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『夜戦幕間 』
小田切ルビィja0841)&ファーフナーjb7826

 鋼が奔る。
「カァッ!!」
 猫頭の侍が和弓を放り捨て、抜刀ざまに切っ先諸刃の日本刀を閃かせた。
 奇声をあげながら風を巻く逆袈裟一閃、翻って唐竹割り、対する小田切ルビィ、咄嗟に身を後退させる。一閃が鼻先をかすめて抜け、間髪入れずに迫る振り下ろしの刃に向かい、ツヴァイハンダーのリカッソを掴み、担ぐように振り上げる。
 鋼と鋼が激突し、鈍い衝撃と共に火花を巻き起こしながら猫侍の曲刀が斜横に流れゆく。
 銀髪の青年は防御の為に振り上げた動作をそのまま攻撃の予備動作に転ずると、身を捻りながら剣を渾身の力で打ち下ろした。鋼の刃が猫侍の頭部に喰い込み、鈍い手応えが腕に伝わり、諸々を切断しながら刃が抜けて爆砕する。
 瞬間、横手から殺気が吹きつけてきた。
 咄嗟に振り向くと、虎頭の獣人が踏み込んできていた。豪腕が唸りをあげて顔面に迫る。
 直後、不可視の鉄槌に殴られでもしたかのように虎頭人の頭部が爆砕されて吹き飛んだ。獣人の腕が空を切り、その巨体がルビィの脇を前のめりに泳いで倒れてゆく。
「――やはり、敵の戦力が厚いな」
 声のした方へと視線をやると、そこには黄金のハルベルトを振り抜いた態勢のファーフナーが立っていた。
 おそらく、幽鬼の矢を飛ばしたのだろう。
 あの闇の矢は、目に見えない。
「サンキュー――あちらさんとしても抜かせる訳にはいかねーんだろうよ。場所さえ解ればこっちは大動員令を発令できるからな」
「なに、良い所を貰ったのさ――こちらとしては早く敵拠点の位置を掴みたい所だが……さしもの西園寺も攻めあぐねているようだな」
 ファーフナーは斧槍を消し虚空から銃を出現させて手に取ると言った。
「長期戦になるやもしれん」


