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『海賊の残党は河岸で足掻くしかなかった!? 』
愛染坊ka4860

●起きた偶然は気付くと必然に昇華している

「アルラ、これどうしたんですか?」
 買い出しから戻ったアルラ=レンブラント(ka4856)が袋の中身を確認していたところで、寄ってきた紅 月(ka4859)の目が一瞬きらりと輝いた。
(面倒な)
 共に過ごす者達の中でも特に掴み処のない相手だ。同性なのに。どこか必ず一つはだらしのない所を持つ男共の方がまだその反応が読みやすい。月は服こそ着崩しているが他とは違う雰囲気を持っている。
(……面倒だ)
 苦手と言うわけではないのだが、どうしていいかわからないのが本音である。ヒトは機動的に現せないから、月相手に限った事ではないのだけれど。
 眉をひそめる様子を隠しもせずに月の手にとったものを見る。安物の小瓶だが密閉性はあるとみる。中身は粉末のようだが真っ白と言うわけでもないらしい。斑に見えるのは粒子が均一になっていないからだろう。
「?」
 首を傾げ、更に数秒考える。見覚えが無い。勿論買った記憶もなかった。
「あらぁ?」
 口元に手を当てて瞬く月、その声でそれまで沈黙していたことを思い出す。
「……なんだそれは」
 むしろ私が聞きたい。外見特徴だけで判別できるのは骨董品や貴金属の類に限る。
「それじゃ、これが噂のアレなんですねぇ」
 物珍しそうに小瓶を見つめる月の知っている素振りに探求心が首を擡げる。その様子を待っていましたとばかりに月の口元に笑みが浮かんだ。
「これ、最近はやりのクスリなんですって」
「は?」
 なんだそれは。

「月ちゃん、おじさんと一緒に試してみるかい?」
 いつの間に現れたのか。イロの気配を感じ取った途端に腰をあげた右無 蔵之介(ka4858)が、親しい一線を越えた手つきで月の肩に手を置く。
「蔵之介さんったら張り切ってますねぇ♪」
 月は微笑みを返している。その仕草も含めて匂い立つ色気と言うのは認めてやらなくもない。
(相変わらず胡散臭いんですけど)
 どちらもだ。ついでに飽きるほどみているやり取りに胸焼けしそうだ。本人達は楽しそうなのだが混ざる気は起こらない。どうせいつもの流れだろうと見切りをつけて愛染坊(ka4860)はアルラに視線を向けた。
「どうでもいいな」
 興味が完全に失せたようだ。袋の中身の仕分けに戻っている。さて、自分はどうしようか。耳だけ意識を戻した。
「万能薬……ってほどではないですけど、使い道は多いはずですよ」
「売れるんですね?」
 金の匂いに反応したのは風龍(ka4857)、月の答え次第ではすぐにでも売り払う気満々の顔だ。
「出回ってるわけではないと思いますよぉ」
「なおのこといい話じゃないですか!」
 さぁさぁ今すぐ売り捌きましょうとその目が言っている。今にも手を差し出さんばかりだ。それを見て、ふと気がついた。
「そのモノはどうでもいいけど、どうして入ってたんですかね?」
 意図的に買ったものではないことはわかる。だが混入経路は気になった。一度壊滅したとはいえ自分達は海賊だ、外部の誰かの意図が入ったものであれば安易に扱うわけにもいかないはずだ。
(あの人が作った場所を壊すような奴がいるなら容赦しませんよお)
 たとえ当人がこの場に居なくても、オレにはこの場所を壊すようなものは容赦する気が無い。あの人がいつでも帰ってこられるように。

