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『雨の薬師と半妖貴族 』
アルヴィン = オールドリッチka2378)&エアルドフリスka1856

「あぁ、丁度、調合に必要な薬草の採取に向かうところでね。折角、訪ねて来て貰ったのに悪いんだが――」
 と正直に言ってしまったのが不味かった。
 瞬間、
「薬草の採取?! 何ソレ、楽しソウ!!」
 パァァァッ…! とでも擬音が聞こえてきそうな勢いでハーフエルフが顔を輝かせる。
 この黒髪碧眼の若い男こそ、帝国貴族オールドリッチ家の当主候補にして魂の煌きを追う愛の彷徨人・アルヴィン=オールドリッチである。
 家に軟禁されがちだった彼は、知識先行の世間知らずであり、そして、故にこそ、好奇心の塊だった。
 薬師にとっては薬草採取というのはありふれた日常作業だが、アルにとっては好奇心を刺激するに十分な物で――
「僕もお手伝いスルヨー!」
 この反応が飛び出してくるのは、至極当然の結果だったのである。
 

「採取〜♪ 採取〜♪ きょーおはー緑の森へールールーと〜♪ おっでかけだッヨー!!」
 ルンルンと即興で歌らしき物を歌いつつ、リズムに乗せて優雅に洗練されたウォーキングを魅せているハーフエルフ。
 六月の通り雨できらきらと輝いている草の原の道を半妖精の帝国貴族は鼻歌交じりに軽快に歩いてゆく。
(……これも摂理か?)
 結局、エアは、一緒について行くと言い張るアルを拒みきれず、嫌々ながらも連れ立って、薬草が採取できる森へと向かう事になってしまっていた。
(なんでこの男にゃ振り回されんのかねぇ、俺は)
 パイプを咥えた眠そうな瞳の男は"ぷかり"と嘆息代わりに煙を吐き出す。
 エアは《均衡》を至上の価値と考え、物事に対し一歩引いて客観視する癖のある男だ。その思考力を活かした弁舌と諧謔を弄して交渉を好み、世知に長けている。
 が、引いた分以上に一気に懐に飛び込んでくるような手合いには案外弱い。その論理の飛躍っぷりについて行けず、自分が周囲に築いているやんわりした壁も突き破って来るアルなどはまさに天敵だ。
 薬師エアルドフリス、某歳の六月、己が思っている程には、まだまだ達観しきれぬのが、現状であった。


 森中、少し開けた場所に白い花をつけた草が群生している。
「オー! 奇麗ダネー! これがその薬草?」
 アルが小さな泉の傍に草花が咲いている一面の光景を見やって目を輝かせた。
「その通り。草の液が腫れ物や吹き出物などに効くんだね。副作用も少ない。ちょいと加工してやりゃ割と良い値がつく塗り薬になる」
 エアは屈むと足元のものを一輪摘む。花の良い香りがした。出来は良いようだ。
「それは素晴ラシイネ。ココに生えているモノヲ全部採れば良いのカナ?」
「いや、三十ばかりも採ってくれれば結構だよ」
 エアは片手を振った。
「逆にあんまり採り過ぎちゃあいかん」
「ソウなの? ナンデ?」
 アルが小首を傾げる。
「森と共に生きる薬師の知恵だね。掟とも言う。全部を引き抜くと次が育たなくなるのさ。だから、この場所の再生の周期の均衡を乱す程に採るのは良くない。まあ、そもそもがあまり長期の保存が効かない薬だから、そんな大量に作っても仕様が無い、というのもあるんだがね」
「ナルホドー!」
 そんな会話を交わしつつ二人は薬草の採取を開始したのだった。


