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『〜過去と今が出会うとき〜 』
来生・十四郎0883)&来生・一義(3179)


「おお、遠いところによう来たなあ!」
「ほら、もっとこっちに」
「つっ立ってないでおっちゃんこ!」
 あちこちからだみ声が飛んで来て、来生十四郎(きすぎ・としろう)は苦虫を噛み潰したような顔で三和土を上がった。
「トシちゃん、おなかすいたっしょー?」
「こっちにメシあるべさ、トシ坊!」
「なした? 早う食え!」
 あれよあれよと言う間に、いろいろな人の手から手へ押されて、広い座敷へと連れて行かれ、無理やり座らせられる。
 頭の中では兄の来生一義(きすぎ・かずよし)が、周囲に聞こえないのをいいことに、笑い声をたてている。
 どうも、まるで高校生だった頃のように、「トシちゃん」「トシ坊」呼ばわりされているのが、おかしくて仕方ないらしい。
『笑うんじゃねえ!』
 思念で怒鳴りつけると、まだおかしそうな色をにじませつつも、一義が笑い声をおさめた。
 まわりを見回すと、訃報を聞いて集まって来たのだろう、小父の漁師仲間たちと、その向こうに小父の妻と娘が3人、いるのが見えた。
「あいさつしねえと…」
 周囲に聞こえるようにそう言って、いったん席を立ち、小父の家族の許へと歩み寄った。
 十四郎は小母の前で正座して頭を下げた。
「このたびはご愁傷様でございます」
「トシちゃん、わざわざ…」
「…当然だろ」
 小母の感謝の言葉をぶっきらぼうにさえぎって、十四郎は続けた。
「あんなに世話になったんだからな」
「トシちゃん…」
「あっち、親戚連中だろう? 一応、あいさつ済ませて来るぜ。そしたら、俺も通夜の準備、手伝うからな」
 涙を浮かべた目でうなずく小母の肩をぽん、とひとつたたいてから、十四郎は立ち上がって親戚へのあいさつ回りを始めた。
 こういう地での冠婚葬祭は、土地の慣わしもあるからこそ、親戚筋がよく手伝いをしてくれる。
 だからこそ、あいさつは大事だ。
 ていねいにあいさつをして、小母たちのところに戻ったとき、いつの間にか身体が軽くなっていることに気がついた。
 否、実際には重さなどないのだが、「憑かれる」と、何となく身体が重くなるような気がするのだ。
 一義はいつ身体から出て行ったのだろう。
 あいさつにかまけていて、まったく気がつかなかった。
 一応辺りをぐるぐると見回してはみたものの、小母たちの不思議そうな顔があるだけで、一義の姿は見当たらない。
 今はそこまで捜す気もないので、十四郎は小母たちといっしょに通夜の準備を始めた。
 しかし、通夜が始まっても、一義は戻って来ない。
 たまに四方に視線は飛ばすが、あまり不審な態度も取れないため、
(そのうち戻って来んだろ)
 そう思って一義のことは頭から閉め出した。
 祭壇の小父の写真は、いつのものだろうか。
 浅黒く焼けた肌は、海の男の証しだ。
 笑うと真っ白い歯がこぼれて、まさしく「満面の笑み」になる。
 昔を思い出し、懐かしさを覚えたそのときだった。
 すぐ近くに、そう、まるで包み込むかのように、おおらかな父のような温もりを感じ、「えっ?」と思った瞬間、その気配は消え去った。
 あまりに急で、あっという間の出来事だったので、十四郎はそれが本当のことだったのか、いささか不安に思った。
 だからといって、確かめる術もない。
 仕方なく心の中にしまって、十四郎はまた祭壇の小父をじっと見つめていた。
 
 
 
 その晩、小母と娘たちに請われて、十四郎は小父の家に泊まることになってしまった。
「家族なんだから」と、以前と同じ部屋をあてがわれ、少々気恥ずかしい気分になりつつ、布団の中に入る。
 すると、とたんに身体が重くなり、十四郎は一義が身体の中に戻って来たことを知る。
「勝手に抜け出してどこに行ってたんだ?! 迷子になったらどうするつもりだったんだよ?!」
 つい声に出してそう叱りつけると、一義の思念が答えてきた。
『小父さんにお前が世話になった礼を言おうと思ってな。ついでにお前がこの家で暮らしていた当時の話を聞いていたんだ。いろいろと面白い話が聞けたぞ』
 十四郎の心配をよそに、一義の思念にはまったく悪びれる様子はない。
 舌打ちしたい気分だったが、それよりも気になることがあって、十四郎は兄にこう尋ねた。
「もしかして、小父さんがここにいるのか?」
 一義が過去を思い出すような気配を見せた後、ぽつりと答えた。
『小父さんは通夜の間、弔問客ひとりひとりの前に立って、頭を下げていたな。今は…』
 十四郎の脳裏には、律儀な小父が来てくれた人すべてに、深々とお辞儀をしている様が浮かんでいた。
 あの小父らしいと思い、布団の中にもぐり込みながら、問い返す。
「今は?」
『家族のそばにいる。だから、そっとしておけ』
 十四郎はうなずき、こうつぶやいた。
「…最後の家族水入らずだしな」
 家族が大好きだった小父だ。
 少しでも長く、家族のそばにいたいのだろう。
 十四郎は納得して、そっと目を閉じた。
 
 
 〜END〜
 
 
 〜ライターより〜
 
 いつもご依頼、誠にありがとうございます!
 ライターの藤沢麗です。
 
 
 十四郎さんは、この土地でどんな日々を過ごしたのでしょうか??
 一義さんが小父さんから聞いたというお話が気になります!
(しかも一義さんが「面白い話」と言っていますしね…)
 
 それではまた未来のお話を綴る機会がありましたら、
 とても光栄です!
 この度はご依頼、
 本当にありがとうございました!
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2015年06月18日

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