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『両儀、時を超えて 』
羅喉丸(ia0347)

●前口上
 時に天儀歴108X年ッ!
 天儀の魔の森もすっかり減少し、アヤカシとの戦いも約70年前と比較して少なくなってきた。
 そんな時代で、一人の若者が失われようとする時代を追いかけていた。
 この物語は、開拓者の一員としてアヤカシと戦い、後に両義流道場を開いた泰拳士、羅喉丸(ia0347)の活躍にあこがれ、その思いを追い求めた若者の記録である。



「いらっしぇい!」
 神楽の都の床屋で、景気のいい呼び声が響いた。
「いつものようにしてくれ」
 入店した泰拳士風の若い男は手短に言う。
「たまには別の髪型もいいんじゃないですか?」
「いや、いつものでいい」
 店主の提案をさらりと受け流した。
「羅喉丸さんはそりゃあ立派な人でしたが、北斗さんには北斗さんの良さがありますよ?」
「ぐ」
 北斗と呼ばれた若い男、かつて天儀で活躍した羅喉丸の名を聞き詰まった。あこがれの人である。
「羅喉丸さん、あっしの親父なんかに髪を切らせてもらったんですが……実はこだわりはなかったと聞きます」
「なに……?」
 北斗、この言葉に腰を浮かしそうになった。

 実は北斗。
 両義流道場開祖たる羅喉丸と同じ髪型をしている。
 幼少時に羅喉丸に引き取られ道場名たる「両儀」の姓を受けた。泰拳士としては直接指導してもらう機会はなかったが、羅喉丸の教えを受けた直弟子に師事。次々と両義流の技を体得していた。
「開祖も両義流の姓に相応しく育ったと、喜んでいるだろう」
 免許皆伝をもらった時、現在の道場主からそんな言葉をもらった。
「両義 北斗として、これからも開祖の言葉『武をもって侠を為す』に恥じぬよう、励みます」
 重々しく頭を下げたことを、今でも覚えている。

「師匠は……いつも同じ髪型をしていたと聞くが」
 思わず返した北斗に、店主は温かく頬を緩めた。
「ええ。……『こだわりはない』と言ってましたが、親父がまだ寒いだろうからと少し長めにしておくと数日後にやって来て『切ってくれ』。うっかり短く切ってしまった時も『こだわらない』と。戦いで髪をかすめられその長さにまとめたと思えばいいと笑ってたそうです」
「こだわらない、か……」
「ええ。こだわりのない境地が、いつもの髪型なんだろうと親父は言ってましたね」
「では……」
 北斗、しばらく迷った末に言った。
「こだわらないから、店主の好きにしてくれ」
「へい、分かりました。両義北斗さん」
 店主はにっこり微笑んで姓名で呼び、髪にあたるのだった。



