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『●とある一家の家族サービス(強制) 』
アスハ・A・Rja8432)&メフィス・ロットハールja7041

「そんなわけで明日、遊園地に連れて行きなさい」
「……なんで、僕が」
 そう言ってから、世間一般的に、旦那であり父親である自分が連れて行くのはごく当たり前な事だなと、アスハ・A・Rは気づく。もっとも、気づいた時には時すでに遅しというヤツである。
 すぐ目の前にあるメフィス・ロットハールの顔が威圧する様に、ずずいとさらに近づいてきてますます目が釣りあがった。
「連・れ・て、行きなさい」
「連れてけー、アスハー!」
 メフィスの陰からアスハの脛を蹴る、小さな足。
 長い髪を1本のお下げにした赤い髪に金の瞳、アスハを小さくしたような幼い男の子カトルが、メフィスの裾を掴みながら何度も何度もアスハの脛に蹴りを入れている。
 こういう時、母であるメフィスにべっとりのカトルは元々メフィス似の快活だけあって、態度も大きくなり、口調も普段はパパと呼んでいるくせにこういう時だけ、メフィスに倣って呼び捨てにしてくる。
(虎の威を借るカトル、か……)
 さすがにそれは口に出さず、口元を小さく歪めるだけに終わった。
 そんなアスハの腕を引っ張る、小さな手。
 目を横に向ければ、頭の上で左右に縛っている赤い髪に緑の瞳、小さなメフィスと呼べる幼い女の子フィーアが、言葉を発しない代わりに、目で訴えてくる。
 むしろ目で命令しているようにさえ感じるくらいに、目力があった。喋らないわけじゃないが、こういう時にどうする方がいいか心得ている、という要領の良さを持っている。
(まさしく僕の娘らしい、か……)
 勝てない戦は嫌いではない――が、無駄死にしかしないなら話は別だ。
 それに連れてけ連れてけと言っているが、メフィス達にとってもう確定事項であって、自分に拒否権は、ない。
(まあ……この前の件の罰、なのだろう、な……)
「わかった。連れて、行こう」
 観念したその瞬間、3人がおおはしゃぎで手を叩きあう。
 アスハはその様子を尻目に、スマホで行ける距離にある2つの遊園地の口コミを調べ始めるのであった――




●真の絶叫とは

 若い女性、子ども、たまに成人男性や学生達の絶叫が、横へと流れていく。
 コースターを見上げるメフィスの顔は少しだけ、引きつっている。
「え……いきなり、これに乗る、の?」
「ここのウリだから、な」
 こっくりと頷くアスハ。その頬はメフィスと同じように少し引きつっているが、メフィスと違うのは、口元に浮かんでしまいそうな笑みを耐えて無表情を持続しているためである。
 メフィスがこういう物を苦手にしているなんて、当然、知っている。だからこそ、わざわざ調べてここを選んだのだ。
「でもでも、フィーやカーくんだって乗り気じゃ……」
「別に、フィー、これくらいなら恐くないし!」
 腕を組んでそう宣言するフィーアだが、メフィス同様に絶叫が聞こえるたびに2人そろって肩をすくめ、青ざめては絶叫が聞こえた方へと顔を向けていた。心なしか、足がすくんでいるようにも見える。
「じゃあ乗ろうよ、フィー!」
 いつもならお姉さんぶってるフィーアの方が主導権を握るものだが、この時ばかりは弟のカトルの方が強い。性格はメフィスに似ているが、性質としてはアスハに近いのか、絶叫を聞く度に目の輝きが増している。
「けどけど、こういうのって年齢制限とか身長制限が……」
「4歳以上から可能、身長も1人で乗る場合は110以上必要だ、が。保護者同伴の場合、乗れるそうだ」
「保護、者……?」
 自分と、アスハを指さすメフィスへ、アスハは無言で頷く。
「それじゃ、アスハ1人でも大丈夫だよね……!?」
「あいにく、1人の子供に対して1人の保護者、でな」
 こういうところまできっちりかっちり、調べ尽くしてある。
 カトルがフィーアを、フィーアがメフィスを、メフィスがアスハを、それぞれがそれぞれの期待を乗せながら眼差しを向け、珍しくて恐ろしい、爽やかな笑みを浮かべたアスハが、メフィスの肩を叩く。
「さあ乗ろう、か」


