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『〜あなたに至る為の物語〜 』
雨宮アカリja4010




 ――また会えたら、そのときは……






 風とともに景色が後ろへと流れて行った。
 四国、国道と言う名の山道。
 ぼろろろ、と均された道を走るS社のデュアルパーパスが気持ちよさげに歌っている。どちらかといえば木のベンチの如きシートは舗装路を行くには難だったが、撃退士としての身体を持ってすればこの程度どうということもなかった。
 カラーは山道にあってこれでもかと目立つイエロー。今のホワイトやその前のブルーと違う、どこかコケティッシュな可愛らしさがありながら、そのパワーは思わずニヤリとしてしまうもの。いつ林道に切り替わってもぐいぐい走っていける仕様なのだが、雨宮アカリ(ja4010)の心は晴れなかった。
(……ガソリンが……ヤバイわね……)
 軽く足回りよくバランスに優れオンオフともに優秀なデュアルパーパスだが、惜しむらくはその燃料タンク容量の小ささ――十である。いや、マルチパーパスで無いのだからと思わなくもないが、しかしこの心地よさをもっと味わいたい時にはその容量の少なさが辛い。
 あと、山道(長い)なうえ、下におりてもスタンドが夜八時終了な田舎なのがさらに辛い。
 気づけば太陽は西側に。冬に比べ日は長いが、油断は禁物だ。
「帰れる…かしらぁ…?」
 嫌な予感。いくら撃退士だからって、かなり軽い系の車体だからって、これ抱えて山道降りるのはキツイわね!?
(今から下りても閉るでしょうし……)
 いっそ野宿して朝に出るか。ワイルドだな。いや、慣れたものだが。
 つらつらと思いながら、周囲を見渡しつつゆったりと道なりに進み続ける。ルルともロロともつかない音に変わったエンジンに、ふと笑みを誘われたところで野営地を探す目に小さな小屋がうつった。
「こんな所に……?」
 木小屋や廃屋ではなく、きちんとしたログハウスだ。湯でも沸かしているのか、ひょっこりと突き出た筒型煙突からは細い煙があがっている。
(屋根付き、のほうが楽よねぇ……山の天気は変わりやすいし)
 ふと二の腕を掠めていった風に身を震わせ、アカリは空をふり仰いだ。
 北西の方向に嫌な感じの雲がいる。西側はまだ明るいが、おそらくアレは本降りになる雲だろう。風は湿り気を帯び、少しずつ速さと数を増やしている。
(よし)
 いい人だったらとっておきのドリンク(意味深)で酒盛りしよう。
 悪い人だったらふんじばってドリンク(意味深)で酒盛りしよう。
 よし。

 コンコンコン

 礼儀正しくノックし、口を開いた所で声が返った。

「入っておる」

 いや、違うだろ。
 ――ていうか、この声!?
「ちょ…!? なんでここに!?」
 まだ成仏してなかったんかい!
「む。すまんが、てれびとやらはつけておらん」
 アンテナしっかりたってます。
「いや、違うし! あたしよあたし……!」
「ふむ。儂は世俗に疎いが、あたしあたし詐欺というのはしっかり学んでおるってな?」
「どこで学んだその知識!?」
 扉越しとはいえ、まったく気付かれてない気配に涙がちょちょぎれそうだ。
「しかし、わしのところはあなろぐででじたるには対応しておらんでなぁ」
「ちょっ、だからN○Kじゃないってば! 困ってるのよ! 寒いし! 何でもするから中に入れてっ!」
「いや、儂、亡くなった女房に操をたてておってな?////」

 ドアごと蹴倒してやろうかしら。

 アカリは本気でそう思った。
「そういう意味じゃなくて、家の中に入れて下さいって事よ!」
「おお、成程! む? その闘気、さてはおぬしだな!?」
 言うや否や、ガバァッと勢いよくドアが開いた。
 アカリは綺麗に吹っ飛んだ。

 ……おのれ……

「おお、そのような場所で寝る程具合が悪いとは! すまん。闘気さえ出してもらえればすぐに分かったのだが」
 これは腹パンしても許されるだろう。
 アカリは速攻、渾身のグーを見舞った。




「まったくもぉ……乙女をなんだと思ってるのかしら!」
「いやぁ、すまんすまん!」
 食べ物は塩。飲み物は酒のみという山小屋で、アカリはちびちびとグラスの酒を舐めた。
「しかし、おぬし、何ゆえにこのような場所におったか」

