを、頭のかわいそうな娘だと思ってしまったのかも知れない。
「この辺は最近、危ないんだから。聞いた事くらいあるだろう? 君くらいの女の子が……何人も、行方不明になってるんだ」
「そうそう。あんまり親御さんに心配かけるんじゃないよ」
(心配してくれる親なんて……もう、いないんだけどなぁ)
 生みの両親など、顔も名前も覚えてはいない。
 レイチェルの親であり先生であり、そういった言葉では表せないほど、かけがえのない存在であった人物……それは、1人の神父である。
 声に出して、語る事ではなかった。
「……悪魔払い、やってるんだって?」
 警官2人が立ち去るのを見計らったかのように、男が1人、話しかけてきた。
 臭い、とレイチェルは思った。人間ではないものの臭いだ。
「じゃあ、あんたにお願いするしかねえのかな……バケモノが出た、なぁんて言ってもよ、誰も信じてくんねぇし」
「バケモノ退治の御用ですかぁ? はい、承っておりますよぉ」
 仕事である。とは言え、この男から金を取る事は出来ないだろう、とレイチェルは思った。
 この男から取れるのは、命だけだ。


 男に連れられるまま、路地裏まで来てしまった。
「あのぉ……そろそろ、教えていただけません?」
 レイチェルが声をかけると、男は立ち止まった。
「バケモノが、どこにいるのか……って事かい?」
「バケモノなら、もう見つけちゃいました」
 ころころと笑いながら、レイチェルは男を睨んだ。
「あたしが知りたいのはねぇ……アンタが今まで、何人殺してきたのかって事」
「……おめぇで5人目だよコスプレシスターちゃん。ちょうどジャック・ザ・リパーと同じ数だぜぇー」
 男が、笑いながら振り返る。
 人間の笑顔、ではなかった。
 迫り出した顔面は、大きく口を裂いて牙を剥き、細長い舌を嫌らしくうねらせている。爬虫類……蛇の、顔面であった。
「1人目の女ぁ不味かったなァー。見た目はそこそこ可愛いのに薬キメてやがってよぉ。血もハラワタも臭えの何のって」
 男の全身で、服が破けた。露わになった皮膚は、もはや人間のそれではなく、ぬるりとした爬虫類の外皮である。
 そんな全身あちこちから、何匹もの蛇が、人体を食い破った寄生虫の如く生え伸びている。
「2人目はそこそこ美味かった。ドラッグにも男にも縁のねえ、いわゆる処女の生き血ってぇ奴を堪能させてもらったぜぇえ。ただ惜しむらくはブサイク! なるほど、こりゃあ男と縁ねえわってぇツラがよォー、白目剥いてゲエゲエ血ィ吐いて泣き喚いてるザマはよぉおおお、ちょっとしたギャグだったぜええ」
「……八岐大蛇の、末裔? 眷属? みたいなものね」
 レイチェルは分析した。
 女を生贄として喰らう怪物。その女好きの性分を特に色濃く受け継いでしまった男が、全身から蛇を生やし、レイチェルに向かってうねらせている。
「3人目はネットで探してみた。出会い系とかにホイホイ引っかかりやがってよぉ、ムカついたから会って即ブチ殺してやった。こーゆう場合ってよォ、女の方が悪いよなあ? なあ? なあ?」
 レイチェルは答えなかった。
 男は、さらに喚き立てる。
「4人目は、ちょいと趣向を変えて子連れの人妻よ。ガキ1匹産んだカラダだけどよォ、これが一番美味かったなァー。柔らかくて、しっとり程良く脂っこくて……ガキの方には逃げられちまった。これがまた美味そうなJYでなあ。おっ母さんが自分を犠牲にして逃がしたのよ。泣かせんだろ? 俺ぁその立派なママンを、誠意と敬意を込めて喰っちまったぁ美味かったァーげへへへ。いずれ嬢ちゃんの方も親子丼でいただくとして」
 男の全身から生えた蛇たちが、一斉に伸びてレイチェルを襲う。
「とりあえずオメエだよコスプレシスターちゃん! 綺麗な肌ぁしてんなああ、血もハラワタも美味ぇえんだろーなああああああ!」
「そう……コスプレ風俗、って思われてるわけね。あたしってば」
 形良く修道服を膨らませた胸元に、レイチェルは片手を当てた。そして、ロザリオを握り込む。
 その時、銃声が轟いた。
 レイチェルを狙い、空中あちこちで牙を剥いていた蛇たちが、片っ端から砕けちぎれる。
「ぎゃ……あ……ッが……っっ!」
 八岐大蛇の系譜に連なる怪物が、悲鳴を漏らし、よろめいて尻餅をつく。
 レイチェルは、まだ何もしていない。
 何者かが、横合いから拳銃をぶっ放してきたのだ。
「ちょっと……邪魔しないでよ!」
 ロザリオを握り締めたまま、レイチェルは怒鳴った。
「そりゃあ確かに、お金取れる仕事じゃないけど。でも、あたしの獲物なのは間違いないわけで!」
「悪いけど横取りさせてもらう。そいつは、俺の獲物でもあるんだ」
 黒い人影が、そこに立っていた。
 髪は黒、身にまとうスーツも黒。
 黒色の中で、エメラルドグリーンの眼光が点る。
「依頼を受けたんだ……お母さんの仇を討って、とね」
