▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『Paradise☆Happening -SIDE:B- 』
ユリアン・クレティエka1664)&ダリオ・パステリka2363)&沢城 葵ka3114


 事の起こりは数日前――。

「そうダ!! みんなでどこかに行こうヨ! 南の島ナンカ良いんじゃないカナ?」

 目を輝かせた貴族の青年の言葉。
 悪魔のささやきとは、誰一人気づくことはなかった。

 ★

「う……ん、ここは……?」
 砂浜で目を覚ましたユリアンは身を起こし、辺りをきょろきょろと見回した。
 確か慰安旅行と称して南の島へ船で向かっていたはずだ。ところがどっこい、急に暴風雨に見舞われて――。
「まぁ、あれじゃないかな、うん」
 この状況下において、ユリアンが真っ先に思ったのは、自分たちが乗ってきた船だった。今どきあり得ないほど脆そうな船をチャーターしてきた青年の強い、強い希望におされて勢いだけで乗ってきたわけだが、あの時誰も海況予報を調べなかったのが運の尽きだ。
 難破するところまでがあの青年の想定内だとすると――。
「あり得そうなのが怖いなぁ」
 へら、と笑って済ませるあたり、彼の仲間は既に訓練されているといっても良いだろう。
「ぬぅ……ぬかった」
 のそっとユリアンに向かって歩いてきたのは、同じく船に乗っていたダリオ・パステリだった。
「あ、おかしら。無事でなにより」
「ちょっとユリアン。私もいるわよ」
 そう言うのは、ズボンについた砂を叩き落としている沢城 葵である。ダリオと並ぶとその華奢さが更に目立つ青年だが、幸い怪我はなさそうである。
「三人だけ?」
 首を傾げるユリアンのふくらはぎに、何かもふもふしたものが突撃する。人間以上の自己主張を繰り返しているのは、生命力逞しい犬だ。
 混ぜろ、と言わんばかりの目にユリアンも肩をすくめる。
「ごめん、豊後守もだな」
 かくして、少年とおかしら、心は乙女、犬の奇妙な三人と一匹のサバイバルが始まったのであった。

 ★

「私、とりあえずその辺を歩いてみようかしらねぇ」
「本当? それじゃあぐるっとお願いしようかな」
「任せなさい。そっちも頼むわよ」
 船に乗った時は七人と一匹だった。
 つまり、今は四人足りない。
 しかも、結構自由人が足りない。
「同じ島に着いてると良いけどなぁ……」
 肩を落とすユリアンの心配事は、別の所で的中していたのだが、彼らはこの時それを知るよしも無い。
「しかし……無人島か。何者かが潜んでおらぬか、確認した方が良かろう」
「そうだね。俺は狼煙の準備と水の確保をやるよ」
「承知した。それがしは、そこの森でも見て参ろう」
 大きな背中が森の中へと消えていく。それを見送ったユリアンは、ポンと豊後守の背中を撫でた。
「豊後守。手伝ってくれるかな」
 ワン、と吠えた豊後守の声はよく通る。同じ島にいれば今の声を聞いてくれないかなぁと淡い期待をしつつ、ユリアンは雨水が溜まっていそうなところを探し始めた。
 この島、葵の踏破を待たねば分からないが、それほど大きな島とは思えない。桟橋がないところを見ると、ダリオの言うとおり無人島で間違いなさそうだ。
 広がる砂浜は白く煌き、水は蒼く透き通っている。島の中央には鬱蒼とした森があって、こんな状況でなければちょっとしたリゾート地にも思える。
「皆、無事だと良いなぁ……」
 自分たちと同じように、残りの四名が一緒にいるのだとしたら。
 二人は多分、難破とかそんなこと考えないで全力で探検するだろうし、一人は自分と同じく救難の準備をするだろうし、もう一人はそれを見守りつつ何かをやらかしそうだ。
「あ、はは……こっちで良かった、かも」
 色々と分かってしまって、ユリアンは苦笑いを禁じ得なかった。


