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『●きっかけとは、思いつきである 』
矢野 古代jb1679)&矢野 胡桃ja2617)&ディートハルト・バイラーjb0601)&華桜りりかjb6883)&ゼロ=シュバイツァーjb7501

 カーテンを開け、昨日までの天気が嘘みたいねなんて矢野 胡桃が笑っていたのも束の間。手加減を知らない太陽の光は大地に突き刺さり、矢野家の部屋にも降り注ぐ。
 ここまで来るとちょっと暑いと古代は窓を開けたが、漂ってくるのはアスファルトの焼ける臭いが混じった、熱気だけ。それもただの熱気ではなく、じっとりと重い、湿気をたっぷり含んだ熱気である。それが流れる事は無く、ただ下から上へと昇るだけであった。
 風待月とはよく言ったものだ――古代がいつの間にか滲んだ額の汗を拭い、苦い笑いを浮かべて窓を閉める。
 家の中の方がまだ涼しいと時計の秒針が動き始めるまでは思っていたが、気温計を見てしまって身体も脳も理解したのか、どっと汗が噴きだす。
 とうとう我慢の限界か、胡桃がその一言を発する。
「あつい……」
「OK、我が愛しき娘(てんし)よ。こんな時に活躍するのが、クーラーという名の文明の利器だ」
 エアコンではなくクーラーと呼んでしまうあたりに微妙な年代を感じるが、古代はリモコンを手に取り、その素晴らしき文明に命を灯した。
 だがいつまで経っても心地好い冷風を吐き出さないどころか、動く気配すらない。
「父さん、早く」
 リモコンを向けたままの古代へ胡桃がせっつくと、リモコンの先端を覗き込み、意味なんてないと分かりつつもよく振って、じっとりと汗ばんだ手をよく拭いてから握り直し、再びリモコンを向けてピッと。
 ……一歩近づいて、ピッと。
 もう一歩近づいて、ピッ。
 さらに近づいて、ピ……もはや押し付けて零距離だというのに、全く動いてくれない。
(うんともすんとも言わないとは、まさしくこの事か……)
 軽い眩暈に襲われ、リモコンが古代の手から滑り落ちる。
 がばりと、肩でも掴むかのようにエアコンを手で挟み込んで揺さぶった。
「どうして俺より若いお前が、俺より先に逝ってしまうんだ……!」
 それほど古いわけでもないし、壊れるほど使用頻度が高かったわけではない。冬だって共に戦ってきてくれた友が、今は物言わぬただの無機物と化している――もともと無機物だが。
 動かないのだと理解してしまった胡桃が眉間に皺を寄せ、クッションを振りかぶり――投げる力も失ってソファーに崩れ落ち、そして床へと転がり落ちるのだった。

「暑い。滅びろ。暑い。滅びろ。暑い……」
 ねっとりと絡みつく空気を呪い、床に寝そべった胡桃がずっと繰り返し呟いていた。
 あるおっさんに至っては耐えきれずに服を脱ぎ捨て、パンツ一丁、いや、褌一丁になって日の当たらない壁に背中を預けてへたり込んでいる。
(そういえば、何故パンツ一丁、褌一丁と言うのだろうな。銃も1丁と呼ぶが、パンツと銃に何か関係が……)
 朦朧とする頭では、くだらない事しか思い浮かばない。
 エアコン様の修理は、業者が休みという不幸でできなかった。
 せめて扇風機を買いに行こうと立ち上がった古代はそのままの姿で玄関を開けた――が、閉めた。どこかでポッキリという音が聞こえた気がする。
 すごすごと引き返す古代だが、ちょうどそこに、インターホンの音が鳴り響いた。
 踵を返す古代は裸足で玄関のタイルを踏み、足裏のひやりとする感触に僅かながらの幸せを感じながらも、鍵を開ける。そしてほんの少しだけ扉を押し開けてやると、訪問を許された来客者は自ら扉を引いて開けた。
 開けた瞬間に、華桜りりかはいつも物憂げな瞳を丸くさせてしまう。
「お、いらっしゃい」
「んぅ……こん、にち……は、です」
 不快な暑さでも自分と娘の友人を笑顔で出迎える古代だが、そのよそよそしい態度に一瞬だけ怪訝な表情を浮かべ、りりかがチラリと見た視線の先を辿って自分の褌が映る。
 どうするべきだろうか――鈍くなった思考はなかなか答えを教えてくれない。
「……俺は、服を着るべきだな?」
 りりかが小さく頷くのを見て、無精ひげがチクチクする顎を撫でながら、リビングではなく自室へと向かう古代であった。
 クローゼットを開け、こんな日はこれにするかと色の濃いネイビー系の甚平を手に取り袖を通していると、ふと、見上げた先、クローゼットの枕棚の上にある段ボールに目が留まった。
 ――ああ、そうだ。
「水鉄砲でも出すか――」

