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『たんけん、かどきべや 』
シグリッド=リンドベリjb5318)&華桜りりかjb6883


 その前日。
 シグリッド=リンドベリ(jb5318)と華桜りりか(jb6883)の二人は、リビングの隅っこで額を寄せ合っていた。
 ひそひそ。
 こそこそ。
 二人で顔を見合わせ、にこっと笑う。
 同時に視線を向けたその先には、門木章治(jz0029)の私室があった。

 この風雲荘で皆と一緒に住むようになって、もう半年以上になる。
 その間、門木とはリビングで殆ど毎日顔を合わせていた。
「でも、部屋に入った事はあんまりないのです」
 用事を頼まれて何度か出入りした事はある。
 けれど、許可も取っていないのに部屋の中をじっくり見て回るなんて。
「お行儀がよくないの、です」

 というわけで。

「今日は章治おにーさんのお部屋でお泊り会したいです!」
 翌朝、門木の顔を見るなり元気にお願いした次第。
 勿論そこに他意はない。小学生が友達の家に泊まりがけで遊びに行くノリだ。
 そして門木の方も、その言葉を額面通りに受け取っていた。
 他意とか裏とか下心とか、大人なら当然ある筈のものが、彼には欠落しているらしい。
 つまり、安心安全。
「章治兄さまのお部屋、見てみたいの…」
「……それは、構わないが……面白くないぞ?」
 そんな門木の言葉に、二人は揃って首を振る。
「章治おにーさんのお部屋が面白くない筈ないのです。ねー?」
「ねー、なの」
 きっと変な発明品とか、作りかけの何かとか、何だかよくわからないものがゴロゴロしているに違いない。

 では早速――
「お邪魔しまーす!」
 ドアを開けて、ざっと室内を見渡す。
 広さは六畳ほど、他の部屋と大体同じ作りだ。床はフローリングに替えられているが、その一角にはシステム畳が敷き詰めてある。
 窓際にあるベッドは掛け布団が撥ね除けられたままの形で、その上にはパジャマ代わりの部屋着が脱ぎ捨ててあった。
「……あ」
 門木は慌てて部屋着を丸めて洗濯籠に放り込み、適当に布団を直して取り繕う。
 だが幸い、訪問客の目は他の場所に釘付けになっているようだ。
「ここはやっぱり、予想通りなのです…」
 畳を避けるように置かれた机の上は、雑多な物に占領されて作業スペースが見当たらない。
「……ん? ああ、仕事や書き物は向こうでやってる」
 門木は畳の上に置かれた文机を指差した。その上にはノートパソコンが置かれ、脇には雑多な種類の本が積み重なっている。
 どんな本を読んでいるのかとタイトルを見れば、流行りのラノベからビジネス書、時代小説、純愛物、ゲームの攻略本――
 これは一体どういう基準で選んでいるのだろう。
「……その…入院中、暇だったからな」
 どうやらネットの本屋で「ベストセラーの100位までをジャンル不問で」取り寄せた結果らしい。
「これ、ぜんぶ読んだの…です?」
「……まあ、一応は」
 気に入ったかどうかは、その扱いを見ればわかる。
 その中の一部は、ガラス張りになった本棚の一角にきちんと収められていた。
 歴史小説やミステリ、SF、科学書や医学書と、硬めのものが多い――かと思えば動物や風景の写真集があったり、子供向けの図鑑がシリーズで全巻揃っていたり。
 だが本棚の大部分は、その本来の役割を果たしていなかった。
 そこに並んでいるのは、何の変哲もない石ころや貝殻、シーグラスと呼ばれる色とりどりのガラス片、カタツムリの殻やセミの抜け殻……
 そんなものが、わざわざ透明なアクリル板で何段にも仕切られたところに並んでいる。
 中には白くて立派な猫のヒゲらしきものもあった。
 何が楽しくてそんなものを集めているのか、男の子の趣味はよくわからない。
「章治兄さま、これ、は…?」
 何だか不思議な物があると、りりかが机の上にあった水晶玉の様な物を覗き込む。
「んん…スノードームなの、です?」
 しかし中には何の飾りも入っておらず、ただ白い霧の様なモヤモヤが漂っているだけだった。
 その霧は見る間に濃く、黒くなり、やがて――
「きゃっ」
 中に稲妻が走った。
 思わず飛び退いたりりかの背を門木が受け止める。
「……大丈夫、危険はない…それは天気予報ドームだ」
「てんき、よほう?」
「……今から一時間後の天気が、この中に再現される…目標は翌日の天気なんだが」
 今の精度では、せいぜい一時間後の予報が限界らしい。
「でも今、すごく良いお天気で――」
 雨など降りそうもないと、シグリッドが窓の外を見る。
「あ、向こうの空」
 遥か遠くに真っ黒い雲が見えた。あれがこちらに来るのだろうか。

