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『幼馴染達の日常 』
シルヴェイラka0726

 ――さて、どうしたものかな。
 街外れの森。その中にある図書館の一室で、シルヴェイラは深いため息をつく。
 窓から入ってくる木漏れ日はとても柔らかで気持ち良いのに、エルティアの蒼玉の瞳は怒りに揺れたままだ。
「なあ、そろそろ機嫌を直してくれないか?」
「……別に怒ってなんてないわよ?」
「そうか? 思いっきり『不機嫌だ』って顔に書いてあるが」
「そんなことないったら。……ただ、ひとつ確認したいのだけれど」
「何かな?」
「……どうしてこの服を選んで来たのかしら?」
 どこか凄みのある笑顔を浮かべるエルティア。シルヴェイラはモノクルをくい、と上げると、もう一度深くため息をついて……。


 彼女の怒りの発端は、シルヴェイラがエルティアの為に購入してきた服のサイズが合わなかったことだ。
 ――洋服をプレゼントするだなんて、さぞや仲の良い恋人なのだろうと思いきや、実はそんなことはなく……二人は幼馴染だ。
 幼い頃からずっと一緒にいる二人。
 シルヴェイラは年少の頃からおとなしく、賢い少年だったが、エルティアもまた小さな頃から読書が大好きで、文字が読めない頃は絵本を手放さない子供だった。
 ……いや、彼女の本好きは、もはや『好き』というレベルはとうに通りこして、活字中毒と書物崇拝狂という病を併発し、今や私蔵する本で図書館を営む程になっている。
 図書館の司書。エルティアには天職だと……シルヴェイラはしみじみそう思うけれど。
 天職ゆえに暴走してしまいがちというか……未知の文献、書物があると聞けば速攻で旅立っていくし、さてまた書庫に篭もりきりになって、飲まず食わずで出て来なくなるし……。
 エルティアの突飛な行動に、周囲の者達は散々振り回され、つける薬なしと呆れる者も多かったが、生活能力はほぼ皆無な上に、本のことになると己のことは二の次になってしまうエルティアを、彼はどうしても放っておくことが出来なかった。
 元々世話を焼くのは好きだし、幸いにして手先も器用であったし。
 シルヴェイラが彼女の食事や着替えを用意するようになったのも、自然の流れだったのかもしれない。
 そもそも、家事に興味がなかったシルヴェイラがここまで料理や掃除に長けるようになったのも、このものぐさの幼馴染のお陰とも言える。
 ……今回の一件も、そんな彼の致せり尽くせりの親切心が生んだことだった。


「どうしてって、エアに似合うと思ったからだよ」
「ふぅん? でもサイズが合わないみたいだけど?」
「……それが一番サイズが小さかったんだが」
 ぼそり、と事実を呟くシルヴェイラ。ぴき、とエルティアの額に青筋が浮かぶ。
「そう……。なら仕方が無いわよね? えぇ、仕方が無いわ? ……もうひとつ聞くけど、どうしてこういったデザインにしたのかしら?」
「……いや。たまにはこういうのもいいかなと思ったんだ。エア、いつも襟元までカッチリとした服を着ているからね」
 肩を竦めるシルヴェイラ。
 彼が今回選んで来たのは、エルティアの瞳と同じ色の青いドレスだった。
 女性らしいラインが美しい、ちょっと色気のあるデザインで……ちょっと大胆ではあったけれど。
 勿論エルティアとて女性だし、こういう格好には憧れもあったし。
 たまにはこんなドレスも悪くないわね……と。
 ワクワクしながら試着したら……ウエストも、長さもぴったりだったのに、大きく開いた胸元が……その、大きく開きすぎてしまって、服としての機能を果たさなかったのだ。
 ――そう。彼女は、絶望的に胸が薄かったのである。
 まさか洋服にまで胸がない事実を指摘されるとは思わなくて……プレゼントが嬉しかった分、叩きのめされた気持ちになってしまった彼女を、誰が責められようか。
 そもそも、シルヴェイラが言う『襟元までカッチリとした服』だって、コンプレックスである胸元が隠れるから好んでいるというのに……!!
「……すまん。まさかそこまで無いとは思わなかったんだ。このデザインでは詰め物は無理だね。ちょっと縫って詰めようか。そうすればきっと着られるよ」
 続くシルヴェイラのフォローになっていないフォロー。
 彼の言うことは全て事実な訳だが、もうちょっと言い方ってもんがあるでしょうが!
 ぴきぴき……額の青筋が増えて、エルティアが引きつった笑みを浮かべる。
「へぇぇ……。『無い』とは何の事を言っているのかしら? 全くもって理解は出来ないけれど……」
「何ってそりゃあ、エアの胸……」