「暑い滅びろって言うか暑いの爆散しろ。夏爆散しろ。梅雨爆――」
「皆の者、水鉄砲で遊ぶぞ!」
 戸をぶち破る勢いで戻ってきた古代の手には、ハンドポンプがついた大型の水鉄砲が2丁。
「発しr……は? 水鉄砲?」
「みずでっぽー……? 楽しそうなの、です」
 床と同化しかけていた胡桃がむくりと起き上がり、りりかは小首を傾げる。そんな2人へ古代は、胡桃にハンドポンプ式を1つ渡し、りりかへは尻ポケットに刺していた拳銃型の小さい水鉄砲を2丁渡した。
 よくわかっていないりりかが自分に銃口を向けている最中、うっかり引き金を引いてしまい、噴射された水で顔を濡らし、驚いて銃を落してしまう。
「う……? 冷たい、です」
「入たての水だからね。大丈夫かい、華桜さん」
 タオルを受け取るりりかの横で、胡桃が立ちあがった。
「冷たい……つまり、涼しくなるわけ、ね。
 ……いいわ。殺ってやろうじゃない。場所は水飲み場と芝生のある、あそこの噴水公園、ね。右腕も呼んでおこうかしら」
 殺意とテンションが暑さをも吹き飛ばす――そんな言葉を思い浮かべながら、クーラーボックスも引っ張り出してくる古代だった。

「お、陛下からのメールや……水鉄砲で戦争? 平和なようで物騒な響きやな〜」
 矢野家が死屍累々としているのにもかかわらず、ゼロ=シュバイツァーはむしろこの陽気を楽しむかのように半身を露わにして外で日光浴をしていた。
 ハンモックから身を起こしたところで、再びメール。
「今度は古代さんから……ただのお遊び? 終わった後は冷たい酒でも一緒にどうだって――そら行くしかないやな!」
 地に足をつけて一気に立ち上がるのだが、左手で顔を押さえてストンとハンモックに腰を掛けてしまった。
「ダメだ。古代さんとか陛下に対抗する手段が……というか、りんりんもいるのか……生きていける気がしないぜ……」
 行くのを止めるか――そんな考えが一瞬よぎったが、頭を振って振り払う。何より酒も待っている。行かないなどという選択肢など、あってはならないのだ。
 なら、どうするか。
 しばらくそのままでいたが、やがて、指の間から覗かせる瞳は輝きを増していった。
「……そうやな。命中で勝てる気がしないんなら、それしかないわ」


