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『二人の旅路 』
ノビル・ラグ(ga3704)

 地下深く。
 薄暗い闇の中。
 駆動する機器群が、淡く紅い光を放っている。

――キメラ・プラント。

 打ち捨てられたそれは、主人が地上から消え、遠い空の彼方へと去った後でも、命令を守り、粛々と異形の生産を続けていた。
 部屋の扉が爆ぜた。
 キメラが床に倒れ、小銃と弓をそれぞれ手にした男と女が入ってくる。

「ここ、かな……?」
「みたいだな」

 男は女の問いに頷いた。

「終わらせるぜ、裕子」
「うん、ノビル君」

 ノビルは銃口を向けてプラント中枢へと発砲し、隣の裕子もまた弓に弾頭矢を番え放った。

「……御休み」

 動き続けていた機械へと向けられた、女のそんな呟きを、ノビルは聞いた。
 弾丸と矢が機器へと突き刺さり、爆裂が巻き起こって、周囲から光が消えた。


 バグア本星での戦いからおよそ三年の月日が流れた。
 長かった戦いが終わり、世界は平和への道のりを歩んでいる。
 もうすっかり争いからは遠ざかった地域もある。だが、バグアの残党や、バグアが残していったワームやキメラプラントが産みだす脅威に未だ脅かされている地域も多々あった。
 人々の心や土地には未だ戦いの爪痕が深く残っている、そんな時代だった。

――巨大な夕陽が黄金の光を放ちながら西の地平線へと向かって落ちてゆく。

 荒野を貫くハイウェイ。
 一台のジーザリオが走っていた。
 ハンドルを握っているのはノビル・ラグ、先月二十三歳になった金髪碧眼の若き男だ。
 助手席に座っている緑髪の女は相良裕子、二ヶ月前に誕生日を迎えて二十二歳。二人が初めて会ったのは、お互い十五歳であった四月の日の事で、そこから考えるとかれこれ七年強の付き合いになる。
 二人で世界を旅するようになったのは三年前からだ。二人でノビルの故郷であるアメリカに渡った後も、エミタを除去せず世界各地を転戦し飛び回っている。
 現在いるオーストラリアでは六月は冬だが、熱帯性気候の北部は半袖で過ごせるくらいに暖かい。
 ノビルの隣で本に視線を落としつつ、風に前髪を揺らしている相良裕子も半袖姿で、薄手の布に起伏のある肢体を包み込んでいた。ノビルが既に少年ではなく立派な男であるように、相良裕子もまた既に少女ではなく、成熟した女となっている。
(……どー思ってるんだろうな、俺の事)
 ちらりと一瞥を走らせつつ胸中で呟く。
 ノビルは裕子の事をいざという時は命に代えても護り抜くと心に誓っているくらい大切に思っている。異性としても、意識している。
 だが、相手の方はノビルの事をどう思っているのか?
 自分は、一人の男として見られているのか?
 これがまた、これだけ長い付き合いでも、イマイチ解らない。
「……つくばねの……つくね……つくねを、お夕飯……今晩は、つくねに、しようかな……?」
 裕子が何やら呟きを漏らしている。
 本のタイトルを見やると『小倉百人一首』。
(……ほんと、相変わらず、裕子っていっつも何考えてるんだろうな?)
 やはりノビルにとって相良裕子は、日常の言動の大部分がいまいち謎な、ミステリアスな女であった。
「ねえねえ、ノビル君。今日のお夕飯、つくねで良い?」
 そんな事を尋ねてくる相棒にノビルは返事を返しつつ、思いを巡らせるのだった。


 夜。
 文字通り飛ぶ鳥を弓で射落としてメイン食材を確保すると、携行しているパン粉や調味料を使い野外調理器具を用いて、裕子は夕飯を作り上げていた。
「……へい、お待ち、なんだよ」
「サンキュー……お、うまい」
「……良かった」
 にこっと笑って裕子。
 彼女の料理の腕は共に旅を始めた頃はノビルの方が上なくらいだったが(「お米洗うのってお洗剤使わないの、かな?」とかノビルに訊ねていたレベルである)時間の経過と共にメキメキと腕をあげて最近ではとても美味である。
 夕食を平らげ、人心地ついた所で、荒野の道沿いに停車したジーザリオの上で、ノビルはランタンの灯りを頼りに食後の茶を飲んでいた。
 空を見上げる。
 オーストラリアの広大な荒野から見上げた夜空には、満天の星々が煌いている。
 辺りは静かだった。
 二人きりの旅である。
 闇の中、遠くで獣が吠えていた。
「なぁ裕子」
 傍らの女に声をかける。
「なに?」
「……一般人に戻りたいのなら戻っても良いんだぜ?」
 旅から旅の生活だ。
 そして、戦い続けている。
 楽な旅ではない。
 まだ過酷な地域はある。だが全体を見れば、世界はそれなりに平和になりつつあるというのに。

