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『アクアリウムを二人で 』
浅茅 いばらjb8764


「リコ、水族館とか初めてだよっ♪」
 水族館のエントランス、思わず駆け出したリコ・ロゼ(jz0318)の後を、浅茅 いばら(jb8764)はゆっくりと歩いて行く。
「そない急がんでも、魚達は逃げたりせぇへんよ」
 そう言いながら、いばらはガラスに映る自分の姿を見て服装をチェック。
 今日はアンクル丈の白いカーゴパンツにマリンカラーのボーダーシャツ、上に羽織った薄手の長袖パーカは館内の照明と同じ綺麗な水色だ。
 最後に濃紺のキャスケットの角度を直して、うん、完璧。
 晴れて恋人同士(多分)となった二人の、これが記念すべき初デートだ。
 その筈なのだけれど、いばらの胸には一抹の不安が残る。
「夢やなんてこと、あらへんよな」
 ほっぺをつねってみる。
 うん、痛い。
「いーばらーん、何してるのー?」
 向こうでリコが手を振っている。
 ピンクのツインテールはお団子の様に纏めて頭の左右に乗っかり、そこから短い尻尾が両脇にピンと跳ねていた。
 お姫様の様なパフスリーブのミニ丈ワンピースは髪に合わせた配色で、胸元の編み上げがアクセントになっている。
 背中に大きなリボンが付いたデザインは少し子供っぽいが、リコには良く似合っていた。
 足元は少し背伸びしたヒール付きのサンダル。
 それほどの高さはないが――
「リコ、あんまり走るとコケるで?」
「だーいじょーぶだよぉー、いばらん心配性なんだか……きゃっ!」
 ほーら言わんこっちゃない。
 こんな時はすかさず手を差し伸べるのが男の子。
 間一髪で抱きとめて、いばらはわざと怖い顔をして見せた。
「怪我したらどないするん? 足は? 挫いたりせんかった?」
「うん、大丈夫……ごめんね?」
「ん、今日はのんびり見て回ろうな」
 笑いかけたいばらに笑顔で頷き返し、リコは少し恥ずかしそうに首を傾げた。
「ね、腕とか組んでも……いい?」
 返事の代わりに差し出される腕。
 そこにぶら下がるようにしがみつき、リコはいばらを引っ張って行く。
「えへへー、れっつごー!」

 腕を組んで歩く二人をまず出迎えたのは、大きなトンネル状の通路だった。
 透明なアクリル板で仕切られた半円形の向こう側は、明るい光が降り注ぐ海の中。
「すごぉい、お魚いっぱい泳いでるね!」
 初めて見る光景に、リコは目を輝かせている。
「本物の海の中もこんな感じなのかなぁ」
「せやな、ここは地形の様子から魚の種類まで、出来るだけ本物そっくりに作ってあるらしいで」
 トンネルの中もゆらゆらと揺らいで見えるせいか、まるで海中を散歩しているようだ。
「ねぇねぇ見て! タツノコがいる!」
 これはタツノオトシゴを間違えて覚えているのか――いや、地方によってはそれを「タツノコ」と呼ぶらしい。もしかそたら、リコはその辺りの出身なのだろうか。
「このトゲトゲのは、イバラタツやて」
「へぇー、いばらんと同じ名前だね☆ かわいいなー♪」
 トンネルをくぐって、次は大きな円形の水槽へ。
 そこにはたくさんのマンボウが悠々とたゆたっていた。
「マンボウは丸い水槽やないと、ぶつかって怪我してまうんやて」
「へぇー、すごぉーい、いばらん物知りだね!」
 実は全部、水槽の前に設置されている解説板に書いてある事なのだが、リコはそうしたものを一切読まない。
 先入観を持たずに、ただ自分の目で見て、感じたままに楽しむ――それが彼女のやり方だ。
 だから時々「ウミウシって海に住んでる牛さんじゃないの!?」などと本気で驚いたりもするが、一緒にいる者としてはそれもまた楽しい。
「ほなウミネコは?」
「海に住んでるネコさん!」
「ぶっぶー!」
「そっか! じゃあウミヘビもきっと何か違うものだよね!」
「残念、ウミヘビはまんま海の蛇やね」
「えー、そんなのずるいー!」
 そんな微笑ましい漫才を繰り広げながら、ふわふわ漂うクラゲのコーナーへ。
「これ、全部クラゲ?」
「一口にクラゲ言うても、色んな種類があるもんやね」
 細長い六角柱の水槽が水晶の森のようにいくつも並び、その一つずつに違う種類のクラゲが揺れている。
 様々な色のライトで照らされる中、クラゲがゆっくりと上下するさまは、ガリレオ温度計のようにも見えた。
「何それ?」
「ガラスの筒ん中で、色水が入ったボールみたいなもんが浮いてるん、見たことあらへん?」
「んー、よくわかんない」
「ほな後で見に行こか。インテリア雑貨の店なんかに置いてある筈やから……と、そろそろショーの時間やね」
 屋外プールで行われるイルカのショー、レインコートを羽織った二人は一番前の席に座る。
「テレビで見たことあるけど、本物って初めて!」
 イルカ達の一糸乱れぬ動きを、リコは夢中になって目で追っていた。
 ジャンプに成功したと言っては喜び、シンクロの様なダンスを決めたと言っては手を叩き、尾鰭でキャッチボールをしたと言っては歓声を上げ、最後の大ジャンプでは頭から水を被って――
「つめたぁーい!」
「コート着とってもびしょ濡れやね」
 でも楽しい。
 リコが楽しそうにしている事が、何より嬉しい。
「あ、イルカと握手出来るんやて、行こ!」
 いばらはリコの手を取って席を立ち、係員の指示に従ってプールサイドへ。
 笛の音を合図に水面から顔を出したイルカの胸鰭に触ってみる。
「あ、かったーい! ツルツルしてる!」
「濡れたゴムみたいや」
 そしてちょっと、生臭かった。

