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『イニヴァールベース攻略作戦 』
ロドルフォ・リウッツィjb5648


 ――これは。或いはあったかも知れない、どこかの世界の物語。

「凪。他の者はどうした?」
 机の上に、広げられた地図。それを見つめていたロングコートに眼鏡を掛けていた天使が、新たに部屋へと入ってきた、赤髪の女性に問いかける。
「ロドルフォはフィオナと鍛錬中よ。代わりにマクシミオを遣してきたけど」
 凪と呼ばれた赤髪の女性が後ろを指差すと、そこにはロングヘアーの男。
「作戦なんてお前が覚えてりゃいいんだ、って言われてね」

「――あの二人の性格を考えれば、当然の事か。まぁ、いい。こちらへ来てくれ」
 表情一つ変えず、地図の前に居た天使――エクセリオは、他の二人を、同様に地図の前へと招く。
「……明日、イニヴァールベースの攻略作戦が行われるのは、知っている通りだ」
 皆、頷く。
「守備兵士は、攻守共にバランスの取れた黒槍戦団。……普通ならどちらかに偏らなければ中途半端になってしまう所だが、この者たちの場合、攻撃用の隊と防衛用の隊を完全に分ける事によって両立させている、と言った所か」

 情報は、力である。
 事前の調査に抜けのない所からも、エクセリオの情報収集力が見て取れる。

「正攻法ならば、兵力の劣るこちらに不利だ。特化型のサーバントは持ってこれなかったしな。しかし――」
「何が手があるの?」
 凪の問いかけにエクセリオがカチ、と眼鏡を押し上げる。

「こちらの優勢は、将が多い事にある。故に、総大将を囮にしても――問題あるまい?」
 エクセリオの提案した手は、総大将――即ち、彼自身が、囮となる事。
「それは少し軽率じゃないかしら? それで攻撃隊を全滅させられたとしても――防御隊を破る手が必要だわ。リスクに比べて効果が薄いわね――自分で手柄を取るのに躍起になりすぎじゃない?」
 皮肉の混じった指摘。然し、それをエクセリオが気にする様子はない。
「……いいポイントだ。確かに、攻撃隊を殲滅しただけでは、防御隊が城に引きこもって、千日手になりかねない」
 凪とはもう、長い付き合いだ。なのに未だにいがみ合うの事があるのは、策略家としての、一種の同属嫌悪なのだろう。
 だが、反論なくして良い策は生まれない。お互い穴を指摘し、それを埋めてこそ。万全の策は、完成するものなのである。
「故に、こちらは敗退を装う。追撃に相手が出れば、外に待ち伏せていた二チーム目がその後ろから入り込み、ベースへの退路を断つ。出てこなければ――表へ注意を引いた所で、ベース裏からの潜入組みが、掻き回して開放する」
 三段構えの手。腕を組み、地図に目を見やり――
「いいわ、それでいきましょう」
 凪は、同意した。
「それではマクシミオ。これをロドルフォと――フィオナにも伝えてくれ」
「えぇ――フィオナ様が怒ったらどうするんす――」
「いつも通り、文句は俺の所に言いにくるようにすればいい」
 頭をぼりぼりかきながら、やれやれ、と言った感じで。
「はいはい、分かりましたよ、伝えてきますよー っと」
 胃の辺りを押さえながら出て行くマクシミオの背中に、エクセリオは苦笑いを浮かべた。

「……何を弱腰になっているのだ?エクセリオ」
 そして予想通り。その晩、金髪の天使――フィオナはエクセリオの前に立った。
「力づくで押しつぶしてしまえば良かろう。……我らの兵の錬度は相手を上回っている。貴様が怖気ついたのなら、我が兵を率いて敵を潰そう」
 傲慢不遜。然し、その言は、確かな実力に基づいている。今回派兵された『将』の中で、総合能力のみを論じれば、彼女以上に強い者は居ない。
「――お前の能力を持ってすれば可能だろう。…多大な損害を出して、な」
「……」
 正面突破を行えば、損害は免れない事は、フィオナも良く分かっている。それでも文句を言いに来たのは、ストレス発散の一種と言えよう。
「――暴れるチャンスは、明日十分にある。撤退戦にも潜入にも向かん。それ故に、お前に一番合う、ベストポジションを――用意した」
「……その言葉、信じていいのだろうな?」
 振り向くエクセリオは、ゆっくり頷いた。