――裕子の本心はどうなのだろう?

 それがノビルには解らなかった。

――本当は一般人に戻りたいのではないのか。

 そんな思いが脳裏をよぎったのだ。
 思えば、彼女の青春は戦争漬けだった。若干十四歳にして既にエース、最前線の部隊にいたという。
 戦いばかりの人生だ。
 この辺りでそろそろ平穏な人生を取り戻したいと、望んでも無理はないのではないだろうか。
 茶を啜る音が響いた。
 しばし後、
「ノビル君、有難う……でも、相良は戻りません。相良、ノビル君からのお誘いに乗ったのは、相良なりにも理由があったんだよ」
「誘い?」
「三年前のパーティの時の。相良、途中で攫われちゃったから詳しくは言えなかったけど」
「あぁ」
 あの妖怪……と当時の事を思い出すノビル。
「昔、言われたの、相良はファントム、死者達の念に拠って動かされている、って。でもそれが相良の願いなの。相良は、平和な世界の実現を目指して散っていった人達の希望を、願いを、繋いであげたいの。だから、この世界を本当に平和にしたいの。だから相良は多分ずっと、能力者でいるよ。本当に平和になったとしても、守り維持するのにも力が要るから」
 でね、と裕子は続ける。
「ノビル君、あの時、言ったよね――バグアとの闘いで人類が得た『新たな可能性』の一つでもある以上、俺はこの力で『負の連鎖』を断ち切る為に足掻いてみたいんだ――って」
 少しでも『より良き未来』にする。
 その為に、ノビルは足掻き続けている。
「それ、相良は、素敵だなって、思ったの。だから貴方の手を取ったの。だから相良は、今ここにいるんだよ」
 だからね、と裕子が言う。
「そのお気遣いは無用にございます、なんだよ。……御免ね、何考えてるか解りにくくて」
 後半は申し訳なさと同時、怨めしさも入り混じったような響きをノビルは感じた。上目遣いの裕子の視線。珍しく、睨まれてる気がする。
「えぇと……つまり、その、それじゃ、このまま俺について来てくれるって事で良いんだな? 本当に後悔しないのか?」
「うん」
 むすっとしたまま裕子は頷いた。
「でもそんな事聞かれると後悔しちゃうかも。もうついてくるなってノビル君に言われない限り、相良は地の果てまでだってついていくよっ!」
「なら――」
 ノビルは杯を置くと裕子の両肩に手を置き、その瞳を真っ直ぐに見据えて言った。
「――ずっと俺に味噌汁作ってくれっ!!」
 荒野にノビルの叫びが響いた。
 静寂。
 間。
 相良裕子はしばし凍りついたように停止していたが、不意に、顔を赤らめさせた。
「…………えぇと、ノビル君」
「なんだ」
「それ……その、け、結婚、してって、意味だと、思っても……良い、のかな?」
「……それこそ聞くなよ。良いぜ。プロポーズだ」
「ん……じゃあ、ずっと、作るよ」
 涙を目尻に浮かべつつ、えへっと相良裕子は笑ったのだった。




 了




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業
ga3704 / ノビル・ラグ / 男 / 23才 / 傭兵
gz0026 / 相良・裕子 / 女 / 22才 / 傭兵


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 毎度お世話になっております望月誠司です。
 うちの娘(公式NPCではなく望月原案のキャラさんでも無いですが、ずっと担当させていただいていたのでうちの娘感が強い……!)がついに嫁にいってしまった……
 貰っていただき有難うございます。
 ご満足いただける内容になっていましたら幸いです。
水の月ノベル -
望月誠司 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2015年06月15日

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