●非常に無情なり

 白くやや青い光沢がある、涼しげなフード付ワンピースに着替えてきたりりかが公園に到着した時に、ちょうどゼロも到着したところであった。
 その手には、というか、肩に乗せるほど長大な黒光りする見事なランチャーがあって、自分の手にある小さな水鉄砲と見比べてしまった。
「おう、りんりん。可愛らしいカッコに可愛い武器やな」
「んぅ……ゼロさんのはすごそうなの、です」
「なかなかいいもん見つけてな。それをさらに改造したんや」
 ぽんと自慢げにランチャーを叩くゼロだが、りりかの視線が何を物語っているのかを察して笑う。
「あとで撃たせたるから、な?」
 見透かされたりりかは「う……」と、頷くだけであった。
 芝生のある公園では、先に来ていた甚平の古代と胡桃がじりじりとした熱気に負けず、目を閉じて待っていた。
 2人の存在に気が付いて、ゆっくりと2人は立ち上がる。
 自然と古代、胡桃、ゼロは距離を広げ、りりかは下がりつつあった。
 古代の顎から、ぽたりと汗が落ちる。ただしこれは冷や汗というヤツである。
(このメンバーか……俺は生きて……いや、涼さえ取れればこの命……!)
「いや、命は惜しいかな……」
「何? 父さん」
 すでに前屈みで、いつでも走りだせる状態の胡桃に睨み付けられ、何でもないと首を横に振る。
 覚悟は、決まった。
「……それではこれより、第一回水鉄砲バトルロワイアルを――」
 宣言しながらも古代が腕を振り上げると、皆が一斉に構える。古代へと向けて。
(え、俺?)
 振りかざした手が震える。
 手を下ろしたくなかったが、それでも下ろすしかないと一際長い深呼吸で覚悟を決め、高らかに宣言した。
「開始する!」
「当たりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!」
 ゼロのランチャーが火――ではなく、撃ちだされたペットボトルが水を噴く!
 それはいつも使う銃と遜色ないレベルの速度で射出され、一直線に古代へと伸びるのだが、宣言と同時に実戦さながらの横っ飛びがギリギリ間に合い、足を掠めるように遥か彼方へ飛んでいった。
 むしろ撃ったゼロの方が、推進力の水のせいですでに水浸しである。
「よし!!」
 だがそれを嘲笑うかのように、着地する地点を狙って胡桃が放った水のビームが古代の背中を濡らす。
 暑さも吹き飛ぶ冷たさに情けない悲鳴を上げてしまった古代へ、してやったりという笑みを浮かべた胡桃がキッと表情を引き締めた。
「さて、と……命厨父娘の娘の方、矢野胡桃――いざ参る!」
 ポンプをコッキングしながら、次弾を装填して一生懸命コッキングしているゼロへ向けて駆け出す。そして肉薄するとあろうことか水鉄砲を振りかぶり、銃床でゼロに殴りかかる。
 甲高くはない打撃音が響き渡り、横に構えたランチャーと銃床がぶつかり合ってせめぎ合う。
「へーか、そらないわ……!」
「何を言ってる、の。撃つだけが銃の使い方じゃない、でしょ?」
 最初から殺る気まんまんの胡桃が体重を乗せ、多少なりとも油断と遠慮のあったゼロは押されていた。
 そこに。
「おほぉう!?」
 ゼロがびくりと肩をすくませ、腕の力が抜けた一瞬を胡桃は見逃さない。
 銃床でランチャーを上に跳ね上げ、がら空きとなった腹に銃口をピタリと突きつけた。
「言い訳は地獄で聞く、わ」
 そして冷たい目で見下ろす胡桃は、無情にも引き金を引く。
「うへふぁははは!! こそばゆうて、きついわ!!」
 挑発ではなく心からの声に、つられて胡桃の非情な顔にも笑みが浮かんでいた。
 ゼロの後ろでも拮抗を崩したきっかけ、優しきハンター・りりかが、小さな水鉄砲で濡れている首筋へ何度も引き金を引いているところに、顔めがけて水が飛んできた。
「んむぅ……?」
「ははは、油断したな華桜さん。こっちのはこの距離くらい、届くんだよ」
 余裕を取り戻して大人げがどこかへ飛んでいった古代がポンプをコッキング、もう1発りりかの顔を狙い撃つ。
「わわ、まけないの……ですよ?」
 両手を前に突き出して飛んでくる水を弾き、飛沫を身体に受けながらも、胡桃と近接攻撃でせめぎ合っているゼロの後ろをさりげなく横切って壁にすると、そこから古代へと反撃開始。
 2丁の水鉄砲を限界まで前に突き出して、古代に向けて引き金を引く。胡桃とゼロのとばっちりで水を少し被り、服が濡れるのも構わずにはしゃぐのであった。
(ああ、みんな楽し――)
「そぶ!!」
 ほんわかとした気分で超油断していた古代は、流れペットボトルを腹で思いっきり受け止めてしまい、その場に倒れ伏す。腹筋が弛緩した状態での一撃だったので、天魔の拳で殴られるような衝撃を感じていた。
「ひ……人に向けて、撃っては……いけま、せん……」