「……愛くんは浪漫がないねぇ」
 やれやれと溜息をつくのはわざとだ。
「うっせぇですよ、その上から目線やめてくれますかね?」
 思った通りの反応で面白さが増してくる。
「だから愛染ちゃんはお子様なんですよぉ♪」
「そうそう、お金の価値も分からないなんて」
 月と風龍が加勢した形になったことで、更に調子が出てきた蔵之介は声を弾ませる。それがどうなるか結果も予想しているけれど、止められない。
「それとも混ざって大人になるかーい?」
「だっ!? 誰がチビでガキで貧乏ですか、こうなったらオレ一人で突き止めてきてやりますよ!」
 言い捨てて船屋を飛び出していく。
「……だーってさぁ?」
 やっぱりこうなったなあ、と思いながらも笑ってしまう。くすくすと、締まりのない顔でしばらく笑っていれば月も似たような顔をしていた。
「本当はそのままじゃ売れないんですよね」
 そこに先ほどまでの表情を消した風龍が確認するように月に問う。心底残念そうな顔だ。分かっていたのに、場の空気に合わせて演技していたこととか。流石お金の使徒。
「あらぁ、バレちゃったんですね」
 けれど月だってそうだ。嘘はついていないけれど、上手に真実を隠す。
(計算でもぜぇんぜんいいけどねー)
 だって可愛いし色っぽいし女の子だし。楽しければさいこー。
「それじゃあ使っちゃおうよー?」
 もう一度アタックしちゃえばいいよねぇ。

(そのままじゃなければ?)
 月は嘘は言わない。けれど真実をそのまま答えはしない。それは風龍も付き合いが長くなってきているから知っている。
「アルラさんの協力をもってすれば儲けられそうじゃないですか、是非」
 改めて希望が見えてきた。早速と振り向いて声を掛ける。
「………」
 既に作業を終えたアルラは自分のライフワーク、彼女にしかわからない装置を弄り始めている。
「聞いてらっしゃいます?」
 この状態で話を聞いてもらうのは至難の業だ。
 ちら、と月をうかがう。艶のある微笑みは崩れていない。やはり自分の推測は間違っていないようだ。
(多分、アルラさんが動けば)
 自分にとっても都合がいいように運ぶはずだ。
 今のアルラを揺さぶる言葉はなんだろうか。見つけ出すのだ……そう、生活の安泰、大金の為に!
「……蒼の技術かもしれませんよ?」
 ぴくり、ほんの少しだけ、アルラが手を止めた。イケる。
「これを売れる状態にできれば。そして量産できれば。蒼の技術を扱う頻度も、機会も増えると思いますよ」
 紅の世界で名声を得たら、機導師として名を広めることが出来たら。囁くように続ける。
「……」
 もう一歩だ。
「アルラ=レンブラントそこにありと、知識も技術も手に取り放題。資金も増えて研究し放題になるんじゃないですか?」
 これでどうだ。
「ふ、ふん。だがそれが如何わしいモノであることにはかわりがないな」
 駄目だったか? この次に続けるには……
「そぅお? 面白いじゃなぁい。未知の粉ってそれだけで」
 そういうの好きでしょ? 月の言葉がアルラの背を擽っているようだ。
(大丈夫そうですね)
 風龍は内心で安堵を得ている。これならもう、あとはほんの少し。
「おじさんなら知らなくてもつかっちゃうけどねー?」
 これの実験なら付き合ってもいいよ、などと甘言を積み上げていく。
「……わかった、考えておいてやる。ただし!」
 落ちた。
「これの有用性をキミ達がこの私に証明出来たらだ」

●承 どこまでも自分の欲の為に

「それじゃあさー、少しもらっていくねぇ」
 小瓶をあけたついでに香りを嗅ぐ蔵之介にアルラも手を伸ばしてくる。
「アルちゃん一緒に使う?」
「共に嗅げば効率がいいだろう」
 ただのついでなのだと取り付く島もない。鼻の効く仲間がちょうど出払っているから、自分で確かめたくなったのはわかるけど。
「つれないねぇー」
 最近の子ってみんなこうなのかなぁ。アルラのつむじを見ながら思う。もっと小柄な息子の事も思い出して比べてみた。
(アルちゃんは意味わかってないだけみたいだよねぇ)
 特に今のような無防備な感じがそう思わせる。いや、興味のある技術のことしか見ていない、それだけなのだろうけど。
「わっかんないねぇ。使ったらまた違うのかなぁ?」
 それなら確かめればいいだけかな。
「月ちゃんあいてるー?」
 三回目だっけー、これでだめなら外に行こうっと。

