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『両儀北斗の青春 』
羅喉丸(ia0347)


 ――がこん。
 重々しく扉が開くと同時に、部屋の中に光が差し込む。ひんやりした空気が解放されたように部屋を出て、二人の人影が長く部屋へと伸びていった。
 伸びた人影の一つは、両儀北斗。
 約70年前、大アヤカシたちと開拓者が激しく戦いを繰り広げたときに活躍した羅喉丸(ia0347)の残した両儀流の道場で心身を鍛えている若者である。
「師範……これが『開かずの間』ですか?」
 北斗、部屋の中を見回しつつ聞いた。
「実際には何度も開いておるがの」
 隣で両儀流の師範が答える。
 すでに開祖たる羅喉丸は天寿を全うしており、道場は羅喉丸の見込んだ者たちが跡を継いでいた。
「いえ、そうではなく……」
 北斗、部屋の特徴に気付き、師範を振り返った。
「武器庫……だったのですか?」
「そう。かつて開祖がアヤカシたちと激戦を繰り広げるため集め、鍛え、そして勝利と民からの信頼を重ねてきた武器、防具、補助具……それらがすべて、ここにまとめられていた」
 師範の言葉に改めて周りを見る。
 明らかにその数は膨大。いや、膨大だったはずだ。
 それが、ない。
 綺麗になくなっている。
「孤児も多く門下生として引き取った。おかげで資金は山のように必要となった。やがてあまり使い込まれていない剣を売り、出番のなかった防具を処分し……」
 もともと何かが置かれていたと思われる場所をしみじみ見つつ師範は続ける。
「それらはなくなったが、お主らは育った。そしてもう、売らなくてもいい。お主らが世に出て、稼いだ収入をいくらかずつでも寄せてくれている。……もう、売る必要はない。門下生のうれしい活躍の話が入ってくるばかりじゃ」
 そう言った師範は誇らしそうだ。北斗、深く頭を下げて伝えきれない思いを形にする。
「さりとて、すべて売り払ったわけではない。見よ……」
 師範、部屋の奥にある箱に近付くと鍵をあてがった。
 その時。



 ――どたん、がしゃ〜ん!
「何だ?!」
 北斗、突然遠くで響いた大きな音に振り返る。
「ホ、ホ、ホノカサキだあっ!」
「ここにも来おったのか? いかん、北斗。急いでついてくるのじゃ!」
 遠くからの声に引き返そうとした北斗を師範が止めた。武器庫の奥へと連れて行く。