●参戦、決着。そして――

 この暑さに参っていたのは矢野家に限らず、日本の夏に馴染みきったとは言い難い、ディートハルト・バイラーもその1人である。
(日本の夏は暑い、いや……蒸し暑いと言うんだったか)
 胸のボタンを緩め、腕もまくっているが、パンツ一丁にはならないあたり、歳相応に大人の余裕が見て取れた。歳の差もあるが、どこかのパパとはえらい違いである。
 グラスに白ビールとコーラを注いで混ぜ合わせ、それを一気に呷る。
 鼻から伝う汗が戻したグラスにポツリと落ち、手でその汗を拭射、前髪をかきあげた。
「家で飲んでいても、暑さで参ってしまうな」
 その時、開けっ放しの窓が風もないのにキィと鳴いた。まるで外に誘うかのような声に「外に出れば少しはマシか……?」と残った白ビール片手に立ち上がり、部屋を後にする。
 だが、外に出てみてもやはり、暑いには暑い。
 これならどちらの方がマシかわからないなと思っていると、聞き覚えのある楽しげな声に立ち止まり、声のする方へ足を進めてみる
と、居た。
 ゾンビの如く復活した古代の不意打ちに、ゼロを差し出して防ぎ、反撃に出る胡桃。盾はもう用済みと、ゼロをそのまま地面に投げ出す。
「酷いな、モモ!」
「戦場は非情でなければ生き残れない、わ!」
 そんな胡桃へりりかがちょっとだけ銃口を向けた途端、撃てば容赦はしないと語っている鋭い眼光をりりかに向け、りりかは大人しく地面に転がされたゼロを濡らしていた。
「やあ君達か。楽しそうな事をしてるな。俺も混ぜてくれるかい」
 移動しながら身体を回転させて的を絞らせない古代が、尻ポケットからりりかに渡した物と同じサイズの水鉄砲をディートハルトに投げて寄こす。
 空中のそれをキャッチしてみたが、予想以上の軽さと小ささに少し、戸惑ってしまった。
「さて……これはどうやって使うんだ? 子供の玩具なんて触るのは久しぶりでね」
 撃鉄に指を引っ掛けるが、当然ながら動きはしない。
 そうこうしているうちに、ディートハルトの後ろにりりかが身を潜めるように屈むと、ゼロのランチャーがディートハルトに向けられる。
「いけやぁぁぁぁあ!」
 吹き出す水、飛びだすペットボトル――腕を曲げちょっとした丸太の如く太い腕の肘で、ペットボトルを受け止めた。
「Herr.シュバイツァー。なかなか過激なご挨拶じゃないかい?」
「でぃーとはるとさん、今がこーきなの、です」
 後ろから伸びる可愛らしい手が水鉄砲を発射するのを見たディートハルトは、「なるほど」と頷いた。
「ここから水を入れて引き金を引くだけで、水が出る仕組みというわけだ。Missカオウの使い方を見て理解したよ――それと、Mr.ヤノとMiss.ヤノと比べ、射程がずいぶん短いこともね」
 ちゃぷんと手の中の水鉄砲を揺らして水の量を確認すると、ディートハルトがまだコッキングを続けているゼロへと向かっていく。
「威力や射程に申し分はないが、準備に時間がかかるのがネックだ。Herr.シュバイツァーのはとくにそれが顕著で、無防備が過ぎるね――その点、こいつは射程なんてほとんどないが、リロード不要、連射可能と、使い方によっては悪くない」
 距離がどんどん縮まり、ゼロはコッキングも不十分なランチャーを構え再びペットボトルを撃ちだすのだが、さすが不十分なだけあって、弾速も遅く、ディートハルトは斜めに踏み込んで体をクルリと回転させて簡単に回避する。
「ついでに射程だが――」
 身体を回転させながらも、水鉄砲の角度を上に向けて発射。それは少しばらけながらも放物線を描き、りりか、胡桃、古代の胸に命中する。
「こうやって角度を調整すれば、ある程度は誤魔化せるというものさ」
 ゼロとの距離もあとわずかで、ゼロが動き出す前に水鉄砲を横にして顔を狙って何度も引き金を引く。普通であればやや縦長に撃ちだされる水は横に向けた事で横長となり、それに連射も加わって横長の面となった水はゼロの目に当たった。
 たかが水である。痛くはないし、危険な物でもない――が、不意に目に入れば抗いがたい瞬きをしてしまい、一瞬か、それ以上の時間、視界が奪われる。
 その時間さえあれば十分だった。
「Halt」
 耳の穴に銃口をねじ込まれたゼロ。もちろんそこに撃たれても死にはしないが、相当不快な気分になるのは間違いないので、大人しく両手を上げるのであった。
(飲んでいたとはいえ、この程度で少し息が上がるとはね。やはりもう、若くはないな)
 僅かに乱れた息を整え、顎の汗を手の甲で拭う。
(年甲斐もなく激しく動いて、結局汗をずいぶんかいてしまったが、家で腐っているよりはよほど心地のいい汗だ)
 外に出てきて正解だった――そう思っているディートハルトを狙うりりか――を狙う、古代。だが「む!?」と大きな声を上げ、撃ちもせずに顔をそらしてしまう。
 その様子に一同の視線が集まった。
 コホンと咳払いひとつ。開始の合図の時とは別の意味で覚悟を決め、恐る恐る言葉を紡ぎだす。
「あー……華桜、さん。胸の辺りが透けていらっしゃるので、どうにかしてもらえないだろうか」
 その瞬間、胡桃の驚愕に満ちた目がりりかに向けられ、白いワンピースが濡れて胸に密着し、薄く桜色が透けているのを確認するなり、縮こまっている父へ鬼の形相を向けた。
「と・う・さ・ん〜〜〜〜〜!?」
 ずんずんと近づいてくる鬼の形相をした娘(てんし)に萎縮し、どんどん縮こまっていく古代。
 補給用に水をたたえたバケツを手に取り、古代の頭へ水を叩きつけるように撒き捨てると、バケツを頭に被せてガンガン叩きながら古代の尻ポケットから引き抜いた水鉄砲で下から鼻の孔めがけ、乱射する。
「堪忍してくれ、モモ! 見えてしまったのは事故だ!!」
「それはつまり、目をくりぬけばOKってことかしらぁあ!?」
「全力でNOだ!!」
 大変な事態にりりかは、中に水着を着ているという事も言い出せず、古代が恥ずかしがったおかげで自分まで恥ずかしくなってしまい、ゼロの後ろにこそりと隠れながら、様子を見守るのだが、その足にこつんと何かが当たるのだった。
「いやぁ、あれは陸上に居ながらも溺死させる事ができそうな勢いだ」
 呑気に怖い事をサラリと言いのけたディートハルト。その言葉に今の状態ならありうるかもしれないと、ゼロが古代を苛め抜いている胡桃へと歩み寄る。
「へぇかぁ。そのへんにしとかんと――」
 次の瞬間、轟音と共にゼロの後頭部が弾け、前のめりに少し浮いたゼロは地面に力なく倒れた。
 いったい何が起きたのかと理解できず、胡桃ですらも制止してしまい、バケツをずらした古代の目に映ったのは遠くの方でランチャーを手に地面へ尻餅をついている、りりかの姿――中魔王という言葉が、古代の頭の中によぎる。
(やはり、彼女も何気に危険だったか……)


