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『 』
メリーjb3287

 海の色を水で溶いて伸ばしたような、どこか淡く透き通る青空だった。
 ゲートをくぐったばかりの少女が一人、顔を輝かせながらそんな青空の下を走る。目立つモニュメントの前、園内案内図を背に立つ少し年長の少女を見つけ、弾けるような笑みを浮かべた。
「夢ちゃん先輩っ」
「! メリーちゃん!」
 走り寄った少女の名をメリー(jb3287)、案内図の前で待っていた少女の名を地領院 夢(jb0762)といった。
 蒼いリボンを揺らすメリーの装いは、うららかな春の優しい色合い。清潔なワンピースはエアリーな花柄。ちょっぴり背伸びしたシックなサンダルはマニッシュベルトと透かしかぎ編み。多種多様なチュールレースを切替えたオフホワイトのカーディガンが、軽やかな動きにあわせてふわりふわりと柔らかく舞う。唇にのせたのは淡い色のリップ。気持ち的に、なのかもしれないが、それだけでちょっぴり大人になった気がするのが不思議だった。
 驚いたのは、それらの装いが驚くほど夢とそっくりだったことだ。
 色違いの揃い、と言っても過言ではないお互いの姿に、二人は一瞬大きく目を瞠ってから笑った。
「お揃いだねっ」
「お揃いなのですっ」
 図らずも姉妹のように。示し合わせていたわけではない偶然に、くすぐったいような気持になる。
「晴れてよかったねっ」
「はいなのです! 楽しみにしすぎて、夜なかなか眠れなかったのですっ」
「私も!」
 手に手をとって浮き立つ心のままに。軽やかな動きにあわせ、ふわりふわりとスカートが舞った。
「何処からまわろっか。メリーちゃん、どこに行きたい?」
「夢ちゃん先輩こそ、行きたい所は――」
 お互いにお互いを優先しようとする思いを感じ、顔を見合わせてくすくす笑う。女の子だけの小旅行。兄や姉と離れてのそれは、少しだけ心細くて、それ以上にどきどきワクワクする。ちょっとだけ気持ちが大きくなったような、ほんのちょっと背中が寂しいような。
 けれどかわりに、友達がいる。
「じゃあ、こっちから巡ろっか」
 案内図を見た折、一瞬メリーの目がそこに止まったのを素早く察知し、夢はパンフレットと図を指して提案した。メリーの顔が嬉しそうに輝く。その様子に夢も笑った。
(いっぱい、楽しい所案内してあげるね!)
 身近な学生達の中では夢は年若く、周囲から妹として接せられることのほうが多い。勿論、それはとても嬉しいし、皆のことが大好きだ。ちょっと、うん、色々と思うことの多いお兄ちゃんもいるけれど。
 そんな中、メリーと出会った。先輩として――年上として!――慕われた時の喜びは自分でもびっくりするほど。
(だって、先輩だものっ)
 ひっそりと気合いを入れ、夢はふんすと息を吐いた。


