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『〜円形自動掃除機はショタパラダイスの幻(ゆめ)を見るか〜 』
恒河沙 那由汰jb6459)&尼ケ辻 夏藍jb4509)&百目鬼 揺籠jb8361)&錣羽 廸jb8766)&八鳥 羽釦jb8767



 その日は、朝からなんとなく嫌な感じがしていた。


「なんて顔してんですかねぇ」
 学園。とある朽ち果てた神社。 
 最高に不機嫌そうな顔で、神域を外れた外庭に何かを埋め終えた恒河沙 那由汰(jb6459)に、丁度やって来た百目鬼 揺籠(jb8361)が声をかけた。手に持った煙管がゆらりと揺れる。
 見返す瞳の虚無の色。気怠げな気配がいつもより濃い相手に、こんもりとした埋め跡へと視線を流して揺籠は目を細める。
「皆まで問いやしませんが、まぁ、自然の摂理ってやつでしょうよ」
「……分かってらぁ……だいたい、そんな顔してねぇ……」
 心もち尻尾も獣耳も萎れたまま、あいも変わらず憮然としたその様子に、揺籠は(どの口が言いまさぁ)と心の中で独白した。流石に口にはしなかったが。
「……たった半日だっていうのによ……」
 ふいにぽつりと那由汰が零す。
「ちっと放っておいたら、ああなっちまうんだな……」
「最期は看取ってやったんですかぃ?」
「……ああ」
 頷き、那由汰はいつも以上に生気の無い目で呟いた。
「白いのに…覆われてやがった……」
 揺籠は一度口を噤む。
 ややあって、嘆息と同時、那由汰の背を叩いた。
「失っちまったもんはしょうがねぇでさ。ほら、手ぇ洗ってついて来なせぇ。美味しい稲荷を馳走してあげまさぁ」
「…ってぇな」
 稲荷、と聞いて心もち耳をピンとさせ、那由汰がのろのろと気怠げな動きで家へ向かいだした。やや気持ちが上向いた相手の背を見送りつつ、揺籠はふと声をかける。
「墓には名を入れねぇんで?」
「?」
 一瞬、死んだ魚のような目に怪訝な色を浮かべてから、那由汰は揺籠に鼻を鳴らした。
「いらねぇよ」
 名前をつける間もなかったのかと、揺籠は綺麗な察し方をする。押し黙った揺籠を置いて、歩きながら那由汰はぼやくようにして呟いた。
「……そんなんじゃねぇしな…」


 ちなみに、埋められしものの名は『行列の出来る店の稲荷寿司』である。





 旅館【静御前】は、現世に在りし妖怪達の集う場所だった。
 今でこそ天魔と称されているが、古より日本ではやはり天使や悪魔というより『もののけ』と呼びならわすほうがしっくりくる。とはいえ、おどろおどろしい雰囲気は此処にはなく、むしろ郷愁めいた懐かしさを感じさせるのが【静御前】という場所の不思議だろうか。
 そんな旅館の一角、ふと聞こえてきた声に、尼ケ辻 夏藍(jb4509)はしょぼしょぼと目を開けた。

「……いつものヤツなんじゃねーか……」

(?)
 声は遠いような近いような。
 玄関だろうか、と閉ざしたままの襖を見やるも、起きて見に行こうという気は左程無い。のんびりダラダラ…もとい充電するというのは安寧に揺蕩うということでつまりお布団ジャスティス。
 だというのに――

