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『願い巡る 』
アルマ・ムリフェイン(ib3629)

――君よ、父よと仰いだ師の死から十数年後の天儀歴一〇一二年。
 東堂・俊一(iz0236)は積年の恨みを晴らす事無く天儀を去った。
 当時彼は、その時の開拓者ギルド長より文を貰い『武帝に神代はない』と知った。
 この事実がどれだけ彼の心を掻き乱したか、それは誰にも知る事は出来ない。
 けれど彼はその事実を知り全てを許す道を選んだ。
 それが彼の侵した罪への償いだから――。

   * * *

「ね……これ、僕叱られるかな、恭さん」
 飛空船の甲板。その縁に手を掛けながら、アルマ・ムリフェイン(ib3629)は不安げな表情で天元 恭一郎(iz0229)を見上げた。
 銀色の柔らかそうな狐耳を下げ、尻尾も完全に下げた状態から彼の不安は伝わってくる。恭一郎は呆れたように肩を竦めると、彼の視線を誘導するように空を見上げた。
「大丈夫じゃないですか……東堂さんも良い年ですからね」
 年なんて関係ない事は恭一郎もアルマも知っている。
 それでもそう返したのは、アルマが「大丈夫」と言う答えを待っていたからだ。
(……ずるいな、僕……。少しでも長く平穏に、時を大切にしてほしい人達は、これで渦中だ。それなのに)
 それなのに自分の安心を欲している。
 誰よりも好いている人達を危険に晒して、それでも尚自分は好かれようとしている事実に眉尻が下がる。と、その頭に大きな手が触れた。
「これでも食べて落ち着くと良いよ」
 差し出されたのは恭一郎が昔から持ち歩いている金平糖だ。
 その中の1つを摘まみ上げながら彼は言う。
「大丈夫、東堂さんは君を責めやしないし、彼の場合は喜んで知恵を貸してくれるよ」
「喜んで?」
「そう、喜んで」
 確信めいた響きで頷く恭一郎にアルマの目が瞬かれる。
 そして差し出された金平糖を摘まみ上げると勢い良く口に放った。
「ああ、見えて来たね。そろそろ下船の準備をしよう」
 行くよ。そう促して歩き出す彼に続いて足が動く。だが直ぐに足を止めると、アルマは見えて来た島を見て目を細めた。
「……船を下りたらもう……偉蔵ちゃんと背比べして、何も知らない風にはもう帰れないな」
 呟き、アルマは階下へ降りて行った。
 この日は快晴。澄んだ空が広がり、これから向かえるであろう暗雲の時代は大丈夫。そう未来を示しているかのようだった。

