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『夢か真か―― 』
龍崎・カズマka0178

 その日、龍崎・カズマ(ka0178)は休みだった。
 なので一人で街を歩いていたところ、本屋で一冊の本に興味を持って購入する。
 天気が良かったので、近くにある森林公園で本を読もうと思った。
 森林公園は奥に行くほど木が多くて暗くなり、また沼があるのであまり一般の人は近付かない。
 しかしハンターという特殊な職に就いているカズマは、平然とそちらへ向かって行った。
「本を読むなら、やっぱり静かな方がいいな」
 そして沼の近くの草原に横になり、本を読み始める。
 木陰の下は本を読むのに適量の光があり、時折ふく風が沼の表面を撫でるおかげで肌が心地良い。
「ふわぁ……。本は大分読み進んだけど、何だか天気が悪くなってきたな」
 しばらくは読書に夢中になっていたが、ふと空を見上げると分厚い雲がこちらに近付きつつあった。しかも雲の中から金色の光が時々見え隠れしている上に、ゴロゴロッ……という音が聞こえてくる。
「空気に水分が混じっていないようだから、雨が降る可能性は低そうだな。風はそこそこ強いし、このまま何事もなく通り過ぎてくれると良いんだがな」
 後少しで本を読み終えるので、カズマはとりあえず大きな木の下に移動した。
 そして欠伸をしながら、残りのページを読み始める。

 ――だが途中で眠気に負けたカズマは、そのまま夢の世界に入ってしまった。
 その夢は本を読んだ影響からか、とても不思議な内容だ。

 黒い世界の中で、全身を黒い布で覆っている人物がいた。背を向けているせいで、顔も性別も分からない。
 けれど俯き、重いため息を吐いている姿を見ると、悩んでいることだけは分かる。
 カズマはその人物の背後にいるが、声はかけなかった。この夢がどんな内容なのか知る為に、余計な動きはしないのだ。
「……卓越した技術は、魔法と区別がつかないもの。魔法らしく言えば、生命工学とは神の奇跡、万能細胞とはさしづめ魔法の触媒と言えるな」
 その人物は中性的な声でどこか自虐的に笑うも、すぐに表情を引き締めて真剣な声で続ける。
「だが私は神の使徒。不可能を可能にすることこそが、我が役目。――そう、冥府より死者を呼び出すこともまた可能である。現世と冥府を行き来することが可能であれば、誰も死を恐れずに戦うことができる」
(おいおい……。本気でそう思ってんのかよ)
 カズマの考え方とは全く違う人物の思想に、自然と不愉快そうに顔が歪む。
 すると次の瞬間、黒い世界が突然、ある戦場へと変わった。足元には数多くの死体があり、ギョッとしたカズマは思わず後ろに下がる。
 人物はしゃがみ込むと、兵士の斬れた二の腕を拾い上げた。
「彼らのまだ無傷な部分を集めて、魔法の釜に入れよう」
(バカッ、やめろ!)
 カズマは咄嗟に手を伸ばして、人物の肩を掴もうとする。しかしその手は人物の体をすり抜けて、勢い余って体勢がグラッと崩れた。 
 気付けば再びあの黒い世界に戻っていたが、あの人物は一メートル近くもある大釜に次々と死体の一部を入れているところだ。
「――こうして時が満ちれば、また『人間』が蘇る。この身に宿る魂が忘却の川の水を飲んでいれば、記憶は存在しない。この身に刻まれた思いがあったとしても、記憶が無ければ意味無きもの。だからこそ魂の記憶ではなく、肉体の記憶で動けるというものだ」
 人物が言い続けている間にも、大釜の中身は徐々に大きく激しく動いていく。
(何だ、ありゃあ……)
 最初、大釜の中には水のように透明な液体が満ちていた。しかし死体の一部を入れていくたびに、液体は赤く染まっていく。そして今では真っ黒でドロドロした液体が、大釜の中で蠢いていた。
 やがて大釜の中から一本の黒い手が伸びてきて、縁を掴む。
 カズマは眼を見開きながら、心臓が痛むほど鼓動しているのを感じた。息もどんどん乱れていき、背中に冷たい汗が流れていく。寒くないのに体は震えて、視界がぼやける。
(夢から覚める……のか?)
 しかし夢を見ているとは思えないほど、動揺している自分がいた。目の前で繰り広げられる光景を、まるで知っているかのように――。
 そして大釜の中から一人の男が、上半身を出した。
 人物は嬉しそうに微笑みながら、男に向かって両手を伸ばす。
 俯いていた男が顔を上げた時、カズマは息を飲んだ。
(おっ俺と同じ顔っ……!?)


「うっ……わああっ!」
 自分の絶叫で、完全に目が覚めた。カズマは激しく息を切らしながら、急いで周囲を見回す。
「……ああ、そうだ。ここは森林公園の中で、俺は読書をしている途中で……」
 本はカズマの手から離れて、草原に落ちていた。
 空を見上げると、雷雲は雨を降らさないまま、今は遠くの方に移動している。
「結局、雨は降らなかったようだな。……しかし、変な夢を見た」
 大きくため息を吐くと、自分が大量の汗を流していたことに気付いた。
「……そういえば最後にチラッとだけ見えたが、アレは女だったのか」
 夢が終わる直前に、黒い布で全身を覆っていた人物の顔が少しだけ見えたのだが、女性の顔だった。
 カズマは汗で額に貼り付いた長い前髪を、手でかき上げる。
「だが何故あの女は、死者を蘇らそうと思ったんだ?」
 それに大釜の中から出てきた男を見て、嬉しそうな表情をしていた。つまりあの女性にとって、男は蘇ってほしかった存在ということだが……。
「ダメだ、いくら考えても分からない。……でもあの女の考え方は、理解したくもないな」
 女性の考え方は聞けば聞くほど、カズマとは合わないものだった。
「どんな理由があろうとも、死者をあんなふうにする女の考えには賛同なんてしたくない。アレはただ、死者を愚弄しているだけだ」
 思い出すだけでも、ムカムカしてくる。
 しかし結局は夢の中の出来事。時間が経つにつれて、いろいろと内容を忘れていく。
「けど蘇った男が俺と同じ顔なんて……、ナルシストの自覚はなかったはずだがな」
 再び重いため息を吐きながら本を拾い上げて、立ち上がり背伸びをする。
 その時、カズマは身に着けている指輪を見て、ふと思い出す。
「……あの女の手にも、指輪があったな」
 男に手を伸ばした女性の手には、光り輝く指輪があったのだ。
 カズマは指輪をつけている自分の手を、間近でジロジロ見る。
「デザインがよく似ていたような……。まっ、指輪のデザインなんて、似てても不思議じゃないか」
 もう一度欠伸をすると、夢のことはどうでもよくなってきた。
「さて、そろそろ腹が減ったし、行くか」
 歩き出したカズマの背後で、沼は静かに揺らめいた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0178/龍崎・カズマ/男性/20歳/疾影士(ストライダー)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびは依頼をしてくださり、ありがとうございました(ぺこり)。
 読書の途中で見た夢は、果たしてただの幻か、それとも……?
 と言った摩訶不思議なストーリーを、お楽しみいただければと思います。
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ファナティックブラッド
2015年07月21日

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