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『ないしょバナシ 』
リューリャ・ドラッケン(ia8037)

 かぽーん……。

 広い温泉。ぱしゃぱしゃと響く水音。
 湯船の片隅から聞こえる、密やかな話し声――。
「ちょっと聞いてよ、鶴祇! リューリャったら人妖使いが荒いのよ!」
「ん? なんじゃ。夫婦喧嘩か?」
「そ、そんなんじゃないけど……」
 思わぬ追求にしどろもどろになる青い髪の人妖に、くすりと笑う銀糸の髪の天妖。
 鶴祇と呼ばれた彼女は、そっと妹分の塗れた髪を撫でる。
「ふうは良くやっておる。だからリューリャも期待しておるのじゃろ」
「そうなのかしら……。鶴祇だって色々頼まれてるのに、大変じゃないの?」
「もうアレとは長い付き合いになるゆえ、今更気にならぬな」
「そうなの?」
「うむ。リューリャが駆け出しのひよっこの頃から一緒におる」
「へえ〜」
 鶴祇の言葉に目を輝かせるふう。
 青い髪の人妖、ふうはとある事件がきっかけで開拓者達に保護され、それから紆余曲折あってリューリャの『家族』となった。
 まあ、本人は第三夫人を名乗っていたりするのだが……そもそもこの娘にこんな勘違いをさせた主が悪い、と鶴祇はきっぱりと断じている。
 それはさておいて。
 彼女は、リューリャと出会った頃からずっと一緒にいて……ふうにとって、姉のような存在だった。
 当たり前のようにいる鶴祇が、いつから、どうやってここに来たのか聞いたことがない気がする。
「ねえ。鶴祇はどうしてリューリャの相棒になったの?」
「……さてな。分からぬ」
「え? どういうこと?」
「言葉通りの意味じゃよ。気がついたら、アレの相棒になっておった」
 肩を竦める鶴祇。
 ――一番最初の記憶は、宿屋の布団。そして吹き荒ぶ嵐の音。
 それまでの事はぼんやりとしか覚えていなかったが……隣にいるこの男が、己の主であることは確かな事実として認識出来た。
 リューリャは『洞窟にいた女性にお前を託された。どうしてあんな所に居たのか分からない』と言っていたが……そこに、何者かの意思が働き、『意図的に』彼の元へと送られていたことも、鶴祇はうっすらとだが理解していた。
 不思議と、それが『当たり前』で、その運命に逆らうことも思いつかなかった。
 それから、リューリャと鶴祇は長い時間を共にした。
 様々な場所へ行き、色々なことを学んだ。
 主を助けることもあれば、逆に助けられることもあった。
 彼の強い部分も、弱い部分も、そして成長も……間近で見ることが出来たのだと思う。
「……へえ〜。そうだったの。ずっと前のリューリャを知ってるなんて、何だか羨ましいわ」
「そうか? わしは、おぬしの方こそ羨ましいと思うが」
「どうして? ずっとリューリャと一緒だったんでしょ?」
「そうだ。それに不満はないし、嫌いな訳でも無いが……」
 首を傾げるふうに、遠い目をする鶴祇。
 そう。主と長い時間を共に過ごしたけれど……自分は、他の相棒達や目の前のふうのように、『リューリャの意志』をもって求められた訳ではない。
 送り込まれた存在であるからこそ――そこが、少し羨ましい。
 今まで、主に意志を尊重されて来たし、大事にもされて来ていると思う。
 贅沢な悩みであることは、自分自身が一番良く分かっている。
 分かってはいるのだが……。
「……それで割り切れぬのが、感情と言うものなのだろうな」
 くつり、と自嘲の笑みを漏らす鶴祇。
 ふうは天を仰ぐと、大袈裟にため息をつく。
「……馬鹿ねえ、鶴祇」
「何が馬鹿なのじゃ?」
「望まれていることに気づいていないから馬鹿だって言ってるのよ」
「む? そのようなことは一度も言われたことはないが?」
「リューリャとしては伝えてるつもりなのかもしれないわね。でも、鶴祇だって望まれてるに決まってるわよ。あのひとが、望まないものを傍に置くと思う?」
「……そう言われてみればそうなのかもしれんが。しかしな……」
「鶴祇、変なところで疑り深いのねえ。大丈夫よ、あたしが保証するわ! 何だったらリューリャに直接聞いてみたら? 聞きづらいならあたしが……」
「……俺が何だって?」
 突然聞こえてきた声にギクリとする2人。
