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『戦は終わり、彼と彼女は、そして雨上がりのSpectrum 』
不知火真琴(ga7201)&アンドレアス・ラーセン(ga6523)

 光が鳴く音が聞こえた。
 空気を灼き焦がすその音が。
 薄紫の爆光。
 唸りをあげて遠方より嵐と化して襲い来るプラズマ砲弾の群れ。
 不知火真琴は荒れた大地の土を蹴り、前方へと加速した。紫光の嵐に対し突撃し、次々に掻い潜ってゆく。
 後を追うように駆けるアンドレアスの元に流れ弾が一発飛来し、脇の地面に激突して大爆発が巻き起こった。
 盛大に土砂が吹き上がり、焼き焦がされた空気が殴りつけるように頬に吹き付けてくる。
――戦はもう、終わったのではなかったのか?
 そんな疑問が脳裏をよぎる程に、かつての最前線さながらの猛攻だ。それもその筈、彼等は未だ稼動するプラントから産み出されたワーム、言うならばある意味、決戦時よりも最新鋭、大きな意味での戦が終わったとはいえ、個々の兵器の性能が即座に落ちる訳がない。
「ったく、久しぶりだってのに、いきなりハードだな」
 敵は陸戦式の小型とはいえワーム、普通は生身で相手をする敵ではない。
 だが、
「上等」
 ブロンドの男は不敵にニヤリと笑う。
 エネルギーガンのグリップの感触は未だ手によく馴染む。 
 共に組むのが真琴なら何も心配はいらない。
 その先頭を進む不知火真琴は、紫色の光の嵐を、まるで未来が見えているかの如くにかわしながら駆けていた。
(この距離なら中らない。いける)
 彼方に機動する、十メートル近い円盤状の胴を持つ四脚の巨大ワームと、その背に並ぶ砲門群を睨む。威力が特に高いのは正面に備えられた固定式の主砲だ。あれが脅威。だが、まだかわせる。
 問題は、距離が詰まってからだ。
 真琴が全速で駆ければ十秒で二百メートル強の距離が詰まる。四脚巨大ワームの方でも猛射しながら唸りをあげて前進してきていたから、相対距離はみるみるうちに詰まってゆく。
 距離が詰まる。
 音が聞こえる。
 大地が砕かれ爆ぜる音、耳元で唸る風の音、そして空間を灼いて流れる光の音。
 危険域に入ったと、真琴の何処かが己に告げていた。
 相対距離が百を切った瞬間、真琴はさらに加速した。瞬間移動したが如き猛加速――瞬天速だ。
 加速と同時、直撃コースで迫り来ていた光弾が頬を掠めて後方へと突き抜けてゆく。大きくは弧を描くように、瞬天速を連発して爆発的に連続で猛加速しながら、次々に迫る光弾を、刹那の己の過去の立ち位置へと置き去りにしてゆく。光が連続して大地に突き刺さって連鎖するように大爆発を巻き起こし土砂を噴き上げてゆく。
 四脚ワームは地を削り土煙をあげながら減速し、しかしその場で高速回転する駒のように向き直って主砲を真琴へと向け、真琴は駆けつつ己に向き直って来るワームに対し片腕を伸ばして拳銃「黒猫」を向けた。上下にブレる狙いを精神を針の如くに研ぎ澄まして定め、発砲、発砲、発砲、連射。銃声が一発に聞こえる程に、一瞬に重なって轟く高速の銃声。
 刹那、火花と共に鈍い破砕音が連続して巻き起こった。ワームの巨体を支える脚の中頃に蒼白い光が走る。連続して弾丸が突き刺さった間接部分から茨の如き漏電が発生し、小爆発が巻き起こって部品が吹き飛んだ。
 ワームの脚が折れ、その巨体が傾いでゆく。重い地響きと共に土煙を巻き上げながら胴体が荒野に接地した。
 ワームの回転が止まった。
 主砲の射線上から女の身が完全に外れる。
 が、何門かの副砲は、戦車の砲頭のように回って真琴を追尾し続けていた。
(あ、まず――!)
 練力以前に十秒間に使える瞬天速の数にも限りがある。行動の限界。
 副砲がぴたりと真琴を捉え――光が放たれる直前、横手から飛来した猛烈な光に撃ち抜かれて爆ぜ飛んだ。
「よお」
 手にエネルギーガンを構えて黄金のオーラを纏う、ブロンド長髪の男が荒野に立っていた。アンドレアス・ラーセン。
「そりゃ美人の女の方が魅力的だろうが、俺の相手もしてくれよな?」
 男は言葉と共に引き金を絞る。スライドしたインテークより空気が流れ込みSESが駆動する。光がエネルギーガンに収束し音と共に爆光が飛び出した。SES戦車の主砲にも勝る破壊力の光が連続して閃きワームへと猛然と襲いかかってゆく。
 一刹那の間に眩い光が咲き乱れ、砲が吹き飛び、砲がひしゃげ、砲が融解して爆裂し連続して消し飛んだ。次々に破壊の嵐が巻き起こってゆく。猛攻だ。
 それでも生き残りの幾つかの砲から反撃の光弾が飛び男の身に炸裂したが、主砲でなければアンドレアスの抵抗力の前では致命傷にはならない。そして既に主砲は回らない。
 黄金の光を纏う男はプラズマ弾の猛爆発に呑まれながらも大地に立ち、攻撃を己に集めつつも練成治療で自身を強引に再生させて超威力の光をワームへと叩き込んでゆく。
 程なくすべての砲が潰され、成す術をなくしたワームはアンドレアスと真琴の十字射撃の前に大破爆散させられ、その機能を停止したのだった。


