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『面倒な親子に言葉遊びのような交渉をさせられた後の話。 』
黒・冥月2778)&鬼・湖藍灰(NPC0479)

 ブーメランの如く話が戻って来た結果として。
 …面倒な親子?だな、とつい眉を顰めてしまうのは仕方無かろう。

 まぁ、この陰陽師なライターと師父の二人を「親子」と言い切っていいのかどうかも結局良くわからんが…私にしてみればその辺りの細かい事情については正直どうでもいい。ただ、本来力技、物理的交渉が本分な自分にこんな言葉遊びのような交渉を『助力の条件』として求められてしまっては…さすがに少々フラストレーションが溜まりもする。…まぁ、何を言っても結局自分で背負った依頼なんだが。…その時点で、誰に文句を言う筋合いでも無いのだが。
 とは言え、私はそれで――黙って不平不満を飲み込んだまま、大人しく遣り過ごせる程人間が出来てはいない。

 …取り敢えず、生き返ったらこき使おう。

 黒冥月は、心の中でそう誓っておく。
 別に改まって誰に言わずとも良い。…その時が来たら問答無用だ。

 ともあれ、用件を済ませたところで私は月刊アトラス編集部の応接室を出、ここで話した当の交渉相手ともすぐに別れた。そしてその足で白王社ビルを辞しつつ己の携帯電話を操作し、先程応接室で教えて貰った電話番号に掛ける事をする。
 鬼・湖藍灰のものだと言うその番号。応接室を二度目に借りる前――要するに陰陽師なライターとの交渉前――に少々身柄を借り出し会ったばかりの相手でもあるが、この相手に電話を掛けるのはさっきの今でも別に問題はあるまい。…そもそもこの陰陽師なライターとの交渉自体が湖藍灰に言われた『助力の条件』を満たす為に試みた取り急ぎの行動だった訳で――むしろ湖藍灰の方でこう話が転がる事を予期していた可能性すらあるかもしれない。
 電話を掛けつつも、私の足は表の喫茶店へと向かっている。先程湖藍灰を借り出し共に出向いた先になるその場所。…まだ湖藍灰は居るだろうか。居るなら色々手っ取り早いのだが――――――





 …。





 ――――――にしても留守電に切り替わりもせずに随分呼ばせるな。いいかげん出ろ。



 軽く二十回近く呼び出し音を鳴らしてから、漸く湖藍灰は電話口に出た。あ、ごめん鳴ってるの気付かなかった――などと悪気の欠片も無い軽い声が受話口から流れて来た時点で、前置きはいい、今何処に居る――と必要な事を問うだけ問う。…この男の場合、このふざけた態度の方についてはいちいち反応するだけ無駄だとそろそろ理解した。そんな事を気にするよりも先に「すべき事をする」方が余程建設的。この男がまだ喫茶店に居るなら喫茶店で話を済ませればいい。そうでないなら――まぁ、このまま歩きながら電話で話してしまってもいいか、とは思う。…こちらもこちらで次の用はあるのだし。
 曰く、喫茶店はもう出たところらしい。そしてこちらがそれ以上はまだ何も話さぬ内に、黒いおねーさんの方からこの番号に掛かって来るって事はあんみつでもついでに食べて待ってれば良かったかなぁ、などと呑気な科白が受話口から流れて来た――となると。

「…こうなるとわかっていたな」
 あの男との交渉の結果が。
(ま、うちの子が駄目とは言わないのはね。でもそれでも、やるならあの子自身の意思でやってくれるんじゃないと困るから。俺に言われたからって事明かしちゃうと、師弟って立場上それ強制と同義だからね。それじゃ意味が無い)
「そんなものか。…まぁいい。何にしろ、これで貴方の言う条件は満たせただろうか」

 交渉に当たり、湖藍灰の事はバラさない。
 その前提で、陰陽師なライターからの――湖藍灰の『心当たりの霊媒』当人からの協力を取り付ける。

 …それらの条件を踏まえた上でのアトラスでのやりとり。湖藍灰へと電話口で端的に伝えつつ、儀式や素性の隠蔽…の方の条件についても、こちらの考えを話しておく。

 まず、私や私の周囲から漏れる心配は無い。…仕事上、そういった隠さねばならぬ事情を隠し通すのは慣れている。儀式を行う事でその筋にバレる危険、の方は準備段階から徹底した隠蔽工作を。実際の儀式は私の影の中――要するに、所謂亜空間なのだが――で行えば外界と遮断され監視も感知もされない。