「だったら、今のうちに洗濯物を取り込んでおかないと…!」
 ここでは一緒にされては拙いものや恥ずかしいもの以外、大抵は皆の分も一緒に大きな洗濯機で洗っている。
 今も庭先では色とりどりの洗濯物が風に翻っていた。
「あ、もう乾いてるの…」
 それを取り込み、畳んでいるうちに、ぽつりぽつりと大粒の雨が降ってきた。
 まるで急に陽が落ちたように、辺りが暗くなる。
 一方、ドームの中には既に青空が広がり、大きな虹がかかっていた。
 一時間後には、こんな風に晴れ上がるのだろうかと思いながら、シグリッドは部屋の明かりを点ける。
 が、その直後。
 電灯よりも更に明るく強烈な光が窓から飛び込んで来た。
 空を無理やり引き裂く様な音がして、空気がビリビリと震える。
 一瞬の後、目の前で大砲が発射された様な轟音が追いかけて来た。
「「きゃあぁっ!!」」
 洗濯物を放り出し、二人は門木にしがみつく。
「……大丈夫だ、家の中にいれば直撃を受ける事はないし、屋根には避雷針も付いてる。電子機器の雷サージ対策も――」
「おにーさん、そういう事ではないのです…!」
 しがみついたまま、シグリッドが首を振った。
「ここが安全なのはわかってるのです」
 でもね、それを理路整然と説明されても安心出来ないのが女の子。
「ただ、大丈夫だってぎゅっとしてくれるだけで良いのですよ…!」
「……そういうもの、なのか…?」
 中学生男子に女性の扱いを諭される中年男。
 なんか色々アカン気がします。

 暫くすると、空は嘘の様に晴れ上がった。
「すごーい! 虹が出てるのですよ…!」
「兄さまの天気予報、ぴったりなの…」
 半円状に空を覆う大きな虹は、根元まではっきり見える。
「……虹の根元には、宝物が埋まっているという言い伝えがあるそうだな」
 金貨や幸運を授かる金の杯など、説によって「宝物」の解釈は様々だが、それを見付ければ一生幸せに暮らせるという部分はどれも同じだ。
「……でも、それはいくら追いかけても追い付けない…そうも言われてるな」
 絶対に手に入らないものの例えにされる事もある。
「そんなこと、ないのです」
 シグリッドが言った。
「宝物も、幸せも、幻じゃないのですよ?」
「ちゃんとつかまえられるの…です」
 ぎゅー。
 もう雷は去ったというのに、二人は門木にしがみついてくる。
 これが幸せ、という事なのだろうか。
「……まったく、お前達も物好きだな…」
 苦笑いを浮かべながら、門木は二人の頭を撫でた。
 二人としてはちょっと心外だが、ここはそういう事にしておいてあげよう。
 ここで「違う」などと言ったら、反論の応酬になって、収拾が付かなくなりそうだから。