 時は2012年の十一月。
 およそ一ヶ月程前に地球全土を巻き込んでいた長い長い巨大な戦争が終わった。終止符が打たれた。停戦した。

――戦火の爪痕は生々しく、砲火の記憶は未だ新しい……そんな時代の話である。

 不知火真琴とアンドレアス・ラーセンは、UPCからメキシコのバグア残党の拠点討伐依頼を受け、陸戦ワームの破壊を担当し交戦してこれを破壊していた。
 他のチームも上手くやったようで、無事に残党の拠点は制圧されたようだった。
 作戦終了後、勢い良く雨が降り出して、二人は帰路につく前に、荒野に停車した幌を張ったジーザリオの中で一息ついていた。
 車内に雨音が響いている。
「こうしてアスさんと二人で依頼をこなすというのも、ゆっくり話すのも久しぶりですね」
 缶珈琲を飲みながら真琴が微笑する。
「そうだな。何かと忙しかったからなァ――」
 ぐびっと同じく缶珈琲を飲みつつアンドレアス。
 戦争中は互いに走り抜ける事で手一杯で、ゆっくりと未来の話をする時間もなかった。
 また、過去にはアンドレアスが真琴に思いを寄せたが、真琴はそれに応えられなかった経緯もあった。
 だから、軽い口調でかわしている会話であったが、二人ともに心持ちは真摯だった。
 男は空になった缶をドリンクホルダーに置くと助手席の女に視線を向ける。
「――最近は、そっちはどうだ? これからどうするか、決めたのか?」
「はい」
 真琴は頷いた。
「やっぱり、うちは手に入れた力はどこかの誰かの手助けの為に使っていきたいと……そう決めました」
「そうか……良いんじゃねぇか。らしいとか言って良いかどうかは解らねぇが……俺は良いと思うぜ」
 アスはニッと微笑した。
 真琴は嬉しそうに笑う。
「有難うございます。アスさんの方は?」
「あー……」
 アンドレアスは頬を一つ掻いた。
 改めて言うのも照れ臭い。
 が、きっと真琴は己の事を心配してる。
 だから言った。
「俺、結婚する事になったんだ」
 真琴の青い瞳がアンドレアスを見た。
 女は缶をホルダーに置くと、両手を伸ばして、男の手を掴み、ぎゅっと握って瞳を閉じた。
 思う。
――本当に、本当に、良かった。
 過去、真琴はアンドレアスの気持ちに応えられなかった。
 いつか彼に教えて貰った、彼の中の孤独の虚の事。
 自分にはどうにも出来ない事だと解っていながら、ずっと気にかかっていた。
 その孤独も一緒に歩いてくれる人が出来て、本当に良かった。
 顔をあげ、目を開き、見つめる。
――幸せに、どうか幸せになって下さいね。その権利がアスさんにはあるんだから。
 それは言葉には出来ない想い。
「……まァ、落ち着きゃしないと思うけどな」
 真琴にアスは優しく笑いかける。彼女の気持ちは、伝わっている。アスは察しの良い男だ。
「きっと救えない手を掴もうと死ぬまで足掻き続ける。でも母港はあったっていい」
 男は言った。
「有難うよ真琴。空っぽなのは変わっていない。でも、だから、俺の中には何でも入るんだぜ。すげぇだろ」