「…以上で考えているが、一応条件は満たしたか?」
(あ、そこまで考えてくれてたんだ)
「?」
(いや、儀式自体の方を隠すって事までさ)
「そういう条件ではなかったか?」
(あー、さっき取引の条件に秘密、って入れたのは、単に口止めしただけのつもりだったんだよね。あ、勿論黒いおねーさんの方で色々隠蔽工作やってくれるってんなら有難いけど。その辺、結構手間だから)
「…。…そうか。ならOKと言う事だな?」

 どうやら湖藍灰の口振りからして、多少の勘違いがあり私の方で余計な気を回してしまっていた事になるらしい。…私がそこまで考えずとも湖藍灰の方で何かしらの手段はあったと言う事か。…確かに、虚無関係者でありながら柵無く好き勝手やれていると言う以上、湖藍灰はその手の『隠し事』にも長じているのかもしれない。
 まぁ、私も私で、一度口に出してしまったからには撤回もする気は無いが。…影を使うのは大した手間では無いし、準備段階の隠蔽工作など、むしろこちらで取り行う形になった方が――漸く普通に『仕事』になってくれた気さえする。

(あ、うん。さっき言った取引条件とかについては全然OK)
「OKなら今後の予定等聞きたい」
 急がないがこちら側の面子――『奴』の素体の血縁に纏わるIO2情報の検討に調査やらもう一人の待ち人への説明やら――の準備もあるし、段取りや準備、道具の調達等で手伝える事があれば手伝いたい。
(…もう一人の待ち人?)
「そちらの個人名も伏せておきたいんだが」
(まぁ、それもまた察しは付く気はするけど。今後の予定かあ…それはうちの子次第かなぁ)
「…何かまだ他の条件でもあるのか」
 先程私に出した取引条件以外に。
(いや、単にスケジュール的にうちの子の方の都合が付くかどうかってだけの話。お仕事あるし学校も行ってるし)
 …まぁそれはそうか。
(何だかんだで俺と違って意外と忙しい身の上だから。ああ、実際に憑いて貰うに当たっては別に大した準備は要らないんだけどね。儀式って程の事も特に無いし)
「…そうなのか?」
(うん。でも実行場所が外界と遮断されちゃう亜空間って事になると、そもそも当の霊魂も事前に同じ空間に喚び込んでおかないと話が始まらないから、そっちの準備にちょっと手間掛ける必要はあるね)

 …それも然りか。
 だが、その当の霊魂は――チューニングが合わない関係で意思疎通も霊的な感応も難しい、とか言う話だった筈だが。…そもそもだからこそ、この湖藍灰やらに色々頼んでみる羽目にもなっている、と話がまたもブーメランの如く戻ってしまう。
 だが、今ここでわざわざ言い出すとなると、湖藍灰には何かしらの手はあると言う事になるのだろう。…また言葉遊びのような面倒な事にはならんといいのだが。

「どう手間を掛ければ『奴』を喚び込める?」
(んー、要するに喚びたい相手の髪の毛とか血とか…とにかく当の霊魂側から見て、『ここに来いって誰かに喚ばれてるなー』ってわかるような目印を出来るだけ集めて欲しいって感じかな。それで、来て欲しい場所――実行場所に誘導する。本当に来てるかどうかについては俺なら何となく判断付くし、来たらその時点でおねーさんに空間閉じて貰えれば準備完了ってところかな。…ってな訳で、手っ取り早いところだと今言ったみたいに当人の髪の毛とか血とか集めて貰えばって事なんだけど…)
「…無理じゃないか、それ」
 霊魂当人の生前の体組織は恐らく残っていない。…だからこそ、霊鬼兵だった頃の素体の血縁に頼ってみれば、などと言う話まで出ている訳で――ん?