 所変わって、ダリオは森の中にいた。
 砂浜と違い、こちらは陽が遮られているからか涼しく感じる。
「何か腹の足しになるようなものを探さねばならんか……」
 サバイバルの基本は水と食料の確保だ。ダリオは既に何日かここにいなくてはならない想定で動いていた。
「先般のこともあったし、ここはひとつ、何か珍しいものを……」
 草をかき分けて進むダリオの頭には、食料とUMAの二つが並んでいる。ツチノコは狩れなかったが、もしかしたらここにいるかもしれない。そうなれば僥倖、生還した後の土産話にもなる。
「むぅ……このキノコは食べられるのであろうか。エアルド殿がいれば分かるのだが……」
 おかしら、それ、紫色してるよっ。
 ユリアンがいればそう言ったのだろうが、ダリオは非常に真面目に摘んだキノコの有毒性について悩んでいた。
 ――と、その時だった。ダリオの背後の草むらがガサゴソと揺れたのである。
「何奴っ!?」
 身構えたダリオだが、草むらからは反応がない。どうやらダリオには気づかず通り過ぎていったようだ。
「随分と大物のようであったが……」
 人間ほどの大きさがあっただろうが、随分と俊敏であった。捕まえればなかなかの大捕物だったのだが、とダリオは少し項垂れる。
 いくつかのキノコと山菜を摘んで、ダリオは来た道を戻る。無闇に歩きまわるのは得策ではない。こういう場合は少しずつ、確実に踏破していくべきなのだ。
「ユリアン。戻ったが変わりないか」
「あ。おかしら、気をつけてっ」
 仲間の声が飛んだ時、既にダリオは仕掛けていた。

 ★

「あんなに雨が降ったんだから、どこかに溜まっててもおかしくないよね」
 頷く代わりに背後をついてくる豊後守が尻尾を振る。
 探す――と言っても、まずは自分が倒れていた辺りを歩いてみる。この辺りは漂着しやすいのか、古い木片が散乱していた。小さな貝がびっしりついた木片を摘んでみたり、盛り上がった砂から出てくるカニを眺めたり、細々と何かしているうちに時間は過ぎていく。
「うーん、こんなものかなぁ」
 そうやってかき集めた枝は両腕一杯、飲水の確保までは至らなかったが、幸い海水が豊富なので何とでもなりそうだ。
「よし、じゃあ、豊後守。頑張ろうか」
 酷く原始的な方法だが、木片を置いて枝を立て、ひたすら回し続ける方法しかユリアンは思いつかなかった。後は体力勝負だ。
 豊後守が見守る中、ユリアンは玉のような汗を浮かべ、枝を回そうと木片に立てた。
 その時だった。視界の端、森と砂浜の際を何かがよぎった気がした。振り返ってすぐに森から出てきたダリオと視線が合う。
「あ。おかしら、気をつけてっ」
「ぬんっ」
 言うより早く、ダリオは動いていた。持っていたキノコと山菜をユリアンの方へ放り投げ、その場に転がっていた枝を投擲する。
 確実にそれの頭を仕留めたダリオは、それから枝を引っこ抜いて奇妙な顔になった。
「おかしら?」
「珍妙な……」
 ダリオが仕留めたもの、それは想像以上に大物だった。体長は二メートル弱であろうか、胴が鎚のように太い蛇のような生き物だ。
 だが何となく、美味しそうには見えない。
「ツチノコであろうか……」
「ツチノコ? へぇ、これが?」
「いや……それがしも分からぬ。が、この程度の蛇、そう珍しくもなかろう」
「うーん、まあ、そうだよね」
 UMAよりももっと凄いものも見てるし、と二人はサラッと流したのだが、ダリオの仕留めた生き物は学者もひっくり返る世紀の大発見である。あいにく、この場にそれを言える人がいないだけで。
「それに先般、森の中で触手のある生物も発見したぞ」
「うわ、なんかすごそうだね……」
「珍妙かと言われれば珍妙ではあるが、それほど珍しいものにも見えんな」
「へぇ」
 生物学者が歯ぎしりしそうなことを平気で言うダリオである。
「しかし、沢城殿が森に入らんとも限らぬ。警告しておく方が良かろう」
「あ、そうだよね。葵さん、そういうの嫌いそうだし」
 触手とかベタついてそうで大嫌いよ! という葵の声が聞こえて来そうである。
 豊後守に食料と狼煙の見張りを頼んで、二人は葵に伝えるべく、海沿いを歩き出した。
 辺りはまさに夕暮れ。一番星の煌めく頃だった。