「なんです。せっかくの稲荷にケチつけるんですか。返答次第ではてめーには一つたりともあげませんぜ!」

(……)
 次いで聞こえてきた問答に、ゆらりと体を起こした。欠伸交じりに簡単に衣服の乱れを整え、襖を開けるとより声がはっきり聞こえだす。

「……別に悪ぃとも言ってねぇ……」

 同じ頃、厨房にいた錣羽 廸(jb8766)もその声に顔を上げた。
「……ん、帰ってきた」
「ああ? ったく、早々喧しいな」
 作り終えた稲荷を重箱に詰めていた八鳥 羽釦(jb8767)が鼻を鳴らす。どう見ても極道の二代目みたいな風貌なのに、割烹着が妙にしっくり似合っていた。
「稲荷、ごちそうさま」
「おう。食べつくされる前でよかったな」
「迎え、行ってくる」
 淡く笑んで廊下に出る廸にニッと口角を上げてみせ、羽釦は作業に戻る。
 廊下に出てすぐ踏みそうになった円形自動掃除機にドキドキしつつ、廸は玄関へと目を向けた。
 面倒そうにあがって来るのは那由汰だ。鼻から息を吐き、揺籠が次いであがってくる。
(……うん。相変わらず、仲良いよな)
 本人達が聞いたらどう言うかは疑問だが。
 そんな廸の前で、先程の円形自動掃除機が、揺籠の足元にすり寄るようにして玄関に到着する。
「お迎えに来たんですかぃ。いつもお疲れ様ですぜ」
 揺籠、流れるような自然さで機械の前にしゃがみ込み、慣れた手つきでせっせと餅入り最中を千切りだした。
「……何やってやがる……」
「何って、ペットに餌やんのは当たり前でしょうよ」
「……ん、お帰り」
 白い目の那由汰に真顔で揺籠が答えるのを見ながら、廸は二人を出迎える。
(餅入り……大丈夫、かな)
「ただいまですよ。留守中変わりねぇでしたか」
「ん。いつも通り」
 ぽつぽつと言葉を零すような声は鷹揚に乏しいが、穏やかな目元が淡々とした印象に柔らかな色を添えている。そんな廸に揺籠がニッと笑ったところで、那由汰が「……おい……」と微妙にトーンの違う声をあげた。
「なんですかい」
「……故障したんじゃねぇのか……?」
 視線の先を見やれば、痙攣じみた動きをする一台の円形自動掃除機が。

 …ぶ…
 …ぶすぶす……

「!!??! 食あたりですかい!?」
「……いや、違ぇだろ……」
「……ん、どう見ても故障かな」

 …ご…ごべ…
 ……ごぶふぉぉ……

「……煙あがってんじゃねぇか……」
「ハッ……まさか、ついに、付喪神として、蛤への進化が!」
「しねぇな!?」
「……進化どころの話じゃないような?」
 天啓を得たように斜め上の発想に至る揺籠に、流石に突っ込まざるをえなかった那由汰とやや遠い目になる廸。その眼前で、円形自動掃除機が暴走した。

 ごぶふぉぉおおおお!!

「うわっ!?」
「煙、が」
「どこ行くんですかぃ!? 医者に診せに行かねぇで……!」
「医者どこだよ!?」

 猛煙をあげつつスピンをきかせて暴れる掃除機のおかげで周り中煙だらけ。
 そこへのんびりと廊下を渡ってきた夏藍が顔を覗かせた。
「なんだか騒がしいね。また百目鬼君…と恒河沙君か」

 ぼっふ。

 嗚呼、巻き込まれ。
「なんの騒ぎだ」
 そこへやって来たのは更なる犠牲者、もとい稲荷重箱片手にした割烹着チンピラ(訂正)羽釦。
「おい。いい歳して室内で花火とか周りの迷惑考えろ」
 充満している煙に顔を顰め、なんと、得体の知れない煙の中に自ら突っ込んだ。

「けほ……違う、これ、わざとじゃない。ん?」
「お前さんがやったんじゃねぇことは分かって… なんだ? サングラスが……」
「おれのぺっとがはらいたおこしたんでさ!」
「声高いな!?」
「なんだか、奇妙な感覚が……」
「あー! 稲荷の匂い!! どこ!? 俺、稲荷大好き!」
「「「「誰!?」」」」

 大騒動の中、円形自動掃除機が煙を吐き終えたせいか緩やかに視界が晴れてきた。
「くっそ。ひでぇ目にあった」
 何故か落ちてしまったサングラスを掴み――何故か妙に大きく感じるのが不思議だが――羽釦は顔を顰めて周囲を見渡した。

