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『星の名前 』
ロード・グングニルjb5282

 初夏の少し冷たい夜風が頬を撫でた。昼間は季節をスキップ三段飛ばしで飛びこして間違えたかと疑うほどに暑く、木陰でただぼんやりと携帯ミュージックプレイヤーで音楽を聴いていた。
 こんな時に限って太陽は元気で、何一つ手を抜くこともしない。空には雲のひとつもなく、何か嫌みでも言ってやろうかと考えたくらいだ。
 何となく天気予報を見比べれば驚くことに茨城とこの南の島はこの季節気温的にはあまり違いは無いらしい。暑さに汗を流しているとタイミングよくオペレーターの少女が冷たい麦茶を持ってきてくれたのだが、自分はぶっきらぼうに顔をそらして小さく頭を下げただけだった。
 そんな、昼間は少し恨みもした晴天。ただ夜になれば雲ひとつない空がたくさんの星を見せてくれた。
 夜風に吹かれるまま、散歩に出かけた。
 特に目的地も決めなかったのだが、気づけば海辺に訪れていた。適当に座り、何となく空を見上げる。
 星なんて、夜空を見上げればいつでも当たり前に見ることが出来る光の粒。ただ、そんな風に感じていた。だが、そんな星にも一つ一つ名前があることを知ったのはいつだっただろうか。
 少なくても一年前、この島で開かれた天体観測パーティーに参加した時に『彼女』に教えてもらったから少しだけなら解る。
「確かスピカと……なんといったっけな……」
 もう片方の名前がどうしても思い出せない。
 探してみようともしたが、どうしても見つからない。唯一と言って良い程に解るオリオン座さえ、今は蠍から逃げようとしているのか見渡す空には見えなかった。
 そっと息を吐いた。星の名前を覚えたって、やはり指をさして教えてくれる人が居なければやはり自分にはただの光の粒にしか見えない。
 鞄からハーモニカを取り出して、天体に関係のある曲を奏でようかと悩んだその時だった。
「アルクトゥルスじゃないかな」
「は?」
 突然降りかかった声にロード・グングニルが振り返れば、恐らく思春期を迎えたばかりであろう頃合いの少年がこちらを眺めていた。
 よく解らないといった顔をしていたんだろうか。少年がはっと何かに気づいたような顔をして口を開いた。
「ジュン。一年くらい前、ここで天体観測の会を開いた兄弟の兄の方」
「ああ、あの時の小学生のガキ……」
「うん、中学生になったけどね。あの時参加してくれた撃退士の人たちの姿と名前は大体覚えてるんだ。それに、よく見かけるし宙ねーちゃんにも久遠ヶ原の仲間達のことはよく話、聞いてるからさ」
 紹介されて思い出した。言われてみればあの時の小学生だ。
 あの時より少し背が伸びている。顔つきも幼さが少し薄れている。成長期を間違えることなく迎えたのだろう。
「ロードさんはこんなとこにひとりっきりでどうしたの?」
「……考え事をしていた。それに、あまり騒がしいのは好きではないし」
「そっか。じゃあ、オレがいるのもダメかな?」
「別に……」
 ロードが素っ気なく答えると、ジュンは少し遠慮がちに隣へと腰掛けた。
 そのまま、ふたりで空を見上げる。耳に響くのは潮騒とロードが奏でるハーモニカの調べ。
 そうして、どれくらい時間が経ったのか。
 ハーモニカから唇を離してロードが口を開いた。
「最近、気になる子が居るんだ」
「うん」
 ジュンはうなずく。黙って聞いていてくれるようだ。
「とても大らかでいつも一生懸命な同級生だ。どんな時だって諦めたりしない。とても明るくて、少し、眩しく感じることもあるが……それも良いと思ってる」
 星の名前を教えてくれたのは
「ロードさんは、その子のことが気になるから接し方で悩んでいるの?」
 何となく誰のことか、ジュンには解ってしまっているのかもしれない。
 それでも、聞き手に徹し下手に茶化そうとしないような態度を見ても、年よりも随分としっかりしていることが解る。
「ああ……」
 ジュンの問いにロードは軽く考える。
「その子と友達になりたいと、悩んでいる」
「友達かー。友達になるのってそんなに難しいの?」
 首をかしげるジュンにロードは少しだけ首を振る。
「いや、俺が不器用なだけだ。きっと、他の高校生は別にそうでもない……一人でいるのが楽だったから、今更どうしていいのか解らないんだ」
 正直な自分の思いだった。しかし、
「でも、仲良くしたいって気持ちは本当なんだよね?」
 ジュンの言葉にロードは頷いた。
「だったら、思うまま話しかけてみればいいんじゃないかな。友達のなり方、なんてものに答えなんてないんだよ。それにその人の性格だったら、素直にそのまま言えば多分喜んで頷いてくれるんじゃないかな」
 そういうものなのだろうか。ロードは少し首を傾げて考えてみた。
 そうして、少しだけ考えてみて確かにそうかもしれないと何となく答えが出る。
『友達』になるのは、実は其程難しいことではないのかもしれない。むしろ、彼女なら『私は友達だと思っていましたよ?』なんてきょとりと首を傾げるのかもしれない。
 そうして、きっと向日葵が咲くように明るく笑って手を差し伸べるのだ。
『でも、改めて……私でよければ喜んで! 友達になりましょう! みんな仲良しが一番です!』
 すぐに思い浮かんだ数々の彼女の姿や表情に、ロードは薄く微笑みをこぼした。
「そろそろ帰るか……送ってやる」
「ありがとう」
 気づけば随分夜も更けていた。ロードが立ち上がるとジュンも腰を上げた。
 同じような体勢で座っていたからかジュンはうーんと背を伸ばして、海から来る風を体いっぱいに感じる。
「後、もう少しすれば夏が来るね」
「ああ……確か、夏は七夕だったな」
 ジュンの呟きにロードは頷いて、空を見上げた。
 相変わらず光の粒のような星々の中から特定の星を探すことは出来なかったけれど。
「また、教えてもらえばいいんじゃないかな。星が好きな人だったら、きっと喜んで教えてくれると思うよ。というか、語り出して止まらないかも」
 ジュンはそういってくすりと笑ってみる。
「夏と言えばかき氷だよねー。そういえば、オレの知り合いのねーちゃんは、かき氷、ブルーハワイが特に好きみたいだ。まぁ、深い意味はないんだけど」





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb5282 / ロード・グングニル / 男 / 陰陽師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 夜、空を見上げていても其程綺麗に星が見えることは少ない――そんな、都市部生活。
 美しい星空を見上げるだけでも圧倒されて見とれてしまいます。
 勿論、都会の夜景も心を奪われるくらいに美しいのですが、自然にはやはり敵わないと私は思います。

 こんにちは、水綺ゆらです。
 宙ちゃん、可愛いですよね!
 自分が預かっている子ではあるのですが、あの明るく真っ直ぐな姿には描写しているはずの私も励まされることがあります。
 あの子の『れっつ、ぽじてぃぶしんきんぐです!』はなんだか魔法の言葉にも感じます。
 さて、男同士の会話って個人的に書いてて楽しいなと感じる場面のひとつでもあります。
 星空の種子島での一コマ、いかがでしたでしょうか?
 お気に召していただけたら幸いです。それでは、ご発注ありがとうございました!
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
水綺ゆら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年06月10日

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