 ファーフナーの予想はあたった。
 小田切ルビィとファーフナーら久遠ヶ原学園の撃退士達は、静岡DOGと共同戦線を張り、冥魔の軍団に対抗していたが、互いの戦力は拮抗しており、一進一退の攻防からやがて互いに守りに有利な堅所を占有しての睨み合いとなった。
 自然、戦火も小休止となった山岳地帯の夜。
「取材ぃ?」
「折角だからお話って奴を一つ伺いたいと思ってね。DOG顧問官・西園寺顕家の素顔に迫る! ってな」
 夜営時、ルビィは『このチャンスを見逃すなんざ、ジャーナリスト失格ってなモンよ!』とDOG側の部隊指揮官・西園寺顕家のもとへと突撃していた。
「そーいやお前さんは記者だったか。だがなぁ、DOGや戦況についてならとかく、俺個人の事なんざ聞いても書いても面白くもなんともねぇぞ?」
「いやいや、本人にとってはそうでも他人にとってはそうじゃない。知りたいって奴は結構いるもんだぜ?」
「そんなもんかねぇ……ま、その辺の機微は餅は餅屋か」
 壮年の男は言いつつ、布とパイプ製の床机に腰を降ろすとルビィとファーフナーにもそれを勧める。
「で、何が聞きたい?」
 西園寺はDOG顧問官としては取材には応じる姿勢らしく率直に尋ねてきた。
「それじゃまずは、生年月日、身長、体重、結婚歴の有無、趣味なんかを」
「生まれは1980年9月17日、身長は179で体重は直近は68キロだったな。嫁さんを貰った事はねぇ。趣味は……そうさな、掃除だ」
「へェ、随分と家庭的な趣味だな?」
「家を蝕むような頑固な汚れは落としとかんと気持ちよく暮らせねぇからな。チャレンジ・ジョなんちゃらならぬ、チャレンジ・デストロイ、って奴よ」
「チャレンジ・デストロイねぇ……」
 ルビィはちらりと西園寺の服装に目をやる。着崩されてやたらとくたびれた企業制服だ。あまり清掃や整頓に拘る男のそれには見えない。
 そして"掃除"とこの男が言うとそこはかとなく物騒な響がある。
 まぁ案外、普通に奇麗好きという可能性もあるかもしれなかったが。
「では次に、経歴とDOGに出向する事となった経緯を」
「久遠ヶ原撃退士養成学園卒後撃退庁に入庁、何年かして辞めて仲間連中で民間警備会社を設立。DOGへは、当時の撃退長が暗殺されてな、それで後継者をどうするかって時に、企業連をまとめてる爺さんに引っ張り出されて俺が撃退長に就いた。依頼を受けて一時的に代行って具合だな。富士のゲートが破壊されて一段落したんでお役御免の予定だったが、冥魔の影響もあって、顧問官として補佐に残っている」
 嘘ではないのだろう。だが、色々と詳細がすっとばされているような印象をファーフナーは受けた。
「……今後の目標は?」
「差しあたっては交戦中の冥魔の本拠地を叩き潰す事だな。最終的には地球から天魔の両軍を叩き出して停戦といきたいね」
 と抱負を語るものの、死んだ魚の目をした男は相変わらずだるそうな、やる気のなさそうな顔である。本心なのか適当なのか、適当なふりした本心なのか。
(……やっぱり、いまいち謎なオッサンだな……)
 一通りの質問を終えてみたものの小田切ルビィはやはりそのような感慨を抱く。
(西園寺顕家か――)
 ファーフナーの西園寺に対する印象は"やり手の男"だった。
 法に触れる行為も平然と為し、地獄を見てきたような昏い目をしながらも、苛烈な熱を隠し持っている。
――この男は、何故、戦っている?
 そんな事をふと思う。
 ファーフナー自身は強迫観念じみた思いに動かされて戦っている。では西園寺は?
 知りたいと思うが……直接それを問いかけるのは憚られる。
 野暮という奴だろう、と中年の男は思うのだ。
 だから、
「人が銃を手に取る理由はなんだと思う?」
 迂遠にそんな事を問いかけてみる。
「そりゃあ――……色々だろうさ」
 西園寺顕家は眉を顰めながらもふっと口元を綻ばせて笑った。
「結局、色々なんだろうよ。実際の所、本当にシンプルな式だけで戦ってる奴の方が珍しいんじゃないか? まぁ、俺の回りには"大義の残骸"だ、と抜かす奴が多いがな。連中は、自分が自分自身に対して納得できる存在である為に銃を手にするのさ。連中が納得できるのが、大義って奴なんだろう」
 大義の定義なんてのも人それぞれだがな、とそう答えた。


 思う。
 おそらく、彼等は人の世に定められた法や道徳ではなく、己自身で己に定めた法と道徳に則って戦っているのだろう。
 だから、人の世に一般に定められているそれらが、己の考えるそれらと反する時、一般的なそれらを平気で破るのだ。
 人を殺してはいけませんと世は言うが、彼等は時と場合によっては容赦なく殺す。和のみを以って尊ばない。
 だから、若くして撃退庁の室長になりながらもそれを辞した。撃退庁が採れる手段は概ね一般的な正義道徳の概念に縛られる故に。
(だから、己達の会社を建てた――)
 ファーフナーはそのように思考を巡らせつつ、タマネギを大振りのナイフでトントントンと刻んでいた。
 思う。
(……何故、俺は玉葱など刻んでいるのだろうか……?)
 それは無論、
『レーションなんて味気ないぜ! こーゆー時はカレーライスだろ?』
 と小田切ルビィが言い出したからである。
「火ぃつけると煙で目立つんだがなぁ」
「どうせ位置なんざモロバレになってんだし、今の状況なら構わねェだろ」
「まーそーだがよ」
 調理しながら西園寺と言い合っているルビィを眺めながらファーフナーは思う。小田切ルビィという男は不思議な男だと。
 その行動力、溢れる生命力は己とは正反対だ。
 しかし、その輝きに惹かれると共に、仮面を剥がされる恐怖も抱く所でもある。トラウマが刺激される。
「こういう時はカレーか……」
 渋みの深いハスキーヴォイスでファーフナーは呟いた。
 ファーフナーは食に関しては淡白で、栄養が摂れるなら何でも良かった。昔は違ったような気もしたが、生への執着が薄れると共にその辺りの記憶と感覚も薄れ、今は闇色の夢幻の彼方だ。
「米を上手く煮るコツは火力の調節にありってな……!」
 飯盒と格闘しているルビィの姿を見やり、この男はなんでも楽しもうとするな、とファーフナーは感心ともいえる感慨を抱くのだった。