●全てが終わればいい気分

「やっぱ夏は冷酒がうまいな〜♪」
 氷水の詰まったクーラーボックスから1合の日本酒を取り出しては一気に飲み干して、飲み比べやと次に手を伸ばすゼロ。
「いや、こんな時は何でも美味いものだよ、Herr.シュバイツァー」
 何でも美味いというだけあって、ビールだけでなく色々と手を伸ばすディートハルト。
 ちびりと口にする古代の目が2人の足元に散乱している空き缶や空き瓶に向けられ、今月の小遣い大丈夫だっけなんて思ったかは定かではない。
「ふわぁ……たくさん遊んだの、です」
「そう、ね。思った以上に白熱した、わ」
 地面にへたり込んでいるりりかと、目を閉じて背中合わせの胡桃へ、ディートハルトが炭酸を渡す。
「汗をかいた後はアルコールで喉を潤すに限る――が、子供達にはまだ早いからね。せめてこれで我慢してもらおうか」
 2人に渡した後、一度大きな伸びをすると、少し遠巻きに笑みを浮かべてちびりちびりとやっている古代の隣へと立った。
「――良い酒が飲めた。感謝するよ」
「いえ、こちらこそ。馬鹿な騒ぎに参加してもらえて何よりで――大人げない、とか思ってしまうかもしれないが、こうして楽しく酒が飲める日がこの先にもあるのかと思うと、生き抜こうって気にもなるものでしてね」
 ほんの少しの柔らかな沈黙が流れ、2人は瓶をあおる。
 瓶から口を離したディートハルトは「ああ、楽しかった」と笑い、「俺もですよ」と笑い返して、2人は瓶底をコツンとぶつけ合うのだった。




●微おまけ

 少しは涼しくなった我が家に帰ってきた古代は、何気なく壊れたと思われるエアコンに目を向け――エアコンからだらりとぶら下がっている魂の緒、コンセントプラグに気づいてしまった。
 電源が、入ってない――!
(節電になるからって、抜いたんだった……!!)
 声にならぬ悲鳴を上げそうになり、そーっと手を伸ばしたところで、肩に手が置かれた。
「と・う・さ・ん?」
 マイ天使のとても可愛らしい声に、古代は死を覚悟したという、世にも涼しい話であったとさ。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb1679 / 矢野 古代        / 男 / 36 / うっかりお父さん息してない】
【ja2617 / 矢野 胡桃        / 女 / 15 / 全ては暑いのが悪い、滅びろ】
【jb0601 / ディートハルト・バイラー / 男 / 45 / 良い酒が飲めることを祈って】
【jb6883 / 華桜りりか        / 女 / 14 / 可愛いなれども、恐怖の天然】
【jb7501 / ゼロ=シュバイツァー   / 男 / 30 / 彼は星が見えたと後日語った】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
まずは発注ありがとうございました。期間は目いっぱい使わせていただきましたが、その分、満足いただける内容にできたと思っております。当初は最低文字数超えたところくらいで終わるかなと思っておりましたが、いざ戦闘が始まってみると暴れすぎて字数が全然足りなくなってしまいました。
父の安否が気になる所ですが、またご縁がありましたらよろしくお願いします。
水の月ノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年07月08日

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