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『幸せの風景 』
ユリゼ・ファルアート(ea3502)


「むか〜しむかし、あるところに…」
 それは、6月のある日のこと。晴れ渡った青空が広がる下、穏やかに吹く風に揺られて香る花の匂いと、深くなってきた木々の緑がふわりと放つ優しい香りに包まれて、母親は2人の子供たちに絵巻物を広げて見せていた。
「素直になれない魔術師がいました。彼女はある日、赤い空の下に建っている塔の中に閉じ込められた騎士を…」
 母親の名前は、ユリゼ・ファルアート(ea3502)。2人の養子と3人の実子を育てているが、養子たちと実子の長男は剣の稽古とその見物に出かけており、今彼女の傍で物語を聞いているのは、実子の長女であるエステルと、実子の次男であるテオフィルの2人だけだ。
「うぅん…これはまた、いつかにしましょ」
「えぇ〜! まじゅちゅしのお話ききたい〜」
「ておは、きし〜!」
 目を輝かせて物語を楽しみにしていた子供たちから不満の声が上がったが、木製ベンチの中央に座る母親の両脇に、ちょこんと大人しく座っている。
「塔に閉じ込められたお姫様のお話のほうがいいでしょ? ね?」
 薄っすらと苦笑を浮かべながら、ユリゼは絵巻物をくるりと巻いて閉じ、別の絵巻物を取り出した。
「おひめさま、たのしそう! おうじさまがたすけるの? きかせて、かあさまっ」
 すぐに身を乗り出した娘が、ユリゼの太腿に両手を置いて顔を覗き見る。それへと微笑みかけて、ユリゼは絵巻物を広げた。
「そうね。塔に閉じ込められたお姫様を助けるために、魔術師は…」


「この塔ね…」
 青い青い空と一面に広がる草原の中、その塔はぽつんと建っていた。
「待ってて、お姫様。必ず助けるから」
 脳裏に、金の髪をした娘の姿が浮かび上がる。この草原の中、塔の周りを囲むようにして咲き誇る少し小ぶりの向日葵の花。それによく似た、笑顔が可愛い娘。
 手に持っていた短剣をぐっと握り締めて一歩踏み出すと、さわさわと草が揺れた。
「急ぎのようだね、王子様?」
 不意に背中から声を掛けられて、息が詰まる。
「フィル…。どうして、ここに…?」
「あぁ、それはね…」


 とても穏やかな6月の昼下がり。
 ユリゼは、ベンチにもたれ掛かって眠ってしまっていた。
「…かあさま…? ねてるの?」
「ねちゃった?」
 2人の子供たちは母親の昼寝を覗き込んでいたが、一向に起きる気配はない。
「テオフィル。かあさま、おめかししましょ」
 ふと思いついたエステルが、弟に声を掛けた。
「おめかし?」
「きれいにするの。いっぱいかざりつけするのよ」
「かあさまにおかざり?」
「うんっ。お花とか、キラキラしてるものとか、きれいなものでかざるの」
「うん、わかった!」
 元気にテオフィルは両手を挙げる。
「きれいなものさがし、行こ〜」
「しゅっぱ〜ちゅ」
 張り切って2人は家の中と庭に分かれて走り出した。
 エステルは家の中担当だ。きょろきょろ見回してすぐに、目的のものを見つけた。シンプルだけど真っ白で、ちょっとしたフリルがついているテーブルクロス。
「ん〜〜〜っ」
 端を引っ張ってもなかなか手に入らない。椅子に乗ってテーブルの上のものをどかし、テーブルクロスを思い切り引っ張った。
「いた〜ぃ…」
 勢い余って椅子ごとひっくり返ったが、布が僅かなクッション代わりになって彼女の体を守ってくれている。それをくるくる丸め、エステルは母親の元へと走り出した。
 一方のテオフィルも、庭で花を見つけている。
「おっはな〜♪ あか〜しろ〜きいろ〜♪」
 自作歌を歌いながら、ぶちぶちと花を茎から千切って手に入れて行く。ナイフなど使ったことすらない子供の入手方法としては至極普通の手段ではあったが、花壇一面が無残な有様となった。
「あねうえ〜、おはなっ」
 小さな両手でしっかりと花束のようにして持ち走ってきた弟の声に、母親にテーブルクロスを掛けていたエステルは振り返る。
「わぁ、かわいい〜」
「いっぱい〜」
「かみかざりにしましょ」
「うんっ」
 とは言え、髪飾りなどという器用な真似はまだ出来ない3歳児。茎が途中で折れて花が垂れていたり、バラバラの方向に花が向いていたりというおかしな飾り方になってしまう。
「もうっ。こーするのー」
 さすがに髪に点在する花がおかしいと感じた姉5歳児。花を数本まとめてユリゼの髪に挿し、形を少し整える。
「できた〜っ」
「かあさま、きれー!」
 ぱちぱちと手を叩いて顔を見合わせ喜ぶ子供たちは、喜びの余り、背後から伸びる影に気付かなかった。