 ――ワァァァァアア――
 太陽が頭上の真上に昇った頃。
 エクセリオ率いる一隊は、突進する敵高速騎兵の猛撃を受けていた。
「陣列を崩すな!突進は一点だ……その一点に防御を集中しろ!」
 的確な指揮。
「まだか?」
「ああ、もう少しだ……」
 大剣を構え、機を待つのは、マクシミオの主であるロドルフォ。無論、主がそこに居るということはシュトラッサーも居る訳で、マクシミオもまた、盾を構えて、その後ろに。

「――頃合か。全軍、前を空けろ!偽装潰走開始!」
 事前に兵に持たせた『ダガー』が、彼の『目』となる。それが、機は熟したと判断したのだ。
 兵が一斉に、後ろを向き、後退し始める。ワザと陣形の真ん中を、まるで逃げ急いでカバーを忘れたかのように空け、大将――エクセリオまでの道を空けて置く。
 狙い通り、敵は将を討ち取るべく――一斉に押し寄せる。
「ちょっ、これは流石に――!」
 盾を構えたマクシミオが、飛来する無数の矢を、光の壁を展開して防ぐ。が、余りにも密度が高すぎる。じり、じりと、彼は押されていく。
 その彼の後ろから飛び出すように、ロドルフォが前進する。跳躍で矢の雨の更に上を越え、翼を広げて滑空。後衛を狙って踏みつけて先ず一人。
 続いて、下段への満月斬が、周囲を薙ぎ払い。5人ほどを、同時に切り倒す。
 余りにも鮮やかな反撃。その隙に周囲の撤退していた兵たちは一斉に動き出し、逆に追撃してきた隊を包囲してしまう。
 ――恐らくは、大将を討ってしまえば戦陣が動揺し、その隙に脱出できると踏んでいるのだろう。敵の攻撃隊は包囲の突破ではなく、更に兵力を集中させ、エクセリオの撃破を狙う!
「いい加減――死んでおけ!」
 捨て身が如く、エクセリオの前で剣を振り続け、押し寄せる敵の波を引き裂き続けるロドルフォ。
 然し、攻撃に傾けすぎれば当然、防御には隙が出来る。
「――っ!!」
 味方の屍を足場にし、敵の一人が斜め上から、槍を突き出す。狙うはロドルフォの心臓、その一点で――
「フン」
 カン。投げられたナイフが、槍の軌道を逸らし。
「うちの主に手出すんじゃねぇ!」
 マクシミオの盾による叩き付けが、その敵を地に沈める。
「っ……」
 その隙に敵後方から射られた矢が、エクセリオの肩に突き刺さる。だが、表情を僅かに変えながらもそれを気にせず。エクセリオは四方にナイフを放ち、彼の最も得意とする技――『陣』を展開した。
「やってくれたなぁ!!」
 陣の影響により、弱った敵に。ロドルフォが飛び掛り――真っ二つに切り裂く。
 それを機にして、四方の天使たちが一斉に押し寄せ――敵の勢力を文字通り『押し潰し』た。

「何で――俺を助けたんだ?」
 僅かに眉をしかめ、肩から矢を抜くエクセリオに、ロドルフォが問いかける。
「俺の代わり等幾らでも居る。死んでも安いもんだぜ。その為にあんたが――」
「損得計算がなっておらんな」
 びしゃりと、言葉を遮る。
「兵士を一人育てるのにも、途方のないコストが掛かっている。お前みたいな『将』なら、尚更だ。……それを簡単に使い潰すほど、浪費屋になった覚えはない」
 軽く自身の傷を手当し、立ち上がる。
「休んでいる暇はない。フィオナと協力し、もう一隊の敵を叩き潰す」

「――軽いものね」
 ガシャン。ステンドグラスを破壊しながら、凪は砦の中に着地する。
 敵の注意は表の戦場に引き寄せられている。故に、彼女らの潜入に気づくものはいない。
 パトロールの兵を一人、又一人と。一撃の元に壁にめり込むほど叩きつけ殺害しながら、彼女は敵が待機する入り口付近の広場へと向かっていく。
「さぁ…蹂躙しなさい」
 完全に不意を突いた襲撃。彼女の号令と共に、兵たちが一斉に敵に飛び掛る。
 安全な砦の中で襲われるとは予測していなかった敵は逃げ惑い。然し、指揮官が有能だったのか、そのうち規律を取り戻し、防御の陣になりながら、少しずつ入り口に向かって後退していく。
「…流石にこれではどうしようもないわね」
 元より、潜入という目的上、凪が率いた兵はそれ程多くはない。奇、こそが彼女らの利であり、その全貌を把握された今、この兵力のみで敵を殲滅するのは不可能に近い。
「ま、いいわ。入り口のほうに任せましょ」

