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『高みを飛ぶ黒猫 』
珠々(ia5322)
 理穴国は首都、奏生の閑静な住宅街の中に上原家という貴族の家がある。
 現在の上原家当主には二人の子供がいる。上の子は養女であり、下の子は実子。
 今、問題を抱えているのは上の子の事。
 娘の昔なじみの青年が挑発のような告白をし、妙な恋バトルが始まってしまう。
 結果は珠々を振り向かせることに成功した。

 現在、珠々は花嫁修業をしようと心に決めたのだが、出鼻をくじかれ、項垂れていた。

●四半刻前
「おかあさん、私に花嫁修業をつけてください!」
 非番の母である麻貴に珠々が決意を秘めて叫ぶ。
「礼儀作法や料理か? 出来てるじゃないか」
「え、上原家の独特な何か……」
 上原家は武芸や諜報活動に長けた家、それに準じた修行があると信じていた珠々だが、麻貴の様子は淡々としていた。
「上原家は理穴監察方に深く関わる家だ。お前は監察方で幾多の仕事をしてきたんだ。やることは全て網羅しているが……」
 ふむと考える麻貴に珠々はきらきらと目を輝かせて期待を寄せる。
「旦那様となる相手へ敬意を持つ事だ」
 珠々はがっくり肩を落とした。

●現在
 まだ昼前なのに縁側で黄昏ている珠々の隣に麻貴が座る。
「珠々は、最近あの子の顔見たか?」
「顔ですか?」
「そう、どんな顔をしてた? 笑ってたか? むすっとしていたか?」
 麻貴の言葉を聞きつつ、珠々は記憶を辿る。
 会ったのは確か、二日前の上原家。
 彼は確か、監察方の仕事の関係で役所に缶詰。
 着替えを取りに行っていた。
 現在は追ってる仕事が大詰めとなっていて、四組の半数が泊り込みをしていると聞いていた。
 人手が足りないというわけではなく、開拓者の手を借りるまでもないという事で収まっていたはず。
 という話を後で麻貴から聞いていた。
 珠々自体、つっけんどんに「いってらっしゃい」と突き出した覚えはあったが、彼がどんな表情をしていたかはというと……
「覚えてません……」
 だってだって、声を聞くだけでも緊張してしまうのに!
「顔を見たら、今度こそ心臓が破裂してしまうかもしれません……」
 しゅんとする珠々に麻貴はくすっと、微笑んでしまう。
 珠々の様子はまさしくと思ってしまうからだ。
 好きな相手、気になる相手の前では差はあれど胸は高鳴るもの。
 顔を見れば、固まってしまうのも無理はない。
 俯いていた珠々だが、思い出したように顔を上げる。
「おかあさんはおとうさんに対してどきどきしましたか!」
「勿論だ」
 即答する麻貴に珠々は「そうなのですか」と何故か戸惑ったような表情を見せた。
 珠々からにしてみれば、両親は昔から一緒にいたし、自分が出会った頃から乙女らしい様子をおとうさんに対して見せなかったような気がする。
「そういう反応は希薄でな」
 くすくす笑う麻貴はふっと、何かを思いついたように一人頷く。
「珠々、花嫁修業がしたいと言ってたな」
「はい?」
 疑問交じりの珠々の返答に麻貴はにんまりと笑みを浮かべている。
 すごく嫌な予感がする。
 シノビの勘だけじゃない。
 娘の勘。

「弁当作って差し入れにいけ。監察方の誰一人として見つからず」

「お、おとうさんにもさしい……」
「そんなわけあるか」
 色んな意味で情け容赦なく切り捨てた母の言葉に珠々は往年の叫び声を上げて逃げようとするも、するりと麻貴の手に襟を掴まれて、物理的に台所へと引きずられる。

 正直な話、珠々は花嫁修業云々の前から料理をきちんと勉強しており、味も料理上手の伯母から誉められるほどの上達ぶり。
 しかし、現在、台所で珠々は項垂れている。
 相手の好きなものを確認していなかったのだ。
 告白と言うか、挑発を受けてから半年ほど、尾行して回ってが、何が好きな食べ物なのかは確認していなかった。
 その日何を食べていたのかは覚えている。
 統計を取って、何が好きか割り出そうとしたが、結構ばらばらであってあてにならなかった。
「一生の……不覚です」
 乙女としてか、シノビとしてだろうか。
 何を作ればいいのか考えあぐねた珠々はおばあさまの言葉を思い出した。

