▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『 』
百目鬼 揺籠jb8361)&秋野=桜蓮・紫苑jb8416
本日、カレー曜日


「なんてことするんですかぃ兄さん…」
 グツグツと煮える大きな寸胴鍋を見上げ、 秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)は深い溜息を吐いた。
 思いきり伸び上がっても鍋の中は殆ど見えない。
 だが紫苑は知っていた。その中には大きなニンジンがゴロゴロ入っている事を。
「せっかくのカレーが台なしじゃねぇですかぃ」
「なに言ってんですよ紫苑サン、肉入れてるだけ良いと思いなせぇ」
 そう言いつつ、百目鬼 揺籠(jb8361)は乱切りにした茄子の素揚げを投入、更に真っ赤に熟したトマトを入れる。
「そろそろ暑くなってきましたからね、夏野菜カレーは夏バテ予防にも良いんですぜ?」
 本当はここにゴーヤも入れると苦みの利いた大人好みの味になるのだが、甘口カレーには合わないだろうか。
「ほら紫苑サン、皿の用意を…そろそろ出来ますからね」
「へーい」
「紫苑サン、返事は『はい』でしょう?」
「はいはーい」
「一回で良いんですよ、それに伸ばさない」
 まるでオカンだ。

 その日は一日中、雨が降ったり止んだりの梅雨らしい天気だった。
 一緒に買い物に行って、大きな袋を提げて帰って来たのが二時間ほど前のことだったろうか。
「もー、手間とかかけなくていいですから、ちゃちゃっと作っちゃってくだせぇよ」
 お腹空いたとぶーたれる紫苑。
 カレーなんて量さえあればレトルトでも構わないと言う紫苑に対し、揺籠は出来ればスパイスの調合から始めたい本格派。
 基本的には一人暮らしで生きていける程度の腕だが、たまには凝った事もしてみたくなるのが男の料理というものだ。
 勿論タマネギは飴色になるまで炒めてあるし、市販のルゥを使った以外に手抜きは一切ない。
「出来合いを買うより、いちから自分で作った方が安上がりでしょうが」
「兄さん、それちがいやすぜ?」
 一人分ならスーパーの総菜を買った方が安いし、夕方の値引きシールを狙えば更にお得だ。
 レトルトカレーの安い物は信じられないくらい安い。
「けちけちおめめくせに、へんなとこでムダづかいしやすよねぇ、兄さん」
「これは無駄遣いじゃありませんよ、安物のカレーなんか何が入ってるかわかりゃしねぇじゃありませんか」
 大人はまだしも、子供に変なものを食べさせるわけにはいかないだろう。
「紫苑サンは今、身体を作る大事な時期なんですから」
 待ちきれずにスナック菓子を取り出した紫苑の手からそれを取り上げ、代わりに大きな皿を持たせる。
 炊きたてのご飯の上に野菜たっぷり夏カレーをとろーり。
「うん、ニオいだけはちゃんとカレーしてやすね」
 などと失礼な事を言いつつ――

「いただきやーす…んっ!?」
 一口食べた紫苑は、いきなり無口になった。
「どうです、美味いでしょう?」
 こくこくと頷きながら、紫苑は夢中でカレーを掻き込んでいる――ただし、ニンジンだけは綺麗に避けて、揺籠の皿にさりげなくポイしながら。
「兄さんがきたときのカレーのぐは野さいが多くて…でもおれ、こんなうめぇカレーはじめてでさ!」
「そうでしょう、だからニンジンもちゃんと食べてくだせぇよ?」
 ポイされたニンジンをポイ仕返す。
 それをまたポイされて、また仕返して、ニンジンラリーの攻防は続く。
「それにしても、ちょいと作りすぎましたかねぇ」
 カレーは一晩おいた方が美味いと言うけれど、この分だと三日は三食カレー三昧だ。
 流石にそれは飽きるし、夏場は食中毒も――

