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『君に想う、あなたに願う 』
ティーア・ズィルバーンka0122

 薄闇に溶け込む神殿。それ以外は何もなく、頭上には薄闇を照らす薄三日月が1つあるだけ。
 ここは帝国領の片隅にひっそりと存在する忘れ去られた地。
 いつ、誰が、何の目的で建てたのかはわからない不浄の地には、歪虚の出没例が複数寄せられている。
「薄気味悪い場所だな」
 そう零すのはハンターズソサエティより派遣されたティーア・ズィルバーン(ka0122)だ。
 彼もまた、不浄の地に出没する歪虚を退治する為にこの地を訪れた。
(確か討伐対象は狼型の歪虚3体だったか……それにしちゃぁ、嫌な気配がプンプンしてるな)
 肌を襲う負の気配。もしかしたら前の歪虚の残り香でもあるのかもしれない。
 何にせよ今回の依頼は難易度が「普通」に設定されていた。故に自分ともう1人いれば事足りると思ったのだが、少しばかり甘く見過ぎたか。
「シェリア、大丈夫か?」
 そう振り返ったティーアに、後方を歩いていたシェリア・プラティーン(ka1801)の足が止まった。そして面食らったように数度目を瞬き、頷く。
「え……ええ……大丈夫ですわ」
 ぎこちなく微笑む姿に眉が寄る。
 けれど疑問を口にしている暇はなかった。
「――おいでなすったか!」
 神殿の門は閉ざされたままだ。けれど奴らは闇に紛れて遣って来た。
「シェリア、今回も頼むぜ!」
 勢いよく飛び出して帯刀する日本刀に手を添える。そうして抜き取った刃が、光を纏って弧を描いた。

 キュァァアアッ!

 甲高い声を上げて1体の狼が倒れ込む。
 背と足にトンボのような羽を持ち、鋭い牙を上下に覗かせる狼は、倒れても尚、ティーアを獲物として捕らる。
 這い上がり、身を捩って迫る姿はまさに異常。そもそも何故ここに歪虚が集まるのか。そしてこの歪虚は何者なのか。
(考えるのは後だ……今はコイツを始末する!)
 最初の一太刀から戻る刃を引き寄せて、勢いを削ることなくもう一歩を踏み出す。そうすることで生まれる新たな太刀に狼の目が光った。
「往生際が悪いっ!」
 ザッ。と大地を踏む音が響き、光の刃が狼の胴を裂く。これにより1体目の歪虚が崩れ落ちる。
「こんなもんか……これなら楽勝――……っ、シェリアッ! あぶねぇ!!」
 叫ぶと同時に踏み出し、呆然とするシェリアを突き飛ばす。そうして彼女が安全地帯に押されたのを見ると、ティーアは再び刃を構えた。
 だが咄嗟の行動が上手くいくとは限らない。
「っ、……しくじったか……」
「ティーア!」
「大丈夫だ。それより、シェリアの方は大丈夫か?」
 ティーアはシェリアを攻めなかった。
 それどころか優しい笑みを浮かべて彼女のことを気遣っている。その優しさに彼女の目が落ちた時、大地に滴る赤い雫に気付いた。
「ティーア……腕が……」
 1つ、また1つと腕から滴り落ちる血液。大地を塗らし、彼の手を濡らすそれに、対峙する歪虚の唸り声が大きくなる。
「ご……ゴメンなさい……私のせいで……」
「気にするな。それより、立てるか?」
 ゆっくりと足を後退させながらシェリアに近付く。
 見た所、彼女には傷1つ付いていないようだ。突き飛ばしたことで服は汚れているが、それくらいなら問題ない。
「まったく、調子が悪いならそう言えよ」
 言って少し笑う姿に、シェリアの目に薄らと涙が浮かんだ。けれど泣いている暇がないのは一目瞭然。今はこの状況を如何にしてクリアするかが問題だ。
「俺が奴らを惹き付ける。その隙にシェリアは逃」
「嫌」
 間髪入れずに、いや、むしろ言葉を遮って発せられた声にティーアの目が見開かれる。
「私の不注意でこの様な事態になったのです。私だけが逃げるなんて、そんなこと許されるはずがありませんわ!」
「許す許さないの問題じゃないだろ! 調子が悪いなら大人しく守られてろって言ってるんだ!」
「嫌ですわ!」
「何でだよ!」
 調子が悪いのは先の様子を見て明らかだ。
 なのに頑なに守られることを拒否する意味が分からない。
「そんなに俺に守られるのが嫌なのか! だから返事も――」
「だって私は先日の事が頭から離れなくて……それで戦闘に集中出来なくて! 結婚だなんて私にはまだ早すぎますわ!」
「は?」
 沸点まで到達した怒りも今の言葉で一気に下がってしまった。
 シェリアは今なんと言った?
(この間の事が頭から離れなくて戦闘に集中出来なかった? 結婚?)
 そこまで考えてカァッと頬が熱くなった。
「ばっ! 馬鹿、結婚って……アレはそういう意味じゃなくて」
「え……違う、の……?」
 まさかあの時の言葉はからかう為の戯言だったのだろうか。そうシェリアが思った時、今まで空気を読んでいた歪虚が動いた。
「チッ! 話は後だ。コイツらを倒すぞ!」
 片腕は負傷したまま。それでも片手で刀を扱う事は出来る。
 ティーアは間合いに飛び込んで来た歪虚の胴を蹴り上げると、バク宙を披露して反対から迫る歪虚の懐に飛び込んだ。
「そっちは任せたぞ」
 戦闘に集中できない理由がわかればなんてことはない。ティーアはシェリアに背中を任せると、懐に納めた歪虚に向けて刃を突き入れた。

