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『ハイ・プリースト 』
世賀・平太8772)&道元・ガンジ(8756)&森・くるみ(8762)


 世賀平太のこよなく愛する月刊アトラスが、廃刊の危機を迎えている。
 事実を、ありのままに書き過ぎてしまったからだ。
 無理もない部分はある、と世賀としては思わなくもない。
 ニューヨークを蹂躙する、巨大な機械の怪物。それと戦う巨大ロボット。
 そんな記事で特集を組んでしまったものだから、話題と言うか大騒ぎになった。
 アトラスの公式サイトは大いに炎上し、編集長の解任要求が白王社には殺到した。
 世賀も、あの特集は熟読した。モバイル・アトラスで配信されていた動画も見た。アトラスの新人記者が現地に赴き、命懸けで撮影したものであるらしい。
 あれがフェイクならば、恐ろしく出来の良いフェイクであるとしか言いようがなかった。
 それならば、例えば昔の1999年騒動のように、作り物のエンターテインメントとして楽しめば良いものを、それすら出来ずに大騒ぎしてアトラス編集部を攻撃する輩が実に多い。
 だが、あの編集長は、そんなものに動じるようなか弱い女性ではなかった。
 炎上商法的な効果も、あったのだろう。雑誌そのものは大いに売れた。
 なのに廃刊の危機を迎えている。
 アメリカ政府が、動いたからだ。
「要するに……全て本物と、そういう事になるわけだ」
 苦笑しつつ世賀は、携帯端末を折り畳んだ。
 ドゥームズ・カルトの生体兵器工場。その中枢と言うべき場所である。
 工場のコンピューターから、抽出すべきデータは全て盗み取った。
「ヴィクターチップ……錬金生命体、か」
 世賀なりに、いろいろと調べられる事はあった。
 アメリカ政府が、日本政府に圧力をかけてまで、月刊アトラスを潰そうとしている。
 つまり、あの動画は、出来の良いフェイクなどではないという事だ。アメリカ政府としては絶対に隠し通さなければならない出来事の、本当の記録なのである。
 日本では、テロリストや大型ハリケーンによる災害としか報道されなかった。
 アメリカで起こった、その一連の出来事に関し、世賀の伝手で調べられる事は調べてみた。
 その結果、浮かび上がって来たものがある。
 混沌の海に浮かぶ、それは戦船の名であった。
 死者の魂を乗せて神々に戦を挑み、ラグナロクを引き起こす船。
 その禍々しき戦船の漕ぎ手とも言うべき怪物たちが、日本で再生産されている。ドゥームズ・カルトによってだ。
 工場が、揺れている。
 地震ではない。動力機関室が、IO2によって爆破されたところである。あと1時間も経たぬうちに、工場そのものが吹っ飛んで地上から消え失せる。
「お、おい! そこの貴様、何をしている!」
 逃げ惑う工場職員の1人が、詰問の声を投げてくる。
「貴様もIO2の工作員か! ならば生かしてはおかんぞ!」
「あ、いや……一応、ここの関係者なんだけどな」
 世賀が今、身にまとっているのは、いつものような清掃作業服ではなく純白の法衣である。偉大なる『実存の神』に仕える、僧侶の正装。
 その胸では、高位司祭の身分証たる神の紋章が輝いている。無論、偽物だが。
「は……し、失礼いたしました!」
 職員はそれを見抜く事なく、恐縮してくれた。
「も、申し訳ございません高僧殿! 我ら、この工場を守る事が出来ず」
「ああ、そのようだね。まあ、これも実存の神の思し召しというものさ」
 世賀は高僧らしく、聖人めいた事を言ってみた。
「工場など、人がいればいくらでも造り直せる。君たちは早くお逃げ」
 脱出したところで、この者たちに行くあてなどない。ドゥームズ・カルトの本拠地に逃げ戻っても、処刑されるだけだ。
 それはともかく、世賀自身もそろそろ逃げなければならないだろう。
 逃げ惑う職員たちを偉そうに避難誘導しながら、世賀は呟いた。
「日本は狭いんだ。怪獣や巨大ロボットが大暴れ出来るような場所なんてない……そういうのはさ、アニメの中とかだけにしておこうよ」


 アメリカで何か起こっていた、くらいのニュースは日本にも伝わっている。
 テロリストに、巨大ハリケーン。テレビも新聞も雑誌も、そのようにしか報道しない。
 報道されていない何かがある、という気配はあった。
「でも、だからって……巨大ロボット? ってのは、どうなのよ局長」
 この場にはいない局長に語りかけながら、森くるみは無造作にモップの柄を突き込んだ。
