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『旅は道連れ 』
遠火 楓ka4929
 飼い主によって結ばれたリボンを、猫は満足そうに鏡で見て走り回り感情を表現している。
 動くたびに瞳とおそろいの色のリボンが揺れて危なっかしかった。
 そういえば、どうしてこの猫を飼うようになったのか――飼い主である遠火楓は、この猫に出会ったときのことを回想する。



 ポルトワールは今日も晴天であった。
 広がっている海は光を反射して眩しく、活気ある街は様々な声が溢れて騒がしい。
 その高台にある柵のひとつにもたれかかっている女が、足に絡まる猫を見て溜息を吐く。
 ……困った。楓は足元の猫を見て思う。
 どうしてこういったことになったのか。たしか、今日は煙管用の煙草を買いに出たはずだ。
 目的のものはすぐに見つかり、時間も余っているし、せっかくだから……と高台から海を眺めつつ、柵にもたれて一服していたところ……この猫に絡まれたのだったか。
 楓の足に頬を擦り付ける茶虎の猫は人懐っこいのか、見ず知らずの楓に絡んでいる。
 楓が猫の方を見れば猫も目を合わせてくる。その瞳は新緑を思わせるような活き活きとした緑色をしていた。
「餌なんて無いよ。ほら、しっし」
 楓が追い払うように手をぱっぱと軽く振っても、猫は「んにゃーん」と気の抜けたような鳴き声を上げるばかりだ。
 離れる様子もなく、それどころか楓のことをより気に入ったようで尻尾をぴんと立てていた。
「んにゃーんじゃないってば……」
 ふっと紫煙を吐き出して、楓は困ったようにこめかみに手をやった。
 誤解のないよう記すならば、楓は猫が嫌いというわけではない。むしろ、好きなほうだ。
 しかし、野良猫に寄ってこられた場合は……なんというか、面倒に感じてしまう性分であった。
 どうにかこの状況を打破すべく猫を観察する。猫は興味津々な様子で楓と見つめ合っていた。
 この高台にいる人はまばらで通行人も少ないことが幸いか。
 楓と見つめあうのも飽きたのかころころと動く猫を見ながら、どうしたらこの猫はここを去ってくれるか――と楓が考えているところ、猫は楓の手にある煙管と戯れようと手を伸ばしていた。
「あっ、こら。危ないから」
 慌てて楓が煙を吹きかけて軽く猫の手を叩く。
 猫は手を引っ込めて、名残惜しそうに煙管に目を向けていた。
 煙管の中の煙草も燃え尽きた楓は立ち上がる。
「一服終わったら帰るわ。アディオス猫ちゃん」
 手を振って帰路につくも、その後ろを健気に猫は追ってくる。
(――……ああうん着いて来るよね、知ってた……)
 楓は足を止めて猫に振り向く。そしてしゃがんで目線を合わせた。
「……家に猫餌なんて無いんだから。煮干しでいいわね? 文句言ったら喜んで叩き出すから」
 もふもふと楓がその頭を撫でれば、猫はまた「んにゃーん」と鳴き声を上げる。
 余計な出費が……とむぅっとした表情を作る楓だが、名前を考えてなかったことに気付く。
 どうしたものか、と思っていれば、ちょうど猫の緑色の瞳が目に入る。
「玉露でいいかな」
 と、今名付けられた猫は先ほどと変わらず満足そうに楓に撫でられていた。とくに異存ないようだ。
 よし、と楓が立ち上がりもう一度歩きだす。その足にまた玉露は擦り寄ってきた。
「くっ、もうだから足に擦り寄んなっつの」
 悪態を吐きつつも、どこか満更でもない様子で楓は前を向いていた。



 ああ、そういえばこんな感じだったな。楓は納得したように玉露を見る。
 出会ったときから甘えん坊だったと。玉露がどうして楓を選んだかは定かではないが……
 これも巡りあわせというものだろうか。
 ぼんやり楓が考えているところに、玉露がまた尻尾をぴんと立てて、足に擦り寄る。
「……まったく」
 やめろと言ってるのに。玉露の体をもふもふと撫でながら、楓は溜息を吐いた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4929 / 遠火 楓 / 女性 / 21歳 / 舞刀士(ソードダンサー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、黒木です。
玉露くんの反応など、ご期待に添うものになっていれば幸いです。
発注ありがとうございました。
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ファナティックブラッド
2015年07月13日

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