 数をこなしていると、自分に対して何かしらの魅力を感じている女性というものを本能的に見分けることができるようになってくる。
 年上が好きだとか、強そうな者が好きだとか。忘れてはならないのが、遊びに付き合えるという経験値。後腐れない関係と言うのが一番重要だ。
 蔵之介の様な目立つ要素を持っている者は人目を惹きやすい。遊びたそうな空気を纏わせるだけで同好の誰かの視線を得られるというのは、こういう生活を始めてから知ったことだ。
「あーこの腕ー? これはねぇ、言うなら男の勲章ってやつだよね」
 これでも昔はならしたもんだよぉ? 今も満足に動く二の腕に力こぶを作って見せる。
「ほんとぉ?」
「ほんとほんとぉ、今見せられるのはこれくらいだけどねー。……君さえよければ確かめる権利をあげちゃおうかなぁ?」
 お買い得だよぉ? へらりと笑って見せる。ただ屈強なだけでもいけない、とっつきやすさと言うのも重要だ。計算ではなく、この過ごし方が楽だから、と身についてしまっているだけの笑顔だけれど。
「きゃーえっちぃ」
「えっちなの大好きだからねぇ♪ 君はー?」
 ノリの良さを見るに、これくらいのじゃれ合いは大丈夫そうだなぁ、と思いながらするりと腰に手を回す。
「嫌いじゃなーい♪」
 思った通り。むしろ当てられている感触。に鼻の下が伸びる
「でもぉー」
 奥さんとかいるんでしょう? お決まりの言葉にスイッチが入った。
「……あー……それはねぇ」
 すまなそうに頬をかく。参ったな、と零しながら少し頭を下向きに変えた。それだけで顔に影がかかるのだと知っているから。
「昔はねー……あ、ごめんねぇ、ちょっと思い出しちゃった」
 ときどき、夢見が悪いんだよねー僕。
「それで、眠りたくない日があってさぁ……?」
 こんな僕にも優しくしてくれる君なら、って思って……耳元に囁くように顔を近づける。この時身を寄せてくるようなら決まりだ。
(月ちゃんは、水を含ませるといいって言ってたよねー)
 飲むなとも言われてないけれど、そうだなあ、塗り薬みたいな扱いでいいような言い方だったと思うんだよね。
(どのタイミングで試そうかなあー?)
 本当楽しみだなー。

●承 愛情と感情が迷子

(なんであんなクズ共ばかり居るんですかね)
 イラついた気分を全く隠さずに、どかどかと出来る限りの体重をかけて進んでいく。小柄な身体では重厚な音にはならないけれど、少なくとも怒っているようには見える。それがたとえ愛染坊本人が天狗の貫禄を意図しているとしても、端から見れば拗ねた子供のように見えているだろう。
 体の作りは本人の意図した通りに変化するとは限らない典型である。天狗は身軽であるべしという観点で言えば、天性の才能をもっているのだけれど。
(足らない足らない足らない足らない足らねーんですよ)
 何もかも。
 東方で栄華を誇っていた頃と比べて、今の自分達はどうだ。
 居城は朽ちた船屋だ。
 誰かしらと顔を合わせていなきゃならない。
 金策が必要になった。
 好きな物だけ食べていられなくなった。
 なによりも人が居ない。
(船長が居ない)
 場所も自分もどうでもいい、何よりも一番大切なあの人が居ない。
 感情を向けられる相手が居ない。向けてもいいと思う相手が居ない。
(クズ共にゃオレの愛は勿体ねーんです)
 世の中のクズには他の誰かの支えになるなんて大役は出来るはずがない。
 それでもクズ同士で寄り集まって猛威を震えたのは大きな器がそこに在ったからだ。
「船長しかいねーんですよ」
 あの人が居たから成っていた場所なのに、今は名残だけで大事なあの人が居ない。離れてしまった手を差し出す場所が見つからなくて、場所を作りたいのにできなくてイライラする。
 居た筈の人が居ないからって新しく船長を決めたあいつらにもイライラする。
 西方に来てからずっと、イライラしっぱなしだ。
 クズだらけだ。
(あのクスリのことだって)
 あいつらには危機感が無い。あの人がいつか帰ってくるのだと自分は待っている。でなきゃ皆こうして集まってなんかいない。だから、それまでクズの集まりだろうと場所を守る必要がある。
「オレがしっかりしてやりますよ」
 このオレが常識を残しておいてやらないと先行き不安になるって奴ですよ。

