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『貸切浜焼きの宴 』
戸隠 菫(ib9794)


「海ーーーーっ!」
 キラキラ輝く水面に弾ける白波が打ち寄せる波打ち際がどこまでも伸びる砂浜を、子供たちが笑いながら駆けて行く。じりじりと焼け付くような光を吸収した砂は熱いが、草履を脱いで裸足で走って行く子も居た。
「ほんと、元気だねー」
 無邪気に走る子供たちの後をついて歩きながら、戸隠 菫(ib9794)は眩しそうに手を額の所まで挙げる。頭上から降り注ぐ夏の陽の光と、海に反射する光と。そのどちらもが目に眩しいが、子供たちの喜ぶ様も見る人によっては眩しいと感じることだろう。
 少し先を進んでは振り返りこっちこっちと手を振る子供たちに笑顔と頷きを返して、自分も少し走ろうかと軽く足を浮かせたところで、菫は砂浜に点々と建てられた浜茶屋に目を向けた。
「ん…? 何かあったの?」
 長椅子が置かれているだけの一軒の茶屋に近付き、ぼーっと座っているだけの店主らしき人物に声を掛ける。
「あぁ…お客さん、やめときな。今年はもう海は駄目だよ」
「あたしは戸隠菫。開拓者だよ。海に何か出た?」
 その言葉を聞いてがばっと顔を上げた店主が、すぐさま話を切り出そうとするのを軽く「ちょっと待って」と止め、菫は水際で遊ぼうとする子供たちへと目をやった。
「みんなーーっ! おいでーっ」
 その声に思い思いの遊び方で楽しんでいた子供たちは、一斉に菫のほうへと振り返る。
 だが、その後方に広がる青い青い海に。黒い影が染みのように広がっていくのを見て、菫は目を見開いた。


 菫は、寺院の武僧だ。日頃は外に出て数々の戦いや試練をこなしているとしても、寺に帰ればそこで育った子供たちが出迎えてくれる。そんな子供たちを連れて、たまにはちょっと遠くまで出かけることもあった。
 この時期は、夏も本番。子供たちも水浴びをしたい季節だ。涼と楽を求めるなら、小川や池よりはやはり海だろう。そんなわけで、菫は子供たちを連れて海までやってきたのだった。
「わーー!」
 涼しくて楽しくて大はしゃぎする予定だったその海の中から、何か巨大なものが飛び出す。水を打つように撥ねてから水面を叩く、その音に気付いた子供の1人がそれを見てしまって叫ぶより先に、菫の体は走り出していた。
「みんな、下がるっ」
 慌てて逃げ出す子、状況に慣れて冷静に走って行く子、それぞれが彼女よりも後方の浜茶屋へと向かっていくが、うっかり水際で転んでしまっている子もいる。その子を拾い上げた時には、巨大なものの全容が海上に見えてしまっていた。
「巨大タコの…アヤカシかな」
 他に表現のしようがない姿だが、すぐに頭か胴体と思われる部分が水中に沈み、脚と思われる触手のようなものが水を這うように進んでくる。そこに吸盤は見あたらない。では脚に獲物を吸い付けるタイプではないのだと思いながら、自分の体内に力を籠める。
「そっ…そいつは、夢みたいなのを見せるんだ! 夢に引き込まれて逃げ遅れたヤツが犠牲になった!」
 だが突然聞こえてきたのは、先程の店主の叫び。
 その声を背中に感じながら、菫は笑みを零した。
「だったら…簡単かな?」
 勿論過信は禁物だが、幻覚に抗する手段はある。拾い上げた子供を自分の背後へと回し、その子がしっかりと菫の袴を握って見守るのを感じながらも、自分の体の中心、より芯へと気持ちを集中させた。そこに、自分の源がある。
 軽く目を閉じ片手で印を結ぶと、菫の中に温かなものが満ちていった。充分に巡ったところで目を開く。戒己説破。外部からの干渉を退ける技だ。
「桐、葵、楡。手伝ってくれる?」
 今までを共に生きてきた相棒達を呼ぶと、彼女を守るように、彼らは現れる。
「さっさと片付けて…みんなで、海を満喫しないとね!」
 再び水中からぽっかりと浮かび上がった、赤黒い不気味な色をしたアヤカシから視線を逸らさず、背負っていた薙刀を下ろし様に軽く掲げた。そこに集まった光のようなものが、彼女を守る為に盾の姿を成す。祓魔霊盾。その盾は、彼女の身も心も守ってくれることだろう。
「すぐ終わるから、ちょっと下がってて」
 袴を握り締めていた子供に声を掛けると、背後で小さく頷く気配がした。
「さぁ…行くよ!」
 薙刀を軽く振り、既に戦い始めていた相棒達のほうへと、菫は走って行った。


 目にも眩しい青い海に、橙の光が差し込んでいる。揺れる水面と傾く太陽の調和が美しい、そんな光景を前にして。
「焼けたよーっ」
「わーいっ」
 菫と子供たちは、浜辺で網焼きを楽しんでいた。花より団子とはこの事か。
「凄い量でしょー。えへへ…あ、ほら、烏賊はねたっ。早く食べないと砂に落ちるよ」
「とうもろこしおいしーっ」
「こっちの貝はなに?」
「これは七色貝って言うみたいだよ。茶屋のおじさんが言ってたんだけど…。あ、おじさーんっ。あたし達これ以上貰っても、そんなに食べられないからーっ」
 アヤカシを退治したお礼にと、茶屋の主人たちが色んな食材を持ってきてくれた。菫は岩を組んで簡単な竈を造っていたが、火起こしは主人達が率先して行ってくれている。そこに網を置いて食材を並べると、すっかり浜焼きの宴だ。
 綺麗な光景も独占できて、美味しい海の幸、野の幸も堪能できて、子供たちも笑顔いっぱい。菫としても満足な一日になりそうなのだが。
「ね、おじさんっ。せっかくだし、一緒に食べようよ」
「いやいや、お礼の品をわし等が食べるわけには」
「何言ってるの。みんなで食べたほうが絶対に美味しいよっ」
「いやいや…」
「ほら、そこっ! そこに座って! そっちのおじさんは、こっち! みんな。ちょっと席空けてあげてねー」
「はーいっ」
 遠慮しつつも嬉しそうな茶屋の主人達も、網を囲むようにして座る。

 そうして平和を取り戻した海に、皆の笑い声が広がって行った。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 ib9794 / 戸隠 菫 / 女 / 19歳 / 武僧


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注を頂きましてありがとうございます。
菫さんと子供たちに、おじさん達を盛って少し賑やかにしてみました。
菫さんの喋り方や技の記述がおかしい場合は修正致しますので、リテイクをお願します。

それでは、またお会い出来ます事を祈って。
ご発注ありがとうございました。
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舵天照 -DTS-
2015年07月22日

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