 襲いかかって来た怪物の、眉間の辺りにだ。
「何とかチップ? とにかくワケわかんねぇチート回路が頭ん中に埋まってんだってなぁ。なら、それごとブッ潰してやるっつうの」
 皮膚を剥がされた人間のような姿。剥き出しの筋肉はしかし、外皮同様の強靭さを有しているようである。
 そんな怪物が、眉間を穿たれ、崩れ落ちるように倒れて動かなくなった。
 別の1匹が、しかしすでに背後にいる。筋肉剥き出しの剛腕が、唸りを立ててくるみを襲う。剛腕の先端で、カギ爪が閃く。
「くっ……!」
 とっさに身を捻ったが、かわしきれなかった。くるみは悲鳴を噛み殺した。
 左肩の辺りに、鋭い激痛が走る。清掃作業服が裂け、微量の鮮血が飛び散った。
 歯を食いしばり煙草を噛み締めながら、くるみは相手の眉間を狙って反撃を突き込んだ。
 突き込まれたモップの柄を、しかし怪物が軽やかに回避する。まるで猿のような動きだ。
 戦闘経験を全員で共有し、戦いのさなか急速に成長してゆく怪物たち。1体が殺されれば、他の者たちはその場で、死をも経験した歴戦の勇士となるのだ。
 この難儀な怪物たちの名は、錬金生命体。
 彼らの頭部に埋め込まれた『ヴィクターチップ』とかいう装置が、そのような裏技を可能にしているらしい。
 清掃局局長・世賀平太が、そう説明してくれた。
 個々のヴィクターチップによって得られた戦闘経験データは、どこかにあるマスターシステムに蓄積される。
 そのマスターシステムを搭載した、言わば経験値の塊とも言うべき巨大ロボットが、アメリカで大活躍と言うか大暴れをしていたらしい。それも、世賀局長の話である。
 月刊アトラスの記事から、そこまで妄想を膨らませる事の出来る局長の童心が、くるみは羨ましくもあった。
 光が、一閃した。
 くるみの反撃を猿のようにかわした錬金生命体が、次の攻撃に移ろうとしながら硬直する。
 硬直した胴体から、頭部がころりと分離した。断ち切られた頸部に、ぞっとするほど滑らかな断面が残っている。
 1人の少女が、くるみの傍らに着地した。豊かなポニーテールが、ふんわりと揺れる。
 くるみと同じく、血まみれである。細い全身のあちこちで服が裂け、血が滲んでいる。
 たおやかな手には、抜き身の日本刀が握られていた。
 隻眼の美貌は、憔悴しきっている。もはや遠くから念動力の斬撃を飛ばすほどの気力もなく、こうして細い身体に鞭打って踏み込んで来るしかないようだ。
 くるみは声をかけた
「逃げた方が、いいんじゃねえのかい」
「工場の破壊。それが私の任務だ」
 生意気な事を言いながら、少女が抜き身を構える。
「この怪物どもが1匹でも逃げ出し、一般市民を殺傷するような事があれば……それは任務成功とは言えない。こやつらの殲滅を確認するまでが、工場破壊の任務だ」
「家に帰るまでが遠足です、みたいな?」
 そんな事を言いながら、くるみは少女と、いつの間にか背中を合わせていた。
 互いの背中を守りながら、くるみはモップを方天画戟か青龍偃月刀の如く構え、隻眼の少女は抜き身を鞘に収めて居合を狙う。
 そんな2人を、錬金生命体の群れが取り囲む。
 睨み、見回しながら、くるみは少女に訊いてみた。
「あんたの片目……もしかして、ものもらい? 部屋ぁ汚くしてるから、空気がバイキンだらけになっちまうんだぜ」
「私の部屋は、汚れてなどいない」
「今度行って、掃除してやろうか」
 言いつつ、くるみは傍らの清掃用カートから、大型のワックス缶を引っ張り出した。
 そして思い切り、ぶちまけた。
 一斉に襲いかかって来た錬金生命体たちが、ことごとく転倒する。
 そちらに向かって煙草を弾き飛ばしながら、くるみは言った。
「駄目だぜ? いらないものは片っ端から、こうやって燃えるゴミにしちまわねえと」
 轟音を立てて炎が生じ、渦巻いた。
 転倒した錬金生命体の群れが、起き上がる暇もなく紅蓮の渦に飲まれ、焦げ砕けてゆく。
「もったいない、何かに使えるかも、はNGなわけよ。まず間違いなく使わねえから。そーゆうものは、とにかく処分する。お片付けの基本だな」
「何故……私を、助けてくれた?」
 炎を迂回して来た錬金生命体を、居合の一閃で斬首しながら、少女が問う。
「私とて……まず間違いなく使えない、真っ先に処分すべきものの1つ、なのかも知れないのに」
「ゴミってさ、処分するとスッキリするよな。いい気分に、なるよな? お掃除ってのは、スッキリいい気分にならなきゃいけねえ」
 答えながら、くるみはモップの柄を思い切り突き上げた。