 窓から見える大きな虹を消えるまで見守り、二人は漸く室内に目を向ける。
「あ、洗濯物の片付けがまだ途中だったの…」
 りりかは雷に驚いて放り投げたものを広げて埃を払った。
「これ、章治兄さまの白衣…」
 そこでちょっとした悪戯心が首をもたげる。
 ダボダボの白衣を引っかけ、机の上に無造作に放り出されていた眼鏡をかけて――
「こほん、あー……見ればわかるだろ、ここは科学室だ…です」
 門木の真似をしてみる。似てるかな?
「これは何なのです?」
 シグリッドはケセランの顔の様なもふもふイヤーマフが付いたヘッドフォンらしきものを、すちゃっと装着。
「ん……何も聞こえないのです…?」
「……ああ、それはまだ開発中だ」
 理論上では、それを付ければ召喚獣達の言葉が理解出来るようになる、筈だ。理論上では。
「……その筈なんだが、俺が呼び出せるのはこのケセランだけでな…」
 門木はケセランのK太郎を呼び出してみる。
 何を考えているのかわからない、こちらの言葉を理解しているかどうかも不明。
 そもそもこいつは何かを考えているのだろうか。これが相手では開発が進まないのも無理はない。
「それなら、ぼくのシロちゃんを貸してあげるのですよー」
「あたしの鳳凰さんにも、協力してもらうの…」
 ストレイシオンも鳳凰も、どちらも人間並の知能を持っている。
 彼等の協力があれば、きっと開発も捗るだろう。
「ぼく、シロちゃん達とお話してみたいのです…!」
 お小言を喰らう可能性も、なきにしもあらず、だけれど。

 一通り遊んだら、今度はおやつの時間。
 畳のコーナーに小さなちゃぶ台を出して、その上に持って来たものを並べて。
「ぼくは春野菜のキッシュとお茶を用意したのです」
 甘くないおやつだけれど、甘いのはきっと――
「手作りのちょこちっぷくっきー、どうぞなの…」
 ほらね?
「あーん、して下さい…です」
 はい、給餌開始ー。
 甘いのと甘くないのを交互に、間にお茶を挟んで。
「アスパラとベーコンと、新たまねぎと新じゃが、あとコーンも入れました(こく」
 食べ終わったらリビングでゲームでもしようか。
 少し散歩に出ても良いし、買い物に行っても良いかも。
「そう言えば章治兄さま、パジャマ持ってるの、です?」
 さっき丸めてポイしたのは部屋着だったし。
 え、持ってない?
「じゃあ一緒に買いに行くのです」
 ついでに自分達の分も新しいの買っちゃえー。
 あ、勿論お代は門木の財布からね☆

 そして夜、おニューパジャマのお披露目も兼ねて、二人は枕持参で門木の部屋へ突撃!
 門木が選んだのはグレーに白のラインが入ったシンプルなTシャツタイプ。
 シグリッドは薄い水色の地に白い猫のシルエットがプリントされた柄物。
 そしてりりかは猫耳フードと尻尾が付いたピンクのふわふわパジャマ。
「にゃぉん、なの」
 フードを被って猫の真似。
 シングルベッドに三人はきつい気もするけれど、ぴったりくっつけば大丈夫。
 別の意味で大丈夫じゃない気もするけれど、大丈夫。
 これで安心安全って男としてどうなのよ、と思わないでもないけれど、大丈夫。
「章治おにーさん、華桜さん、おやすみなさい」
 シグリッドは二人の額にお休みのちゅー。
 だってリンドベリ家ではそれが普通ですもの。
 勿論下心もないから、相手もナチュラルに受け入れる。
「おやすみなさい、です」
 りりかと二人で門木を挟み、朝までぐっすりお休みなさい。

 あ、通報とかしたらダメですよ!?


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb5318/シグリッド=リンドベリ】
【jb6883/華桜りりか】
【jz0029/門木章治】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。

事案ちゃいますから(きりっ
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エリュシオン
2015年06月08日

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