 振り返ると、そこにはタオルを肩にかけたリューリャ・ドラッケンが立っていて……ふうは己と鶴祇の身体にタオルを巻きつけてアワアワと慌てる。
「ちょっと! リューリャ、レディの入浴中に黙って入って来るの止めてよね!」
「別に家族なんだからいいだろ?」
「……家族、特に女性の意見は尊重した方が良いと思うぞ」
「へいへい。リューリャ、今から風呂にはいりまーす」
「「今頃言ったって遅いわ!」」
 苦笑する鶴祇に適当に受け答える彼。
 同時にツッコむ相棒達を、まあまあ……と宥める。
「で、何だ? 人妖さん達は内緒話か?」
「うむ。リューリャはわしらを労わるべきじゃと話しておった」
「そうよそうよ! もっと鶴祇に感謝すべきだわ!」
「ん? いつも感謝してるけどな」
「……だったら何で鶴祇は指輪を持ってないのよ」
「「……ハイ?」」
 突然脈絡もないことを言い出したふうに、キョトンとするリューリャと鶴祇。
 彼女はジトッとした目で2人を睨み付ける。
 ふうが持っている指輪は、とても大事な……主と自分を繋ぐ『絆』の証だ。
 リューリャと『家族』になった時に、言葉と共に銀色に輝くそれを貰った。
 その心遣いがとても嬉しかったし、指輪は今でも彼女の宝物だ。
 そう。つい最近リューリャの相棒となった自分がそれを持っているというのに。
 自分以上に主と長く一緒にいる鶴祇が、持っていないのはどう考えてもおかしいではないか……!
「あー。そういや鶴祇には贈ってなかったか……?」
「まあ、それは……わしはこの男の嫁ではないゆえ……」
 言われて思い出したのか、考え込むリューリャに、でっかい冷や汗を流す鶴祇。
 ふうは目を三角にしたまま続ける。
「もう。そんな適当なことしてるから主としての愛情が疑われるのよ!? ちょっと反省しなさい!」
「そうか。悪かったな、鶴祇」
「いやだから不満はないし、気にしておらんというに」
「ダーメーよ! ほら、指輪買いに行きましょ」
「……今すぐか?」
「当たり前でしょ。レディは待たせちゃいけないんだから」
 ほらほら、と言いながら主と姉貴分の腕を取り、湯船から引っ張り上げようとするふう。
 リューリャは小さくため息をついて、青い髪の相棒を見る。
「ふう。ひとついいかな」
「何?」
「俺、風呂に浸かったのついさっきなんだが」
「あら。そうだったかしら」
「うん。俺の記憶に間違いなければね」
「しょーがないわねえ。じゃあ、あたし達先に指輪見に行ってるから。リューリャは後で来るといいわ」
 フンス! と偉そうに薄い胸を張るふう。そのままぐいぐいと湯船から引き上げられ、鶴祇が戸惑った笑みを彼女に向ける。
「だから……あのな、わしには指輪など必要ないと……」
「はいはい。行くわよ、鶴祇」
「ふう、わしの話を聞いておるか!?」
 わーわーと言い合いながら、脱衣場に消えていく相棒達。
 ――人妖同士、温泉で親睦を深めて貰えれば良いと思ったけれど。
 想像以上に上手く行ったのかな、これは……。
 温泉から上がったら、相棒達の買い物に付き合ってやらないとな――。
 リューリャはくすりと笑うと、暖かい湯に肩まで浸かって、のんびり手足を伸ばした。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ia8037/リューリャ・ドラッケン/男/22/騎士

鶴祇/天妖/相棒(NPC)
ふう/人妖/相棒(NPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。

今回は相棒の鶴祇さんとふうのお話ということで、戴いた内容を元に、お話や人物像を少し掘り下げさせて戴いております。
少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
猫又の方で勝手に解釈して書いている部分が多いですので、違和感を感じたり、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴き誠にありがとうございました。
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舵天照 -DTS-
2015年05月18日

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