(わりあい期待外れというか、こんなもの、か)
 ぐったりしているフィーアはぐったりしているメフィスに任せ、ずいぶんとテンションが高くて走り出そうとしているカトルを押さえつつも、アスハはそんな事を思っていると、背中を突かれる。
「期待外れ、あれならガーターなしくらいがちょうどいいかもなって顔、してるわよ」
「ま、概ねその通りだな」
 しれっとした顔が憎いのかメフィスがアスハの頬をつねり、「次はゆっくりなやつにしてよね」と釘をさす。
「大丈夫だ。次は歩くだけだから、な」
 そう言って指差すのは、オドロオドロしい建物。
 フィーアもメフィスも、戻りかけた血の気がさっと引いて、顔が再び青ざめる。
「どうした? 歩くだけで、しかも涼しいぞ」
「……わかってて、言ってるわね。けど、フィーが行きたく無さそうだから、一緒に外で待ってるわ」
 フィーアの両肩に手を置き、しゃがむメフィス。フィーアも頷いてメフィスの首に抱きつき、2人の意見が一致したというアピールで、上手く逃げた――かと思われたが、メフィスはうっと言葉に詰まった。
 お化け屋敷の入り口から、カトルが今にも泣きだしそうな顔でメフィスとフィーアに目で「来ないの?」と訴えかけてくる。
 ぐる〜りと首を回して視線から逃れようとするが、最後にチラッと見てしまうと、もはや観念するしかないと2人は同時に溜め息を吐くのだった。
 そして入ってみると、想像していたよりは雰囲気はあるものの、やはりそこは作り物臭さを感じる事に、アスハは少なからずとも落胆した。
(かなり調べ尽くして、口コミも参照にしたのに、な)
 頭を振り、笑いながら平気で奥まで走って行こうとするカトルを、少しだけ周囲に気を配りながら足早に追いかけるアスハ。かなり遅れてメフィスとフィーアが、1歩、また1歩と、周囲を警戒しながら歩いていた――それこそが餌食の的だというのに。
「きゃぁぁぁぁ!」
「いやぁ!」
「ひゃぁあ!」
 何かが飛びだせば悲鳴を上げ、エアーを拭きかけられれば悲鳴を上げ、不意に物音が聞こえれば悲鳴を上げと、アトラクション側としては実に嬉しい反応を見せてくれるメフィスとフィーアである。
 そしてとうとうフィーアがへたり込み、メフィスまでその場でしゃがんでしまう。
「もーやだ。ここから動かない」
 後ろから来る足音も気にせず、メフィスは膝を抱えたまま絶対動かないという断固たる決意を見せつけていた。
 むくれるメフィスへ声をかけようとしたところで、アスハは異変に気づく。
(2人分の足音にしては、不規則すぎる、な)
 それに、ぺたりぺたりと、靴で歩いているような音ではない。そういえば調べている時に何かあったなと記憶を探っていると、そいつが現れた。
 全身がぬらぬらと光る鱗に覆われ、構造的には2足歩行だがヒレの付いた手を地面に着け、あえて4足歩行で地を這う半魚人もどき。
「そうだった、な。怖すぎて動けなくなった人間を、後ろから追い立てる仕様だった、か」
 アスハの声はフィーアと抱き合うメフィスの耳に、届いていない。ただ身を震わせて、奴が来るのを待っているだけだった。
 その途端、ヤツは奇声をあげ、それまでゆっくりだった手足を懸命に動かしてそれなりの速度でメフィスとの距離を縮めていく。
「いやぁぁぁぁぁぁああ!」
 フィーアを抱き抱え、半泣きで全力疾走するメフィスがアスハとカトルの横を通り過ぎ、前を塞ごうとする異形達を跳ね飛ばしながら出口に向かって爆進して行ってしまった。
 どう考えても、こっちの方が普段見ている天魔と大差ないのにも関わらず、なぜ怯えるのだろうかと首を傾げつつも、近づいてくるそいつを見下ろした。
「こうして客の回転率をあげる、か。理にかなっているな」
 アスハの足下にまで来たそれに、興味津々なカトルはペシペシと頭を叩き、そんなカトルをアスハは抱き上げる。
 そして「お疲れさまです」と一言ねぎらって、後にするのであった――


