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『It blooms 』
ミィリアka2689

 桜の花のように潔く、命を散らした彼との別れの悲しみから、ミィリアはまだ立ち直れずにいた。
 しかし彼亡き後も、ミィリアは生きていかねばならない。
 次の仕事を探すべく街を歩くミィリアは、ふと視界の隅に異様な光景を見た。
 複眼の狼めいた雑魔が親子にじりじりと近づき、今にもその首筋を狙おうとしている。親子は雑魔に怯え、親は子を庇い、子は親にしがみつきながら震えていた。
 助けなければ。咄嗟に出た考えに従い、ミィリアは背負っている彼の形見である大太刀『物干し竿』の柄に手をかけ、抜き放つ。
「伏せてっ!」
 ミィリアに言われる儘に親子がその場に伏せると、その上を走る大太刀の長い刀身が日の光を受けて眩く光った。
 切っ先が雑魔の眼の一つに刺されば、雑魔は唸りながら後退する。
「だ、誰だかは存じませんが、ありがとうございます。このお礼は、きっと」
 その隙を付いて親子は逃げ出した。親は頭を下げ、子は泣き喚きながらも日常へ戻っていく。
「どういたしまして! ……でござる!」
 ミィリアはその姿を横目で見て安堵しつつ、また雑魔に向かい太刀を振り上げた。
 小柄な身体には不釣合いに感じるほどの大きさを持つ刀を、ミィリアはなんてこともないように器用に扱っている。
 雑魔はミィリアの刀を辛うじて避け、牙を剥き出しにして飛び掛った。
 鈍い音を立てて、太刀が雑魔の牙を防ぐ。そのまま薙ぎ払い、雑魔を石畳に叩きつける。
 雑魔は短く息を吐きながらのた打ち回り、暫くしてゆらりと体勢を立て直した。



 雑魔との戦いのなかでミィリアは天寿を全うして旅立った師の笑顔を思い出していた。
 それでもミィリアは悲しみから立ち直れずにいた。それが突然、雑魔によって酷い殺され方をして――残された人間はどうなるのだろう。
 ミィリアは想像して、きゅっと唇を固く結びこう思う。
 まだ名前も知らない人の命だろうと、こんなところで雑魔になんかくれてやるものか。
 襲われていた親子を見て咄嗟に刀を抜いたのも、そういうことだろう。
 ミィリアは様々なものを持っていた――覚醒者としての力も。彼から学んだ剣術も。それを振るうための刀も。
 とはいえ、ミィリアももう大人で、子供ではない。
 全てを守ろうだなんてことは夢物語にしか過ぎないと彼女はわかっている。
 ……けれど。
「てぇーい!」
 せめてこの手の届く範囲の人たちを守りたい。そんなことをミィリアは考えていた。
 彼が好きだったと、志していたんだという侍のように強く在れるように。この手の届く範囲を、だんだんと広げていけるように己を研ぎ澄まして――

 ミィリアは傷だらけになりながらもついに、眼前の雑魔に決定的な一撃を与えた。
 雑魔は辺りに響くほどの断末魔を上げて消えていく。最後には、それが存在していた事実をも消えたようであった。
 ミィリアは倒れそうになるところを、ぐっと堪えた。足の傷が痛む。
 せっかくのメイド服だって雑魔の爪で引っかかれ、噛み千切られたおかげで破れ。白いストッキングには血が滲んで――散々だった。
 しかし、ミィリアの表情にはどこか満足感があった。
 それは親子を守りきれたことに対してだったか、あるいは……

 それから暫くして、ミィリアはハンターについて風の噂で聞き知った。
 この世の中では、ハンターはいくら居ても困らないもの、だそうだった。
 自分の持っていた情報と合わせて考えもした。かつてミィリアが親子を助けたように、ハンターというものは自分の力を活かして誰かを守ったり、世の為人の為動く……という面もある。
 自分を鍛えることも、強く在るサムライになるにはとても大切なことだ。
 しかし、親子を助けたときに強く感じたように、手の届く誰かを守りたい……そんな意識がミィリアには芽生えていた。
 この仕事なら、それが両立できそうだ……気付いた時には、もうハンターとして登録すべく足を向けていた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2689 / ミィリア / 女性 / 12歳 / 闘狩人(エンフォーサー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ミィリア様
いつもお世話になっております、黒木茨です。
おまけノベルはこの話の後日談という形で制作いたしました。
こちらのノベル含め、ミィリア様のご期待に添うものとなっていれば幸いです。
前回に引き続き、ご発注ありがとうございました。
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ファナティックブラッド
2015年07月13日

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