 雨があがった。
 幌を開き、車がエンジンの唸りをあげて走り出す。
 荒野を走るジーザリオ。
 ハンドルを握るアンドレアスは、吹く風にその銀色の髪を流す助手席の真琴を視界の隅に見る。

 かつて恋した事もあった自由な白猫――今は大切な友人。

 傷を人と共有する事を良しとせず、誰とも並んで歩くだけの彼女。
 必要とされる事を望む自分とは到底結び合えなかったのだと今は解る。
 視線を前方に戻す。
 雨上がりの雲間から眩しい光線が降って来た。
 ブロンドの男は碧眼を眇める。

 涼風吹く灰色の雲の隙間から覗く黄金の光と、陰と、水の残滓が織り成す空のきざはし、虹のアーチ、光のスペクトル、ああ、空は今日も美しい。

――あのクソったれな戦争。
 だがそのお蔭で、出会う筈なかった道が交錯した事。
 今も笑っていられる事に感謝する。

 その強靭な魂に幸あれと、願う。

(……まぁパートナーが余りに朴念仁な事は少し心配だけどな。あいつ言わなきゃ何も解んねぇからな!)

 察しの良い男はハンドルを握りつつ、一つの顔を脳裏に浮かべて渋面を作る。
 アンドレアスが勘が良いのか、それともあちらが朴念仁なのか、さて。
 不知火真琴は隣のそんな男をちらりと見やると、胸中で呟く。

――私を好きになってくれた貴方、どうか幸せになって欲しい。

 差し出された手を選べなかったのは自分だけど、その分も、その代わりにも、どうぞ幸せに……

 雨上がりの荒野をジーザリオが進んでゆく。
 鉛色の雲は流れ、七色の虹がかかり、空には青い青い晴れ間が広がっていた。




 了




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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整理番号 / PC名 / 性別 / 外見年齢 / クラス
ga7201 / 不知火真琴 / 女 / 24才 / グラップラー
ga6523 / アンドレアス・ラーセン / 男 / 28才 / エレクトロリンカー


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご発注誠に有難うございます。お世話になっております望月誠司です。連続でも全然問題ないですよっ。毎度有難うございます。
 戦闘描写について、有難うございます。ご期待に沿える内容になっていれば幸いです。折角なので生身でワームと戦っていただきました(
 恋愛描写は、恋愛描写は……! はい、得意ではないですねorz
 相変わらず素敵な発注文いただきましたので、それを壊さないように活かせるようになんとか……! やってみましたが、むむむ、どんな塩梅でしょう……
 ご満足いただける内容に仕上がっていましたら幸いです。
水の月ノベル -
望月誠司 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2015年06月16日

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