 若い男だった。20歳を少し過ぎた辺り、であろうか。
 それにしては顔つきが、いくらか幼い。童顔と言ってもいいだろう。
(っと……可愛い系のイケメン……)
 レイチェルは思わず、そんな声を出してしまうところだった。
 可愛らしい、とさえ言える容貌の中で、しかし両眼が炯々と光を燃やしている。
 緑色に輝く瞳。
 そのエメラルドグリーンは、闘志の色であり、怒りの色であった。
 間違いない、とレイチェルは思った。この若者は今、激怒している。
 女性を餌食とする輩が、許せないのだろう。それが怪物であろうと、人間の犯罪者であろうと。
「その子は、自分を責めている……自分1人、逃げてしまった。お母さんを見殺しにした。そんなふうにね」
 怪物に拳銃を向けたまま、緑眼の青年は言った。
「慰めてあげる事なんて、俺には出来ない……出来る事があるとすれば、これだけだ」
「ぐぅ……て……てめえ……」
 怪物が、呻きを漏らす。
「いいと思ってんのか……日本の街中で、拳銃なんざぁ」
「……そうだな、ここは日本だ。最近あんまり、銃刀法が仕事してないみたいだけど」
 言いながら青年が、スーツの内側に拳銃をしまい込む。
「じゃあ、日本流のやり方でいこうか」
「なめた口きいてんじゃねええ! 男はただブチ殺す!」
 怪物が、緑眼の青年に襲いかかる。
 人型の爬虫類と化した、その肉体が、へし曲がった。
 腹部に、青年の片膝がめり込んでいる。
「俺、仕事でインドに行った事あるんだけど」
 淡々と語りながら青年が、怪物の後頭部に肘を叩き込んだ。
「そこに、お前みたいな奴がいてさ。俺、こんなふうに叩きのめしてやったんだ。殺すつもりじゃなかったけど、そいつ死んじゃったよ」
 悲鳴を上げる怪物に、青年の拳が、肘打ちや手刀が、蹴りが、淡々と打ち込まれてゆく。
 本格的な戦闘訓練を受けた者の動きである。いや、それだけではない。
 青年の拳に、蹴りに、恐らくは念動力の類が宿っている。それをレイチェルは感じ取った。
「お前みたいな奴を見ると、俺……本当に、止まらなくなっちゃうんだ。良くないところだとは思ってる」
 大柄ではない、むしろ細身の青年である。
 その黒いスーツの下では、しかし無駄なくスリムに鍛え込まれた筋肉が、今は戦闘的に荒々しく躍動しているに違いない。
「レイチェルが命ずる……」
 握り締めたロザリオに、レイチェルはそっと唇を寄せた。
「汝……悪を討つ、剣となれ……」
 ロザリオが光を発した。
 聖なる白い光の中で、十字架部分が鋭く巨大化し、剣と化す。細身のレイピアである。
 それをレイチェルは、緑眼の青年に向かって構えた。
「大丈夫……服、切り刻んであげるだけだからぁ……綺麗で細マッチョな、イケメンの裸……って何やってんの! あたしはぁああああああッッ!」
 レイチェルは、ビルの外壁にガンガンと頭突きをした。
 そんな事をしている場合ではなかった。
「調子こいてんじゃねええええええええ!」
 怪物の肉体が、怒号に合わせて膨れ上がった。辛うじて保たれていた人型が、失われた。
 大蛇が、そこに出現していた。
 八岐大蛇の眷属たる者の、真の姿。牛馬をも一飲みしてしまえるであろう大口が、緑眼の青年に迫る。
 半ば跳躍に近い形に、レイチェルは踏み込んでいた。修道服の裾が割れ、美しく鍛え込まれた太股がムッチリと暴れ出す。
 それと同時に、無数の閃光が走った。
 聖なるレイピアが、縦横無尽に閃いていた。
「散滅しなさい、あたしの煩悩……っと、いけないいけない。カトリックなのに仏教用語とか使っちゃった」
 切り刻まれた大蛇の肉片が、飛び散りながら干涸び、崩れてゆく。
 緑眼の青年が、小さく息をついた。
「ただ者じゃあない、とは最初から思ってたよ……獲物の横取り、出来なかったな」
「2人で力合わせて戦った、って事でいいんじゃない? ねえイケメン君」
 レイチェルは、青年に擦り寄って行った。
「あたしは懺悔請負人のレイチェル・ナイト。通りすがりイケメンヒーロー君、あなたのお名前は?」
「IO2関係者、とだけ言っておく。懺悔請負人……あんたの力、大したものだよ」
 擦り寄るレイチェルを、青年はさりげなくかわした。
「あんたが何かやらかしたら、IO2が動かなきゃいけなくなるかも……それだけは、気をつけて欲しいな」
「あたしが何かやらかしたら……じゃあ、もう1度あなたに会えるかも知れないって事?」
 青年は何も答えず、歩み去った。
 聞こえなかったのか、聞こえないふりをしているのかは、わからなかった。
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東京怪談
2015年05月07日

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