 ピンポーン。

 突然のインターホン。
 こんな時間に誰だろうと、揺籠が立ち上がる。
「押し売りならお断り――あっおとーs…じゃねぇダルドフさん!」
 多分。
 その巨躯は玄関のフレームからはみ出して顔も見えないが、こんなに大きなサイズの知り合いは他にいない。
「えっ、お父さん!?」
 カレーを食べ続けていた紫苑がそれを聞きつけ、スプーンを持ったまま駈けて来る。
「おぉ、紫苑…それに百の字もおるのか」
 背を屈めて中を覗き込んだその顔は、確かにダルドフだった。
「某、ぬしの父になった覚えはないがのぅ」
 じろり。
 今お父さんと言いかけなかったかと、わざわざそこに突っ込んで来るダルドフ、だが実は年下だ。
「無論、娘を嫁にやった覚えも――」
「あ、いや、ほら、紫苑サンのおとーさんで、略しておとーさんってぇ事で!」
 見下ろす形相は泣く子も卒倒するほど怖ろしいが、よく見れば目が笑っている。
 あれ、もしかしてからかわれた?
「えっとあの今日はバイトが早い日でたまたまこうして飯食おうって寸法で、あ。そうだカレー。カレー嫌いじゃねぇですよね?」
「ふむ、良い匂いがしておるのぅ」
 よし、救世主登場!
「お父さん! お父さん! これおれが半分くらい作ったカレーですぜ!」
「ほう、紫苑も手伝ぅたのか。それは是非とも食わねばならんのぅ」
 実はルゥを割って入れただけだが、カレーはルゥを入れなければ完成しないのだ。
 つまり一番重要な部分を担当したというわけで!
「まあ、間違っちゃいねぇですかねぇ」
 苦笑いを浮かべつつ、窮屈そうに玄関をくぐったダルドフを見れば、小脇に小さなスイカを抱えていた。
「おお、そうだ…ほれ、土産だ」
「スイカ! でっけぇ!」
 ダルドフが抱えていた時には小玉スイカに見えたそれは、実は特大サイズだった。
「冷蔵庫に入りませんね、これ」
「だいじょぶでさ、おれが一人でぜんぶ食いやすから!」
「お腹壊しますって紫苑サン…うん、半分に切りゃ――」
 そんな二人のやりとりを、ダルドフは目を細めて見つめていた。
 揺籠がこうして世話を焼いてくれるお陰で、紫苑はそれほど寂しい思いをせずに済んでいるのだろう。
 一人で食事を摂る事も、そう多くないに違いない。
 それはとても有難い事で、だからこそ自分は安心して東北に籠もっていられる――なんて事は口が裂けても言わないが。
「ところで、今日は何かこっちに用事でもあったんですかぃ?」
 揺籠の問いに、ダルドフは首を振った。
「いや、たまには娘孝行でもしてみようかと思ってのぅ」
 それを聞いて目を輝かせた紫苑は、ついでに鼻の穴を目一杯膨らませた。
「お父さん! ここ、ここすわってくだせ!」
 自分が座っていた座布団を引っ繰り返し、隣に敷き直す。
 それから踏み台を持って台所に行き、カレーの鍋に火を点けた。
「おれ! おれがやりやすから、兄さんは手出ししねぇでくだせぇよ!」
 手伝おうとした揺籠を「しっし」と追い払い、紫苑は少し温め返したカレーを溢れんばかりの大盛りによそう。
「これ、うんめぇんですぜ!」
 どーん!
「タマネギはトロトロになるまでいためて、ナスだってちゃんとあげてから入れたんでさ!」
 揺籠の兄さんが、という事実は敢えて伏せておく構え。
「では頂くとするかのぅ」
 早速一口ぱくりと食べて、ダルドフは満足そうに頷いた。
「紫苑は良い嫁さんになれるぞ、うむ」
 親馬鹿丸出しで褒めちぎる。
『だが、ぬしにはやらぬ』
 揺籠の耳に響いた気がするその声は、意思疎通か幻聴か。
「このニンジンもチョーうめぇんですぜ!」
 だからお父さんにポイ!
 しかしこの父、だだ甘に見えて実はそんなに甘くなかった。
「ほう、それほど美味いなら…ほれ紫苑、某の分もやろう」
 どさー。
 ニンジン山盛り、やったね!
「うぐ」
 しかし意を決して食べてみれば、これが意外に美味しかったりするのは、お父さんと一緒だから、だろうか。

