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『あなたと愛と新たな息吹 』
リズレット(ic0804)&天河 ふしぎ(ia1037)


 ことことこと、と沸き立つ鍋の音。
 とんとんとん、とリズミカルな包丁の音。
 ふんふんふん、と鼻歌は陽気に。
 ここは台所。
 ひらりと背中で結んだエプロンの大きなリボンと銀色の長い髪が翻りましたよ。
 そして包丁を持つ手を止め、猫耳を伏せ気味に揃えてじっと横の鍋を見ます。
「お味噌汁は…そろそろ…?」
 鍋を気にした女性は、猫獣人のリズレット(ic0804) です。
「ん……」
 火から鍋を下ろそうと釜へ近寄ろうとしたところで、少し眉をゆがめて止まります。
「慌てないように…ゆっくり……」
 深呼吸して、改めてゆっくりと動いたのは自分の体を気にしたから。
 すっと手を添えた、エプロンを着けたお腹は膨らんでいます。
 リズレットは新婚さん。
 そう。妊娠五か月を過ぎたところです。おめでたいですね。
 まだ五か月ではありますが、それでもやや慎重なのはやはり家庭のせいでしょうかね。
 え?
 家庭のせいってどういうことかって?
 それは……。
「はっ! しまったんだぞっ!」
 突然、奥の部屋からそんな声が響きます。
 続けてどだだだだっ、と駆け寄ってくる音。騒々しいですね。
「リズ、大丈夫?」
 台所に現れたのは、天河 ふしぎ(ia1037) 。リズレットの旦那さんです。何ともにぎやかですね。
「ふしぎ様…リゼは大丈夫……です…」
 リズレットは落ち着いた様子で振り向き、旦那様に朝のご挨拶。
「それならいいけど……朝ごはんの支度は僕がやるんだから」
 どうやらふしぎ、そういうつもりだった様子です。でも、すでにお日様は朝という位置ではなかったりします。
「でも……」
「いいからいいから。リズはこっちのソファに座っててよ。ほら、お玉は僕が……」
 ふしぎ、つかつかとリズレットに駆け寄ると肩を優しく抱いてソファまでエスコートし……。
 ああっ!
 リズレットはいつものリズムでは歩けませんよっ!
「……あっ…」
「わわっ!」
 ――どっし〜ん。
「痛たた……」
 ふしぎ、ナイスです。
 とっさに体を入れ替えて、リズレットの体を巻き込むようにしてソファに倒れ込ました。ふしぎの背中はともかく、抱きしめたリズレットに衝撃を伝えない、男らしい倒れ込み方です。
 実際、リズレットはまったく痛がって……あれ?
「ん……ふしぎ様…」
 リズレット、赤くなってやや甘味のある声を出してます。
「リズ、無事……はわわっ!」
 何と、ふしぎの右手がリズレットの胸をつかんで……つい力を入れたものだからリズレットが思わず身をよじっているではありませんか!
「そのっ…リズ、ごめんっ!」
 慌てて手を放すふしぎを見て、上からのぞき込むリズはくすりと微笑。
「ふしぎ様、リゼは無事ですから…少し落ち着いてくださいね……」
「う、うん」
 ふしぎ、真っ赤になって顎を引いたままです。あれだけにぎやかな旦那さんが、まるでいたずらして叱られた猫のように小さくなっています。
 そんなことを思いつつ、リズレットは気付くのです。
「その……」
 ふしぎ、リズレットの視線の意味に気付きました。
「朝の挨拶がまだだったよね。……おはよう、リズレット」
「はい……おはようございます、ふしぎ様…」
 下になったふしぎがリズレットを改めて優しく抱きしめて、おはようのキスをするのです。
 もちろんリズレット、抱きしめてもらった手が自分のお腹を優しくさすったことも感じます。
 生まれてくる予定の赤ちゃんにも、挨拶してくれているのです。
「ん……」
 思わず抱き返す手に力が入ります。
 今朝はちょっと、おはようの挨拶が熱すぎるようですね。



