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『パッティー&リッチーの熊退治 』
アルヴィン = オールドリッチka2378)&ダリオ・パステリka2363

 かつては野盗の一団が塒にしていたという、某所郊外にひっそりとあるその小さな家の佇まいは、まさに「アジト」と呼ぶに相応しい。
 日当たりの良い門扉の前では一匹の柴犬が伏し寝ている。
「……熊?」
 齢は三十近いだろうか。無精髭を生やし額に布を巻いた男が、板の間に胡坐をかいて座っていた。このアジトを野盗達から『円満に借り受けた』のだとして、現在家主となっているダリオ・パステリである。
「うむ。今朝、畑にいったら一画が滅茶苦茶に荒らされておってのぅ」
 近所の爺様は、出された茶を飲みつつ"足跡から判断するに熊ではないか"と、弱り顔でダリオに説明する。
「熊だとしたらこりゃあクマったと」
「なるほど、クマだけに隈なく退治すべきであるな」
 重々しく頷きダリオ。
 その様子を、傍らで座布団に座り湯呑みを手にした黒髪碧眼のハーフエルフ《アルヴィン》がにこにこと眺めている。
――誰もつっこまない。
 深刻なツッコミ不足である。
 人里に熊というのは結構恐ろしい事態な気もするのだが、歪虚が幅を効かせている世の中であるからして、この爺さんも肝が据わっている。しかし、呑気に落ち着いているのはそれと同時に強力な"アテ"があるからでもあった。
「ダリオ殿。貴殿らは腕が立つと聞いた。その腕を見込んでお頼みしたい。礼はするからなんとかしてくだされんかのぅ?」
 そう、ダリオ・パステリ、『滅亡した主家の再興』を掲げ『帝国の猟犬』の異名を取るこの男は、敏腕の闘狩人なのである。
 男は無精髭をざらりと一つ撫でると。
「リッチー」
「ン、なんダイ?」
 ハーフエルフが小首を傾げる。
「今宵の夕餉……熊鍋にするというのは如何であろうか?」
 それにアルヴィンは破顔して答えた。
「わぁ、いいネ、パッティー! 丁度、僕もクマを食べタイト、思ってた所なんダヨ♪」
 うむ、とダリオは頷くと。
「爺様、これもご近所の誼よ。その依頼、それがしらがお引き受けいたそう」
 かくて、依頼を引き受けた二人は、豊後守を引き連れ、共に熊退治へと出発するのだった。


「頼むぞ、豊後守。熊を仕留めれば今宵は馳走ぞ」
 主《ダリオ》の命を受けて柴犬は畑につけられた巨大な足跡をクンクンと嗅ぐと、ワン! と一度吠えてから、たったか軽快に歩きだした。
「マルルーは賢いネー♪」
 アルヴィンが笑って豊後守の後を追う。アルヴィン・オールドリッチ、二十代半ばに見える若いハーフエルフ。彼とは公園で寝泊まりしていると勘違いして庇を貸してからの仲である。
 何故に豊後守がマルルーなのか。
 どういう過去の持ち主なのか。
 はたして謎である。
 口調や思考回路に時折奇妙さを覚えるものの、その洗練された物腰やハンターとしての腕前からしても只者ではないと窺える。
 謎な男だ。
 だが、友人であった。
 友と呼ぶに値する男であると、それさえ解っていれば、ダリオにとって一人の男を友と呼ぶには十分である。
 だから余計な事は聞かない。何かがあって、今のアルヴィンがあるのだろうが、詮索はしない。
 ダリオも己の過去について"主家を再興せねばならぬ"としか言っていない。
 お互い今はそれで良いのだと、ダリオは思っている。
「やはり森であるか」
 豊後守の後をアルヴィンと追いつつ、やがて見えてきた緑成す木々を見据えて、ダリオは呟いたのだった。


