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『 』
黒の夢ka0187)&レイ=フォルゲノフka0183)&シグリッド=リンドベリka0248
星の揺籠で託児所を始めました



 その日、森には雨が降っていました。

 雨粒が奏でる音楽を聴きながら、黒の夢(ka0187)は魔導書を片手に机に向かいます。
 ここは彼女の書庫を兼ねた実験室、机の上には色とりどりの液体が入ったガラスの瓶が置かれていました。
 黒の夢は魔導書を見ながら、何かの薬を作っているようです。
「んむ、出来たのな…!」

 その薬を持って、黒の夢は台所へ向かいます。
 そこではお友達のレイ=フォルゲノフ(ka0183)が、お昼ごはんを作っているところでした。
「おー、アンノか。先にスープ運んどいてくれてもええんやで?」
 もうすぐ出来るからと、レイは振り向きもせずにキャベツをトントン刻んでいます。
「わかったのなー」
 黒の夢はお盆に三つのスープ皿を載せて、食堂のテーブルへ。
 けれど、途中で――

 ぽちょん

 ふたつのお皿に薬を垂らします。
 その片方をレイの席に、もうひとつをシグリッド=リンドベリ(ka0248)の席に置きました。
「美味しそうです…!」
 何も知らないシグリッドのお腹が「ぐぅ」と鳴ります。
 勿論、猫のシェーラさんのお皿にも取り分けてあげました。
 ふーふーと少し冷ましているうちに、レイさんが台所から現れます。
「さあ出来たで、焼きたてのパンとグリーンサラダや!」
 どーん!
 籠に山盛りのパンと、ボウルにいっぱいのサラダ。
 サラダにはグレープフルーツの果肉がトッピングされ、そこに塩とオリーブオイルがかかっていました。
「シェーラさんには、いつものこれを開けてあげますからねー」
 シグリッドは持って来たツナ缶を開けて、小皿に移してあげました。
 これで準備は完了です。

「では、いただきますなのなー♪」
 黒の夢がふわりと両手を合わせます。
「ほな、いただきますっと」
「いただきます」
「にゃ」
 それに合わせて、みんなもぺこり。
 そしてまずはスープから――

 ごくり。

 じっくり煮込んだ鶏と野菜の旨味が、からっぽの胃袋に染み渡ります。
「やっぱりレイさんのお料理は美味しいですね」
「せやろ? もっと褒めてもええんやで?」
 けれど、二人は知りません。
 スープの中に黒の夢特製の怪しい薬が入っている事を。


 美味しく楽しい食事が終わって数分後。
 お腹が一杯になると、幸せな気分でちょっと一眠りしたくなるものです。
 でも、その日の眠気はなんだかいつもと違う感じがしました。
「シグ坊、食べてすぐ寝ると牛になるんやで?」
 そう言いながら、レイも船を漕ぎ始めています。

「ゆっくりお休みなのなー♪」
 その様子を楽しそうに見つめていた黒の夢が、静かに子守唄を歌います。
 二人と一匹は、あっという間に夢の世界へと引き込まれて行きました。

 ふわり。
 黒の夢はとても嬉しそうに微笑みます。


 さあ、黒の夢のおかあさんごっこ、はじまりはじまりー!


 * * * * *


 コンコン
 コンコン

 どこかでドアを叩く音がします。
 その音でシグリッドは目を覚ましました。
「…あれ、ぼく…ねてたのです?」
 どうやらテーブルに突っ伏したまま、寝てしまったようです。
 その膝の上に、白い子猫が飛び乗りました。
「あ、ねこさん…どこのこでしょう…かわいいのです」
 ほわんと笑顔になったシグリッドは、どうやら自分の変化に気が付いていないようでした。
 シェーラさんの事も忘れてしまったのでしょうか。
「なんや、シグ坊は中身ごと昔に戻ってもーたんかいな」
 その声にビクッと身体を震わせたシグリッドは、子猫をぎゅっと抱き締めたまま、おそるおそる辺りを見回しました。
「はわわっ!」
 すぐ後ろに男の子が立っています。
 その子は自分と同じ、六歳くらいに見えました。
 でも、知らない子です。
 シグリッドは慌てて椅子から飛び降りると、テーブルの向かい側でニコニコしながら自分を見ている、優しそうな女の人の後ろに隠れました。
「お、おかーさん…!」
 どうしてそう思ったのか、わかりません。
 けれど彼女の顔を見た瞬間、そんな気がしたのです。
 服の裾をぎゅっと掴んで固まっているシグリッドを抱き上げて、黒の夢は自分の膝に乗せました。
「えへへー、我輩おかあさんなのなっ…♪」
 黒の夢はとても嬉しそうに、シグリッドをなでなでもふもふします。
「大丈夫なのなー、この子は怖くないのなー」
 シグリッドはこくりと頷きました。
「おかーさんがそういうなら、きっとそうなのです…」
「アンノ、ついでに惚れ薬でも入れたんとちゃうか?」
 その信頼は何処から来るのかと、レイが苦笑いをしながら頭を掻きます。
 黒の夢がスープに入れたのは、子供になる薬でした。
 シグリッドは中身まで子供に逆戻り、シェーラさんは子猫に、そしてレイは中身はそのまま、身体だけが小さくなったようです。
「ま、これはこれで楽しいし、なんも問題あらへんな」
 レイさんは動じません。
 何にでもすぐに馴染んでしまう、脅威の適応力の持ち主なのです。

