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『某国の亡霊《ゴースト》 』
クラウディア・マリウス(ga6559)&アグレアーブル(ga0095)

「……連続盗難事件?」
 鮮やかな赤髪の女、アグレアーブルはランチを共にしている親友の口から出た言葉に首を傾げた。
「うん、この街で最近多いらしいのっ」
 ティーカップを手に銀髪のクラウディアがこくこくと頷く。アグと同年の二十五歳なのだが、相変わらずかなり幼く見える。
「……そうなの、大変なのね、この街も」
 現在アグ達が滞在しているのは、意外と都市化している某国首都だ。徐々に復興してきているが、まだまだ途上――そんな街である。
 クラウディアは日常に縛られるのが「なんか違う」と、縁談を断り、とある国際的な復興支援組織に入って世界中飛び回る日々を送っている。
 今回も組織の仕事の一環でこの街に来ており、親友であり同居人でもあるアグレアーブルもクラウから『一緒に行こうよ』と誘われて、この街にやってきていたのだった。
「それでね、その連続盗難事件の解決を依頼されたんだ」
「……誰が?」
「私が!」
 えへっと笑ってクラウディア。
 アグレアーブルは少しの間沈黙した後、
「そう……」
 と呟いた。
 思う。
 はたして、復興支援組織の仕事に警察や探偵の真似事などというものは含まれていただろうか。
 まあ、やれと言われればやらざるをえないのが組織人というものであるのだが――
 どうもクラウから話を聞くに傭兵時代の経験を見込まれて、との事らしい。
 アグは勿論、一見無邪気に可愛らしいクラウも、こう見えて歴戦の傭兵だったりする。
「……ちなみに、何が盗まれるの?」
「盗まれる物に共通点はないらしいよ」
 なかなか、面倒そうな手合いのようだ。
「……被害が頻出している場所は、解る?」
「この街全域で、ランダムだってっ」
 訂正。
 物凄く面倒な相手だ。
 面倒というのは、あまり好みではない。
 アグはオフ時の自堕落な所は変わっていない。むしろ、バグアと戦い、家族を守るという目的が達せられ、自らに課す使命もなくなった今、その傾向は益々強くなっている。
 実際、これまで可愛い親友を愛でながら悠々自適で自堕落な日々を謳歌中だったのだ。

――が、しかし。

 面倒事であるからこそ、可愛い(私の)クラウディアを一人、あたらせて良いものだろうか。いいや、良くない。これは太陽が東から登り西に沈む程には自明の理である。
「そう……手助けは、必要?」
「うんっ、アグちゃんが手伝ってくれるならとっても心強いよっ!」
「……なら手伝うわ」
「有難う!」
 かくて、二人は復興途上の某国を悩ませている盗難事件の解決に繰り出すのであった。


「……本当に共通性がないのね」
「はぅぅ、だね〜、なんなんだろ、一体……」
 クラウは溜息をつく。
 街中を歩き回り、事件について詳しく調べれば調べる程、事態が解らなくなっていた。
 バッグ、トランク、屋台の食べ物、駐輪されていた自転車、店前のマスコット置物から庭の洗濯物まで、そういった種類分類による縛りは一切無かった。『金目の物』という共通点すらない。
 食い詰めた人間が手当たり次第に盗んでいる、という訳でもなさそうだし、統率された窃盗団による犯行、という線ともまた気配が違う。
 被害にあったという場所も富裕層があつまる中心部から、貧者があつまるスラム街まで様々なのだ。売っても二束三文にすらならないものまで盗まれている。
「ほんと、何考えて盗んでるんだろう?」
「……奇妙な話」
 犯人らしき人影は誰も見ていないという。
 ふと気付くといつの間にか物が消えている。
 忽然と消えるのだ。
 一連の事件の犯人を指して幽霊《ゴースト》などと呼びだす者も出始める始末だった。
「はぅ、ほんと怪奇じみてるよね〜……」
 クラウディアの嘆きが街の雑踏の中に響いてゆくのだった。


「……共通点」
 夜、組織支部宿舎の一室で夕食を取りながらアグが呟いた。
 んっ? とテーブルを挟んで向かいでパンに齧りついていたクラウが目を瞬かせる。
「……一見、共通点はないように見えるけど……盗まれたものには一つ、共通点があるわ」
「え、ほんとにっ?」
「盗まれた物は、皆、屋外にある物」
「……はわっ、ほんとだ!」
「それと、置物とか何時盗まれたのか解らないものは不明だけど……目を離したら何時の間にかなくなっていた、というのは被害時間が夜間に集中しているわ」
「あ……もしかして、犯人は夜型なのかな?」
 クラウはう〜んと唸る。
 一応、糸口のようなものは見えたような気がするが、まだまだ雲を掴むような話だ。
 銀髪娘はパンを平らげると言った。
「よし、組織や街の皆にも協力をお願いしちゃおう!」


 復興組織の組織員たるクラウは組織を通じて、市民達から広く情報を求めた。
『最近盗難事件が多発しています。夜に怪しいものを見ませんでしたか』
 というものだ。
 タレ込みを期待したのである。
 すると、
「……ほわっ? 空飛ぶワルパワ?」
 クラウはバグアの妨害電波が消え、最近とても便利になったケータイ片手に眉根を寄せる。
『ええ、とあるケーキ屋チェーンのマスコット人形が、ひとりでに街の夜空をニカッと良い笑顔を浮かべたまま高速で飛んでいったらしいの』
「なにそれ怖い」
 奇怪な情報が集まってくる。
 似たような話は幾つもあった。
 クラウは感謝を告げて通話を切る。
「…………もしかして、犯人は人ではないのかもしれないわ」
 アグはそう、呟いた。


