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『ボクがヨルで、俺が黒で!? 』
蛇蝎神 黒龍jb3200


●ボクの身体が

 その日の朝。
 蛇蝎神 黒龍(jb3200)は、我が目を疑った。
 隣のベッドに、ぐっすり眠っている自分の姿が見える。
 目覚めた筈なのに、まだ夢を見ているのだろうか。
 それとも幽体離脱?
 だが、身体の感覚はある。
 自分の頬に手を当ててみた。

 ぷに。

 柔らかい。
 肌の調子が良い時よりも、更にツルツルで滑らかな手触り。
 毎朝感じる、夜の間に伸びた髭のザラザラした感触もない。
「なんや、これ」
 声を上げたところで、気が付いた。
 自分の声ではない。
 それに、どうも視野が狭いと思ったら左目が眼帯で隠れていた。
 これはまさか。

 ベッドを降りて鏡の前に立ってみる。
 普段より低い目線と、軽い身体。
 そして鏡に映ったその姿は――

「ヨルくん?」


●俺の身体……?

 隣のベッドで相棒が起き上がる気配を感じ、七ツ狩 ヨル(jb2630)はうっすらと目を開けた。
 その視界に映る自分の姿。
 こんな所に鏡なんて置いただろうか。
 いや、鏡である筈がない。
 自分はまだベッドに横たわっているのに、向こうに見える自分は起き上がっている。
 こちらを見て驚いた顔をしている。
「どういう、こと?」
 声を出してみて、ヨルもまた驚いた。
 自分が喋った筈なのに、自分の声ではない。
 この声は黒龍の――?

 起き上がり、床に足を付けてみる。
 いつもよりベッドが低い。
 いや、自分の足が長くなっているのか。
 立ち上がってみると、足元がふらついた。
 何だか他人の身体を操っている様で、上手くバランスが取れない。
 と言うか、実際その身体はヨルのものではなかった。

 額にかかる黒い髪。
 顎に手をやると、伸びかけた髭がザラザラと痛い。
 いつもより高い目線に、重い身体。
「これ、黒の身体……?」
 見れば、自分の姿をしたものは鏡の前で百面相をしている。
 ここは何と声をかければ良いのだろう。
 そこの俺、何してるの……、とか?
 いや、どう見てもあの中身は――


●入れ替わり事案、発生中

 黒龍(外見ヨル)は鏡に映った自分の姿をまじまじと見つめていた。
 今なら見られる。
 普段は服の下に隠された、あんな所やこんな所……いやいや、流石にそこは我慢だ。
 でも普段からお触りが許されている場所ならきっと大丈夫というわけで、黒龍は自分の身体――いや、正確には自分の意識が入り込んだヨルの身体を触りまくる。
 ぺたぺた、ぺちぺち、ほっぺをむにむに。
「黒、何してるの」
 半ば呆れた様な声音で、ヨル(外見黒龍)が問いかけて来る。
「ん? ヨルくんも色んな表情出来るんやなーと思てな」
 普段はそれが精一杯と思われる微笑から、白い歯が零れる満面の笑みまで、少しずつ段階を上げて表情を作ってみる。
 次は照れた顔、慌てた顔、嬉し恥ずかしの顔、恥ずかしさMAXで耳まで赤くなった顔。
「黒、人の顔で遊ばない」
「えー、少しくらいええやん、滅多にない機会なんやし」
 と言うか、何故こんな事になったのだろう。
 昨晩、仕事場に二人きりでいた時に、おやすみのキスをした事までは覚えている。
 そこから先は、つい先程目が覚めるまで全く記憶に残っていなかった。
「じゃあ、あれが原因?」
「かもしれへんな」
「どうしたら戻る?」
「もう一度キスしたら戻るんやないかな」
 でも今は暫く、この身体を堪能したい。
 ということで。
「ヨルくん、この眼帯外してもええ?」
「いいけど……じゃ、俺に貸して。なんか、左目がスースーして……変」
 眼帯を交換して、片目の黒龍と両目ぱっちりのヨルが出来上がる。
「おお、眼帯のないヨルくんも新鮮でええなぁ」
 黒龍は鏡の前でご満悦。
「なあ、ヨルくんは何したい? ボクの身体で何かしたい事ある?」
「そうだね……戦ってみたい」
 普段の自分よりも大きくて、リーチも長いこの身体で組み手をしたら、どんな感じになるのだろう。
 戦い方も自然と変わって来るのだろうか。

 外に出た二人は、早速戦闘モードに入る。
「手加減はしなくて良いよね。それ、俺の身体だし」
「でも元に戻られへんかったら、ボクずっとこのままやん?」
 そうでなくとも、ヨルの身体を傷付けたくはない。
「わかった、じゃあ最初は軽く」
 準備運動のつもりで互いに技を出し合い、身体が温まってきたところで本気モードに切り替えた。
「行くよ。全力で守って」
 ヨルはまず横から回し蹴り。
 黒龍はそれを腕でガードしたが、相手のパワーに押されて防ぎきれなかった。
 軽く吹っ飛ばされて受け身を取り、今度は姿勢を低くして相手の懐に飛び込む。
 パワーとリーチで劣る分、ヨルの身体は小回りが利く。
 屈み込んだ背を伸ばし、その勢いで思いきり足を振り上げた。
 しかし相手は腕を交差させてガード、更にはその足を脇に挟み込んで固定し、反撃の蹴りを見舞う。
 流石に大きな身体から繰り出される攻撃は、一撃の威力が重かった。
 ただ、そのぶん大振りになるせいか、避けるのは難しくない。
 お互い「自分の身体」に慣れてくれば、普段の戦いと余り変わらない様に感じられた。
 ヨル入り黒龍は試しに斧槍をぶん回してみる。
「あ、これ……結構良い?」
 長いリーチが更に長くなり、向かうところ敵なし――かと思ったが、懐に飛び込まれればその利点も活かせない。
「一長一短やね」
 どんな体格にも、それぞれに有利な点はあるものだ。