 うねるように地を這う大木の根を越え、カニが歩く沢を横目に、二人と一匹は緑深い森を進んでゆく。
「フッフ、フーン♪」
 アルヴィンは上機嫌だった。いや、大体いつだって上機嫌なのだが、今日もまたすこぶる上機嫌である。
 熊鍋という物には興味があったし、ダリオと共に仕事するというのも楽しい。彼は解らない事だらけだろう己に対し、それでも友人だと言ってくれた。その誠実さが嬉しいのである。
「ふむ、こちらか」
 ダリオが呟く。豊後守は鼻が効くようで、迷い無く森を進んでいっている。
 四半刻も導かれた頃だろうか、二人と一匹は大木の傍らに漆黒の毛並みの四足生物が佇んでいるのを発見した。
 向こうも一行に気付いたようで、のっそりと立ち上がり両腕を振り上げてきた。一般的な熊の示威行為である。
 が、
「……巨大、であるな」
 ダリオは少し驚いた。
 足跡から並の熊よりも巨体であろうとは予想していたが、その体長、五メートルを超える。一般的なヒグマの倍以上の体躯だ。
 熊は牙並ぶ顎を開き、森を揺るがす大音声の咆吼を轟かせると同時、全身より赤黒い瘴気を煙の如くに噴出する。
「ふふーふ、コレハ、食べ甲斐が、アルネー!」
 咆吼にも瘴気にもまったく怯まず、キラキラと瞳を輝かせアルヴィン。
「いや、待て、これは……野生の獣ではなく歪虚なのではないか?」
 ダリオは流石に制止の声をあげた。
「えぇと、歪虚という事ハ――」
「倒すと消えるであろうな」
 落胆を滲ませてダリオ。どうやら熊鍋には出来なさそうだ。
「ソッカー、でもこちらさんはお爺様の畑を荒らすようダカラ、それでも倒さなきゃネ」
「うむ。元より討伐が第一目的であるしな。しかし、そうなると、今宵の夕餉は如何いたそうか――」
 そんな事を二人が話していると、熊型歪虚は立ち去らぬ二人に交戦の意志ありと見なしたか、地響きを立てて再び四つん這いになり、地を蹴って猛然と駆け出す。
「オオっ?!」
「アハー!」
 弾丸の如く突っ込んで来た熊歪虚に対し、ダリオとアルヴィンは左右に別れて素早く飛び退く。なお豊後守は二人が言い合っている間に既に梢の陰に退避している、賢い。
 赤い暴風の如く空間を突き抜けた熊歪虚は大木に激突し、鈍い音を轟かせながら止まった。
 メキメキと音を立てて樹木が倒れてゆき、ぐるりと熊歪虚が振り向く。平然とした様子だ。
「フッ!」
 だがその時には既にアルヴィンがワイヤーウィップを抜き放ち躍りかかっていた。モーターが回転しうねる刃の鞭は光の弧を描き、その先端が音速を超えて熊歪虚へと襲い掛かる。
 狙いは、顔面。
 放たれた一撃は熊が素早く首を振った事により肩口に命中し、漆黒の毛並みと分厚い脂肪を斬り裂いて血飛沫を舞わせる。
 鮮血を溢れさせながらも熊歪虚は怒りの咆吼をあげアルヴィンへと突撃する。ダリオは駆ける巨獣のその横手を突くように抜刀ざま矢の如く踏み込んだ。
「オオッ!」
 最上段に振り上げられた白刃は、風を巻き弧を描いて落雷の如くに振り下ろされ、熊歪虚の背から脇腹にかけてを斬り裂いて抜けた。黒毛が斬れ飛び赤色がパッと宙に散る。
 熊歪虚は口から赤黒い煙を吐き出しながら唸り声をあげて足を止め、独楽が回るように、その巨体を豪速で回転させた。巨木のような左腕が鞭の如くに振るわれ、一本一本が大振りのダガー程のサイズがある豪爪が、ダリオへと唸りをあげて襲い掛かる。
 男は咄嗟に上体を後ろに逸らし、紙一重、ダリオの鼻先を豪爪が颶風を巻き起こしながら突き抜けてゆく。
 刹那、視界が翳った。
 熊が地を蹴り宙に身を躍らせていた。巨獣がダリオへと跳びかかりざま追撃の右腕を振り下ろす。
 ダリオは横っ飛びに身を投げ出すように跳んだ。熊の右腕が大地を爆砕し、着地した超重量が大地を揺るがせる。武士は一回転して起き上がると、そのまま熊の背後へと回り込むように樹木の間を縫って疾風の如くに駆け、熊は駆ける男を捕捉するようにその場で向き直り回ってゆく。