「……」

 ――なんということでしょう(アノ声)――
 御年七百とか五百とかの年齢なのに外見と精神が若者レベルだった妖怪達が――さらなる幼児化を遂げているではありませんか。
 ――自分も含めて。
「なんだこりゃ!?」
 思わず叫んだ。百八十に近い背は半分近く縮み、指の長いがっしりとした手も明らかに子供らしい丸みを帯びた小さいもの。衣服はズボンが完全にずり落ち、柄物のシャツがチュニックのように半分落ちかけ状態になっていた。
「うわあ」
 愕然と自分を見下ろす羽釦、もといはぼたんの前で、廸、もといじゃくもまた思わずフードをすっぽり被って小さくなる。ずり落ちてしまったズボンを引き上げようにも、あちこちぶかいせいでどうにもならない。動こうとして見事に裾を踏み、受け身をとる間もなくすっ転んだ。
「おや。視界が低いね…。さぁどうしたものか」
 驚き慌てる二人と対照的に、夏藍ことからんは冷静に己を点検した。和装に近い装いが功を奏してか、とりあえず、下肢こそ落ちてしまったが着物を整えればまぁそれなりに。体もずいぶん小さくなったが、五体満足だからまぁいいかな。
 ともあれ、ぶかぶかの服が動く度に脱げそうなのは、やはり気になると言えば気になるが。
「な、なんでこんなことになってんだよ……!?」
 なんだか口調まで変わってる気がするちみっこどーめきが、大慌てで戸の向こうに隠れようとして着物の裾を踏んで吹っ飛んだ。思いっきり着物がはだけて引き摺られていっているが、まぁ、うん。子供だから問題ないだろう。今は。
「危ねぇだろ。ちったぁ気ぃつけて動け」
 自身も裾を踏みそうな状態に顔を顰めつつ、男前なはぼたんとりあえず怪我の有無を確認する。うん、大丈夫。ちみっこくても天魔もとい妖怪。こんなことでは怪我しない。
「ったく。ろくでもねぇ状況だな」
 はぼたんは大仰に息を吐いた。
 一見して落ち着いているように見えるが、実の所そうでもない。なにせ中身もしっかり子供に戻っちゃっているのである。でも泣かない。はぼたん、強い子。
「何が起きたのかよく分からねぇが、とりあえず、重箱は無事――」
 置いた場所に検討をつけ、はぼたんは振り返ってとりあえず自分が持っていた重箱の無事を確認した。

 狐耳と尻尾のちびっこが重箱にかじりついてめっちゃ食ってた。

「うめえ! この稲荷うめえ!!」
「誰だよ」
 ぶかぶかの皮ジャンの下で尻尾わっさわっさしつつ、必死にもぐもぐしてる相手に、はぼたんは思わずツッこんだ。ぶかぶかジャンパーの下からちっちゃな足がぱたぱたしているのだが、おい、もしかして脱げたズボンどっか放置してきたな?
「ああ、ほら、喉につまらないように気をつけて」
「んがぐぐ」
「そんでなんで落ち着いてんだ、てめぇはよ……?」
 夢中になりすぎて喉に稲荷詰まらせてるなゆたの背をさするからんに、はぼたんは呆れた顔になった。じゃくはといえば大声にびくびくしながらどーめきと逆側の戸に隠れている。
 と、その背後からフィインと音を響かせて円形自動掃除機がやって来た。
「う…うわあああ……っ」
 ぼてっ。
「あ! なんだあれ! これ乗れるんじゃね?」
 つるっ。
「のったらかわいそうだよ…! ちいさいんだから…!」
 意識外からの接近にじゃくは飛び出し、稲荷片手になゆたが円形自動掃除機に飛び乗って足滑らせてひっくり返り、どーめきがきよらかなこころを発動させる。
「……いやほんと、てめぇら誰だよ……」
 怯えるじゃくをよしよしして稲荷を与えながら、はぼたんは遠い目になった。特にそこの二人。
「これはまた…面白いことになっているね」
 はんなりと笑うからんが一人傍観席だ。
 と思ったら、どーめきと目があった。自分達同様、ぶか服脱げかけのからんを見て目を剥く。
「おんなのこがそんなかっこう、いけないんだよ!」