 綺麗に手を洗ったら、次は――
「リコ、お腹すいてへん?」
「ぺっこぺこ!」
「ん、なんか食べよか」
 水槽に囲まれたレストランでは、シーフードピザとシーフードサラダ、デザートにはイルカのクッキーが添えられた大きなパフェを。
「イルカ、気に入った?」
「うん、すっごいかわいい!」
 いばらにとっては、そう答えるリコの笑顔こそが「すっごいかわいい」のだけれど。
 だから……その笑顔がもっと見たいから。
「なら、これはリコに……お土産や」
 売店で見付けた、ひと抱えもありそうな大きなイルカのぬいぐるみを、どーん!
「うわぁ、かわいいっ! ありがとう!!」
 丸っこくデフォルメされたピンク色のそれは、リコが作るディアボロにそっくりだった。
 けれど勿論、それはただのぬいぐるみだ。
「じゃ、お礼にこれあげるね!」
 かぽんと被せられたのは、もこもこのイルカ帽子。
「に、似合う、やろか」
「うん、すっごいかわいい!」
 女の子に可愛いと言われるのも、ちょっとどうかとは思うが……リコが喜んでくれるなら!
「ん、おおきにな」

 さて次はどこを見て回ろうかと歩き始めた二人の耳に、ふと聞こえてきた誰かの声。
『今日は特別に、ここで結婚式を挙げるカップルがいるんだって』
 どうやら誰でも参列自由らしい。
「行ってみる?」
「うん!」
 陽光揺らめく水中トンネルをヴァージンロードに、祭壇は大水槽の前で。
 青白い光に照らされて、純白のドレスが海色に染まっている。
 その様子を、リコは瞬きもせずにじっと見つめていた。
 いばらもリコも、もう見た目は変わらない。大人になる事は、ない。
 けれど――祝福の拍手を贈りながら、いばらは「結婚式っていいなあ」なんて今更ながらに感慨に浸っていた。
(女の子が憧れるのもわかる気がする)
 ちらり、隣のリコを見る。
「お嫁さん、憧れる?」
 こくり、無言で頷いたその横顔が、何故だかとても眩しくて。
「なあ、リコ」
「ん?」
 リコが振り向き、抱き締めたイルカの向こうで首を傾げる。
「そのうち……まねっこだけでもしたいな」
 にっこり笑いかけたいばらに、リコは少し困った様な、それでいて嬉しそうな、複雑な表情を返した。
 素直に頷いて良いものかどうか、迷っているのだろうか。

 その頭上に、何かが弧を描いてゆっくりと飛んで来る。
 周囲の客達から静かなどよめきが湧き起こった。
「え、なに?」
 目の前に落ちて来たものに、リコは反射的に手を伸ばす。

 それは、花嫁が投げた小さな花束だった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb8764/浅茅 いばら/男性/15歳/マブダチ以上恋人未満?】
【jz0318/リコ・ロゼ/女性/14歳/いばらん大好きだよっ☆】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。

水族館デート、いかがでしたでしょうか。
イメージの齟齬などありましたら、リテイクはご遠慮なくどうぞ。

では、お楽しみ頂けると幸いです。
水の月ノベル -
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エリュシオン
2015年07月13日

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