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『騎士と姫と二人の花嫁 』
天谷悠里ja0115)&シルヴィア・エインズワースja4157

 夕暮れまで降っていた雨が止み、つぼみの薔薇から雫がこぼれ、満月が青白く薔薇園を染め上げ幻想的な雰囲気にしていた。そんな中に引かれた真っ白なヴァージンロード。月明かりに照らされたそれは夏の天の川さえも連想させるほど、白かった。

 そんなヴァージンロードの中頃で待つのはシルヴィア・エインズワースである。白薔薇をモチーフにした中世の騎士のようなその出で立ちには違和感はなく、物語の中から出てきたといっても遜色ない凛々しいまさに騎士であったし、紳士という言葉を体現しているかのようだった。その視線の先にはAラインのクラシカルなウェディングドレスをまとった姫、天谷悠里が白い少女にエスコートされてゆっくりと歩を進めてきていた。悠里もいつもの可愛らしさはなりを潜め、シンプルで気品あふれるドレスが彼女の大人っぽさや艶やかさを高めていた。ふとシルヴィアと悠里の視線が合う。二人は無言で穏やかに微笑み合った。騎士と姫のあいだに会話など無粋であった。 

 シルヴィアの前まで悠里をエスコートした白い少女がいつも通り恭しく頭を下げ
「ここからはお二人の道でございます」
 それだけ言うとそっと下がった。天の川で二人を出会わせる鵲の役目は終わったということなのだろう。

「姫、お手を」
「ええ、ありがとう。シルヴィア」
 そんな言葉がすっと自然に出た。いつもの二人なら違和感や驚きを隠せないかもしれないが、この時は気にもならなかった。
 二人はそのままシルヴィアのりーどでガゼボの前まで歩いて行った。