「さてと、そろそろ食事にせえへん?」
 ひとしきり汗を流した後は、黒龍がヨルの身体で食事の支度。
 このヨルは、やたらと火力を上げたりしないし、何にでもカフェオレを入れようとする事もない。
 と言うか、手早く手際よく美味しい料理を作るヨルの姿というのも、やはりなかなか新鮮だ。
「出来るまで、これでも飲んどってや」
 出されたカフェオレを一口飲んで、ヨル入り黒龍は首を傾げる。
「いつもと味が違う、気がする」
 やはり身体が違うと味覚の感じ方も異なるのだろうか。
「あ……」
「ん? どないした?」
 その問いに、黒龍は暫し躊躇い、小声でぽつり。
「トイレ」
「行ってくれば良いやん?」
「でも、この身体……」
 黒龍の、だし。
 トイレで用を足すには、あの、ナニをナニして、ですね?
「なら、戻ろか?」
「戻れるのかな」
「物は試しや」
 自分の顔をした相手と口付けを交わすのは、何だか妙な気分だが――

 ちゅ。

 待つこと暫し。
 しかし、何も起こらない。

「一晩寝る必要があるんやろか」
 何にしても、今すぐに元に戻る事は出来ない様だ。
「わかった。なるべく見ないように、手早く済ませる」
 だから黒龍も、変なところをじろじろ見ないように、ね。


●ずっと、このまま?

「今度はボクのやりたい事、叶えさせてな?」
 食事を終えた黒龍はヨルの隣に寄り添い、その身を預ける。
 膝枕をして貰ったり、スリスリと甘えてみたり、普段はお目にかかれないデレヨルを堪能しつつ、そんな風に甘えて貰える自分の身体に嫉妬してみたり。
 そうしているうちに、ふと小さな不安が心をよぎった。
「これ、ほんまに元に戻れるんやろか」
 戻れなくなったら、どうしよう。
 どうする?
「俺は別に……」
 ヨルが答える。
「種族もジョブも一緒だし、慣れれば大丈夫かな、多分」
 この身体でも戦える事は確かめた。
 後は普段の活動に支障がなければ、とりあえず大丈夫そうだ。
「うん、ボクも慣れれば大丈夫やと思う」
 ずっと好きで、愛していける確信もある。
 けれど。
 相手の顔が高く、遠く見える分だけ、心の距離も遠くなってしまった気がする。
 恐らくそれは、ただの気のせいなのだろう。
 けれど、入れ替わる前のヨルも、そんな風に感じていたのだとしたら。
 自分の気持ちがなかなか上手く伝わらなかったのも、わかる気がする。
 その距離を埋める様に、黒龍はヨルの身体で黒龍に抱き付き、甘え、擦り寄って、身体のあちこちに口付ける。
 そこに込めた心苦しさや、愛しさや切なさが、自分の身体ならわかるだろうか。
 もっと上手く伝わるだろうか。
 して欲しい事が、向けて欲しい表情が、仕草が、わかって貰えるだろうか。
「今向けてる貌や仕種はね、ボクが望む姿で……ってわかるかな」
 しかし、黒龍の姿をしたヨルは、少し寂しそうに目を伏せた。
「黒は、俺にそういう事して欲しいの?」
「うん」
「そういう事、しなかったら……好きじゃなくなる?」
「……」
 そんな事はない。
 けれど。
「黒は、俺のどこが好きなの?」
 今のままでは、駄目なのだろうか。
「俺は、俺だよ」
 表情の変化に乏しくても、感情の揺れ幅が小さくても、無気力そうに見えても。
「うん、せやな」
 そう、どんな姿でも、ヨルはヨルだ。
「ごめんな」
 けれど、もっと深く知りたい。
 誰にも見せた事がない、自分しか知らない貌を、もっと見たい。
 それはただの我侭かもしれないけれど。
 だとしても――その想いを手放す事は出来なかった。
「少しずつでも良い、ほんの少し、たまーに……超レアでも良いから……新しい貌、見せてくれんか」
「……わかった」
 努力はしてみると、ヨルは頷いた。
「ありがとう……おおきに」
 黒龍は下から見上げたその貌に、そっと唇を重ねる。
「これからも傍にいて下さい」
 愛しい人の声で、愛しい人にそう伝えながら。


●そして――

 翌朝。
 目覚めた時には、二人の身体は元に戻っていた。
 あれは夢だったのだろうか。
 二人で同じ、長い夢を見ていたのだろうか。

 もしも夢だったとしても。
 ひとつ、はっきりと覚えている事があった。

 ――これからも傍にいて下さい――

 すっと、すっと。
 遠い先の、未来まで。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb3200/蛇蝎神 黒龍】
【jb2630/七ツ狩 ヨル】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。
そして、ぎりぎりまでお待たせして、申し訳ありません。

二人の距離感はこんな感じで良いのだろうかと迷いつつ。
リテイクはご遠慮なくどうぞ!
■イベントシチュエーションノベル■ -
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エリュシオン
2015年06月26日

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