「さて、そろそろスイカも冷えましたかね」
 カレーの残りも常識的な範囲まで減った頃、席を立った揺籠がスイカを切って来る。
「お父さん、タネのとばしっこしやしょ! とばしっこ!」
「よーし、やるか! 負けぬぞ!」
 張り切る親子、だがしかし。
「こらこら、部屋の中でするもんじゃありませんよ二人とも」
 オカンに怒られました。しょぼーん。

 食べ終わったら食後のゲーム。
「今日はマリパですぜ! マリモパーティ!」
「お、ゲームですかぃ? 今日は負けませんぜ」
 勿論ダルドフも一緒だ。
 普通のコントローラは小さすぎて上手くボタンが押せないけれど、リモコンなら振るだけだから大丈夫、多分。
「おれが赤マリモで、兄さんはみどりマリモ、お父さんはコッパですねぃ」
 見た目的に。
 しかしテレビの前に三人並ぶと流石に狭い。
「ふむ、では紫苑、某の膝に来い」
 それでも殆ど変わらない、ような。
 おまけにダルドフが本気でリモコンを振り回すものだから、壁や天井を壊しはしないかとハラハラドキドキ。
「マリパって、こんなスリル満点のゲームでしたかねぇ…おや、紫苑サン?」
 赤マリモが動かないと思ったら、紫苑は胡座をかいたダルドフの膝にすっぽり収まって、コントローラを握ったまま夢の中。
「電池切れですかぃ、はしゃいでましたもんねぇ」
 揺籠はその手からコントローラをそっと取り上げると、ゲームを終わらせる。
「寝るなら風呂に入ってからって、そう言いてぇんですが…こりゃ起きませんかねぇ」
「このまま寝かせてやるかのぅ」
 多分これは、布団に移動させてもビクともしない。
「じゃ、後は任せて良いですかぃ?」
「帰るのか、百の字」
「いつも寝入った後には帰る事にしてるんでさ」
 普段はもっと遅くまでいるのだが、今日はダルドフもいる事だし。
「そうか…いつも世話をかけるな」
「構やしませんよ、俺が好きでやってる事ですし…可愛い妹分ですしねぇ」
 それ以上の大切な何かになろうとしている、そんな気はするけれど。
 それが何かはまだ、はっきりと形にならなくて。
「ダルドフさんは泊まって行くんでしょう?」
「そうさな、目が覚めた時にがっかりさせたくはないでのぅ」
 苦笑混じりに顎髭を捻る。
「もっと良い父親にならねばのぅ」
「ダルドフさんは、その…良いお父さん、だと思いますぜ?」
 自分に父はいないから、そもそも父親とはどういう存在なのか、今ひとつわからないけれど――紫苑の幸せそうな、安心しきった寝顔を見ればわかる。
「ふむ」
 その言葉に、背中を丸めた巨漢は嬉しそうに顔を綻ばせた。


 翌朝。
 鼻腔をくすぐる良い匂いで、紫苑は目を覚ました。
「ゆめじゃ、なかった…!」
 お父さんがいる。
 しかも食事の用意まで出来ている。
 ご飯と味噌汁に焼き鮭とお新香だけというシンプルさだが、でもちゃんとした朝食だ。
 こんなの初めてかもしれない。
「おとーさん! おはよーごぜーやすぅ!」
 朝一番の挨拶は頭突きでどーん!
「おぉ、よく眠れたか、紫苑?」
 大きな手で娘の頭をわしゃわしゃと掻き混ぜるお父さん。
「ついでに昼の弁当も作っておいたからの、百の字と二人で食べるが良かろう」
 ご飯の上に焼肉がどーんと乗っかっただけというダイナミックぶりだが――多分そのうちレベルアップする、はず。

 ダルドフ、ただいまお父さん修行中――



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【jb8361/百目鬼 揺籠/カレーの鬼】
【jb8416/秋野=桜蓮・紫苑/我が家のアイドル】
【jz0264/オーレン・ダルドフ/お父さんレベル1】

お世話になっております、STANZAです。
いつもありがとうございまジスウ…!
水の月ノベル -
STANZA クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年07月17日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.