 というわけで、朝食を仲良く二人で食べて今日も一日の始まりです。
「……お天気、いいですね…」
 何かと忙しい旦那が、気を遣って一緒に朝食を食べてくれた。そんな温もりを感じ、思わずリズレットは外を見ながら幸せそうに口にします。
 これが、引き金でした。
 やはり家庭のせいでしょうかね。
 え?
 家庭のせいってどういうことかって?
 それは……。
「リズ、お布団を干すんだね。僕に任せてよっ!」
 ごちそうさまをしたふしぎが寝室へと走っていきます。
 途端に、どたんばたん、どしっ!
 ――し〜ん……。
「あ、あの……ふしぎ様…?」
 リズレット、まさかふしぎが布団を抱えた瞬間にぎっくり腰になって屈んだところに机の角にしこたま額を打ち付けて悶絶しているのでは、と急ぎ立ち上がります。
 そして寝室に行ったとき、家政婦……ではなく新妻は、見たッ!
「はっ!」
 散らかした布団。
 正座しているふしぎ。
 背を丸めて両手に持っている、昨日ふしぎの着ていた服。
 そして、その手元ッ!
「こ、これは……飛空船が揺れて仕方なく、なんだぞっ!」
 白いシャツには、女性の口紅のキスマークがくっきりと残っていたのですっ!
 昨晩は暗かったから分からなかったようですが、まさか翌日に白日の下にさらされるとは。
「……ふぅ…」
「はっ! リズっ!」
 へなへな、と崩れ落ちるリズレット。ふしぎはシャツを捨てて慌てて駆け寄ります。
「大丈夫? ……その、ごめん。本当にやましいことはないんだ……」
 とても心配そうなふしぎ。
 いや、はっとてリズレットの顔を祈るように覗き込みます。
 別の心配事が頭をよぎったようです。
「……違うんです……ふしぎ様。…リゼ、ふしぎ様が倒れてしまったのかと…」
 言った瞬間、ぎゅっと抱き締められました。
「僕にそんな心配はいらないよ。……それより、良かった。リズは身重だから、気分でも悪くなったのかと思っちゃった」
「まあ……」
 リズレットはこの言葉に嬉しくなり、抱き着いてふしぎの髪を優しく撫でるのでした。

 そしてふしぎの今日の仕事は、空賊団「夢の翼」の次の冒険の計画立案です。
 早速、仕事部屋に引き籠って「ううん……」とか地図を見つつ髪の毛をくしゃくしゃしてますね。
「リゼは……少しでもふしぎ様のお力に…」
 愛する旦那のために珈琲を淹れるリズレット。
 この時、不思議なことが起きます。
「ううん、珈琲でも飲んで気分転換するんだぞ……」
 何と、ふしぎが珈琲を求めて台所にやって来たではないですか。
 愛し合う夫婦とはこんなものなんでしょうね。
 ところが……。
「はっ!」
「…え?」
 ふしぎ、リズレットが珈琲を淹れている現場を見て立ち尽くします。びっくりして振り返るリズレット。
「リズ、今日はいいから……僕がリズのお世話をするんだぞっ!」
「…いえ、リゼは……愛するふしぎ様のため……」
 もご、と口ごもるリズレット。
 昨晩から聞いているふしぎの「今日は僕が」。それでもリズレットは納得していません。いや、納得するしないではないのです。体が、自然に動いてしまうのです。
 なぜなら……。
「だめだよ、リズ……リズのために、最近は仕事を減らして少しでも手伝いをしようとしているのに…」
 愛する夫がそばにいる。
 それだけで心が弾む。
 それだけで、幸せになれるのです。
 この幸せを、ふしぎの世話をすることで分かち合いたい。
 それが夫婦というものかもしれません。
「…はい……」
 リズレット、小さく答えるのですが手はポットを持ちカップにお湯を注いでいます。
「それじゃあ一緒にしよう」
 ふしぎ、ポットを持つリズレットの右手に、右手を添えます。
 そう、右手。
 リズレットを背中から包むようにして手を伸ばして。
 こぽぽ、と珈琲を二人分淹れた時。
「…熱っ……」
 ふしぎ、手を放す時にヤカンに指が掠ったようです。
 火傷すまい、と咄嗟に指先を口に含みます。
 含む、のですが……。
「あの、ふしぎ様…」
「ん? んん……」
 おやおや。
 熱かったのは自分の指なのに、口にくわえたのはリズレットの指先でした。
 ふしぎは真っ赤になって身を縮めたせいか、余計にちゅうと指先を吸ってしまいます。それにキュンとするリズレット。
「……もう…」
 リズレット、笑顔で本人の代わりに火傷しそうな指を口に含んで冷ましてあげるのでした。