「ほう、北斗。髪型を変えたか。雨でも降るかな?」
 道場に戻ると、顔を合わせた師範は早速からかった。
「雲一つない天気で、ですか?」
「では、驚天動地の大事件でも起こるかもしれんな」
 師範はそう言って笑った。
「開祖は髪を短くしたとき、『戦いでかすめられその長さでまとめたと思えばいい』と言ったそうです」
 実は北斗の髪、両側部が結構短くなっていた。
「ほう?」
 しゅっ、と師範から蹴りが飛んで来た。それをしゃがんでかわす北斗。
「両脇には避けられぬ、ということだな?」
「はい。開祖の教えにある最後の奥義、真の境地には静の構えで取り組もうと思います」
 聞いた師範に、座禅を組む格好をして答えた。脚を引く師範。
「開祖は護大の夢の世界で、習得していた全てのスキルを活性化させ組み合わせる事で人生そのものといった一撃を繰り出し、護大の世界を砕いたという」
 こくり、と北斗が頷く。
「夢の世界に入るのが、確かに近道かもしれぬな」
 励め、との言葉を残し師範は立ち去る。
 一礼した後、北斗も道場を後にした。
 足の向いた先は、森の中の滝壺の裏。洞窟になった場所。
「開祖も護大の夢の世界だからできた事、か……」
 ざざざ、と滝の音が外界からの気配を遮断する中、座禅を組んで思う。
 なかなか、すべてのスキルを活性化させるという手掛かりから先に進めないでいる。
「思い出せ……確か、開祖は基本が大事と言っていた……」
 羅喉丸が習得し、両儀流の表向きの奥義としたのは、「真武両儀拳」という。
「その基本は……」
 北斗、これまで羅喉丸を越えようとひたすら研鑽に励んだ。
 あるいは、一つ一つの技で見ればすでに超えたものもあるかもしれない。羅喉丸は奥義を編み出すため月日を費やした。自分は、同じ月日を費やすことなく伝授された。
 生みの苦しみとはこういうことか、とも思い改めて羅喉丸に尊敬の念を抱く。
 それだけに、御大の夢の中で結実した技を何としてでもこの世に、とも思う。
「ふむ」
 思わず、立った。
「……精霊の力を借り、天地分かれて両儀となるとする理」
 技の心得を改めて口にしながら奥義「真武両儀拳」の構えを取る。
「その心、骨法起承拳に始まり、泰練気法弐につながり、峻裏武玄江を宿す」
 その気になってひとたび動けば、玄武の亀と蛇の動きに基づく、剛柔、快慢を兼ね備えた千変万化する拳を繰り出したであろう。
 会得してから何度も構えた。何度も繰り出した。
 それでも、その先が見えてこない。
 繰り出す奥義自体はどんどん精度を増していたが、それはあくまで「真武両儀拳」として。
 未完成のまま託された、と道場に伝わる真の奥義に、果たして届くのか?
 今では真武両儀拳を愛用しているといってもいい。
 でも、その先が見えない。
 心がわずかに乱れる。
 だが、型も姿勢もいつものままだ。変わっているとしたら、髪型だけ。
「そうか……」
 ここで気付いた。
「開祖は基本ともいえる骨法起承拳をこよなく愛用していた。……これに両儀たる精霊力と瘴気を込めたものが奥義となった」
 何かに気付いたか、こだわりを捨てた髪型に手をやる。
 羅喉丸も、こだわっていたのではなくこだわらずに自然に行き着いたのだという。
 思い出す羅喉丸の雄姿。
 身体は鍛え精悍だった。
 技にも長けていた。
 何より、日々の鍛練と幼少時に見た大きな背中を心の支えとした、卓越した気力があった。
 そんな羅喉丸が存命なら、自然に行き着くところはどこか?
 改めて構えを取る!
「全ての技は基本の組み合わせから成り立つ。技の無駄をそぎ落とし、純化させることで全ての技に含まれる真理に到達させる」
 ぐっと腰を落とす。
「一にして全、全にして一。この境地を以て全てのスキルを組み合わせた一撃を……羅喉丸が両儀と名付けた子に託した真の奥義は!」
 その時!
「北斗さん、大変です!」
 突然、道場の門下生がやって来た。
「ホノカサキですっ! ホノカサキが道場破りとして暴れ回っているそうです」
「何?」
 思わず我に返る北斗。
 これが本当なら、約70年前に開拓者の手を焼いた敵が蘇ったことになる。
「開拓者ギルドも調査の人手を欲しがってます」
「分かった。行こう」
 北斗、あっさりと洞窟を出た。
「……ここから必要なのは、今の高ぶりまで己を至らしめてくれる好敵手だけだ」
 前を見据え、走る。



 その数日後、偶然居合わせた開拓者たちとホノカサキの道場破り現場に駆け付けることになる。
 戦いの最中、北斗は数合交え心身気力ともに高みにまで至ったことを確信する。
 そして構えた。いつか滝壺の洞窟でつかんだ型をッ!
「ならば起より始まりて、両儀に至り、転結に達す。これぞ命の輝き、天をも動かせし一撃、天動転結拳……」
 繰り出されるはずの奥義は発動前に止まった。
 仲間が機転を利かせて割って入り、技を隠したのだ。
 北斗、討伐に必要な勾玉を持っていない。
 条件が整ってなかったのだ。
 とにかくいったん引いた。

 後日、両儀道場で。
 師範と北斗が向かい合って座っている。
「ほう、その心は?」
 ホノカサキと戦い、つかんだという「天動転結拳」について師範が聞いた。
 北斗、面を引き締め言う。
「気力と練力を持って、制御します」
「『詩経黄天麟』を加えるか……」
 感付いた師範。
 しかし顔は、可能か、と問うていた。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ia0347/羅喉丸/男/22/泰拳士

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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羅喉丸 様

 いつもお世話様になっております。
 シナリオ「【未来】敵の名はホノカサキ」の続編ということでしたが、幻の奥義「天動転結拳」についての話だったのでシナリオを挟む形にしました。やや懐疑的な終わり方をしていますが、発注は前後編ということなので、実際の威力などは次回に。

 お気に召しましたら後編もぜひお願いします。
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舵天照 -DTS-
2015年05月18日

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