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『陽のようにきらめく日常の中で 』
シルヴェーヌ=プランka1583)&クリスティア・オルトワールka0131

 思わずうたたねに微睡みたくもなる春も過ぎて、少しずつ緑が深く染まっていく。
 徐々に強さを増していく陽光に目を細めれば、夏の訪れを体いっぱいに感じることも出来たのだが生憎ながらこの所雨が続いている。
「雨の日が多いですねぇ」
「リアルブルーではこの時期『ツユ』と言うそうじゃ。雨ばかりが振る季節があるとこの前本で読んだのじゃ」
 空を覆うどんよりとした雨雲に嘆息しながらクリスティア・オルトワールが呟くと視線を本に向けたままシルヴェーヌ=プランが答えた。
 場所はシルヴェーヌの自宅兼小図書館。しとしとと雨音が鳴り響くだけの静かな空間で、シルヴェーヌは魔術研究に没頭し引きこもりのような生活を続けている。
「雨の日は嫌いではありませんが、雨ばかり降る季節があったのでは流石に飽きてしまいそうですね」
「わしは雨の日はあまり好まぬ。湿気は本によくないからの」
 話しながらもページを捲る手を止めないシルヴェーヌ。雨があまり好きではないという理由も、なんだか彼女らしくてクリスティアは思わずクスリと小さな笑いを立ててから、とあることを思いついた。
「シルヴィ、今度、晴れたらお散歩に行きませんか?」
「散歩にかの?」
 其処で初めてシルヴェーヌは本を捲る手を止めて、きょとりと首を傾げた。
「ええ、商店街にまた新しいお店がいくつかオープンしたそうです。何か新しい発見があるかもしれませんよ」
「それは本当かの! 行きたいのじゃ!」
「はい、では次晴れた日に一緒に行きましょうね」
 元気よく答えたシルヴェーヌにクリスティアは優しく微笑み返した。


●街へ
 そんな約束を交わした翌日、早速空は晴れたので出かけることになった。
 昨日までの雨続きの日々が嘘だったかのように空は澄み渡り、雲の一つさえ見えない。

 クリスティアがシルヴェーヌを迎えに行くと、彼女は楽しみだったのかクリスティアが扉をノックする前に自分から出てきた。
「ティア、早速行くのじゃ!」
 軽く挨拶を交わすと、早速シルヴェーヌがクリスティアの手を握りまばゆいばかりの視線を向けてきた。
 無邪気な姿を微笑ましく思いながらクリスティアは頷いた。
「はい、行きましょうか」

 前日までの雨で草や花には雫が溜まり、陽光を受けてキラキラと燦めいている。
 少し目をこらせばいつもと少し違った動物達が居て、それもシルヴェーヌの興味を惹くには充分。シルヴェーヌが手を引く度にふたりは立ち止まって眺めた。
 そうして道草を思う存分楽しみながら商店街にたどり着いたのは、散歩というにしても少し長く掛かりすぎた頃合いだった。
「ティア、ティア、あれはなんじゃ! 何かをやっておるぞ!」
「あ、あれは大道芸人ですね。行ってみますか?」
「うむ!」
 ふたりは駆け出すような勢いで人だかりへと向かっていく。
 賑やかな歓声。人混みの中を縫うように進めば運良く最前列に出られた。人々の中心では派手な格好をした大道芸人が大げさな口調と仕草でバルーンアートを披露していたところのようだ。
 出来上がったのは犬の風船のようだった。大道芸人はそれを小さな少女に渡すと、シルヴェーヌの前に訪れて手を差し出した。
「そこの最前列のマドモワゼル。どうぞ、私の手を」
「わ、わしかえ?」
 まさか声をかけられるとは思っていなかったシルヴェーヌは少し驚いた様子をしている。ふと隣に居たクリスティアを見ると『行っておいで』とでも言うように優しく微笑んだので、恐る恐るクリスティアは手を取って大道芸人にエスコートされながら中央へと向かう。
 中央にたどり着くと大道芸人は深々として一礼。そして、手のひらをぽんっと開いて。
「今日の出会いに感謝して」
 自然な動作で差し出されたのは白百合の花。
「魔術ではないのう……どうしたのじゃ」
「ふふ、魔術じゃない魔法ですよ」
 興味深そうにまじまじと受け取った花を見つめるシルヴェーヌに大道芸人は笑みを返した。
 やがて芸は終えて、人は散り散りとする。シルヴェーヌはクリスティアの姿を眺めながらふと。
「うーむ……そうじゃのう。ティア、少し屈んでくれぬかの?」
「はい……え、えっと、こう、ですか?」
 シルヴェーヌに促されてクリスティアが屈むと、シルヴェーヌは彼女の頭に手を伸ばして先ほどもらった花をクリスティアの髪に飾った。
「ティア、似合うのじゃ」
「あ、ありがとうございます」
 無邪気に笑うシルヴェーヌに、礼を言うクリスティアの表情は少し照れくさそうだった。

