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『穢れた姫と美しき騎士物語 』
イアル・ミラール7523)&響・カスミ(NPCA026)

 〜 姫よ、穢れた身で運命の時を待て 〜
 〜 騎士よ、哀れなる姫の運命はその手の中に 〜
 〜 汝ら、歯車の中で運命の時を刻め 〜

1.
「カスミ、ちょっと一緒に本を読まない?」
 イアル・ミラールは同居人・響(ひびき)カスミにそう言った。
「本? どんな本?」
 夕飯を食べ、コーヒーを飲んでいたカスミはソファに座ったイアルの肩越しに本のタイトルを読む。
「‥‥『穢れた姫と美しき白騎士物語』? なんだかファンタジックなタイトルね」
 カスミの素直な感想に、イアルは困ったように笑う。
 実際この本はファンタジック‥‥というか、魔法が掛かった本である。アンティークショップ・レンの店主から預かってきた魔本というものだ。
「ちょっと訳ありで‥‥2人で読まないとダメな本なの。ダメかしら?」
「? 変わった本なのね。いいわ、丁度暇だったし‥‥一緒に読みましょうか」
 カスミはイアルの隣に座った。イアルは微笑んで「ありがとう」と言った。
 アンティークショップ・レンに持ち込まれ、さらにイアルに解呪の依頼があった魔本。それなりにヤバい代物なのだが、この本は2人専用の本でどうしても手伝いが必要だった。前にも同じような魔本の解呪に成功したイアルだからこそ託されたのだが‥‥。
 申し訳ない気持ちになりながらも、イアルは、本のページをめくった‥‥。


2.
 舞台は中世。剣と魔法が世界に台頭し、愛と勇気が平和を作る。
「姫よ、お前のその美しさが‥‥その美しい心が‥‥いや‥‥お前の全てが悪いのだ!!」
 突然、イアルは腰を抱えこまれて空へと連れ出された。ふんわりとした白いレースが体に纏わりつく。これはドレスだ。イアルはドレスを身に纏っていた。
 『姫』と呼ばれたイアル。そのイアルを抱えたのは美しくも醜く歪んだ表情を持つ女性だった。
「漆黒の森の魔女が姫を攫ったぞ! 早く! 姫を取り戻すのだ!!」
 眼下に石造りの城。そこでイアル達を見ながらそう叫ぶ身なりのよい太っちょの男性。これがおそらくこの国の王なのだろう。
 そして、このイアルを抱えた女性は『漆黒の森の魔女』。
 あぁ、わたしはこの魔女に攫われた姫なのね‥‥。
 空を飛ぶ2人、遠ざかる城。
 どこまで飛んでいくつもりなのだろうか?
 イアルは考える。カスミもこの本の中に来ているはずだ。けれど、どこにいるのかしら?
 魔本はストーリーを先に知ることができない。いわばバーチャルリアリティとして体験するしか物語を知ることはできないのだ。
 カスミが一体どこに行ってしまったのか、イアルに知る術はない。この話を体験し続けない限り。
 長い時を飛んでいた。魔女はイアルをとある高い石造りの塔のてっぺんに下ろした。
「今ならまだあなたの罪を不問にできるわ。あなたを罪人にしたくはないの。わたしを城に返して‥‥!」
 姫であるイアルの口が勝手に動く。これは物語に設定された『セリフ』だ。そして、次のセリフもまた‥‥。
「うるさい! その世界の全ての人間に善の心があるかのようなセリフに反吐が出る! おまえの心も病んでしまえばいいのだ。黒く、汚く、この世の闇を全て吸収したかのようにどす黒く‥‥!!」
 魔女の瞳が赤く揺れる。
『石になって、己の醜さをどうすることもできないまま、嘆き苦しむがいい』
 ゾクゾクっとした寒気がイアルの背中を雷のように伝わる。どこか覚えのある嫌な感じが足元からじわじわと広がる。視線を下ろせばイアルの足元から石化が始まっていた。
「あぁぁぁぁぁあぁ!!!」
 凍りつくような感覚。けれど、それは這い上ってくる虫のようにおぞましく気持ちが悪い。
 なぜこんな‥‥!?
 けたたましく笑う魔女に助けを乞うが、固まりゆく体は止まらずに喉元で声は固まった。
「た‥‥て‥‥」
 振り絞った最後の声すら石になり、イアルは懇願し絶望したままの表情で石となった。
「‥‥こんな姿になってまで、まだ美しいだなんて‥‥なんて忌々しい‥‥」
 魔女は石のレリーフとなったイアルを憎んだ。そしてその姿を愛でることなく野ざらしにした。
 イアルのレリーフは、雨風にさらされて時が経つほどに苔むして悪臭を放つようになっていった。