 夜。
「HEY、ラっしゃイ!」
「大将、とりあえず生中、あとオリエンタルSUSHIラーメンを頼めるかい」
「HEY、マいド!」
 日本人街にある屋台の席に会社帰りの中年男が腰を降ろし、席にカバンを置いた。
 酒が出され会社員と店主が幾つか言葉を交わし、しばし時が流れたその瞬間である。
 突如として漆黒の空の中から黒い風が弾丸の如くに動いた。
 それは一瞬で地上に降下すると地面すれすれを目にも止まらぬ速度で飛ぶと、屋台の席にすれ違いざま、カバンを『嘴』に咥える。
「……ウンンッ?」
「どうした、大将、変な声あげて」
「オーウ、ジャストナウ、ナーニかがヨコギっタようナ……」
「おいおい、幽霊でも見たかい? そういえば今、街じゃゴーストっていうのが――あぁっ?! 無いッ!!」
 人間達が気付いた時には既に、それは夜空の闇に紛れていた。
 漆黒の翼を広げ、嘴に身よりも大きなカバンを咥え、悠々と空を飛ぶ。
 それは――カラスであった。もっとも、普通のカラスは重量のあるカバンを嘴に咥えて飛ぶ事などできないが。
 今日も彼はこのまま戦利品を無事に得て、塒に戻ろうとしていた。
 その時だった。
 不意に、腹部に衝撃を感じた。何か小さな物が中った。見下ろすと街並の屋根の上で赤髪の人間が金属製の筒を手にして立っている。傍らには銀色の髪の人間も見えた。
 危険を感じた彼は漆黒の翼で羽ばたいて加速し、高度を高速であげてゆく。
「……中てたわ。あれ、キメラのようね」
 赤毛の女――アグレアーブルはカラスが射撃が命中した一瞬、赤色に輝いたのを見て目を眇めた。
 二人は複数の不審物の目撃情報からそれの飛び去ってゆく方向を集め、線で繋いで中心点にあたりをつけ、円状に幾つかの班で囲み山を張っていたのである。
 ここ一週間強、空振りも多かったが、地道な張り込みの末に、本日視界に捉えた。
「アグちゃん、ナイスシュート!」
 クラウディアはスマホを手に屋根の上を駆けだす。その液晶画面には街の地図と点滅する光点が浮かび上がっていた。
 先程、アグが銃から放ったのは殺傷力の高い実弾ではなく、発信機のチップが取り付けられた針だったのである。
 昔はバグアの妨害電波で使い物にはならなかった機器も、最近では効力を発揮する。
「……便利な世の中になったものね」
 クラウの後を追って家々の屋根を跳躍し駆けながらアグは呟いたのだった。


 カラスはかつての戦火で崩れかかり放棄された時計塔を根城にしていたようだった。
 今までに盗まれたものが塔内にうず高く積み上げられている。
「街の皆からとったものをかえして!」
 クラウとアグが踏み込むと、カラスは貯めこんだ彼の財宝を奪い返されると悟ったか、塔内にて猛然と襲い掛かってきた。
 しかし、歴戦の傭兵二人である。
 クラウから電磁嵐が放たれ、アグより弾丸が飛び、激しくも短い戦いの末に、カラスキメラは見事撃破されたのだった。


 その後の調べによると、街を騒がせた盗難カラスは、かつてバグアによって後方物資略奪の為に作られたキメラに似ていたとの事だった。
 おそらくは、壊れかかったプラントから産み出され、中途半端な知能となってしまい、一切合財を奪って溜め込んでいたのではないか――という推察を組織の人間から二人は聞いた。
 ともあれ、クラウとアグの二人の活躍により、カラスは退治され、盗まれた品々は食料などのなまものを除き、持ち主の手へと戻っていったのだった。
「次は何処へいこう?」
 夜。宿舎ビルの屋上から、闇の中に輝く夜街の光を眺めていたクラウディアが、銀の髪をふわりと踊らせながらアグレアーブルに振り向く。
「……何処へでも。クラウの好きな場所でいい」
「アグちゃん、遠慮しなくても良いんだよ?」
「遠慮してる訳じゃないわ」
 相変わらずの無表情で赤毛の娘は答える。だが、それは本心だった。
 今は、クラウが言う風に任せるがまま、世界中をあっちにいったり、こっちに行ったり、それが楽しいのだ。戦時中に出会った心のオアシス。笑顔も、泣き顔も、怒った顔も、寝顔も、みんな可愛い。妹のような愛しい子。
 付き合いが長い相手だ。クラウはアグが本心からそう言っているのを感じ取ると、にこっと笑った。
「ん、わかった! それじゃ次も私が決めちゃうね。次は――」
 二人は明日に話の花を咲かせてゆく。
 地には人々が営む夜景が煌き、空には満天の星々と黄金の月が輝いていた。



 了


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業
ga6559 / クラウディア・マリウス / 女 / 25才 / 国際復興支援組織員
ga0095 / アグレアーブル / 女 / 25才 / 傭兵


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご発注有難うございます。お久しぶりです。
 本文の方、ご期待に添えられるようにお二人を描写できていたでしょうか――
 ご満足いただける内容に仕上がっていましたら幸いです。
水の月ノベル -
望月誠司 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2015年06月18日

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