 炎を飛び越え、襲いかかって来た錬金生命体の眉間を、その柄が突き砕く。
「おめえを処分しても、あたしは多分スッキリしねえ。面白くねえ。つまんねえ思いしかしねえ。ねえねえ尽くしじゃんよ。だから、まあ……こんなとこで死ぬのは、やめとけよな」
「死なずに、いられるかな……」
 火勢が弱まり、遺灰が熱風に舞う。
 その向こうから、錬金生命体たちは際限なく押し寄せて来る。
 暴風が吹いた。咆哮と共にだ。
「おうおうおう、おめぇらだけでキバってんじゃねーぞう!? 俺にも遊ばせろやああああああ!」
 熊、いや巨大な狼か。
 とにかく獣が1頭、錬金生命体の群れに殴り込んだところである。
 獣毛をまとう剛腕が、人体模型のような怪物たちを薙ぎ払う。パンチか、手刀か張り手か、くるみの動体視力をもってしても判然としない。
 とにかく錬金生命体たちは、ことごとく潰れ散った。主に、首から上の原型を失っていた。
 道元ガンジ。普段は辛うじて人間に見えるスキンヘッドの大男だが、本格的な戦闘時には、このような獣人と化す。どちらを正体と呼ぶべきかは、わからない。
 獣毛をふさふさと生やした巨体に、錬金生命体たちが凶暴に群がって行く。
 無数の牙が、カギ爪が、ガンジの全身あちこちに突き刺さる。
 くるみを、あるいは隻眼の少女を狙っていた怪物たちが、標的をガンジに変更していた。
 少女が呻く。
「貴方は……また、私の楯に……?」
「勘違えすんな。俺ぁただ、こいつらと遊んでやってるだけよ」
 笑うガンジの全身から、鮮血がしぶき、赤い霧となった。
 その霧を蹴散らす勢いで、大量の肉片と体液が飛び散った。
 まとわりつく蜘蛛の巣でも払い落とすかのようにガンジは、錬金生命体たちを引きちぎっていた。
 狼と言うより熊のようでもある爪を生やした巨大な手が、怪物たちの強固な筋肉を掴み裂く。
 毛むくじゃらの巨木、とでも表現すべき足が、錬金生命体の頭蓋を踏み潰す。
 鼻面もろとも大きく迫り出した口が、食らいついてきた錬金生命体の1体を、逆に食い殺していた。白く強靭な牙が、怪物の太い首筋を切り裂いて噛み砕く。
「がふっ、うぐうぅ……不味い! 姐さん、こいつら不味いよー!」
「拾い食いは、ほどほどにしときな」
 くるみは言った。
「それとだ、あたしを姐さんと呼ぶんじゃねえ。あんたの方が年上だろうが」
「じゃ俺の事、お兄ちゃんって呼んでくれよう」
「……おめえなんざぁ、暴れ犬のガンジで充分だっ」
 そんな応え方をしながら、くるみはモップを突き込んだ。
 食らい付いて来た錬金生命体の、こめかみの辺りに、モップの柄尻がめり込んでいた。
 くるみにはガンジのような、豪快な殺戮を行うほどの馬鹿力はない。だがガンジと違って、このように外傷のない綺麗な死体を作り出す事が出来る。
 その死体を片足で踏み付けながら、くるみは周囲を見回した。
 群れる錬金生命体の数は、あまり減ったように見えない。
 だが全員、動きを止めていた。
 獣の如く敏捷に剽悍に動き回っていた怪物たちが突然、それこそ人体模型のような、人形に変わってしまった。そんな感じである。
 死んだ、わけではない。ただ一瞬にして、身体能力の全てを失ってしまった様子だ。
 戦闘経験を共有し、加速度的に向上させてきた身体能力の、一切をだ。
 人体模型の群れ、とでも言うべき状態になってしまった錬金生命体たちの間を、1人の男が悠然と歩いている。携帯端末を聖書の如く携えた、僧衣の男。
「間に合った、みたいだね……」
「局長……何だい、その格好は」
 問いかけながら、くるみは思わず吹き出してしまった。
「ロープレの僧侶か何かのコスプレみたい。魔法でも使ったの?」
「ヴィクターチップを、システムダウンさせただけさ。ちょっと時間がかかってしまって申し訳ない。ちなみに、これはドゥームズ・カルトのお偉いさんの制服だよ」
 清掃局局長・世賀平太が答えた。
「まあ何だ、ファンタジー世界の悪い僧侶なんかと大して変わらない連中なのは確かだ。悪い神様だの何だのっていうのは本当、アニメやゲームの中だけにして欲しいねえ」
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
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東京怪談
2015年06月01日

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