 背後に絶叫系コースターの歓声とも悲鳴ともつかない声を聞きながら、二人は買ったばかりのソフトクリームに口をつけた。
「あまーい!」
「冷たくて美味しいっ」
 甘さに顔をほころばせる夢の横で、メリーはその冷たさにきゅっと目を閉じて。定番のバニラも捨てがたかったが、遊園地オリジナルの味があれば試してみたいのが乙女心。ツインになっているそれをお互いにスプーンでつつき合えば、一度に四種の味が楽しめる。
「いっぱい乗ったね〜」
「乗ったねっ。あっという間だったのです。…ん。喉に気持ちいいいのです」
「ん? 横についてる。とってあげるね」
「あ、ありがとうなのですっ」
 少しだけくだけた口調になっているメリーに、夢は微笑みながら頬についたクリームをハンカチで拭ってあげる。はわはわと慌て、メリーがくすぐったそうに照れ笑いを浮かべた。
 絶叫系とお化け屋敷を除き、家族向けのアトラクションはほとんど制覇したといっていいだろう。勿論、メリーゴーランド等の定番は外せない。
 絶叫系を避けたのは、メリーがその手のアトラクションが好きではないのを察したからだ。幽霊系を避けたのは、なにやら戦闘態勢に入りそうな気配を感じ取ったからである。
(もしかして、ゴースト○スター的な感じと間違えてるのかな……?)
 シューティング系をかねた幽霊屋敷があれば、もしかすると逆に得意だったりしないだろうか。いやしかし、どうだろう。とても気になる。
「ふふ」
「? どうしたのです?」
 ふと思い出して笑みを零した夢に、メリーは首を傾げる。
「ん。メリーゴーランドのメリーちゃん、可愛かったな、って」
「えっ、えっ、メリー、普通にしてたのですっ」
「うん。二人乗りのお馬さんのところで、ちょっと後ろ見てたから、今度お兄さんと一緒に来させてあげたいな、って」
「ゆ、夢ちゃん先輩も、すっごく迷ってたと思うのですっ」
「あ、あれは別に……っ。その、どの色の子に乗ろうかな、って」
 一瞬の目の動きに色々と。女の子ならではの華やかな話題は尽きることなく、人ごみの苦手なメリーですら話に没頭して周囲の人の存在を忘れる程。
「あ、もうこんな時間」
「?」
 ふと園内の時計を見た夢が慌てて立ち上がった。まだ日暮れには早い時間にメリーは首を傾げる。
「パレードがもうすぐだよっ」
「あっ」
 しっかりチェックしていた夢の声に、メリーも気づいた。
「う…ん。どこで見るのがいいのかな……」
 慌ててマップを開くメリーに、夢がちょっと嬉しげに胸を張る。
「任せて! 調べて来たからっ」
「夢ちゃん先輩すごいのです!」
 手を引かれて駆けだす先はアトラクションとアトラクションの間を抜けた先。広間とは逆のせいでかえって穴場になっている場所だ。
 ポンポンと合図の花火があがる。青い空に見える白い風船のような煙。見えない光華のかわりに残る種のようだ。
 どこから、向こうから、とそわそわ腰を浮かすメリーと夢の視界に、大きな山車のようなパレードカーが映った。
 わっとあがった歓声は、周囲だけでなく自分達の声も。
 先頭の騎馬隊、銃士隊。山車の上にはお姫様と王子様だろうか。護衛らしき騎士の姿。どうやら中世風のパレードらしい――と思いきや、どこかで見たことがあるような生き物がマスコットのように手を振っている。久遠ヶ原ではお馴染みのもふもふ召喚獣も、いつの間にか民間に広く伝わったのだろうか? それとも何らかの政策なのか。
 高い山車の上から、風に乗せるようにして撒かれる花びらがシャワーのように降り注ぐ。
「綺麗なのです……」
「うん。綺麗だね……」
 特別派手な何かがあるわけではない。例えば、学園が総力をあげてパレードをすれば、その派手さは他の追随を許さないだろう。
 けれど、今綺麗だと思うその光景に、足りないものは何もない。
 特別な力を持たない人々が、精一杯の力で訪れた人々を楽しませようと力を尽くしている。一動作、微笑み、音楽、そのわずかなお辞儀一つのタイミングすらも丁寧に、一生懸命に。
 手を振り返しながら、その光景を胸に刻む。

 誰かの為に。
 何かの為に。

 その原点は、きっと、こういったありふれた光景の中にある。
「あっ」
 ふとお姫様らしき女性が何かを天へと放った。綺麗に編まれた花冠だ。一つ。二つ。
 三つ目をこちらの方向へと投げられて咄嗟に手を伸ばしてしまった。はっしと掴んだそれに、慌てて周囲を見るも、小さな子供は誰もいない。思わず見た先、過ぎ去る一団が笑って手を振る。もしかして自分達を見つけて放られたのだろうか?
「夢ちゃん先輩、すごいのですっ」
「えへへ。でもこれは、メリーちゃんに」
 はい、と頭に乗せられて、メリーは目に見えた狼狽えた。
「だめなのです。夢ちゃん先輩が手に入れたものなのです」
「メリーちゃんに似合いそうだな、って思ったらつい手が出ちゃったの。青い花が綺麗だったから」
 リボンにしているその青と同じ色。誂えたように可愛らしく映るから。
「写真撮りにいこっ。遊園地に行った記念っ」
 思い出は、いつも記憶の傍らに。けれどそれを目に見える形で切り取って、アルバムを開いた時にまたその日の中に戻れるように。
 誰かと一緒だから楽しかったこと。
 嬉しかったこと。
 その全てが、いつまでもそこにあるように。
 笑って手を引かれ、戸惑い立ち止まっていたメリーは頭の上の花冠に触れて――

「うんっ」

 あどけない程の笑み一つ。駆けだした。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb3287/メリー/女/13/蒼の紡ぎ手】
【jb0762/地領院 夢/女/15/夢の紡ぎ手】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございました。執筆担当の九三壱八です。
女の子二人の遊園地ライフ。少しでも楽しんでいただければ幸いです。

お二人の行く先に、いつも優しい風が吹きますように。
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エリュシオン
2015年06月29日

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