「完成だぜ!」
「うーす」
 湯気立つ鍋が開かれ、飯盒から容器に炊き立ての米とカレーが盛られてゆく。
「味はどうだ?」
「……おう、カレーだな。普通に野戦のカレーだ。身体は温まる」
「手厳しいな」
「世辞が嫌いな性分でな、って撮るのかよ」
「こーいう風景も記事に使えるモンなんだぜ」
 ニヤリと笑ってルビィが西園寺がカレーを食べている姿をカメラに納めてゆく。
 ファーフナーはそんな光景を見やりつつカレーを口に運んでゆくのだった。


 弛緩した空気が広がっていたが、しかし、歴戦の撃退士達が周囲への警戒を怠る事はなかった。
 ファーフナーもその一人で、食後、銃の手入れをしながらも油断なく山林の闇の彼方に目を配っている。
「何時ごろまた動くと思う?」
 ルビィは木の幹に背を預けつつ、屈強な中年の男へと声を投げた。
 ファーフナーもまた謎に包まれた男だ、と小田切ルビィは思う。
 背中を預けられる戦友ではある。
 だが、その過去の深い所は謎に包まれている。
 ルビィは一度、興味を持ち調査をした事もあったのだが十分な成果は得られなかった。何処まで踏み込んで良いものか分からず、調査に迷いがあるのも確かだったが――
「夜討ち朝駆け……夜に来ないなら明け方か。もっとも、互いに援軍を待っていて、それが到着するまではこのままずっと動かないのかもしれんな」
「ヨハナは待ちかもな。だが、西園寺の性格なら動く気がする」
「なら、明け方だな。闇は悪魔に味方する」
「今のうちに一眠りしとくと良いぜ。俺は夜更かしには慣れてる、記事の締切との戦いでな」
「……ここは若いのの言葉に甘えるとするか。三時間眠る。三時間後に交代だ」
「了解」
 かくてファーフナーは銃を抱いて木の根元で幹に背を預け目を瞑る。
 ルビィは夜の山林の闇を赤い瞳で見据えていた。
 人々の声も小さくなり、静寂のもと、夜は次第に更けていった。



 了




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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整理番号 / PC名 / 性別 / 外見年齢 / ジョブ
ja0841 / 小田切ルビィ / 男 / 19 / ルインズブレイド
jb7826 / ファーフナー / 男 / 52 / インフィルトレイター
― / 西園寺顕家 / 男 / 34 / インフィルトレイター

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、こちらこそ大変お世話になっております。いえ、そんな、お気持ちだけで十分でございます。謝罪なされるような事ではありません。
 実は最近になってようやく知りました。解らないものですね……! Eで初めてプレイング拝見した時に、あ、この人WTに慣れてるな、古くからやってる人なのかな? とかは思ったのを覚えているのですが、解らなんだ。
 CTSの方でも大変大変お世話になりました。毎度ご愛顧いただき有難うございます。
 有難うございます。執筆、これからも頑張ります。
 内容の方ですが、以上のような具合で、面白くできていたら良いな、と思うのですが、ご満足いただける内容になっていましたら幸いです。
水の月ノベル -
望月誠司 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年06月10日

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