 ギィァァアアアッ!

 目を見開き、硬直して堕ちる体から刃を引き抜いて露を払う。そして後方を振り返ると、シェリアの持つ聖剣が光を帯びるのが見えた。
「――白金の名の下に!」
 清浄な声と共に振り下ろされた光の武器。それが歪虚の体を両断すると、ティーアは少しだけ肩の力を抜いて刀を鞘に戻した。

   ***

『俺と一緒になる気はないか?』
 ティーアはシェリアに桜の木の下でそう告げて眠りに落ちた。
 まるで寝言のように囁かれたその言葉に、シェリアは心を乱し、今の今まで悩んでいた。
 それこそ彼との戦闘に集中できないくらい。
「あの言葉は冗談だったのですね……」
 そう零すシェリアの表情が酷く寂し気だ。
 彼女はティーアの腕に包帯を巻きながら、戦闘の最中に彼が口にした言葉を思い返していた。
『そういう意味じゃない』
 そう放たれて消えた言葉。
 あの言葉の真意を聞くことは出来ていない。そもそも言葉を受けて「残念」と思う自分がいることに、シェリアはまだ戸惑っていた。
(私、とても落ち込んでいるわ……ティーアの言葉が冗談だったとわかってこんなに落ち込むだなんて……)
 そこまで思って息を吐く。
 この思考の先にあるのは、甘く切ない想い。
 きっと前から自覚していたのだろう。それこそ彼からの言葉をもらう前――桜の木の下で言葉を交わしている時、まるで恋人同士みたいだと、そう思った時から。
(あの時もらった言葉は嫌じゃなかった……むしろ嬉しくて……だから……っ)
「いてっ!」
 ギュッと手を握り締めた拍子に掴んだ腕。それに反射的に手を放すと、ティーアの手がシェリアの手を掴んだ。
「さっきから何考えてる。それに勝手に冗談って決めつけてるようだが?」
「あ……」
 覗きこむ瞳に心臓が高鳴る。
 ドクドクと鼓膜を叩く音が煩くて、思わず目を瞑って俯く。けれどそれをティーアの腕が引き戻した。
「さっきの続き、良いか?」
 掴んだ手が腕を滑り、そのまま肩を過ぎて頬を撫でる。そうして引き寄せられると、シェリアの目は逃げ場を失った。
「誤解させて……悩ませて悪かった。あれは結婚じゃなく、恋人になろうって意味だったんだよ」
「こいびと……?」
 ドクンッ。と再び心臓が脈打つ。
 その音に息を呑むと、ティーアは確かに頷いた。
「あぁ、恋人だ……改めて、俺の彼女になってくれるか?」
 甘く、優しさを含む声に、シェリアの目頭や頬が熱くなる。けれど素直に頷く事は出来なかった。
「私、ティーアを危険な目に合せましたわ。それにあなたはいつか――!」
 チュッ。と鼻先に触れた感触に目が見開かれた。
「誤解させたのは俺の責任だし、惚れた女を守るのに体を張らないわけないだろ」
 違うか? そう伺う視線に「バカ」と小さな声が漏れた。その上で囁く。
「1つだけ、約束して欲しいんですの。決して私を置いて一人で何処かに行かないと……」
 心の奥底にあった不安。
 それが彼との遣り取りで見えた。
(私はティーアがリアルブルーに帰ってしまうのが怖いのですわ……彼がいつか帰った時、1人になってしまうのが怖い……)
 けれどそんな不安を吹き飛ばすように、彼は狂おしい程に優しい瞳で頷いた。
「……わかった」
 そう囁きを添えて、頬を引き寄せる。
 その仕草にシェリアの瞼が落ちた。
「……不束者ですが宜しくお願い致しますわ」
 まるで誓いの口付けを交わすように重なった唇。その感触を確かめるように幾度となく交わされる約束を、忘れられた地の神殿が、静かに見守っていた。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka0122 / ティーア・ズィルバーン / 男 / 22 / 人間(リアルブルー)・疾影士 】
【 ka1801 / シェリア・プラティーン / 女 / 19 / 人間(クリムゾンウェスト)・聖導士 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
かなり自由に書かせて頂きましたが如何でしたでしょうか。
もし何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2015年06月15日

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