 ガゼボには小さな祭壇があった。そこにはシスター姿の黒い少女がおり、二人が並び立つとすっと口を開いた。
「騎士、シルヴィア・エインズワース。汝は姫、天谷悠里に対し騎士として常に礼儀正しく誠実で謙虚であれ。永久に裏切ることなく、欺くことなく、堂々と振舞い、姫の盾であり矛である事を忘れるな」
 その言葉はいつもの少し明るい茶目っ気たっぷりの声と違い、まさに誓いを見守る聖女のそれであった。
「はい、私の心はユウリ姫だけのものです」
 そう迷いのない声で、シルヴィアは言うとなんの躊躇いもなく跪き手の甲へと口付けた。口付ける場所で意味が変わること言うことは知らない悠里でも、敬愛を示す口づけなのだろうとなんとなく感じた。返礼ではないが、悠里は少し腰をかがめシルヴィアの額に口付けた。昔どこかで額への口づけは祝福を意味すると聞いたことがあったからだ。
「騎士と姫の契約が結ばれ、貴方がたは正式に騎士と姫という関係になったわ。それが永久のものになるように二人を繋ぐ物を」
 すっと白い少女がリングピローを持ってきた。そこには指輪が二つ。
「さあ、指輪の交換を」
 これには二人とも少し戸惑った。二人の左手の薬指には以前もらった婚約指輪がはまっている。これを外すことは躊躇われた。お互いの顔を見合わせながら少し困っていると、白い少女が口を開いた。
「失礼ながら、どちらか一つだけを付けなくてはならないという決め事はございません。でしたらお二つともお付けになればよろしいかと」
 それなら、と指輪の交換をしようとリングピローに手を伸ばしたところで、今度は黒い少女が口を開いた。
「一度婚約指輪を右の薬指に移して頂戴」
 不思議な提案に少し首をかしげながら二人は従った。
「では、もう一度ね。指輪の交換を」
 まず、シルヴィアが悠里の指に指輪を通す。次は悠里が。右の薬指にはまっている指輪をどうしたらいいのかと思っていると黒い少女が察したように
「自分の右手から左手に指輪を戻して」
 二人がその通りにすると、まるで元々一つの指輪であったかのように違和感ないデザインであることに気がつく。
「結婚指輪の外側に婚約指輪を重ね付けすることで、永遠の愛の証としてロックされると言われているの。それならデザインに違和感もないから普通につけていられるでしょ?」
 確かに。と二人は思った。
「さて、二人には何重にも誓いを結んでもらいましょう。けして離れないように」
 黒い少女がパチンと指を鳴らすと、二人の体が光に包まれた。それもつかの間、光が消えると二人とも衣装が変わっていた。
 悠里は可愛らしいプリンセスラインのドレス。シルヴィアはエレガントなマーメードラインのドレスだった。二人とも先ほどの姫と騎士といった印象ではなく、いつものと言っては失礼かもしれないが、お互いがよく知る雰囲気をまとっていた。
「ん?」
 何かに気がついた悠里が薔薇園の方を振り返る。すると、先程までつぼみだった薔薇達が一斉に咲き誇っているではないか。雨露が月光を反射しキラキラと輝いている。
「結婚式には参列者が必要でしょ?ここにある薔薇達が貴方達の誓いを承認してくれるわ」
 黒い少女はそう微笑み、はじめましょう?と言葉を続けた。
「シルヴィア・エインズワース。あなたはこの女性と結婚し、これから共に歩いて行こうとしております。
あなたは、健康なときも、そうでないときも、この人を愛し、この人を敬い、この人を慰め、この人を助け、その命の限りかたく節操を守ることを誓いますか?」
「誓います」
 シルヴィアに迷いはなかった。学園に来て色々なカップルを見た。それは依頼だったり、学内だったりしたけれど、それでも、自分にも大切な人が出来た。目の離せないあどけない可愛らしい愛しい人。そう思ってそっと悠里の方にちらりと視線を向ける。すると悠里が笑顔をこちらに向けた。こういうところもスキなのだと改めて実感する。だから彼女の、彼女だけの騎士になることもそれ以上になることも迷いはない。
「天谷悠里。あなたはこの女性と結婚し、これから共に歩いて行こうとしております。
あなたは、健康なときも、そうでないときも、この人を愛し、この人を敬い、この人を慰め、この人を助け、その命の限りかたく節操を守ることを誓いますか?」
「はい」
 悠里も即答だった。色んなところへ行き色んなことをした。初めてのことばかりではしゃぐ自分に呆れることもなくいつも付き合ってくれた。でも、様々な過去を持った人が多い学園内で自分は普通だった。特に憎む相手もなく、コネがあったわけでもなく、思惑もなかった。たまたま適性があったからと理由でここに来た私が辞める事なくここまで来られたのは隣にいる人のおかげだと思う。だから、迷いはない。これからもずっと一緒にいたいから。そんなことを思いながら視線は自然と隣の愛しい人に向かっていた。目が合う。これからも一緒にいられるのだと嬉しくて悠里は笑顔になった。

「では、誓いの口づけを」
 お互い向き合いシルヴィアが悠里の腰を抱き、悠里がシルヴィアの首に腕を回す。
「ユウリ、貴方を心も体も私のものにするわ。いいでしょう?」
「シルヴィアさん……」
「パートナーに『さん』はいらないわ」
「……シルヴィア、私の全部をシルヴィアのものにして」
 悠里は真っ赤になりながらも目を見てそう言った。
 その姿に、シルヴィアは悠里の唇を奪った。愛おしくて、愛おしくて仕方がなかったのだ。
 悠里もそれに応える。
 
 こうして、薔薇の華やかな香りの中、密やかな結婚式は幕を閉じた。
 二人の前途に光が満ち溢れんことを。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja0115 / 天谷悠里 / 女性 / 18 / Red Rose Bud 】

【 ja4157 / シルヴィア・エインズワース / 女性 / 23 / White Rose 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 三度目のご注文ありがとうございます。いつも幸せそうでお互いを思っていらっしゃることが伝わってくる発注文で幸せいっぱいな雰囲気が伝わるように頑張らせていただきました。
 騎士と姫として、そして、人生のパートナーとして末永くお幸せに過ごしていただけたらとお祈りしております。
 今回はありがとうございました。
水の月ノベル -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年07月01日

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