 ぶちっ。

「ああ、小さくても騒がしいものだね。百も目があると口もその分喋るのかな」
「!?!? ええーっ!?」
 だますとはひきょうだよとか言われたがそもそも騙してないというか、気づけ!
「と、いうか……もしかして、誰か分からなくなっているのかな」
 しっかり同レベルで喧嘩して後、ふと気づいてからんは目を丸くした。おそらく、というか、絶対、なゆたも記憶が消えている。
 ……大人になるまでの間に、あの性格がアアなるような、何があったのか……
「ともあれ、これで合点がいったね。どおりでいつもと違うわけだ」
 明かにいつもと違いすぎる二人に、からんは納得して頷いた。
「う…大も小も変わらないって成長は…」
 逆にはぼたんに庇われつつ、円形自動掃除機への恐怖を克服できないじゃくが、ちょっぴり遠い目でしょんぼり稲荷もぐもぐ。その背をぽんぽんしつつ、はぼたんはため息をついた。
「よーし、てめぇらまずはちっと落ち着け。特にそこ二人」
 その声にじゃくはびしっと声に従い、からんに起こされたなゆたは円形自動掃除機と格闘しながら揃って目を向け、どーめきはサングラスで隠されてないはぼたんの華麗なピンクの瞳をじーと見つめた。
「見んなよ」
「おふ!?」
 どーめき。理不尽な腹パン。いやなんとなくしなきゃいけない気がしたから。
「ったく。まぁ一時的な現象みてぇなもんだろーが、後で恥かくのはてめぇらだろ。いっそ撮影しといてやるか」
 ため息一つ、どーめきにはとても扱えない文明の利器をセッティング。あっ、背がいつもと違うから棚が高い!
「…くっ…この」
「飛べばいいんじゃないかな」
 からんがぽつっとツッコミ。飛べるだろうか。あ、いけた。
「これでよし」
 後でよくない事態になるが、それはともかく。
「んでもってそこの百目鬼。張り合って稲荷食うな」
「もぐぐ!」
 早速後で見返したらきっと恥ずかしい姿をさらしてくれるどーめきに、はぼたんはあきれるやら感心するやら。
 とりあえず煙が消えていっているから、効果(?)切れたら元に戻るかなと思ったところで体が一瞬ムズッとした。
「あ?」
 手が一瞬ブレたような気もする。これはもしかして、もしかする?
「どうやら体が元に戻ろうとしてるみたいだね」
 からんの声にじゃくがパッと顔を上げた。やれやれと苦笑するはぼたんともども、安心したように息を吐く。
 だが、安心するのは早かった。
 なにしろ、脱げたズボン放置してるやつもいるうえ、体が元のサイズに戻るからといって、上手い具合に脱げかけの服を綺麗に装着する形で戻るわけもなく。
 つまり――
「せめて、稲荷全部食べてから!」
「おいこら、ちょこまかすんな。服着ておけ」
「まけねぇですぜ!」
「やれやれ。素直だけれど、小さい方が倍以上騒がしいね」
「……ん。少し、驚いた」
 重箱に飛びつくなゆたと、それを止める羽はぼたんと。言葉がちょっと元に戻ってきてるどーめきに、なんだかんだ寛いだ状態で服を整えることなく適当にぶかぶかのままいたからん、じゃくが一瞬で元に戻ったらどうなるかというと――
「まぁ、戻れるなら、今回の騒動も事なしで――」

 バリィッ!!

 つまり、
 ――こうなる。
「「「「「……。」」」」」
 声に被さるように、衝撃とともに、ハラリハラリ。
 千切れ引き裂かれた布が、神の采配的な効果で華麗に綺麗なバーストロスト。

 男五人、一瞬で、ほぼ全裸。

「「「「「……」」」」」

 得体の知れない沈黙だけが場に流れた。ちょっと神様も通ったかもしれない。
 誰が想像したこの光景。
 円形自動掃除機がウィンウィンがんばって千切れた服を収納していっている。
「そんなもの食べたらまた腹怖しやすぜ!?」
「そこ一番に言うことじゃねぇな!?」
「……どういうことだ……」
「……悪夢だね……」
「……う……うわぁあ……」
 何故か皆して足袋だけ残ってるのがいっそシュールというかまにあっく。とりあえず下着は無事だよよかったね!
 ついでに撮影は今もまわってる。
「どぉおおおめきぃいいいいいい!!!」
「俺の所為ですかぃ!?」
 どう考えても元凶な円形自動掃除機と服(の残骸)の取り合いっこをしていた揺籠に、さすがの羽釦もテクニカルな腹パン。
「俺も被害者じゃねぇですか!?」
「……それより、服」
「つーか、着替えに行くほうが先だろ……」
「待って。むしろ今騒ぐともれなく全員が危機的状況に――」
 あくまで冷静な夏藍が素晴らしく的確に指摘した瞬間、
「――!」
 彼等五人は知覚した。
 自分達を見る、旅館仲間の視線を。

「……おやまぁ。何事かと思いきや」

 そんな誰かの言葉をこれ程恐ろしい気持ちで聞くことがあろうとは。
 ぎこちない動きでふり仰いだ先に見た光景を彼等五人は忘れないであろう。


 円形自動掃除機は、彼等の大切なものを盗んで行ったようです。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb6459 / 恒河沙 那由汰 / 男 / 妖狐 】
【jb4509 / 尼ケ辻 夏藍 / 男 / 尼彦 】
【jb8361 / 百目鬼 揺籠 / 男 / 百々目鬼 】
【jb8766 / 錣羽 廸 / 男 / 夜雀 】
【jb8767 / 八鳥 羽釦 / 男 / 鳴釜 】
【??? / 円形自動掃除機 / ? / ??? 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご発注ありがとうございました。執筆担当の9318です。
蛤ならぬル…もとい円形自動掃除機(?)の見せた蜃気楼(?)
少しでもお楽しみいただければ幸いです。

■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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エリュシオン
2015年06月15日

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