「素体の血縁者の毛髪やら血液でもありか? それは」
(まぁね。例えば俺の心当たりになる二人辺りから――血液の方だとちょっとハードル上がるかもしれないから毛髪の方と想定しようか。その貰った髪を燃やして灰にして墨と混ぜて、当の素体の子の名前を符に墨書して精製しておくとかすれば代用出来る。
 って言うかそれだけに限らず、とにかく『あの子』がわかりそうな目印なら何でもいいんだよね。待ち人二人共に揃ってるって事自体も目印になるだろうし、あと生前当時の事を思い出させる物とか…『あの子』良く本読んでたよね、例えばそれでもいいし。何か思い入れのある場所とか時間帯とかを合わせて実行するって手もあるかな――その場所に一時的におねーさんの影空間を繋いどくとかして。…あ、そもそもこんな依頼を持ち掛けて来るって事はその霊魂と何か因縁あるって事なんだろうから、黒いおねーさん当人も目印の一つになるかも。
 …とにかく、その手の心当たりがあったら何でも集めておいた方が『あの子』から見てよりわかりやすい目印になると思うよ。チューニングが合わせ難い以上、髪の毛みたいな定石通りの目印が一つだけ…とか極端に少ないと、見落としちゃったり読み取るのを失敗しちゃったりする可能性が高いから、なるべく多く用意した方がいい)
 ふむ。
「なるべく多く、か…その手の心当たりについては依頼人の彼女の方が詳しそうだが…彼女に話せば喜んで手伝うだろうが…」
 ここはあの小娘には頼らない方が良かろう。虚無の幹部同然な彼女の動きは目立つ。…虚無だけでは無くIO2にも漏れる。…そうなってしまう可能性が著しく高い。
 が同時に、この話を聞いたなら彼女が黙って大人しくしていられるとも思えない…と、なると。
「…儀式直前まで彼女にも秘密だな」
(あー…確かに彼女って虚無の広告塔みたいなもんだもんね。て事はこっちも念の為に本人の代わりに事前に髪の毛一本くらい貰っといた方がいいかな…。まぁ、何にしても虚無側で『あの子』が目印にし易そうなものがあるかは俺の方で探しとこっか)
「…。…貴方も虚無では名が通っているのだろう? 動いて勘繰られたりしないか?」
(? ああ、俺なら全然へーき。わざわざ気にしてくれてありがとね)
「そうか。特に問題が無いならいいんだが」



「それと、一度で済ませられる報酬も考えておいてくれ。ソーダ一生分でも構わないが貴方が飲みたい度に来るのは面倒だ」

 話に幾分目処が付いたところで、私はそんな風にも続けておく。ソーダについては「強いて言えば時々気が向いた時に欲しくなる」と湖藍灰当人が先程の交渉時、私が報酬の話を振った時に言っていた話。だが、改めて口に出してみると正直軽口にしか聞こえんな、と思わず苦笑が浮かぶ。
 何にしろ、今言っておきたかったのは今回の件についてこちらが湖藍灰に支払うべき報酬内容についての事。…仕事は仕事。自分がタダで動くつもりが無いように、他者にタダでやらせるつもりも無い。

 の、だが。

 受けて受話口から流れて来たのは、少々意外そうな声で。
(って報酬ならこっちでさっき出した取引条件クリアしてくれた件でいいけど? 後は『目印』集めに必要経費が出て来るようだったらそっちで出しといてねって事くらいかな。何ならあのメロンクリームソーダ一杯も報酬の勘定に入れていいし)
「…。…本気でそれだけでいいのか」
(本気でそのつもりだったんだけど。…んー、じゃあ、殆どタダみたいで納得行かない、とかだったらその辺はうちの子の方が普通にぼったくってくれると思うから後でそっちと交渉してくれる?)

 …。

 普通にぼったくってくれる、って何だ。
 反射的に思うが、まぁ要するに…あの陰陽師としての貌をしたライターの方なら普通に仕事らしいやりとりが出来ると言う事か、と理解しておく事にする。その手の依頼料など、相場はあって無いようなものだろうからぼったくりと言えばその通りかもしれない。…それは突き詰めれば私の本業や元の稼業も大差無い気がするが…まぁ考えても埒も無い。

 となると、今しておかなければならない取り敢えずの用件は済んだ。問題の、霊媒役のスケジュールについては湖藍灰の方が聞いておく――今、当人に訊く前に湖藍灰が思う時点でも多分すぐは無理だろうとの事――との話に纏まり、互いに準備が出来たら今通話しているこの番号に連絡を入れる、と言う事に決まる。
 勿論、何か不測の事態が起きたらその時にも連絡を。最後にそうとだけ確認して、私は湖藍灰との通話を終えた。

 さて、次は。
 先程から進めている足の向かう先。このまま草間興信所での用件を済ますとしようか。

【面倒な親子に言葉遊びのような交渉をさせられた後の話。何やら『目印』集めを頼まれました】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2015年05月21日

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