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『蓮杖一家と陰陽師達 』
叢雲(ga2494)&不知火真琴(ga7201)

「おっでかけおっでかけ!」
 年の頃は四才程度だろうか?
 美しい銀髪と青瞳の小さな女の子が、喫茶店前の駐車場でホップステップジャンプしている。
 絵本を開いていた黒髪黒瞳の男の子が、視線をちらりと動かす。
「ねーちゃん……あんまりはしゃいで、ころばないでね」
「ふっ……おなじしっぱいはにどしない! それがぷろふぇっしょなる!」
「……だといーんだけど」
 そんな事を幼子達が話している所へ、落ち着いた声がかけられた。
「二人とも、お待たせしましたね」
「あっ、おとーさん、もういけますかっ?」
 顔を輝かせて女の子が振り返る。
 店の入り口から黒髪の男と銀の髪の婦人が姿を現していた。
「ええ、準備完了です」
 父と呼ばれた男――蓮杖六華がにこりと我が子達に微笑する。昔は長かった黒髪も今では短く切られ、老成した空気を纏っていた。
「あ、叢雲、ガスの元栓しめたっけ?」
 がちゃがちゃと扉の鍵をかけたところでふと蓮杖真琴が小首を傾げた。二児の母となったが、こちらは未だ二十代で通じる若々しさだ。
「あぁ、ちゃんとしまってましたよ真琴さん。大丈夫です」
 六華は鉄の棒を伸ばして上部にひっかけ、シャッターを引き降ろしながら妻に答える。
「ん、良かった」
 真琴は安堵に笑うとシャッターに紐つきのプレートを吊るす。

『○月×日〜△日 休業とさせていただきます』

 プレートにはそう描かれていた。 


 バグア本星での決戦から八年の歳月が流れた。
 かつては戦火の爪痕も多く見られたが、日本国においては現在はすっかり復興が進み、建設ラッシュも一段落して、街並も落ち着いてきていた。
 天下泰平の時代である。
「わー、すっごいはやーい! きもちいー!」
 新しい時代の子供達、蓮杖実琴が高速道路を走る乗用車の窓から顔を出して、碧眼をきらきらとさせながら銀色の髪を風にあばれさせている。
「ちょっと実琴、危ないですよ。顔をだしちゃだめ」
 真琴は慌てて幼女をひっぱり自身の膝の上に抱き上げる。この娘は自由にさせておくと何をするか解らない。
「えー!」
「もうちょっと大きくなってからね」
「む〜」
 むくれる娘の乱れた銀髪に真琴は手櫛を入れる。
「おかーさん、くすぐったーいっ」
「それじゃ手早くするから。ほら実琴、じっとして」
 膝の上できゃっきゃっと落ち着き無く身をよじる娘に笑いかけつつ髪を整えてやる。真琴は何でも屋業やアクションスタントの撮影などで家にいる時間が少ないので、一緒にいる間は子供達は全力で構ってあげたいところだった。
「……とおさん」
「なんですか六葵」
 一方、ハンドルを握っている六華と助手席の六葵。
「きもちが、わるい、です」
「あぁ、車の中で本を読むと酔いやすいですよ。一つ、経験になりましたね」
「うぇぇぇぇー」
「すいません、先に言っておけば良かったですね。忘れてました。吐きそうですか?」
「そこまでじゃ、ない、ですけど」
「なら、もう少しいった所にサービスエリアがありますから、そこで休憩しましょう」
「さーびす、えりあ? って、なん、です?」
 気持ち悪さよりも知的好奇心の方が勝るのか、息子がそんな事を尋ねてくる。
「サービスエリアというのは――」
 体調を心配しつつ運転しつつ六華は説明する。
 幼い子連れの家族旅行というのもまた、なかなか楽ではないようだ。しかし、確かに平和な一時であった。