 採取を開始してしばし経った頃の事だった。
(おや……?)
 アルは森の木々の狭間からナニカが己達の様子を窺っているのに気付いた。
 溶けかかった人らしきもの身を内包する大きな赤黒いゲル状の球状体躯から、狼と虎の頭そして二体の巨ヘビが生えている。
(これは――)
 瞬間、アルは隣から唸る獣のような声を聞いた。
「歪虚……! これ以上厄介事を増やさんで頂きたいんだがねえ」
 憎悪が滲み出ている声の主はエアだった。
 碧眼を据わらせ、採取道具を放り出して、既に杖と短剣を引き抜いて身構えている。彼の周囲では水紋の如く空間が揺らいでいた。反応が速い。
 歪虚の方でも二体のヘビの身が立ち上がり、うねり始めた。
――エアルドフリスは偶に、破滅の匂いがする。
 アルヴィン・オールドリッチは友人に対してそう思う。
「ルールー!」
 アルは覚醒して煌く星を周囲に出現させつつ採取道具を置くと、背から直径80cm程度の円状盾を取り出し、腰からワイヤーウィップ――無数の鋼糸を編んで一本の太いワイヤーと成されている――を引き抜いた。
「コノコ、僕らとはすっごい変わった外見だケド、彼(?)の種族内ではイケメンさんなのカナー?」
「いや、知らんよ!」
 すっとぼけた発言に思わず叫び返すエア。
「アハハ! まぁーそれはーそうダヨネー!」
「ったく、いずれにせよ自然の法則ではありえないね、不自然な存在だ。こんなものを産み出した奴の気が知れない」
 アルの言葉に多少毒気を抜かれつつも、エアは歪虚を観察しながら言う。七眷属であるなら憤怒《ツォーン》あたりだろうか? 怒りの歪虚。
「産み出されたコイツ自体にゃ罪はないのかもしれんがね。しかし、こいつ自身もとても友好そうじゃあなさそうだ……人を喰ってるな。他に被害がでる前にここで仕留める」
「了解――クルヨ!」
 歪虚の方もどうやら逃げずに戦う方を選択したようで――森の木々の狭間か大きく跳躍すると宙に舞い、そのゲル状の楕円状の肉塊のような胴体を捻りつつ右のヘビ身を鞭の如くに伸ばし襲い掛かって来る。
 アルは咄嗟に半身で体を沈めて重心低く、円盾を傾斜をつけて構え、頭上に翳した。
 鈍い音と共に蛇の牙と盾が激突し、牙が角度をつけられた盾の表面を滑って、蛇身が左へと流れ逸れてゆく。衝撃が重い、が、一撃目は捌いた。
『空、風、樹、地、結ぶは水――』
 エアの詠唱が聞こえる。アルはワイヤーウィップを振り上げて頭上で旋回させると、身を捻りざまに腕を切り返し、鞭の先端を音速にまで加速させてゲル胴へと叩きつけんと放った。
 瞬間、左の蛇身が間に割って入って鋼の鞭を受け止めた。ズパァン! と激しい音が鳴り響き、鞭が弾かれる。
「アッハ、固いネー!」
 愉しそうなアルの声が響く。手元のスイッチを入れた。モーターが回転しワイヤーの表面が駆動を開始する。肉を両断する刃の鞭。
 他方、その後方に立つブロンド薬師の周囲でマテリアルが流動していた。構える杖の先端に蒼い光が急速に集まってゆく。
『――天地均衡の下、巡れ!』
 結びの言葉と共に、水弾が杖先より勢い良く噴出、ゲル歪虚へと唸りをあげて襲い掛かってゆく。
 瞬間、狼の頭部が顎を開いて耳をつんざき大気を揺るがす程の音量で吠えた。
 水弾は途中の宙で不可視の何かに激突したように爆ぜ、四散する。
 驚く間も無く牙を剥く虎頭の顎の奥から光が膨れ上がり、刹那、極大の光の波動となってエアへと放たれた。
「チィッ!」
 咄嗟に横に跳び、光波が肩先を掠め、服が灼き飛ばされ、皮膚に刺す様な痛みが走る。猛烈な熱さを感じた。空気が震え、大木が圧し折れ倒れゆく音が聞こえる。
 アルは後退しながら盾で蛇牙をブロックしつつ、エアへとヒールを飛ばす。捌いて身を捻りざま踏み込み、駆動するウィップを振う。またしても左の蛇がガードに入った。今度は鱗が爆ぜ飛び血飛沫が舞ったが、ダメージは浅い。
