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『Veil rain 』
風羽 千尋ja8222)&雪代 誠二郎jb5808

 眠りより現実へ意識を引き戻された風羽千尋は朝だと感じつつも、空の薄暗さに上体を起き上がらせた。
 空模様は厚い雲に覆われており、雨が降っている。
 この雨の中、外に出るという選択肢はない。
 二度寝という誘惑が脳裏をよぎっていくも、机の上に置いてあった借りた漫画本が視界に入ってきた。
 自室で読むのもアレだしな……と思いつつ、千尋は向かうべき場所を決めて着替え始める。
 一方、千尋と同じ寮に在籍している雪代誠二郎は千尋が目が覚めるより早く起床していた。
 灰色の雲に覆われた雨空を部屋の窓から眺めており、秀麗な顔立ちはどこか困ったような表情であるのはまだ眠りを貪りたいという不満を空に伝えたい為か。
 色素の薄い茶の瞳を右膝へと向けて、諦めのニュアンスを混じえた吐息をついた誠二郎はまどろみを愉しもうとソファへ向かおうとすると、ドアよりノックの音が聞こえた。
「鍵は開けているよ」
 誠二郎がそう返すと、ドアが開けられる。その向こうにいた来客は目を瞬かせた千尋。
「如何したのかな。ここは俺の部屋だから、俺がいても可笑しくはないと思うが」
 くつりと、ついつい口元に笑みを浮かべてしまう誠二郎に千尋は「あ、いや……」と曖昧な返事を返すばかり。
「いつまでも立っていないで入りたまえ。共に本でも読もう」
 千尋の記憶上、誠二郎は遅めの活動を好んでいるので、この時間も寝ているのではないかと思ったからだ。
「俺もこんな時間に起きるとは思わなかった」
「そっか、邪魔するよ」
 想定外の早起きだった事を伝えるように肩を竦める誠二郎に納得した千尋はパタンと、音を立ててドアを閉めた。


 部屋の主たる誠二郎はソファに背を預けるように本を読んでおり、千尋はソファのすぐ隣にクッションを床において胡坐をかいて本を読んでいた。
 最初は千尋がすれ違った寮の人たちの話なんかをしていたが、次第に口数が減り、誠二郎も背をもたれるように座っていたのに気がついたら横になって寝そべる形となっている。
 BGMが雨の降る音と、主に千尋がページを捲る音しかないことに気づいたので、千尋はリモコンを探した。
 視線をさまよわせていると、テレビの近くにあるという理不尽さに気づき、立ち上がって直接テレビのボタンを押して点ける。
 テレビは丁度よくお昼の情報番組を流していた。
 ドラマ撮影の特集を放映しており、二人は気に留めることもなく、再び本に夢中になったり、まどろみつつ本を捲ろうとしていたら、テレビの音が耳に入って来なくなっていく。
 俯いたままでは首がだるくなってきた千尋は頭を上げた。
 テレビへ視線を向ければ、司会の女性アナウンサーが笑顔で「次は女性必見! ウェディング特集です!」と伝えている。
 画面が切り替われば、ナレーターの女性の声が六月の花嫁の起源を話し始め、最近の結婚式事情を伝える為、ウェディングプランナーの男性のインタビュー応対が始まった。
 小難しい経済話のあと、流行の式場の紹介VTRが流れる。
 ウェディングドレスを身に包んだ女性がモーニング姿の父親と共に新郎の所までヴァージンロードを歩いていた。
 テレビ画面越しではイマイチわからないが、多分、新郎も緊張しているのであろう、ぎこちない動作で新婦を迎え、新婦の父親に一礼をする。
 千尋の漫画本のページを捲る音が途切れた事に気づいた誠二郎は少しだけ視線を動かせばすぐに千尋の姿が視界に入る。
 テレビへ視線を向けており、じっと画面を見つめていた。
 流れている内容はウェディング特集で、今は最新作ウェディングドレスを着たモデルたちがプチファッションショーをしている模様。
「そう言えば……」
 誠二郎が呟くように声を出すと千尋が声を辿るように誠二郎の方を向く。
「少年には”そういう人”はいるのかい」
 まどろみの中で少し低く甘やかな誠二郎の声音に千尋は虚を突かれたように目を見開く。
 そして、テレビから流れるコメンテーター達の感想が聞こえてくる。
 千尋は誠二郎と目を合わせていたが、脳裏に出てくる人物を探す為に視線を外した。
 瞬間、千尋が目を剥いた。
「えー……」
 あからさまに驚いた千尋の声。
 思案するように千尋は視線を外すどころか、俯いてしまう。
「……少年?」
 誠二郎の呼びかけすらも応じる余裕もなくなったと思わしき千尋は必死に思案をしていた。