 コンコン
 コンコン

「お、そうやった」
 誰かが玄関のドアを叩いています。
 自分が出ると言って、レイは玄関に向かいました。
 ずいぶん高い位置になってしまったドアノブに手を伸ばし、手前に引きます。
「ん? なんや誰もおらへんで?」
 いたずらでしょうか。
 庭を見ても、足跡ひとつ付いていません。
 雨に濡れた紫陽花たちに訊ねてみても、返事はありませんでした。
 その代わり、足元には大きな箱が置かれています。
「なんやこれ、お届けもんか?」
 それは大きさの割には軽く、子供でも軽々と持ち上げる事が出来ました。
 レイはその箱を抱えると、部屋の中に運び入れます。

 箱の中身は、二体の人形でした。
 一体は立派な身なりをした黒髪の男の子、大きさはシグリッド達よりも少し小さいくらいでしょうか。
 男の子は、ツギハギだらけの赤ん坊を抱っこしています。
 両方ともぬいぐるみの様な柔らかな素材で出来ているようでした。
 目には大きなボタン、口は紅い糸でジグザグに縫われています。
「かわいいのなー」
 黒の夢は二体の人形をそっと抱き上げました。

 誰かからのプレゼントでしょうか。
 けれど誰が、何の目的で送り届けたのでしょう。
 箱の中には他に何も、手紙も説明書も入っていませんでした。
「この子達に名前付けないとなのなー」
 男の子の人形を椅子に座らせて、黒の夢はかくりと首を傾げました。
 この子の名前は、そう――

「ゼロ」

 何故だか、その子にはその名前しかないように思えました。
 そして腕に抱かれた赤ん坊はオメガ。
 
 呼びかけた瞬間、二体の人形はその身体に時を刻み始めました。
 ボタンの目はぱっちりと開いたつぶらな瞳に、縫い付けられた口元からは糸がほどけ、白い歯が零れます。
 毛糸で出来ていた髪はさらさらに、頬はぷくぷくと血色良く、手足はピンと伸びて――

「私は、ずいぶん長いこと眠っていたようです」
 大きく伸びをしたゼロは身軽に椅子から飛び降りると、目の前に立っていた黒の夢の手をとっで、その甲に軽く口付けをしました。
 その丁寧な言葉遣いと柔らかな物腰は、まるで貴族のお坊ちゃまか、どこかの国の王子様のようでした。
「私と妹に名を与えてくださったこと、心より感謝いたします」
 ゼロは腕に抱いていた赤ん坊を黒の夢に託します。
 そして、口をぽかんと開けているレイとシグリッドに向き直りました。
「こんにちは、初めましてになるでしょうか」
 握手を交わした三人は、みんな同じくらいの背格好です。
 きっと仲良しになれることでしょう。

 ところが――
 二人の姿を見たシグリッドは何故か逃げ腰になっています。
 何故だかわからないけれど、とてもとても嫌な予感がしました。
「なんやシグ坊、なにビビっとるんや?」
 レイがニヤニヤしながら声をかけます。
「君はまるで小動物のようですね」
 ゼロが言いました。
「何故でしょう、君を見ていると…」
「弄りたくなるやろ? シグ坊は俺らみんなのアイドルなんや」
 こくり、ゼロは頷きます。
 意気投合した二人は、とてもわるいかおで頷き合いました。
「それじゃいくで!」
 せーの!

「「シーグーぼー! あーそーぼー!」」
 ステレオでハモりながら迫る二人を見て、シグリッドは思わずおかーさんのスカートの中に隠れます。
 けれど、そんな事で諦める二人ではありませんでした。
「そーれ捲ったれー!」
 ずばーん!
 レイはスカートの裾を両手で持って、思いっきり持ち上げました。
「きゃあぁぁぁっ!」
 悲鳴を上げたのは黒の夢ではありません、そこに隠れていたシグリッドです。
 シグリッドは、今度はおかーさんの後ろに回り込みました。
 けれど、レイとゼロはそれに気が付きません。
 二人は目をまん丸にして、スカートの中を見ていました。

「……あ」

 大変です。
 でも思い返してみれば、深い深いスリットが入ったスカートの脇からはいつも、黒く艶やかな肌が見えていました。
 詳しくは書けませんが、つまり、そういう事です。