 ★

 塩水って嫌い。髪が傷むし、お肌にも良くないから。
 この強烈な日差しも嫌い。お肌が焼けるし、美容道具一式は難破した時に行方不明だし。
 潮風で額に張り付いた髪をかきあげ、剥げてしまったネイルに溜息をついて、葵は砂浜に向かって叫んだ。
「ああもうっ、せめてスタイリング剤だけでも無事だったら良かったのに!」
 美容に自信を持つ彼にとって、現状の姿は見るに耐えないのだ。
「ホント、信じられないわぁ。帰ったら絶対パックしなくちゃ」
 明後日の方向へ愚痴りながら、葵は海沿いを歩き、島の三分の一は踏破していた。
 海沿いを歩く葵に、今のところ大きな戦果はない。仲間の影も形も無ければ、ただ白い砂浜が続くだけだ。
「ロケーションは最高なのよねぇ……」
 難破さえしなければ、今頃こんな南の島でのんびりバカンスを楽しんでいるはずだったのに。
「何が嬉しくてサバイバルなんか……」
 歩くのも疲れてきたし、探すのも飽きてきた。
 葵は真っ直ぐ行くところを脇に逸れ、少し丘になった岬に足を運ぶ。思った通り、絶景そのものだ。自然に彼の気持ちも落ち着き、今度は高揚してくる。
 ちら、と葵は周辺を見回した。
「……よし、誰もいないわね」
 心のなかに録音した、熱い情熱の歌。こちらに来てから聞くことはできなくなったが、一字一句覚えているその歌詞、リズムを一斉に開放する。
 傍目に見えれば、腕を振り上げ身をくねらせ、何かのリズムに乗って熱唱する葵の姿は、暑さで気が触れたとしか思えないものだろう。事実、後を追ってきたユリアンとダリオにはそう見えた。
「――――ハァイ!!」
 ガッと腕を突き上げ、葵は青い空を見つめた。
 最高だ。ライブ中の最高潮をステージで味わうならこんな感じなのだろう。ストレスとか、もやもやとか、そんなチャチなものは捨ててしまえるレベルで爽快感が体を巡る。歓びを海いっぱいにばら撒ける気さえする。
 勢いに乗って、そのまま歌の二番に突入した。
「……それがしは、何も見なかったことにした方が良かろうか」
「……うん、歌声がアルヴィンさんに届くといいよね」
 ユリアンとダリオが何かに圧倒されたように葵の背中を見つめている。
 その二人に気づいて心が修羅場――底無しのペインを迎える羽目になった葵にとって、今回の旅行はまさに黒歴史に違いない。
 忘れてお願いー! と懇願する声が、暴れるだけ暴れた熱い歌の後に響き渡った。

 ★

「あーっ、イタ!!」
 全ての元凶の声がする。
 ユリアンとダリオと心に傷を負った葵は、その後も海沿いに島を歩き続け、半分ほど歩いた頃には星空が頭上に浮かんでいた。
 随分と時間が経っちゃったなぁと思った頃にこの声である。
「無事だったネ。良かったヨー」
「うん、アルヴィンさん達も……無事で何より」
 若干の間隔を開けたユリアンは、その間に残りの仲間を見ていた。にこにこする二人と、苦笑する一人に支えられて、どっと疲れている一人。どうやら予想通りの展開があったらしい。
「しかし……この辺りは港もあるようだな。これなら帰還も容易であろう」
 停泊する船を見たダリオが淡々と言う。こんなことならとっとと海沿いを歩いた方が良かったのではないか。
「そうだね。というか、ここって……」
 港の入口に貼られたポスターを見つめるユリアンが肩を竦めた。
 そのポスターには、大きな文字でこう書かれていた。

 “アルヴィン=オールドリッチ御一行様。ようこそ、南の島へ!”
 
「やだ。元々の目的地ってここじゃない」
「みたいだね。ほら、狼煙も見えるし」
 ユリアンが指さした方向には、彼が地道に焚いた狼煙が細長く上がっている。
 その狼煙を見て、ようやく彼も思い出した。
「あーっ! 豊後守!」
「おお、そういえば忘れておった」
「おかしらっ。飼い主がそれじゃ駄目だよっ」
「戻るの? もうあの岬見たくないんだけどぉ……」
「あ、葵さん……」
 がくっと項垂れたユリアンである。この場の誰も豊後守の心配をしていないのが凄い。
 だが、それでも豊後守も立派な仲間。連れてこないわけにはいかない。
 そしてこういう場合、島の裏手まで戻るという貧乏くじを引くのは、いつも真面目な人だ。
「うん。なんか、俺が行けば良いのかな?」
「僕も行くヨー」
「あ、私も行きます!」
 アルヴィンとフレデリクが申し出てくれて、エアルドフリスとジュードも乗っかって、面倒くさそうに葵も挙手して、最後に飼い主のダリオも重い腰を上げて。
「じゃー、みんなでマルルーを探しに出発ダヨー!」
 楽しかった旅の締めくくりは、お犬様を探しに。
 取り残されてさぞや不機嫌であろう豊後守の元へ、ようやく合流した七名はゆっくりと歩き出したのであった。


 END

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ka1664/ユリアン/男/16歳/疾走の青】
【ka2363/ダリオ・パステリ/男/28歳/帝国の猟犬】
【ka3114/沢城 葵/男/27歳/先見の明】
【???/豊後守/雄/?歳/忘れられた犬】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
冬野泉水 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年07月13日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.