   * * *

 八丈島の気候は天儀ともアル=カマルとも違う。
 雰囲気で言うなら南国に近いこの島に最後に降り立ったのは何時の事だろう。
 島の整備が整い始めているのか、以前訪れた時よりも大きな家に案内された一行は、東堂の私塾だと言う塾の講堂に通された。
「ようこそおいでくださいました。今日は随分と懐かしい顔が揃っていますね」
 腰を下ろす面々の前に、島で採れたと言う茶葉から淹れた茶が振る舞われる。
 新緑の、美しい色を覗かせるそれを配るのは偉蔵だ。
 すっかり青年と呼ぶにふさわしい年齢と立ち居振る舞いになった彼は、アルマの視線に気付くと微かに笑んで茶を差出した。
「元気そうで良かった……変わりはない?」
「ご無沙汰しています。お蔭さまで物資も整ってきましたし、元気ですよ」
 数年で人はここまで変わるのか。そう思うが彼からしてみればアルマもまた、変わっているのだろう。
 懐かしい彼にもっと話掛けたい所だが、そうしている間にも今回島を訪れた本題が語り始められていた。
「つまり武帝崩御による後継者争いに端を発する内乱を、未然に防ぐ方法を考えて欲しい。そういう事でしょうか?」
「はい。虫の良い話とは承知しています。それでも防げる術があるのであればどのような物にでも縋りたいのです」
 どのような物にでも縋る。その一言が恭一郎の心境を語っている。
 彼は今でも東堂を好いてはいない。
 東堂の行った事、真田の信頼を裏切った事、天儀を危険に晒した事、その全ては今でも彼の胸に深い傷跡として残っている。それでも東堂に縋るのは、真田の愛する浪志組と民の為だから。
「桜紋事件に関わった貴方なら良い知恵がある筈。どうかお願いします!」
 深く頭を下げる恭一郎にアルマの目が見開かれる。
 本当なら助力を願うのも嫌な筈。それなのに其処まで必死に求めるのは――
「恭一郎君、頭を上げてください。確か今の帝はアルマ君……君の友人でしたか」
「え」
 不意に振られた言葉にアルマの耳が立つ。
 確かに以前この地を訪れた際、それに近いことを口にした。
『……僕は、ある男と友人になりました。父に刃を向けられ家族を喪っても死ねず、その禍根を種に命も狙われた』と。
 そしてその時に、その友だちにも会ってもらえたら。とも言った記憶がある。
 だがそれは本当にかなり前の事。しかも明確に『誰』とは告げていない話だ。
「先生……覚えて……」
「忘れませんよ。君が勇気を振り絞って放った言葉を忘れる筈もありません」
「!」
 唇を引き結んで込み上げる感情を押し込む。
 そして心に浮かんでいた戸惑いを振り切るように腰を上げると、東堂の前で膝を折り、恭一郎と同じように頭を下げた。
「先生、僕達と、僕の友人に力を貸してください!」
 帝とか国家とか如何でも良い。願うのは彼の身の安全と心労を少しでも軽くする事。その為ならば何でもする。
 その覚悟を示すように頭を下げ続けると、昔となんら変わりない優しい声が降って来た。
「頭を上げなさい。恭一郎君、この件に関し何処まで進んでいるのか教えて頂けますか?」
「はい。これを……此処にいるアルマ君が観察方の仕事と称して事前に調査した資料です」
「アルマ君が?」
 差し出された紙面に東堂の手が伸びる。
 それはアルマが先日浪志組に提出した神楽の都と遭都の地図だ。
 地図には至る所に要人の名前が記され、その補足として細かな文字が書きこまれている。
「現在の都を含め、遭都には武帝崩御の時が近いと言う噂が流れています。こうした噂は遅かれ早かれ流れるものですが、今回は異様に早い。朝廷内部に謀叛を企む者がいると見て調べた警戒すべき要人の地図です」
「成程。派閥は如何なっていますか?」
「ここに」
 次々と差し出される資料に目を通す東堂を見て思う。
 やはりこの人は凄い、と。
 それと同時に思うのは、自分が信頼する人たちが少しだけ似ていると言うこと。
(この件に関われば危険が伴う……それななのにこの人たちは、自分から進んで危険な道に入ってくる……)
「……だから、放っておけないのかな」
 ポツリ。零した声に東堂の首が傾げられた。
「何かありますか?」
「あ、いえ! 何でもないですっ!!」
 慌てて首と手を横に振って応える。そうして皆が視線を落とす資料に目を落とすと、不謹慎ながら少し笑ってしまった。
(うん。僕が身を投じる覚悟をして往くのは……それしか賭けようがないからで、きっと変われない。でも、この人たちのためなら……)
 他人の為に真剣に考えられるこの人たちのためなら、賭けられる。
「警備の強化は勿論ですが、替え玉を用意すると言う点も踏まえ浪志組には水面下で動いて貰いましょう。アルマ君、良いですね?」
 そう発せられる声に、アルマは逃げるでもなく、真摯な瞳を向けて頷きを返した。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib3629 / アルマ・ムリフェイン / 男 / 17 / 獣人 / 吟遊詩人 】
【 iz0236 / 東堂・俊一 / 男 / 30 / 人間 /志士 】
【 iz0229 / 天元 恭一郎 / 男 / 28 / 人間 / 志士 】

ゲストNPC
○偉蔵


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
本編では語られなかった先の歴史の裏話。如何でしたでしょうか。
この作品がアルマさんにとって、そして背後さんにとって思い出のひと品になる事を願っております。
この度は、ご発注ありがとうございました!
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朝臣あむ クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2015年07月06日

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