 サービスエリアで飲み物と梅を買い食堂でしばし休憩してから、さて、再び車に乗り込もうかという時だった。
「ん……?」
 六華と真琴は異様な音を耳にした。何かが爆発したような、砕けたような音。
 空を仰ぎ見ると、大きな影が見えた。
 鳥――ではない。
 影がみるみるうちに大きくなる。
 迫って来る。
 落下してくる。
 あれは、
(――竜?!)
 瞬間、駐車場のど真ん中に片翼を折った巨大なドラゴンがアスファルトを大爆砕し赤障壁を展開しながら降り立った。
 二人の反応は素早かった。
「真琴さん! 実琴と六葵を!」
「わかった!」
 周囲から悲鳴があがる中、真琴は実琴と六葵を抱えて飛び退く。手負いの竜が目を血走らせ周囲の人間達と並ぶ車両を睥睨し、顎を開いて咆吼をあげる。口蓋の奥で紅蓮の炎が燃え、膨れ上がってゆく。
 六華は素早く車の後部トランクを開き、布に包まれた十字状の巨大な物体を取り出した。布を取り払いざま『銃口』を向ける。
 瞬間、竜の顎から紅蓮に輝く巨大な火球が吐き出され、十字架銃より弾丸が発射され、互いに宙で激突して大爆発を巻き起こす。
(キメラ? 何故――?!)
 一昔前ならとかく、今の時代にキメラが日本のこんな場所に出現するとは、どうして、と疑問が脳裏を過ぎったが。
「今は考えている場合ではないですかね――こちらですよ」
 覚醒した六華は十字架型の重兵器を携え挑発するように竜へと射撃しながら駐車場を円を描くように駆ける。竜は弾丸を受けながらも首を回し火炎球を乱射する。次々に紅蓮の大爆発が巻き起こり、平和だったサービスエリアは悲鳴と爆炎の轟く場所となった。人々が蜘蛛の子を散らすように逃げてゆく。
「実琴、六葵、ここで隠れていて」
 建物の陰まで避難した真琴は夫に加勢すべく懐から拳銃黒猫を取り出しつつ子二人に告げる。
「お、おかーさん」
「大丈夫、お母さんもお父さんも負けないよ。すぐ戻って来るね。いい子だから、お願い」
 真琴は不安そうな幼子達に笑いかけ、頭を撫でてやると、意を決してアスファルトを蹴り走り出した。一瞬で瞬間移動したが如く猛加速する。
「――キメラ、今はもうお前の生きる時代ではないよ」
 鮮やかな幻炎を纏った女は赤みが差した碧眼を細めると、六華と挟み込むように竜の横手へと回り込み、拳銃を猛射した。


 轟く銃声と共に発砲、発砲、発砲。
 弾丸が唸りをあげて飛び、次々に竜の鱗を貫いて血飛沫を噴出させる。
 竜が怒りの咆吼と共に真琴へと振り向きざま燃え盛る火球を吐き出す。
 真琴は次々と迫る火球に対し瞬天速で稲妻の如く、左右に切り返しながら次々にかわしてゆく。
「余所見はいけませんね」
 六華は十字架銃を回転させると肩に担ぎ、砲口を向けて榴弾を撃ち放った。
 竜の背に炸裂した榴弾は轟音と共に紅蓮の大爆発を巻き起こし、爆音に混じって苦悶の絶叫が轟く。
「やった……?!」
 真琴は炎の中に目を凝らす。
 瞬間、紅蓮の中の影が膨れ上がり爆ぜ、細長い鞭のようなものが無数に出現した。
「!」
 音速の触手を真琴は上体を反らして紙一重でかわす。さらなる追撃を瞬天速で加速して置き去りにしかわす。刹那、アスファルトに無数の触手が突き刺さって爆砕し、石の破片が飛んだ。
 六華は己へと伸びてきた触手を十字架で薙ぎ払い、至近から弾幕を猛射して爆砕する。血飛沫が舞った。が、次の瞬間、肉が盛り上がり復元してゆく。見れば鱗や折れた翼まで復活し始めていた。
「再生能力?」
「これはなかなか厄介……」
 駆けながら真琴と六華が呟いたその時だった。
『――悪霊退散ッ!!』
 男と女のかけ声と共に、蒼白い電磁光の嵐が竜の身に絡みつき、光弾が嵐の如くに降り注いで竜の身が次々に爆ぜてゆく。
 振り向くと黒白の狩衣姿でスクーターに二人乗りした男女が、高速道路からエリア内へと突っ込んで来ていた。
 ハンドルを握る黒い狩衣の方は四十絡みの濃ゆい顔のゴーグルをかけたオッサンで、後部に立ち乗りしている白い方は黒いグラサンをかけ超科学ライフルを構えている二十そこそこの女だった。
 六華と真琴は思う、どっかで見た事あるような男女だ、と。
「ぬぉおおおおおおおおおおおぅ?!」
 触手が振われ、スクーターと男が吹っ飛んでゆき、白の狩衣女が宙でくるくると回転しながら六華の近くに着地する。
「そこの人! 逃げ――って、あれっ? ……もしかして、叢雲ぉ?!」
「お久しぶりですね燐火さん」
 相変わらず騒がしい二人に六華は微笑したのだった。