「ん…?」
 音が聞こえる。覚醒の予感がしたと同時に不意に体が浮かぶ気配がして、ユリゼは目を開いた。
「!?」
 目を見開けば目の前には人の顔があって、唇も塞がれていて、しかもお姫様抱っこをされている。
「ちょっ…何でいきなり…っ」
 その人が顔を離して微笑んだので思わずその行為を咎めようとしかけて…。
「かあさまいいな〜」
「テオも〜っ」
 下方から飛んでくる声に、言いかけた言葉を飲み込んだ。
「お、お帰りなさい…。あ…なた…」
 飲み込んで、妻であり母である女の顔になったユリゼに、男は楽しそうな笑みを浮かべた。
「ただいま。帰ってきたらいきなりお姫様が眠りこけててびっくりしたよ」
「お姫…あら?」
 テーブルクロスごと抱きかかえられている自分の姿に気付いたところで、髪に飾られていた花が1本膝に落ちる。
「テーブルクロスのドレスよ。かあさまおめかししたの〜」
「したの〜」
 子供たちが夫の足元で主張しているのを聞き、思わず顔がほころんだ。
「ありがとう、2人とも」
「テオも、ちゅ〜する〜っ」
「ほんと可愛いねぇ、うちの子たちは」
 ベンチに降ろされ、わらわらとユリゼに抱きついてきた子供たちごと夫に抱きしめられる。そのまま子供たちの頬にキスをすると、子供たちもユリゼの頬にキスをし返した。
「じゃあ私からも、はい」
 髪にめいいっぱい飾られている花を見ながら、男はユリゼの耳元に花を1本挿し入れる。
「早咲きの向日葵が咲いていたんだ。珍しいよね」
「ほんと…。小さいのね」
 先程まで見ていた夢の中で咲いていたような小ぶりの花を見て、自然と顔が綻んだ。
「わたしのぶんはー?」
「勿論、エステルの分もあるよ。エステルはとびきり可愛いから、おまけしちゃおうね」
「わぁーい」
「テオもーかわいいー?」
 きゃっきゃっと喜ぶ子供たちを見ながら、ユリゼはそっと向日葵の花を手にする。
 燦々と降り注ぐ太陽の元、元気に咲く向日葵の花たち。その眩しさの中に今、自分は立っている。この幸せを、何と表現すればいいだろうか。家族と過ごせるささやかな時間の温もりを。
 結局は、幸せとしか言いようがないのだけれども。
「…父さんも帰ってきたことだし、おうちに帰っておやつにする?」
「おやつにするー」
「おやつー」
 嬉しそうに頷くエステルと、両手を挙げてばたばたしているテオフィルと。自分の両手にひとつずつ、小さな手を重ねる。興奮して温かくなったその手をしっかりと握り、ユリゼは夫へと振り返った。何も言わずとも夫も頷き、ユリゼの背に軽く手をやりながら歩き始める。
 皆がそれぞれに、早咲きの向日葵の花を持ちながら。


「…」
 現実に引き戻されるというのはきっと、こういう時なのだろう。
 散乱した室内を見回しながら、ユリゼは軽く息を吐いた。窓から見える庭の花壇に起こった惨劇はもう、見なかったことにする。
「…叱るに叱れないわね…」
 ドレス代わりに自分の体に巻かれたテーブルクロスを眺めて呟き、棚からおやつを取ろうときゃーきゃー言っている子供たちへと視線を送るが、その視界に夫が入ってきた。
「じゃあ、張り切って掃除と整理をしようか。…君の焼いた、焼き菓子を食べてからね」
「整理整頓は苦手でしょ、フィル」
「焼き菓子力で頑張るよ」
 そう言い、子供たちの元へと歩いていく夫を見ながら…。
 きっと、ここに居る3人の手を借りたら余計に片付かないであろう未来が見えつつ。


 ユリゼは、微笑んだ。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【ea3502/ ユリゼ・ファルアート / 女 / 29歳 / ウィザード】

【 ― / エステル / 女 / 5歳 / 子供】
【 ― / テオフィル / 男 / 3歳 / 子供】

【 ― / フィルマン・クレティエ / 男 / ?歳 / ? 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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時を越えてのご発注を頂きまして、ありがとうございました。
子供、旦那、砂糖に加えて、花も盛ってみましたが如何だったでしょうか。
時を越えた世界での、お子様たちの成長を楽しみに致しております。

この度は、ご発注を頂きましてありがとうございました!
水の月ノベル -
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2015年07月07日

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