「お腹が空いたのう」
 シルヴェーヌの呟きで、気付けば陽が中央を少し過ぎていた頃だと知る。
「何か良いお店は……」
 と、クリスティアが呟いたところでなにやら香ばしそうなかおりが鼻をくすぐった。それはシルヴェーヌも同じだったようで、頷き合い向かうとリアルブルー風の店構えを見つける。
 店の窓からそのまま注文出来るようになっているようで、メニューは両手でギリギリ数えられる程。その中でも一押しだという『タコヤキ』を頼むことにした。
「てっきり、焼いたタコが出てくるのかと思っていたのじゃが、何やら団子のようじゃの」
「ええ、あ、中にタコの切った足が入っているようですよ」
 クリスティアは出来たてのたこ焼きを冷ます意味合いも込めて割り中を確かめてみた。
 ふたりとも、それなりに料理が出来る。それ故にリアルブルーの変わった料理は興味を惹く。シルヴェーヌは口に放り込む。でも、冷ましていないたこ焼きは当然熱いわけで。
「あふっ」
「はい、お水です」
 タイミングよく差し出された水を受け取って、飲み干すと一息。
 お陰で味よりもインパクトが強い思いでが出来た。暫く忘れられそうもない。

 服屋には様々な。女性向けの服が置いてある。今ひとつ統一感がないのは店主のこだわりの品を集めるというコンセプト故だろうか。
 今流行のファッションの中には意外と露出度が高いものもあったりして、少し驚いた。
 その中でも、目にとまったのは真っ白なワンピース。何やら特徴的な紺色の襟と赤色のスカーフがついている。
「ふむ? この服は変わったデザインじゃのう」
「あ、ええ……お客様。それはリアルブルー出身のデザイナーが手掛けたワンピースなんですよ。『セーラー』という学生服の要素を取り入れて普段着にしたものだそうです」
「涼しげなデザインが、これからの季節にぴったりそうですね」
 クリスティアの呟きにシルヴェーヌは頷く。
 その後店主に案内されてリアルブルーの学生服や民族衣装をアレンジした様々な服を見た。その中には前に本で絵を見たものもあったが、その変わり具合に驚いてしまった。


 やがて、陽は傾き街を夕焼けの色に染める。
 ちらほらと片付けを始める店も出てくるこの時間。クリスティアはシルヴェーヌに手を引っ張られて、まさに閉店の準備をしようかとしていた店に訪れた。
 アンティーク風の雑貨や硝子水晶の小道具などを扱っているようで、ショーウィンドウに並ぶ硝子細工が夕陽を浴びてきらきらと輝いていた。
「こんな店、あったかの?」
 思わず首を傾げたシルヴェーヌに店主の女性は『母から受け継いだ店だけれど、通りから外れた場所にある為静かなものです』と返した。
 確かに普段は通らない道だったし、通ったとしても抜け道として使っていて、こんな小さな店に気付くことはなかった。
 改めて親友とともに散策に訪れたことや、気付けなかったことに気付いたことを嬉しく思う。
「ティア、わしはそろそろあの図書館を改装しようと思うのじゃ。内装にもこだわりを……む、ティア。この水晶ネコの置物などどうじゃ? む、このアンティーク風の筆おきも良いのう、この羽ペンも洒落ているのじゃ」
「でしたら、まずはちゃんと片付けないといけませんね。どんなに素敵なインテリアでもあの部屋ではただの置物です! さらに散らかすんですか?」
「うっ……」
 クリスティアの指摘。図星だった。
「まずはきちんと整理整頓が出来るようになってからインテリアにこだわりましょう。いいですね?」
「ど、努力はするのじゃ……」
 思わず縮こまったシルヴェーヌにクリスティアは思わずクスりと笑いを立ててから。
「ちゃんと片付けて此処に何を置こうとかそういうのを決めたらまた来ましょう。私も手伝いますから」
「本当か! わし、頑張るのじゃ!」
 夕陽に輝く硝子細工に負けじと瞳を輝かせて頷いた。
「というわけで店員さん、また来させてください」
「はい、お待ちしてますね」
 丁寧に礼をした店員に見送られて、店を後にする。

 暫く歩くと、空はすっかり星模様。点滅を繰り返していっぱいに燦めくその姿は星同士で会話しているようにも見えた。
「先ほどのお店の雑貨も綺麗でしたけれど、やはり星は綺麗ですね」
「うむー」
 シルヴェーヌに頷いて星空を仰ごうと顔を上げると、地面の石に躓いて転びそうになった。しかし、クリスティアがすぐに受け止めてくれた。
「ありがとう……」
「どういたしましてです。そうだ、シルヴィ……今日の夕飯は星空を見ながら外で食べませんか?」
「賛成じゃ! 楽しみじゃのう」

 そうして、ふたりは家路を目指す。
 すっかりと日は暮れたけれど、優しいとある一日は、まだもう少しだけ続いていくようだ。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1583 / シルヴェーヌ=プラン / 女性 / マギステル】
【ka0131 / クリスティア・オルトワール / 女性 / マギステル】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ひとつ深呼吸をすると、改めて気付く世界の鮮やかさに驚きます。
 大変お待たせしてしまい申し訳ございません……!

 初めてのファナティックブラッドの発注でドキドキしながら執筆しましたが、とても楽しく日常を書かせていただきました!
 気に入っていただけるといいなと思いつつ……ご発注ありがとうございました!
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
水綺ゆら クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年06月25日

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