●承 地道で真面目な調査こそ商機につながる

「愛染さんお待ちください」
 月から受け取ったメモを見ながら歩いていた風龍は、あっさりと愛染坊に追い付いていた。
「何の手がかりもないのに如何にして調べるのかと不思議でしたよ?」
 どうやって突き止めるおつもりだったんですか、添えるのは社交辞令なみに包装紙に包んだ、けれど相手に棘を刺す言葉。話し方と言うのはそれ一つとっても武器になり鎧になり道具になる。風龍にとってみれば話術は生きていく糧を得るためにとって理解しておくべき最大の手段で、趣味と実益も兼ねている。
「別にオレくらい麗しいと、別に探さなくても情報の方から寄ってくるし」
 だからいちいち煩く言うなと言いながらも龍の手から小さな包みを奪い取る愛染坊。別にを二回言っている時点で動揺が出てしまっているのだが。
(扱いやすさは美点ですね)
 それだけでは腹は満ちない。
(そのために私や月さんが居るのです)
 今日は引き上げるのではなく打ち落とす方法で見解は一致している。
「踏み潰してしまいそうなほどだから人の方から避けていたんじゃないですかね」
 保護動物ってそういう扱われ方が多いですよね。
「塒を出てからここに来るまで、貴方は誰かとぶつかったり……いえ、ぶつかりそうになって避ける、といったことはありましたか」
 ないと確信している上で尋ねる。愛染坊に追い付くための聞き込みは不要で、道行く人の流れだけを読むだけでこうして追いつけたのだから。
「………! 〜〜!!」
 言葉になりきらない声が投げつけられるがどこ吹く風。ぴたりと立ち止まった。
「!?」
 愛染坊がバランスを崩し転びかけたのを適当な服を引っ張って留める。かすり傷の治療なんて何の得にもならない。
「ではこの近辺だけご同行願えますか、その方がお互いにとって近道になりますよ」

「試供品……ですか」
 目先も後にも実利重視の風龍にしてみれば耳慣れない言葉だ。例えば品質に何か不安のある品でも売り方を変えれば金になる。元手のかからないもので補えるなら惜しみなく使うしそうやって稼いできたわけだが。
「理解できません」
 提供元まで辿り着いた風龍はその理由を聞くことに成功していた。しかしそれは利益ではなく普及が目的だという話だったのだ。
 そういう人間も居る事は理解しているが。
(私とは全く相いれない方だということはわかりました)
 一つ頷いて切り替える。
(そんな考えでは甘いという事を教えて差し上げましょう、この商材提供の代金で)
 結果的に普及するならば、提供元が彼でなくても構わない、そういう理屈だって通るのだ。
「……では、改良点を洗い出しましょうか」
 更に質を高めた品ならば堂々と売っても構わないでしょう?

●承 女子力の使い方

 扇の骨に金属を使ったり、糸に髪や金属の粉を纏わせたり。
 一見ではそうとわからないものを仕事道具に選ぶのは、自分がそうやって生きてきたからだ。
 似ているから傍に。似ているから選ぶ。
「どんな報告が来るか、楽しみですねぇ?」
 鍋を火にかけながら、鼻歌でも歌ってしまいそうだ。けれど月は他にも人が居る事を思いだしてそれを抑える。
 食事の当番だからと蔵之介の誘いを断って、風龍にはほんの少しだけヒントを教えて、愛染への届け物を渡して。
 アルラの買い込んで来た食材のうちいくつかを使う分だけ、食器と共に取り出し並べていく。
「今日は魚も釣れましたからねぇ」
 量が無ければ干すなりして後日に回すけれど、今日は人数分をゆうに越している。刺身も悪くないなと思いながら選り分ける。刺身で食べる分はまだ生け簀に、多い分は早めに捌いてしまおう。
(風通しがいいからまだ涼しいけれど)
 船屋の大半は水の上だ。夏も涼しく過ごせる……その分冬が少し心配だけれど。時期が来るまでに備えておけば何とかなるだろう。アルラも居る事だし。