 中身おっさんのレイは、その程度の事では動じませんでした。
 シグリッドも、あんまりよくわかっていないようです――だって、おかーさんですから。
 けれども、ゼロは鼻の穴をぱんぱんに膨らませ、目を爛々と輝かせていました。
 少年は何かに目覚めてしまったようです。

 黒の夢は慌てず騒がず、にっこり笑ってスカートを降ろしました。
「んふー、ゼロちゃんはおませさんなのなー♪」
 ゼロの背に腕を回し、その顔を自分の胸に押し付けます。
 ぎゅーっと、むぎゅーっと。
 むっちむちの谷間に埋もれて、ゼロはそれはそれは嬉しそうでした。
「シグリッドも大丈夫なのなー」
 ついでにレイも纏めて、三人一緒にぎゅーっと。
「みんな仲良くなのなー。一緒に遊んで来ると良いのなー♪」
「お、おかーさんが、そーゆーなら…あそんでくるの、です」
 こくりと頷くシグリッド。
 けれど、やっぱり――
「「そーれわっしょーい!」」
 レイとゼロの愛情表現は、それはそれは過激なのでした。

 仲良く遊ぶ三人をニコニコと見守りながら、黒の夢は腕に抱いた赤ん坊をあやします。
「可愛いのなー、良い子なのなー」
 ツギハギのあるほっぺを指先でむにゅむにゅすると、赤ん坊はとても嬉しそうに笑いました。
「我輩を見て笑ってくれてるのだ…っ」
 小さな頭を支える掌に少し、何か普通とは違うものを感じましたが、それはすぐに気にならなくなりました。
「我輩、幸せであるー♪」
 黒の夢は、その身に命を宿すことが出来ません。
 でも、ずっとずっと、お母さんになりたかったのです。

 どれくらい、そうしていたでしょう。
 遊び疲れた子供達が、黒の夢の周りに集まってきました。
「あかちゃん、かわいいのです…」
 膝に抱かれてご機嫌に笑う赤ん坊の顔を、シグリッドが覗き込みます。
「さわっても、いいのです…?」
 おかーさんにそう訊いてから、恐る恐る手を伸ばしてみました。
 けれど。
「ふに…」
 赤ん坊は「いやいや」をするように身を捩らせて、ツギハギの額に皺を寄せました。
「あっ、ごめんなさい…さわっちゃいけなかったの、です?」
「そんなことないのなー」
 黒の夢はしょんぼりと俯いたシグリッドの頭をなでなで。
「きっとお腹が空いてきたのなー」
 でも、この家には赤ん坊のミルクなんてありません。
「牛乳に砂糖でも入れりゃ何とかなるか?」
 レイが首を傾げます。
 けれど――
「大丈夫、心配いらないのなー♪」
 黒の夢は服の胸元をはだけました。
「え、まさか出るんか!?」
「我輩、母性が溢れると『出る』体質なのなー♪」
 赤ん坊は、黒の夢のおっぱいを美味しそうに飲みました。

 こくん、こくん…けぷ。

 お腹が一杯になった赤ん坊は、すやすやと寝てしまいました。
「俺らも腹減ったな、なんか作るか!」
 レイが台所に立ちます。
 けれど、縮んでしまったレイの目に、そこはまるで巨人のキッチンのように見えました。
「なら我輩が手伝うのなー♪」
 普段は面倒くさがって何もしない黒の夢ですが、今日は張り切りお母さん。
 赤ん坊を背中におぶって、レイを手伝います。
「私も何か手伝いましょう」
「ぼくも、おてつだいするのです…!」
 ゼロとシグリッドが手を挙げます。
「にゃー」
 ついでに子猫も尻尾を立てました。
 二人と一匹はお皿を並べたり、並べようとして転んで割ったり、つまみ食いをしたり、とにかく応援してみたり――それなりに、頑張りました。
「ほい、出来たでー」
 豚の角煮を使ったパラパラのチャーハンに、中華スープ、デザートの杏仁豆腐に、おやつの中華まん、プリンにケーキ、烏龍茶――
 みんなで作ってみんなで食べれば、美味しい料理はもっと美味しくなります。


 夢の時間は、いつか終わりを告げるのでしょう。
 けれど、魔法が解けるまで。

 お母さんと子供達の楽しい時間は続きます。


 * * * * *


 雨の季節が過ぎて、夏が来ました。
 開け放たれた窓に白いカーテンが揺れています。

 その向こう。
 窓に向けて置かれた椅子の上には、赤ん坊を抱いた少年が座っています。
 それは人形の兄妹。

 いつかまた、時を刻み始めるその日まで――



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【ka0187/黒の夢/お母さん】
【ka0183/レイ=フォルゲノフ/お兄ちゃん】
【ka0248/シグリッド=リンドベリ/弟くん】

【子猫:シェーラさん】
【子供:ゼロ、オメガ】


お世話になっております、STANZAです。
いつもありがとうございます。

諸般の事情により、色々と…こうなりました(

お楽しみ頂ければ幸いです。
水の月ノベル -
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2015年07月10日

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