 やがて、夜に。
 愛する夫のため献身的にお世話したいリズレットに、「リズには僕たちの赤ちゃんがいるんだから」と全力で……というか、危なっかしく家事を手伝おうとするふしぎの失敗や、笑顔。そして普段より顔の近くなる日常が繰り広げられます。時に背中からふしぎがリズレットの腰に手を添え、時にリズレットがふしぎの持つ包丁にそっと手を添えて。
「ふしぎ様…素敵です…」
「リズも……素敵だよ」
 気付くと、近くに相手の顔が。
(これが……幸せなんですね…)
 改めて気付く温もり。
 空賊団がそうであるように、ふしぎの周りにはなぜか女性が多いようです。
(いつもは、ふしぎ様のために全体を見てますが……)
 一歩引いて全体を見るのが、日常でした。
 お嬢様的なところのあるリズレットには、もしかしたら積極的な部分は少なめなのかもしれません。
 でも、そんなお淑やかなお嬢様のそばに愛する人がいるのです。しかもこんなに近くに。
「…ふぅ……」
 思わず小さな顎を上げて、息をつきます。幸せで胸が詰まったのです。
 それを、ふしぎが勘違いしました。
「! …んっ……」
 上から被さるような、口づけ。
 ねだったわけではないのですが、自然とそうなったようで。
「…んんんっ……!」
 さりにびっくり。
 ふしぎ、リズレットのつけたエプロンの蝶結びをほどき始めたではないですか。
 するり、と脱がされるエプロン。
 ああ。
 これからどうなってしまうのでしょう。
 どきどきどきどき……。
「ん……リズ。今日はもう家事をする必要はないんだからなっ」
「…え……?」
 長かった口づけの後、エプロンを脱がした後、そんな言葉が。
「だから、ゆっくりしてね」
 続いて極上の笑顔。
 それもキュンとするけど……。
 リズレット、いじ……と身をよじってふしぎに上目遣いでおねだり。
「さあ、取り掛かるんだぞっ」
 威勢よく、片付けもの。
 リズレットはその背中を見るだけ。
「……良くも悪くも、こうなのですね……」
 思いもよらないらきすけがあるかと思えば、期待を外すおとぼけ。
 でも、リズレットは慣れているのです。
 慣れているのですが……。
「そうだ」
 ふしぎ、振り返ります。
「今度の冒険はいろんな神社を巡るんだ。……安産のお守りをいっぱい手に入れるんだぞ!」
「まあ……」
 リズレット、一つでもいいのに、と思わず微笑むのでした。
 今は、秋。
 春に妊娠を告げて、期待が高まるように季節が順調に流れています。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ic0804/リズレット/女/16/砲術士(獣人)
ia1037/天河 ふしぎ/男/17/シノビ

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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リズレット 様

 いつもお世話様になっております。
 この度はご懐妊、おめでとうございます。日常系ということで、お腹に耳を当てて生まれてくる赤ちゃんに二人静かに思いをはせる……とかいうのではなく! やっぱりらきすけ一直線という内容に。それもこれも旦那様が以下略なのです。
 ラストは迷いましたが、リズレットさんって銃の蒐集家で、ふしぎさんもそれを知っているのでいろんな神社の安産のお守り集めをしよう、で締めてみました。

 ラブラブな依頼、ありがとうございました。
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2015年06月23日

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