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『二年目の決闘 』
月雲 左京(ib8108)&破軍(ib8103)


 「あの日」から、二年が過ぎた。
 今日は都のとある屋敷の庭で、一年前と同じく決闘が行われる。
 特に見届け人などはいない。争う者だけがそこに集い、勝敗を決すればまた別れる。それを毎年行っているのだ。

 西側には、諸国を巡ってアヤカシを狩り、それを修行と位置づける破軍が立つ。
 旅疲れの見える服装だが、体調は万全。チビ助が支度を整えるまで、彼は黙って待った。
 東側に控えるのは、月雲 左京。人嫌いのせいもあり、普段は冥越の隠れ里に住んでいる。都に出てくるのは、まさにこの日のためだ。
 左京は太刀を、破軍は霊剣を抜き、それを相手にかざす。決闘の合図だ。
「手早く済ませて、連勝を決めてしまおうか」
 口では不敵さを漏らすも、その表情は真剣。破軍は昨年の勝者らしく、左京の前に立ち塞がった。
 対する白子の娘は、まっすぐに向かってくる。開戦の合図に相応しい、正直な立ち回りだ。破軍は「アヤカシにはない」と思わず微笑む。
 基本に忠実な一太刀が振り下ろされると、霊剣の刃を持ってそれを弾く……が、思ったよりも軽い。弾かれることを見越しての一閃は、即座に別の軌道を描く。左京の次の一手は横薙ぎ。それを少し強く当て、その反動を利する形で素早く回転し、身を潜らせての切り上げを反対側から仕掛ける。敵の虚を突くというよりも、むしろ剣舞に似た優雅な動きに見えた。
「驚かれておいでですか?」
「普段、品とは程遠い連中を相手にしているものでな」
 アヤカシの中には人を模る者もいるが、すでに心根が人ではない。だから左京のような動作で仕掛ける敵が皆無であると言えよう。彼女のような相手に対するのは久しぶりだ。
「この俺の剣が受けられるか」
 破軍は両刃の霊剣を持ち直し、仕掛けられた太刀筋よりも豊富な手数で挑む。
 まずは左京の体の中央に向けて突きを繰り出す。これはまるで彼女への問いかけのようだ。どちらに弾くか、もしくはこれを受けるか……それによって展開が変わる。この霊剣が両刃でなければ、まだ読みやすかったのだが……文字通り、主導権を握られた形だ。
 しかし、左京に迷いはない。自分が攻撃を左に避けつつ、同時に霊剣を刀の峰で地面に向けて叩く。そのまま刃先に手を添え、一気に破軍の首元を狙う。
「攻防一体……!」
 破軍は続く言葉を飲み込み、自分を狙う凶刃の阻止に挑む。我が身を反りつつ、左京の太刀の柄を狙って攻撃。できれば柄頭を狙って弾き飛ばしたいところだったが、自分の軸がぶれてしまっているため、それは叶わず。
「くっ!」
 相手の反撃に驚きの声を響かせるも、あえて自分の手元から離れようとする太刀を押さえつけようとはせず、左京は獲物の動きに付き合う。
 空を切り、天を刺すかのように動かんとする太刀から一度手を離し、自らは地面を蹴って反転。そこからの軌道に合わせて柄を握り直し、そのまま連撃を繰り出す。
「やるな!」
 一方の破軍、先ほどの攻撃を狙いすぎたのが仇に。崩れた体勢を戻すことができず、初手の受けを満足に止められないままで連撃を捌く羽目になった。それが続く間、左京の一太刀に重みが増していき、最終的に破軍は眼前で相手の太刀を受けてしまう。
「腕が落ちたのではございませぬか?」
 左京は勝って満足げな表情で立ち尽くし、破軍はばつの悪そうな表情を浮かべる。
「チッ……ぬかせ」
 ともかく、これにて勝負あり。今年は左京に軍配が上がった。

 決闘を終えた破軍はまた荷物を背負い、旅支度を整える。そこへ左京が近づいた。
「また、旅に出られるのですか?」
「あぁ……」
 二年前と同じく、また剣術の修行に出ると答えた。
「左様で……御座いますか……」
「……なんだ、寂しいのか?」
 破軍がニヤリと笑うと、左京は素っ頓狂な声を上げる。
「さ、さにあらず……!? な、な……何を馬鹿げた事を……!」
 しかし、その後で彼女は呟く。
「わたくしには家族がおりますゆえ、寂しくはありませぬ。むしろ楽しく過ごしております」
「家族……? ああ、実兄のことか。元気にやってるか?」
「ええ。今日の勝ちも、家族の皆に稽古をつけてもらったおかげです」
 破軍は違和感のある物言いを聞き逃さなかった。
 確かに今、左京は「家族の皆」と言った。普通、兄ひとりを「皆」とは呼ばない。
 決闘の際にも、その兆候はあった。なんとなくだが、左京だけを相手にしている気がしなかった。ここ最近で身に付けたかのような攻防の剣術には戸惑いを隠し切れなかったというのが本音である。
 破軍は思わず顔に手を当てた。
「チッ……おい、左京、テメェ……」
「また来年も、此処で相まみえましょう」
 左京は呼び止めにも似た破軍の言葉には反応せず、笑顔で出立を見届けようとする。
 破軍は翌年の戦いに一抹の不安を覚えつつも、次戦の勝利を得るべく、修行への旅立ちの歩みを進めるのであった。それを見届けた後で、左京も家族の待つ里への歩みを進めた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【 ib8108 / 月雲 左京 / 女 / 18 / 修羅 / サムライ 】
【 ib8103 / 破軍 / 男 / 19 / 修羅 / サムライ 】
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市川智彦 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2015年07月15日

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