 一方、道場。
「生命の輝きを示せ……」
 ――どこん。
「師範代が吹っ飛ばされただとっ!?」
 ホノカサキの不気味な姿が、両義流道場の真ん中にあった。人型はしているがのっそりと前屈みでノーガード。肌の色も赤かったり黒かったりとおよそ人として考えられない雰囲気を纏っていた。
 そして今、師範代が一対一で打ち負け大ダメージを食らっていた。壁に打ち付けられた師範代、うずくまって立てない。
「今の……」
「まさか今のは……」
 遠巻きに取り囲む弟子たちが思わず後ずさりしながら口々に呟いておののいていた。
 それもそのはず。
「今の技、我が流派のっ!」
「……真武両儀拳」
 誰かの呟きに、ホノカサキが答えた。
「ほかに極めた技はないのか?」
「そこまでだ」
 問うた言葉を道場入口に立った影が遮った。
 北斗である。
 先ほどとは違う、やや古びた衣装に着替えている。
「ホノカサキだな、覚悟!」
 弟子たちをこれ以上やられるわけにはいかない。北斗、一気に詰める。
 ぱん、ぱん、ぱんっとたちまち拳と蹴りの応酬が繰り広げられる。
「おお……」
 この基本的な正拳突き、受け、払いなどの動きは決して派手なものではない。
 それでいて、見詰める多くの若者たちの心を奪った。
 達人同士の組手である。
 派手さはなく地味ではあるが、一つ受けそびれば大きな威力を秘める攻撃と、それを寸分違わない力加減でいなし受ける。その洗練された動きが見る者を引き付けるのだ。
「ギルドからはまだ何もないか?」
「は、はい」
 師範はこの隙に門下生に聞く。使いはまだ来ないようだ。
「前にも戦ったな?」
 ぱん、とホノカサキが目の前で受けた時聞いて来た。
「ああ。決着をつけよう」
 自らの拳とガード越しにホノカサキを見詰め、北斗が返す。
「……生命の輝きを示せ」
「生命の輝きとは、何だ?」
 今度はホノカサキの「詩経黄天麟」。これを北斗、八極天陣でかわした。「おお、まるで開祖のようじゃ」と師範の声が背中越しに聞こえた。行き過ぎたホノカサキは一瞬気絶したように隙を作ったがすぐに回復。北斗は回避専念だったためこのチャンスを逃す。ホノカサキ、技の反動を一気に回復しているらしい。
「……到達点、そしてその先」
「なぜ、再び現れた?」
 振り向き不気味な表情で答えたホノカサキに、さらに問う。
 いや、北斗自身も気付いたのかもしれない。
 ホノカサキは、到達した先を求めているのだと。なれば、その欲望は果てがない。仮に不死の存在であるなら、何度でも欲望を満たそうとするだろう。そもそも、70年前も倒したのではなく、三種の神器の一つたる勾玉を利用し消滅させたと聞いている。
「歩み続ける足音が聞こえた」
「その時、どこにいた?」
 再び交わされる拳と拳。
「知らぬ。ただ、足音が聞こえた。……そして命の輝きのおぼろな光が見えた。それで目覚めたのかもしれぬ」
「ならば再び眠りにつくといい!」
 北斗、動いた。
「前とは違うぞ! 真武両儀拳!」
 開祖、羅喉丸の最高奥義「真武両儀拳」の三段攻撃がホノカサキの額、両鎖骨の付け根、肋骨の中心下部やや左寄りの心臓部を狙った!
「それが輝きか?」
 同時にホノカサキも「真武両儀拳」を放つ。すでに何度か食らい、己の技としている。
 ホノカサキは同じ技で倒すことはできないぞッ!
 ――ドガッ!
 後の証言によると、三段攻撃の同士討ちの炸裂音はたった一つだったという。その一つの音の間に、二人合計六発が、互いの急所にぶち込まれたのだ。
 どだん、と双方正反対に吹っ飛んでいた。
 やがてゆらりとホノカサキが立つ。ぼこりぼこりと体が歪んだのは、一瞬にして骨折などを回復させたからか。
 道場にいた一同は、一斉に反対を見た。これで北斗が立ち上がらなければ誰にも手の打ちようがない。
「……それでいい」
 北斗、ゆらりと立った。
 ダメージは食っているはずだが、笑っている。
 身に着けた龍袍「江湖」を撫でながら。
 籠手、金剛覇王拳を装着した指を確認するように閉じたり開いたりしながら。
「……馴染むか、北斗よ。開祖・羅喉丸の一番愛用していた、最強の防具と武具が」
 これを見た師範がそう漏らす。先の武器庫で、北斗にこの二つの装備を手渡していたのだ。
「愛用の武具だけは処分しないように。何かあった時、信頼できる直弟子に託してくれ」
 師範の瞳に、在りし日の羅喉丸の面影と声が浮かんだ。思わず熱い何かが頬を伝った。
 その時だった。
「ギルドから使い、来ました! 勾玉ですっ!」
 使いの道場生が三種の神器を北斗に投げた。
 これを受け取りそのまま包むように拳を固めた北斗、ホノカサキを見る。
「ならば見ろ! これがお前の望む輝きだっ!」
 北斗、動いた。
 決着の予感に、ホノカサキも動く。
 両雄、再び道場中央ッ!
「……示せ!」
 ホノカサキ、再び真武両儀拳。
 対する北斗は……。
「気力により、全ての技に含まれる真理に到達する事で……」
 一瞬、詩経黄天麟の構えを見せる。
 が、それはあくまで始動の型。
「一にして全、全にして一の境地へ……」
 ここから真武両儀拳。いや、それをも跳躍のための踏み台にしたッ!
 もちろん、これらはすべて一瞬。その一瞬を見極めたホノカサキの表情に驚きの色が生まれた。
 対する北斗、羅喉丸の愛用の装備から、羅喉丸の真骨頂であり激戦を支えてきた気力がみなぎってくるのを感じていた。
「これが羅喉丸の託した幻の奥義、『天動転結拳』!」
 その一撃、いや、三段攻撃は見た目に派手なものではなかった。
 それでいて、見る者の目を奪うほど美しく、威力に満ち、そして神々しかった。



「どうしても行くのか?」
 後日、師範が旅立とうとする北斗に聞いた。
 北斗、振り向く。
「はい。……ホノカサキを名乗る道場破りが天儀各地に現れる怪事件が起こっているようなので」
 確かに、ギルドからの報告はそうなっている。
 最初にホノカサキを勾玉の力を借り消滅させたとき、個の力に対し人間の絆の力を示したと聞いた。あるいは、再び現れたホノカサキは一体だけではないのかもしれない。
「事件がこれで止まっていればいいの」
「はい」
 北斗、旅路へと就く。
 ホノカサキを倒した時の感触を握りしめながら。
 あの日、幻の奥義を繰り出した直後に気絶した。
 ホノカサキは技を食らい、液状になって中央に収束するように北斗の拳――いや、勾玉に収束したという。
 ざ、と踏み締めた足。
 北斗、そういえば旅に出るのは初めてだと感じた。
 羅喉丸も、旅するように転戦していたことを思い出す。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ia0347/羅喉丸/男/22/泰拳士

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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羅喉丸 様

 いつもお世話様になっております。
 ノベル「両儀、時を超えて」の後編をお届けします。
 年表には謎を秘めた記載になっており、真相は闇の中となっております。「各地で事件が発生」とのことから、シナリオ当初より「一体ではないかもしれない」との前提で描いておりました。もちろん仮定ですが。
 北斗さんには、旅立った先で羅喉丸さんの功績に出合ってもらい、さらなる成長をしてもらいたいものです。

 この度は大切なお話のご発注、ありがとうございました。
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2015年06月15日

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