 美しい姫が攫われ、国は総力を挙げて探したが漆黒の森の魔女の住処に辿り着く者は誰もいなかった‥‥。


3.
「この辺りに伝説の姫を攫ったという魔女が住む館があるはずなのだけど‥‥」
 自由騎士と呼ばれた者はそう言った。その見目は麗しく、白百合の如く凛々しく精悍な青年‥‥ではなくピンクのビキニアーマーの女性だった。
「イアルはどこにいっちゃったのかしら」
 自由騎士・カスミはため息をつく。この世界をさまよって既に数年。なんだか遠い昔のような気がする。‥‥気がするだけだ。
 カスミは姫を探しに来た。伝説の姫君。美しく、気高い姫がもう半世紀も前に魔女に攫われたという。
 もしかしたらそれがイアルなのではないか?
 と考えなくもないのだが、何よりも体が勝手に動いていく。これが本の中の世界なのだろうか?
 カスミは石の塔を難なく見つけた。蔦が這い何とも言えぬ貫録を持つ塔。きっとここがその魔女の塔なのだとカスミは思う。
 と、同時に口が勝手に動いた。
「我こそは自由騎士・カスミ! この塔に住む魔女が攫った姫を連れ戻しに来た!」
 なぜ名乗りを上げるのかしら? 勝手に入っていけばいいのに‥‥。
 自分で言ったセリフに思わず突っ込みを入れたカスミだが、目の前に現れた魔女に顔を引き締める。
「お前のような若造に私を倒せるとでも思ったか!」
 こちらの魔女もまた声高らかにそう宣言し、カスミと戦闘に入る。
 カスミは持っていた白銀の剣、魔女は雷の魔法で戦力は拮抗。しかし、魔女はカスミのその美しさに心を奪われた。その隙をカスミは見逃さなかった。魔女の瞳を一閃し、絶叫をあげた魔女の胸を白銀の剣が貫いた。
 魔女は倒れた。呪いを残し。
「私がそなたの美しさに目を奪われるなど‥‥けれど、あの姫はどうかしらね? 今頃心も体も醜く‥‥」
 魔女が指差した先には大きな石の女性のレリーフ。そして、魔女は塵になって消えた。するとレリーフは生身の姫‥‥イアルへと戻った。
 しかし、イアルは元に戻るとすぐに怯えた顔で体をゴシゴシとこすりだす。
「汚い‥‥汚いわ! どうしよう‥‥わたし、汚い‥‥!!」
 半世紀放置されたイアルは呪いの悪臭と風雨によってついた汚れや植物によって汚らしい姿をしていた。綺麗だった髪も無残だった。
「イアル、落ち着いて。大丈夫だから。そうだわ、一緒に洗い流しましょ? そしたらきっと大丈夫よ」
 カスミはイアルを抱きしめて、そう宥める。イアルはカスミの腕の中で小さく頷いた。


4.
 澄んだ湖の水に体をひたす。
 水が濁るのも気にせずに、カスミはイアルの体中を全身を使い洗った。
「イアル、大丈夫。あなたはとっても綺麗。ここだって‥‥ここだって‥‥」
 カスミの指がなぞるとイアルは体をピクッと震わせる。綺麗に磨かれ、美しく甦る肌は紅潮しイアルが快感に押し流されようとしているのを教える。
「カスミ‥‥ダメよ。あなたまで汚れてしまう‥‥わ‥‥」
「イアルが綺麗になるのなら、平気よ」
 水の冷たさなど感じない。それよりももっと体の内から熱くなってしまって水の冷たさでも敵わない。
 鼓動を感じる温もりの肌、それを重ねてさらにすべてを飲み込もうとする。
「もっと綺麗にしてあげたい」
「カス‥‥ミ‥‥!」
 息を吐くことすらできない重さと水で湿った肌の感触がイアルの全身を包み込んだ時‥‥!

「イアル‥‥?」
「‥‥カスミ?」
 2人は、気が付けばソファの上に座っていた。
 魔本の物語が終了したのだ。
「な、なんだかすごいお話だったわね‥‥」
 カスミが赤くなって目を逸らす。
「そ‥‥そうね。すごかった‥‥」
 イアルも赤くなって俯く。2人はどう話していいかわからずに、その日を終えた。

 後日、アンティークショップの調査によりその本がカップル向けの大人向けであったことをイアルは知らされたが、それをカスミに伝えるのは止めておいた‥‥。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
東京怪談
2015年07月15日

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