 恋とは御節のようなもの。

 一人の為に色んな想いを胸に秘めることから珠々に伝えた祖母の言葉。
「決めました!」
 珠々はぐっと握りこぶしを作り、叫んだ。
 善は急げ。まずは煮物の用意。
 
 出来上がった差し入れ弁当は綺麗にお重につめており、握り飯の用意も出来ている。
 おかずは日持ちするような物を詰めているので、痛みは大丈夫だろうと珠々はこればかりは祈るのみだ。
 本気の潜入の為、珠々は着物姿からシノビとして動く時の服装へと変える。
 誰にも見られてはいけないと言われているし、見る面を変えれば、他の人に見られて茶化されるような事がないのだ。
 成功すればの話であるが。
 そう考えると、目標は弁当を渡す相手だけを考えればいいので、少しだけ珠々の緊張が緩む。
「珠々、いい事を教えてやろう」
「はい?」
 出発前、麻貴が珠々を引き止める。
「この『修行』はな、上原のおばあさまの鍛錬の一環だったそうだ」
「上原のおばあさまの?」
 おとうさんのお母さんである上原のおばあさまもまた、シノビであり、現在もその辺の開拓者にも腕は衰えてないという。
「上原のおじいさまに会う為に、差し入れをこさえてはせっせと会いに行っていたそうだよ。恋敵も多かったというし、中々会えない人だから」
「……ぷれいぼーいなのはしってます」
 正直な話、今でも愛人がいるんじゃないかという話だが、珠々の中では今でも謎の人である。
「上原のおばあさまも、やっぱりすきだったんですね」
「なんというか、あの方の妻だからな。さ、逢瀬の時間を楽しんでおいで」
 話を変えて、麻貴が送り出そうとするなり、珠々は顔を赤らめてしまう。
「が、頑張ってきます!」
 逃げダッシュで珠々は上原家を後にした。

 外はもう夕暮れ時であり、勤め帰りのお父さんや遊んだ帰りの子供が次々と帰宅していく姿が見られていく。
 幼少期は「親が待つ帰る家」に憧憬を抱く事が多かったが、家が出来た珠々はもうその感情とはおさらばした。
 珠々はもう、上原家の娘なのだから、羨ましく思うことなどはない。
 ふと、自分もそういう家を持つのだろうか。
 妻として、母となるのだろうか。
 漠然とした未来に珠々は足元が揺らいでしまうような気がする。
 彼はどう思っているのだろうか、訊いてみたくなった。
 会えば、何とかなるのではないかと、漠然としているのにとても自信がある。


 理穴監察方は理穴国の中枢の城の一角に構えている。
 夜になると、そば屋の屋台が監察方の出入り口に近いところに出てくるのは今でも同じ。
 珠々は、監察方の者達に気づかれないように潜入を試みた。
 おとうさんがいなかったら正直な話、楽勝である。
 他にも腕利きのシノビがいるからどうなるかわからない。
 麻貴は見られるなといったのだ。勘付かれるなとは言われてないので、いけると珠々は確信した。
 まずは主席が居るかどうかの確認だが、現在は居なかく、珠々は安堵する。
 四組の大部屋に行けば目標の姿はない。
 待つしかないと珠々は息を顰めて誰もいない五組の部屋の隅で隠れていた。
 五組は事務方の部屋であり、現在は麻貴の仕事部屋。
 基本的には締め日近辺でない限りは夜まで人は残らない。
 超越聴覚を展開している珠々の耳に四組の声が聞こえてくる。
 今の所、非常事態はないようだが、いつ何が起こるかわからない状態でもあるようだ。
 何人かが潜入捜査をしていて、その報告まちである。
 手伝いたい気持を抑え、珠々はじっと、帰還を待っていた。
 外からため息を訊いた珠々は、目標が帰ってきたと悟る。
 窓を開けて中へ引きずり込もうとすると、目が合った。

 あ……。

 声が出なかった自分を誉めようと思った珠々だが、当人はするりと中に入り、逆に珠々の目と口を手で塞いで隠れてしまう。
 外では彼を呼ぶ声がする。
 先に中に入ったと思った今日の相棒は中へと入った。
「……見えません」
「夜襲をかけようとしたし、大きな声だと聞こえるでしょ」
 耳元で呟かれる言葉に珠々は否応なく恥ずかしくて仕方ない。
 今、この場を見られるわけには行かず、珠々は黙る。
「こんな時間にどうかしたの?」
「差し入れです」
 またしても抱きかかえられてしまった珠々はなすがまま、重箱を置く。
「主席に?」
「あなたにです」
 またつっけんどんな言い方をしてしまい、珠々は少したじろぐ。
「嬉しい……」
 ぎゅっと抱きしめるのはいいが、視界を開放してほしいと珠々は思う。やたらと声が響くのだ。
 身体の芯まで。
 というか、本当に心臓が爆発してしまいそうである。
「珠々……会いたかった……」
 耳元で呟かれる吐息交じりの声に珠々はもう限界だ。
「さっさと仕事終えてくるのです!」
 思いっきり叫ぶやいなや、珠々は奥義・天津風を発動させて外へと逃げる。
 顔から温泉が湧き出そうなくらい珠々の顔は熱い。
 その辺の井戸に顔をぶち込みたいくらいだ。
 確認したが、とりあえずは誰にも見られていないはずなので、麻貴の課題は及第点。

 しかし、そのやり取りがシノビの者達に聞かれている事を珠々は失念していた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名  / 性別 / 職業】
【ia5322  / 珠々   / 女  / シノビ】
【iz0048  / 羽柴麻貴   / 女  / 弓術士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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鷹羽柊架です。
上原家の花嫁修業(?)との事ですが、珠々さんは見事にクリアしていると存じます。
更なる高みを目指す珠々さんの姿が楽しみです。
この度はご発注ありがとうございました。
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舵天照 -DTS-
2015年06月12日

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