 そっくりそのまま返してやりたい。

「……道に迷ったのよ」
「成程、さもありなん。……人の時は短い。それ故か、おぬしらは常に走り続けるが定めの如く道を行く。時に振り返り、己が足の軌跡を見るも人生には大事であろうて。駆け過ぎた時と場所に、思わぬ花の種があることもある。いつのまにか、咲いていることも。留まることなく、されど急ぎ過ぎず、己の足でじっくりと歩いて参るが良い」
「ありがとう、心して生きるわぁ……って、そっちの道じゃないわよっ!」
 うあああしんみりしかけた……!
「ふぅむ。しばらく見ぬうちに随分と疲れておるのぅ」
「誰のせいよ、誰の!」
「儂かのぅ?」
 きょと、と熊のような巨体で首を傾げられ、アカリは深く深くため息をついた。
「……ホント、誰のせいだと思ってるのよ」
 コツン、と、そのがっしりとした肩に額を寄せて。
「身の丈に合わない目標与えられて……私は一般兵、お義父様みたいに冥魔戦線の英雄でもなんでもないのよぉ?」
 見上げ仰ぐだけなら楽だったろう。
 後ろからついていくだけなら、尚更に。
 けれど、決めた立ち位置は誰かの後ろではない。止まって仰ぎ見るでもなく――

 戦場で、誰かを助ける為の――最前線。

「……頑張るのは、辛いか?」
「……そうじゃないけど」
「ふむ」
 ぽむ、と大きな手が頭を撫でる。
「少しぐらい、逃げても良い。迷っても良いだろう。それもまた、大事なこと故。儂が願うのは、己に負けぬようにということのみよ」

 おぬしは何故、頑張るか?

 そう問われて、アカリはほろりと苦笑した。
「私は惚れにくい代わりに惚れると一途なのよ」
 何故、の答えなんて、わかりきっている。
「今でもお義父様のこと愛してるわぁ」

 愛した。
 唯一柱を。

 己のものに出来るなどとは思わず、独り占めしようとも思うことなく。ただ、あるがままに真っ向から見据え、愛した。その男が託したことならば、何としても成し遂げようと思う程に。
「そうそう、最近お義父様の良く知る方に弟子入りしたわよ。お義父様の戦い、もっと学びたくて」
「おぬしらならば、良き盟友となろうて」
「ふふふ。でも時間は限られてるわぁ。人間だもの。どんなに長くてもあと百年も無いわね」
「ならば、また会えるのぅ」
 笑って言われて、アカリは目を見開いた。
 ゴライアスは子供のような笑顔で言う。
「時を嘆くな。その数を数えても、意味は無い。ただ貪欲に生き、生を謳歌せよ。いずれ来る終りの先で、おぬしが生きた軌跡を儂に教えてくれればありがたい。剣でも、斧でも、矢でも、銃でも」
 無論、言葉でも。
「ふふ……」
 相変わらずの戦馬鹿ぶりに、アカリは思わず笑った。
「待っててくれる?」
「無論」
「絶対ねぇ?」
「約束しよう」
 大きな小指をつきだされて、アカリは笑った。
「今度会ったら、その時は――……」





 ふと鳥の声で目を覚ました。
 朝。
 窓からさす光は早朝のもの。暗い小屋の中はひっそりと静まり返り、自分以外の誰かを見つけることは出来なかった。
「……」
 身を起こし、瞬きをする。
 埃の匂い。人気の無い小屋は隅の方に蜘蛛の巣が張っている。床にはうっすらと白い埃。何故か自分の周りだけ拭われたように綺麗だ。
 ふと笑みが零れた。
 声は零さない。
 扉を開ければ、いつの間に降って止んだのか、水気を含んだ山の空気。

「……またね。お義父様」

 居る筈の無い相手に、アカリはそっと声をかけた。そうして、振り返ることなく軒下に避難させられている愛車に向かう。
 誰もいなくなった小屋の中に、穏やかな声が響いた気がした。


 ――また、会おうぞ。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ja4010/雨宮アカリ/女/16/獅子公の嫁候補
jz0329/ゴライアス/男/56/皓獅子公

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございました! 執筆担当の九三壱八です。
山神の懐奥深くには、時折アチラ側へと通じる場所があるとか。
幻のような一時の邂逅、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

貴方の行く先に、いつも光がありますように。

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エリュシオン
2015年06月29日

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