 その理由とは、千尋の脳裏に浮かんだ人物は問いを投げた雪城誠二郎その人であったから。

 千尋自身もまた、びっくりな回答であった。
 回答と言っていいのか悩みどころであるが、今の千尋はそれどころではない。
 千尋は誠二郎が「少年」と呼ぶように少年だ。誠二郎は成人という年を越えている大人。
 互いに男同士なのだ。
 誠二郎が尋ねたのは「好きな人」という意味での事と自分で認識した。
 日本語というものは広義の意味をもつが、まさか、誠二郎の顔が出てくるなんて千尋自身でもびっくりしている。
 嫌いかと尋ねられれば「違う」と答えるのは確か。

 そういう……意味、じゃない……と思うん、だけど。

 千尋がゆっくりと俯いていた顔を上げると、すぐ目の前に誠二郎の整った顔がそこにあった。
 吐息を感じられるような程の近さ。
 ふっと、誠二郎の表情に笑みが浮かぶ。
「わっ」
 見つめられていたのがどれくらい経っているかはわからなかったが、動作の音すら聞こえなかったくらいに考え込んでいた。
「そんなに驚かないでほしいな」
 抗議の言葉を千尋へ向ける誠二郎だがその口の端に笑みがある。
「そんなに近くに来ていたらびっくりするだろっ!」
「大声を上げるのは隣室の住人に驚かれるだろう」
 千尋の抗議をやんわりとかわした誠二郎の言葉に千尋はぐぬぬと口惜しそうな表情をした。
「少年に”そういう人”がいるとは、な」
 ソファに肘を突いて頬杖をする誠二郎が流し目のように千尋へと視線を向ける。
「いや……なんつっか……そういう意味かは……」
 しどろもどろになっている千尋にますます誠二郎の好奇心をくすぐってしまっていた。
 いつもの調子ならば、彼はツッコミをするか怒って噛み付いてくるかのはず。
 挙動不審という言葉がしっくりくるような様子なのだ。
「相当、意外な人物のようだな」
 誠二郎にじっと見つめられた千尋はどう答えていいかわからず、おろおろとしてしまう。
 確かに、『意外な人物』なのは認めるしかない。
「俺が知ってる相手なのか」
 少しずつ近付く誠二郎の顔に千尋は固まりながらも目が逸らせない。
 確かに、知った人物。
 つか、お前だよ! お前!! と千尋は心の中で絶叫。
「俺が既知な間柄か、そうでないか……」
 ふむと考える誠二郎であるが、その茶の瞳は千尋をじっと見つめている。
 そんなに熱心に見つめられても千尋は落ち着くどころか、心臓が今にも爆発しそうだ。
 なのに、千尋も誠二郎を見つめては目が合った瞬間に千尋の頬どころか、顔に朱が走る。
「いや、いや……あの、その……っ」
 誠二郎より顔をそむける事に成功した千尋は防衛本能からか、目を瞑ってしまう。
 怯えているようにも見えてしまう千尋の様子に誠二郎はこれ以上の追及を止めてた。
 からかうのは楽しいが、追い詰めてしまうのは自身の好むところではない。
 千尋がそういった事に対して不得意と誠二郎は認識した。
「ま、少年にはまだ早い話だな」
 含んだ笑みをのせて誠二郎が千尋に言えば、再びソファの上に寝そべる。
 小馬鹿にされているとむっとなる千尋だが、言い返しもせず、挙動不審状態が持続している事がわかったので、誠二郎はそれ以上言わない。
 追求が逃れたという事に安心した千尋は安堵のため息を吐いた。
 しかし、早まった胸の鼓動はまだ速度を落とさずにいる。
 握り締められたように早まる鼓動は少し、痺れた感じもする、多分。
 それぞれの読書を続行しているはずの千尋だが、中身が入ってこない。
 ちらりと誠二郎の方をみると、彼はまどろみの中へ戻っているようで、本を読んでいるのか、昼寝をしようとしているのかわからない。
 顔が熱い事に気づいた千尋は慌てて本へと顔を向ける。
 やっぱり、誠二郎の方が気になって仕方なく、顔を向けると、次は誠二郎と目が合ってしまい、何かが重力に沿うように千尋の肝を冷やす。
 光速の速さという言葉を用いるかのように千尋は誠二郎から顔を背けた。
「少年、雨が止んだな」
 誠二郎の言葉に千尋も顔を上げる。
 まだ、雲が残っているものの、雨が止むと心が少し弾む。
 テレビでは情報番組が終了した。
『素敵な一日を過ごしてください☆』
 そんな言葉を残して、CMに切り替わる。

 千尋的には素敵な一日どころか、衝撃的な一日かもしれない。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja8222/ 風羽 千尋 / 男性 / 16 / アストラルヴァンガード】
【jb5808/ 雪代 誠二郎 / 男性 / 35 / インフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初のエリュシオンを手がける事になり、緊張しつつも、魅力的なお二人に和ませて頂きました。
楽しんでいただけたら幸いです。
ご発注ありがとうございます。


水の月ノベル -
鷹羽柊架 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年07月16日

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