 べきょっ。
 シルヴェイラの言葉を遮る嫌な音。
 見ると、エルティアが拳の一撃でサイドテーブルを粉砕していて……彼は、今更ながらに正直すぎる己を呪う。

「ふふふ、シーラ? ……私、貴方がくれるものなら、何だって貰ってあげるけど……どうする?」
「えっと……。受け取った後どうなるのかを先に聞いておきたい……」
「あらぁ、受け取るのが洋服だけだなんて言ってないわ? 何だって、って言ったでしょう? 貴方には本当にお世話になっているものね。……喧嘩を売っているのなら、喜んで貰ってあげるわよ? 勿論タダでね」
 凄みのある笑顔を浮かべてツカツカと歩み寄って来るエルティアから、距離を取るべく窓際に後退するシルヴェイラ。
 この危機的状況を何とか回避しようと、彼は両手を広げてエルティアを宥める。
「エア。お、落ち着け。話せば分かる」
「あら。何をお話してくれるのかしら? 少しなら聞いてあげても良いけど」
「なあ、エア。……思うんだが、怒っても胸は大きくならないぞ?」
「……ハイ?」
「胸というのは脂肪の塊だ。そもそもエアは全体的に細すぎる」
「………………」
「だから、胸を大きくしようと思ったらだな。適切な栄養を摂って、運動して身体全体に脂肪を……」

 びきびきびき。ぶっちーーーん。
 そ れ が で き た ら 苦 労 し て な い ! ! !

「……ふふふ。うふふ……シーーーーィーーーーーラああああああああああああっ!!!」
「うわっ!? 刃物はやめろ!?」
「問答無用! 乙女心を傷つけた対価は身体で払いなさいっ!!」
「ぎゃああああああああああっ!!?」
 どこまでも正論でナチュラルに傷口に塩を塗りこむシルヴェイラに、ブチ切れる彼女。
 逃げ惑う彼を、エルティアはどこまでも追いかけて……。


「……機嫌は直してくれたのかな?」
「まさか。追いかけるのに疲れただけよ。貴方、逃げ足だけは早いんだもの……」
「そりゃあきみから逃げ回るのは初めてじゃないからね」
「シーラが私を怒らせること言うからでしょ!!
「怒らせたつもりはないよ。適切なアドバイスをしただけだ」
「それが余計だって言ってるの!」
 肩で息をしながらソファーにぷっつぷしているエルティア。
 そんな彼女に苦笑しつつ、シルヴェイラは片膝をついて覗き込む。
「エア、そろそろ機嫌を直してくれないかな」
「いーやーよ!」
「……そうか。残念だ。今日はスコーンとクロテッドクリーム、フルーツタルトを用意しているんだがな」
 顔は伏せたままだが、ぴくり、と動く彼女の長い耳。
 良い反応に、シルヴェイラは更に続ける。
「今日のコーヒーはエアの好きなブレンドにしようか。泡立てたミルクを入れたカフェオレはどうかな?」
 ぴくぴくぴく。エルティアの耳は更に動いて……そっとソファから顔を上げると、シルヴェイラにジト目を向ける。
「……リアルブルー研究の新書」
「ん?」
「前から私が欲しがってた新書、あるでしょ! あれもつけてくれたら許してあげる」
「あれのことか……。勿論それもつけよう」
「壊れた机もシーラが片付けてよね!」
「壊れたって言うか、エアが壊したんだろうに……」
「何か言った?」
「いいえ。何も」
「宜しい。さ、お茶にしましょ。運動したらお腹空いちゃったわ」
「……仰せのままに。姫君」
 ようやくいつもの笑顔を見せてくれたエルティアに、目を細めるシルヴェイラ。
 ……決して口には出さないけれど。
 自分はこの賑やかで、慌しい日常と……そしてこの目の前の金糸の髪を持つ女性が、何より愛しく、大切で――。
 こんな日々がいつまでも続けばいいと……そっと願う。


 大樹の元にある図書館。
 そこから漂うコーヒーの芳ばしい香り。
 賑やかな二人の話し声が、いつまでも響いていた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka0726/シルヴェイラ/男/21/機導師
ka0727/エルティア・ホープナー/女/21/闘狩人

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。

幼馴染さん達の賑やかなひととき、とても楽しく書かせて戴きました。
やっぱりほのぼのはいいですよね。
少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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ファナティックブラッド
2015年06月26日

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