 四人がかりの猛攻の前に頑強を誇ったキメラは倒れ、次いで現場に人類統一政府機構から続々と人がやってきた。
 食堂。
「いやー、お二人がいてくれて助かったでござる!」
 六華と真琴の対処が早かったおかげで幸い人的被害はなかったらしく、戦後、例のがぁっはっはと野太い笑い声を響かせながら歌部星明が礼を言ってきた。
 互いに情報や近状を交換する。どうやら先の竜は元・親バグア派の研究者が産み出したもので、不穏な物音に悪霊かもと依頼を受けた歌部達が調査を行い色々あってアジトを壊滅させた所、逃げ出して暴走しこの場所まで現れたらしい。
「えぇと、お二人とも、ご結婚おめでとうございます! お子さんですよね? いいなぁ、可愛いなぁ」
 グラスを外した燐火が相好を崩して何歳? などと子供達に問いかけ手を振っている。
「有難うございます。歌部さんも燐火さんも元気そうで良かったですよ」
 真琴は二人の様子に微笑する。
「そちらも大過なそうで何より。幸せな日常を手になされたようで、安心した」
 うむ、と頷いて歌部星明。
「歌部さん、魔を払うお手伝い、うちも今でも頑張っていますよ」
「ほ……左様でござるか」
 一瞬驚いたような顔をした後に、笑って歌部。
「世の為人の為、素晴らしき事にござる。ただ、年寄りからの言としては、ご無理にはご注意なされるように、と。もうお母さんなのであるからして、真琴殿もご自身だけの身ではないのである」
「そういえば、燐火さんもそろそろお年頃ですよね。そちらは、どうです?」
 六華がからかいを微笑に秘めて問いかける。
「ど、どうって……?!」
 二十五歳になった娘はあからさまにうろたえた。
「……婚活でも始めてみたらどうか、と言っておるのですがな」
 珍しくシリアスに嘆息してオッサン。
「い、いいんだよ! わ、私は退魔の道に生きるんだよ! うわーん!」
 どうやら燐火は嫁き遅れ路線に突入しかかっているらしかった。



 了


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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整理番号 / PC名 / 性別 / 外見年齢 / 職業
ga2494 / 蓮杖六華(叢雲) / 男 / 33才 / 喫茶店主
ga7201 / 蓮杖真琴(不知火真琴) / 女 / 28才 / 何でも屋兼スタント女優
子供 / 蓮杖実琴 / 女 / 4才 / 蓮杖家長女
子供 / 蓮杖六葵 / 男 / 3才 / 蓮杖家長男
gz0051 / 歌部星明 / 男 / 40才 / 陰陽師
gz0276 / 西園寺燐火 / 女 / 25才 / 陰陽師

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご発注有難うございます、望月誠司です。お久しぶりです! CTSの時はこちらこそお世話になりました。有難うございます。
 もっと色々書きたかった……! 削りに削りました。字数制限はご発注される側も受注する側も強敵ですねorz
 駆け足気味の展開になってしまっていますが、ご満足いただける内容になっていれば幸いです。
水の月ノベル -
望月誠司 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2015年06月09日

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