『アア、聖なるカナ、聖なるカナ、聖なるカナ、昔イマシ、今イマシ、原初ヨリノ友人、精霊ヨ、虚無ヲ見張ル篝火ヨ!』
 一方、アルヴィンは後方に下がって間合いを広げつつ、鞭から杖に持ち替えて、朗々と詠唱の声を森に響かせていた。マテリアルが流動して収束し、星光の杖の先端に光が宿り、詠唱が進むと共にその輝きが急速に増してゆく。
『汝ガ我ガ名ノ意味ヲ認メルナラバ、ドウカコノ手ニ闇ヲ払ウ、眩き長き輝く槍を!!』
 ハーフエルフが輝く杖を熊へと向けると同時、杖の先端より特大の光弾が轟音と共に飛び出した。
 純白に光り輝く眩い巨弾は、唸りをあげて閃光の如くに宙を飛び、熊の背へと迫ると突き刺さり、爆裂して、盛大に衝撃を撒き散らした。赤黒い血肉が空間に大量に飛び散ってゆく。
 が、歪虚は苦悶の咆吼をあげながらもそれでも倒れず、怨讐の光を赤い双眸に宿してアルヴィンへと振り向き、猛然と地を蹴って駆け出してゆく。
「タフな奴よな」
 男の声が上から響いた。
 熊がアルヴィンへと振り向くと同時、ダリオもまた疾風の如く踏み込み高々と跳躍していた。
 加速がつく前に背後から躍りかかった男は、熊の背の上へと果敢に組みつく。
 激しく揺れる熊の背を両足で挟み体を固定すると、次の刹那、一瞬でドライブソードを解体し短剣状に変化させ、稲妻の如く熊の延髄目掛けて振り下ろした。
 振るわれた刃は、鈍い手応えと共に肉を貫き骨を穿った。さらに両手握られた柄が捻られ、刃が回転し巨獣の神経をズタズタに破壊する。
 刹那、駆けていた熊の四肢がガクリと折れた。
「オオッ?!」
 強烈な慣性がダリオの身にかかり、脚が滑ってスポーンと前に投げ出される。宙を舞ったおかしらは、樹に激突して大地に落ちた。
「ウワッ! パッティー、ダイジョーブ?」
「ううむ、なんとか」
 ダリオは頭を擦り呻きつつ身を起こす。
「……やはり、こいつは歪虚であったか」
 視線を向けた先では、地に伏した巨獣の全身より赤黒い煙がもうもうと噴出し、その身が崩れ始めていた。
「ダネー」
 やがて十秒も経つと、その身は完全に崩れ、溶けるように消えていったのだった。


 その後、帰還した一行は爺様から礼金を貰い、熊鍋の代わりに畑で取れた野菜の雑炊をご馳走になった。
「熊鍋は残念だったケレド、雑炊もオイシーネー♪」
 アハッと笑ってアルヴィン。
「うむ。やはり野菜も鮮度が決め手よな」
 ダリオは頷くと熱い雑炊を口の中に掻き込んだのだった。




 了




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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整理番号 / PC名 / 性別 / 外見年齢 / 余人視点による立場
ka2378 / アルヴィン = オールドリッチ / 男 / 26才 / 謎のハンター
ka2363 / ダリオ・パステリ / 男 / 28才 / おかしら
― / 豊後守 / ? / ? / おかしらの愛犬


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お世話になっております、望月誠司です。
 ガチマ誠に有難うございます(
 ご期待に添えられる出来になっていれば良いのですが……
 あ、あとハンターの身体能力についてのご記述有難うございます。Cとかよりも地に足がついてる感じなのですね。
 この度はご発注有難うございました。
水の月ノベル -
望月誠司 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年07月03日

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