(そういえば……そろそろ声をかけましょうか?)
 装置を弄っているはずのアルラの様子をそっと伺う。そろそろ、中身を解析したくて仕方なくなっている頃合いだ。厨房に立つ自分の気配が気になったりもしているはずだから、出来る限り気配を殺す。
(……ふふっ♪)
 やはり座る位置が変わっている。手の届くところにあったからついでに調べた、なんていうつもりなのだろうなと想像したら楽しくなってきた。
 でももう少し、焦らしてみるのも面白いかもしれない。
「今少しいいですか、アルラ?」
 びくっ
 思考停止した時と同じように肩を震わせる。これだからやめられない。
「簪って作れますかぁ?」
 月が使う得物は少なからずアルラの手が入っている。今考えている品も彼女の協力は不可欠だ。
「ダガー……いえ、もっと軽く、ピックくらいなら髪に挿せると思うんですよ」
「鞘も要るだろう」
「そうなんですよねぇ」
 温めていたワインの香りを楽しみながら微笑む。律儀に答えてくれるけれど、視線が小瓶を気にしているのが分かる。
(今する話じゃないですけどねぇ)
 もう少し付き合ってもらいましょうかねぇ♪

●転がりおちる勢いで決まる事

「……それで、つまり」
 装置のボタンをカチカチと弄りながらすべての話を聞き終えたアルラは、月が持ってきたおやつに手を伸ばしながら状況を纏めようとしていた。
「街道近くを通った時に配られていたものだと」
 どうりで購入した記憶がないと思った。店以外ではあまり周囲に気を払わないから、渡されたまま適当に袋に突っ込んだなら頷ける。確かに不用心だったことは認めよう。
「元が無料で、近隣でそれなりの量を配られているから転売は難しいと」
 だから精製し品質を良くすれば売れるだろうと。それはわかるが、精製したから必ずしも品質が良くなるとは限らない。純度が低い方が使い勝手も良くなるものだって存在するはずだ。それ次第だと思うのだが。
「外用……」
 これは言及する必要もないだろう。蔵之介の顔を見ればわかる。穢れるのは目だけで十分だ。耳と口は死守してやる。話しだそうとした蔵之介を視線だけで一蹴する。
「ふむ」
 何か忘れている気がするが。とりあえず出されたものを食べてしまおうとスプーンで一口持ち上げた。
 ぷるり
 涼しげな透明感、フルーティな香り。この赤みはベリー系だろうか。いや、ワインの香りはこのためか。
 ぱくり
(普段見かけない品だ)
 聞いたことはある。確かゼリーと言っただろうか。海洋に浮かぶクラゲに似た外見の甘い食べ物。口に入れると簡単に形も崩せる、冷やして食べるとさらに良いらしいと聞いたことも……
(しかし、材料はあったか?)
 購入した覚えはない。
 更に一口。はじめはその食感に驚いたが、舌触りに均一性が足りない気がするし、どこかまだ雑味のようなものがある気がする。甘味を足せば気にならないものではある、と思う。
「どうかしらぁ、アルラ、気に入った?」
 月の言葉に咄嗟に頷く。
「ああ、悪くない。だが何か今ひとつ……月の腕を疑っているわけではないが」
「本当ー? じゃあアルラ、あとはお願いするわねぇ」
「わかった」
 咄嗟に答えてしまったが。
「どれくらいの量が作れそうですか? それで価格を決めなくてはいけませんね」
「私は使いやすくなればなんでもいいわぁ」
「おじさんゼリー食べるよりは月ちゃんと」
「あんたらバカ? クスリならオレらで使えば十分じゃないんですかあ」
 待て。どういうことだ。
「……キミ達?」
 なぜ今その話なのか。クスリ? 気に入る?
(まだ結論を出したつもりはない)
 有用性の証明を指示して、外に出た三人の話を聞いて、月の作った甘味を食べて……甘味?
(自分は今、何を言った?)
 考えろ。
 確かにクスリのように飲めば美容効果が期待できるという説も聞いたことが……それは、つまり。
 もう結論を出してしまったという事実だけは、理解できた。