 ――一難去ってまた一難…とは、よく言った物である。
「はっ、思った通りに引っかかってくれる。…ヤツは好かんが、作戦のうまさは認めねばなるまい」
 砦から敵兵が離れたその瞬間。周りで待ち伏せていたフィオナの兵が、敵と砦の間に入り込み、その退路を封鎖する。
 腕を組んで、堂々と敵の前に立つ。
「…かかってくるか?それとも――負け犬になるか?」
 敵陣にざわめきが走る。だが、それは直ぐに落ち着き、ゆっくりと敵は砦から離れるように動き出す。
「負け犬か。――ならば、死あるのみだ」
 フィオナのその言葉に答えるように、エクセリオの一隊が、敵の後方に現れ、彼らを包囲した。

 ――窮鼠猫を噛む、という諺がある。それは、正に今の敵兵の状況を表していた。
 包囲された彼らは、脱出の為に必死に交戦を行い、それ故に普段以上の力を発揮していた。
 だが、必死になるという事は、即ち視野が狭まるという事でもある。統制が取れず、一点に力を集約する事は出来ない。
「うーん、押し切れねぇな」
 盾から光の波動を放ち敵を押し退けながら、マクシミオが愚痴る。
「ぐちぐち言ってる暇があったら、手を動かしな!!」
「はいはい、ったく人使い荒いんだから…」
 ロドルフォと、まるでそれぞれ剣と盾であるかのように、完璧なコンビネーションを発揮し、敵の攻撃を受け止め、それを屠って行く。
「…ふむ。確かに面倒だ。…凪!」
「何よ?」
「少し追い立ててやってくれ。フィオナはこちらへ」
「ふん、行ってやらん事もない」
 ワザワザこんな時までツンデレを発揮する事もあるまい、と思う者もいよう。だがそれを口に出すのは無粋である。兎も角、フィオナの隊は、エクセリオに接近していく。
「行くぞ」
 急激に、展開する陣を切り替えるエクセリオ。
 弱体化する敵。その混乱に乗じて、フィオナが飛び込む。
 暴れる獅子の如く、双拳が敵を叩き、吹き飛ばし、押し潰す。狭い範囲に固まるよう、凪に誘導されていた敵は、成すすべなく拳の暴風の前に倒れていく。
 ――そして、獅子の爪は、終に敵の主を捉える。
「何か言い残す事はあるか?」
 敵の指揮官が、にやりと笑った気がした。
「くたばりやがれ」
 急激に魔力反応が上昇する。手を離して後退するフィオナ。だが、間に合わない。
 爆発が、その場にいた全員を襲った。
「――損害状況を報告しろ」
「こちらは無事よ。ちょっと魔力に当てられたけど、別段動くのに支障はないわ」
 服についた土をはたきながら、凪が立ち上がる。
「こっちも問題ねぇ」
 ロドルフォもまた、大剣を支えにして、立ち上がる。
「――大丈夫だ」
「へへっ、守りきった…ぜ…」
 ばたりと、マクシミオが倒れこむ。盾を構えその身を挺して、彼はフィオナを守ったのであった。

「いてて……っ」
「もう大分直ってるじゃねぇか」
 ――一週間後。治療施設にいたマクシミオを訪れたエクセリオが見たのは、先客――ロドルフォの姿。なにやらフルーツを切っているようだが――
「まだ皮ついてるじゃねぇか!?」
「少しは我慢しろ!!」
 それに苦笑いしながら、エクセリオが器用に別のフルーツを向いていく。
「ほら、エクセリオ様のほうがうまいっすよ!」
「だぁぁ!もうお前の為にはやってやらねぇ!」

「――賑やかね」
 呆れたように、部屋の入り口で頭を横に振る凪。
「まぁそう言うな。前回の功績で全員、休暇を貰ったのだ。少しはハメを外しても悪くあるまい」
 その隣には、いつの間にかフィオナが。

 かくして、戦役の一つは完遂された。
 だが、彼らが『兵』であり『将』である以上、その戦いが止む日はないだろう。
 願わくば。一時の、安らぎを――
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剣崎宗二 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年06月24日

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