 フードコートの椅子でぐったりしているメフィスとフィーアだが、対照的にまだまだ元気なカトル。アスハはというと、適当に選んだピザと人数分の飲み物を買いに行かされていた。
 しかも、自腹。
「存分に私で楽しんだ事でしょうから、ランチはアスハ持ちね!」
 メフィスの皮肉に、一も二もなく従うしかなかった。
(まあ、楽しめたのは確かだが、な)
 これほど表情筋が動いたのは久しぶりかもしれないと、ピザを受け取りながらも頬を手でもみほぐしていた。ピザを運んで、それから飲み物を買って席に戻った頃には、幾分かメフィスが復活している。
 ただ、フィーアとカトルが飲み物を手にしたまま、ぼんやりとしていた。
 どうしたものだろうとアスハはわからないでいたが、ピザの切れ端を手にしたメフィスが2人に気付き、顔を覗き込んだ。
「フィー、カーくん。眠い?」
『そんなこと――!』
 声をかけられて2人は一瞬だけ元気になったが、すぐにガクリとうなだれるも、何とか顔をあげて『ないもん!』と続け、やはりガクリと首を垂れる。もはや電池切れが明白である。
 そういう事なのかと納得しているアスハの目には、黒くて小さいモノが上からするすると降りてきて、メフィスが手に持っているピザの上に乗っかった。
 アスハが声をかけるよりも先に視線を戻したメフィスは、ピザの上に乗ったそれを目撃してしまった。8本の足でもぞもぞと蠢く、わりとフサフサな表皮を持っている、そいつを。
 流れる動作で自分の耳だけを塞ぐアスハ――その直後。
「いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」
 大気を震わせ耳をつんざく大絶叫は、間違いなく、この日一番のものだったと、アスハは後日語る――




●これが幸せというものか

「やはり、もっと不意を利かせる方が効果的だ、な」
「そういうのは学習しなくていいの!」
 メフィスの足が、アスハの脛を蹴りつける。普段であればカトルの役なのだが、今、カトルはメフィスの背中で小さな寝息を立てている。
 フィーアも同様に、荷物で両手がふさがっているアスハの背中にしっかりとしがみつきながら、眠っていた。
 すでに限界が近いと思われていた昼の後、メフィスの絶叫で目が覚めたのか、お土産ショッピングに回ってる間もはしゃいでいたが、倒れるように2人とも眠ってしまったのである。
「いつもならまだ元気だが、さすがに、な」
「あれだけのテンションを持続してたんだもの、当然よ。こういう時、力があるって便利よね」
 疲れた様子も見せず笑うメフィスへ、アスハも「そうだ、な」と笑い返す。
「ま、欲を言えば、もっとゆっくりしたかったけどね。観覧車とかに乗って景色を楽しんだりとか、さ」
「それならまた今度、乗ればいい」
 アスハの提案に、まさかという顔をするメフィスは目をぱちくりさせて、まじまじとアスハの顔を眺めた。
「アスハの方からそう言ってくるとか、思わなかったわね」
「そうか?」
「渋々だったから『今日でもうこりごり、だ』なーんて言うと思ってた」
 確かに言いそうだとアスハ自身も思ったが、今ある自分の気持ちは全く別だった。
「こう見えても、な……今日みたいな日がまんざらでもないと思っただけ、だ」
 そう告げたアスハへ、メフィスは一瞬だけ意外そうな顔をしては嬉しそうな笑みをたたえる。
 そして「アスハ」と名を呼ぶと、目を閉じて唇を突き出してきた。

 夕暮れの優しい光が作り出した家族4人の影は、1つに重なり合う――……




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja8432 / アスハ・A・R          / 男 / 25歳以上 / なんだかんだで、良いパパ】
【ja7041 / メフィス・ロットハール / 女 / ナイショ / いつまでも気持ち、若いママ】
【子供:フィーア・ロットハール      / 女の子 / 5歳 / 双子の姉の方。尻に敷く役】
【子供:カトル・ロットハール        / 男の子 / 5歳 / 双子の弟の方。尻に敷かれる役】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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まずはご発注、ありがとうございました。字数上、観覧車が乗れなかった事になりましたが、それも演出としてアドリブさせて頂きましたが、お楽しみいただけたでしょうか。
またのご縁がありましたら、よろしくお願いします
水の月ノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年07月22日

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