●結論も女達の一存で

「どうぞ、召し上がれ?」
 カチャリ
 透き通った外見を見たアルラがほんの一瞬。眉をしかめた。
(まだ引きずってますかぁ)
 その反応が見たくてやっているのだが。
「美味しいですよ?」
 くすくすと笑みがこぼれるのを止めずに薦めれば、小さな溜息と共にアルラの手が伸びた。
「アルラのおかげでこんなに簡単に作れるようになったんですから」
 お疲れ様でした、とからかうように続ける。今度はアルラも落ち着いた様子で、動きが止まる事もなかった。
「月にとっての利点は……」
「女の子は皆、甘いものが好きですよ♪」
 お肌にもいいそうですし。言いながら自分もスプーンで一口すくう。ぷるんとして、それでいて口の中に入れると溶ける丁度いい具合。何より全体が均一になっている、使いやすさが格段に上がったから、売るときのいい口上になる。
「皆……特に龍さんが喜んでましたよぉ」
 実際に良い値で売れたらしい。このまま続ければ軌道に乗せて黒字も夢じゃないと言っていたほど。

「……それはいいが、もうやらん」
「どうしてですかぁ?」
 確かに資金源にはなる。けれど量を作るのは面倒くさい。材料は水辺でも手に入るからコストが悪いというわけでもないが。
 苦労して作ってもくすねて堕落生活に活用するバカも居るし、そのために作っている気がするのも癪で。
 確かに自分も嫌いではない、ゼリーに罪はない。それは認めるけれど。
「海賊がゼラチンで稼いでどうする」
「今は元海賊、だと思いますけどね♪」
 航海に出られるほどの大きな船は持っていない。あるのは朽ちた船屋と、小さな舟と、自分を含めた少数の精鋭とも呼べない海賊崩ればかり。
 ただ、縁があるからこうしてつるんでいるだけだ。親父が居ない今、なんとなくいっしょに居るだけだ。
「キミ達全員をどうして私が養わねばならんのだ」
「あら、気付いちゃいました?」
 お頭に娘のようにかわいがられて育ったから、その人が居ない今自分が皆を預かっている……そんなのはただの形だけの話だ。皆好き勝手に過ごしている。この場所に来てから増えた顔も居るくらいだ。
 だから月も、アルラがお頭の娘だから責任がある、なんて野暮なことは言わない。
 言われなかったから、ほっとした。胸のうちだけで息をつく。
「そうだな、たまになら作ってやらんでもない」
 自分達で食べる分くらいなら。
「ふふ、それじゃあお願いしますね?」

●結果に関われない男達

「いい儲け話だと思ったんですけどねぇ」
「アルちゃんの許可がなくちゃ続けられないし、仕方ないんじゃないかなぁ?」
「女と遊んでばっかりのジジイに諭されたくないんですけどお。海賊として立て直すのが先じゃねえんですかあ」
「そのための資金にもなると……」
「舟の修理代の足しになったのぉ?」
「全然足りませんでした」
「おじさん、女の子が笑顔ならいいかなあー」
「こんなんばっかだから船長を探しにもいけないんですよお、わかってますかあ」
「「……」」
「愛くん、女の子いいよーやわらかいよーかわいいよー? 今度紹介しようかあー?」
「その年で……親離れしてもいいと思います」
「ばっ!? っかじゃねえですか。オレはあの人を人間として好きなんですよお? そこらの女じゃ代わりは」
「じゃー愛くん男ならいいの?」
「!?」
「非生産的で馬鹿馬鹿しい、話している時間も惜しいのでこれ以上続けるなら相談料とりますよ」
「おじさん相手はしてあげられないけど理解ならあ。もちろんお金も貰ってあげるよー?」
「あんた達ほんっとクズですよねえ!? それぞれ金と息子に蹴られればいいですよお」
「蹴られる前に財布に入れます」
「女の子のとこに逃げるかなぁ」
「………」
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石田まきば クリエイターズルームへ
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2015年06月29日

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