「ナルホド、対魔法防御の狼頭に、対物理の左蛇身ってトコかナ? で、右と虎頭がそれぞれ攻撃、と。アハハ! 雑魚じゃないネ、厄介だヨー!」
「そんな愉しそうに笑う事じゃないとっ、思うんだがねぇっ」
 エアは肩を再生しつつ再度の光波を横っ飛びにかわし、草の原を一回転して起き上がる。追撃の蛇が迫り、アルが間に入って盾でブロックし火花が散る。
 思う。
 跡目争いで他が死に、妾の子から一転、当主候補となったというこの友人もなかなか歪だ。体現化された死の腕が迫っても、まったく恐怖しない、怯まない。単に性格が明るいだけでは説明がつかない。何かが欠損している。遊ぶように笑いながら死の腕を叩き潰す。
 しかし、この状況、戦いの場において隣に立つにこれほど頼もしい男もなかなかいない。
 振り回されっぱなしなので素直に認めるのは癪にさわるが頼りになる男だ。
 エアは軽口を叩きつつも素早く仕留める方法を考える。どう屠る?
 短剣を回転させて逆手に握り直す。
「――狼頭から潰す」
「リョーカイ!」
 アルが蛇牙を盾で弾いた瞬間、エアが矢の如くに駆け出し、アルが鞭を放つ。
 蛇と鞭が激突し、虎の顎の奥が輝く。エアは高速で駆けつつ地面すれすれ、倒れ込む程に身を低く沈めた。
 瞬間、頭上を灼熱の光が突き抜け、光波を掻い潜ったエアは、踏み込み様、左腕を振り上げ、ハンマーグリップで握ったメイル・ブレイカーを振り下ろす。
 激突。頑強な三錐刃が頭蓋を貫き脳まで達した。澱みなく手首を捻り、掻き回す、内部を抉る。
 瞬間、脇腹への衝撃と共に視界が回転し青空が見えた。
 蛇がエアを薙ぎ払ったのだ。
 血反吐を撒き散らしながら吹っ飛んだエアが宙を舞い、樹の幹に背から激突し、トドメの追撃に蛇が猛然と襲い掛かる。
 視界に光が満ちた。
 アルの全身が激しく輝いている。神聖な光が場に荒れ狂った。光に呑まれた歪虚は苦悶の声を発しながら身をよじり、その動きが一瞬止まる。
 その一瞬、
『我均衡を以て均衡を破らんと欲す――』
 エアは避けるより先に杖先を歪虚へと向けていた。攻撃は最大の防御だと戦い慣れてる男は知っている。
『――灰燼に、帰せ!』
 杖の先端が紅蓮に輝き、巨大な火の球が勢い良く噴出した。
 次の瞬間、炎の球が歪虚に接触し、轟音を撒き散らしながら大爆発を巻き起こし、ゲル歪虚を爆砕した。


 かくて、歪虚は森に滅び、薬草は無事採取され二人は帰路についた。
(やけに疲れた)
 エアはパイプを咥え煙と共に息を吐く。
「ヤァ、今日も楽しかったネー♪」
 アルはキャッキャと上機嫌に笑い声をあげている。
(元気なヤローだね、ほんとに)
 子供のような様にエアは苦笑を一つ洩らすのだった。




 了



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 肩書き
ka2378 / アルヴィン = オールドリッチ / 男 / 半妖の帝国貴族
ka1856 / エアルドフリス / 男 / 遍歴の薬師

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご発注有難うございます。大丈夫ですよ〜。そこまで見込んでいただき誠に有難うございます。ファンタジーは好きなので詠唱とか魔法とか良いなぁと思いつつ、ハンターの身体レベルからくる動作レベルってこれくらいかな? とふんわり予想で描かせていただきました(そのあたりの資料が見当たらないorz)。ハンターさん達は瞬間移動的速度で動いたり生身で巨大ワーム斬ったりはしない、ですよね……? もし外れていましたら申し訳ございません。
 ご満足いただける内容になっていましたら幸いです。
水の月ノベル -
望月誠司 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年06月22日

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