▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『5年という月日 』
インテグラ・C・ドラクーンka4526)&フェリル・L・サルバka4516

 ママの所へ帰してくれ。
 殺さなきゃ、嫌われる───

 インテグラ・C・ドラクーン(ka4526)は、ふと書き物の手を止めた。
 キッチンから水の音が聞こえてくる。
 フェリル・L・サルバ(ka4516)が洗い物をしているのだろう。
 初めて出会ったあの時、今の姿を誰が想像しただろうか。
 インテグラの意識は、初めて出会ったあの日へ戻っていった。

 今から、5年前。
 インテグラは、当時医者だった。
 自身にある事情より、麻袋で素顔を隠していた時のこと。
 診察も終わり、家路に着こうとしていた。
 夜の闇、『ソレ』が視界の隅に入り、足を止めた…思えば、それが最初だったのだろう。
 路地裏に何か踞るモノがいたのだ。
 眉を顰め、それを見やると、『ソレ』は人だった。
(人……いや、図体はでかいが、まだ……)
 少年、と言って良い年齢の横顔だ。
 何にしても、路地裏に踞るというのはおかしい。
「そこで何を……」
 その瞬間、少年の口が三日月を描く。
 咄嗟に後ろへ飛び退いたが、少年のナイフの方が速かった。
 鋭い銀の光が空を裂き、被っていた麻袋が裂かれる。
 麻袋で少年の目測に多少の誤差が生じていなければ、あの銀の光は間違いなく、この顔を捉えただろう。
 考えている場合ではない。
 踏み込んでくる少年の足を軽く払い、体勢を崩す。
 それでも少年はナイフを繰り出してこようとするが、容赦している場合ではない。
 体重をかけて少年を地に這わすと、まずナイフを持っていた右の肩の骨を外す。
 尚も暴れるその鳩尾に膝を叩き込んで黙らせると、顔面へ拳を叩き込み、抵抗する足も最終的には折った。
 暫く動けまい、とインテグラが見下ろしたその時だ。
「……マ……」
 血反吐を吐いていた少年が、呻いた。
 命乞いをするまでもなく、少年がインテグラの足首を掴む。
「何を、言おうとしてる……?」
 が、少年はそのまま気を失った。
 インテグラは何故か少年を捨て置くことが出来ず、溜息と共に少年を肩に担いで自宅へ帰った。

 麻袋の向こうが赤い。
 よく知っている色が、暗闇で揺れていた。
 よく知らないのは、口元。
 静かに微笑っていた。

 痛い。
 怒ってる。
 痛い。
 イタイ。

 イ タ イ ノ ハ ダ レ

 一斉に向けられるのは、無数の眼……
 今まで、殺してきた───

「気づいたか」
 インテグラは、目覚めた少年に声を掛けた。
 少年が、じっと見てる。
「あかい、しろい、ぬいぐるみ」
 自分の素顔のことを言っているのだろう。
 髪も肌も少年の言う色を持っている。
 最後のはよく分からないが、縫い痕はそう呼べなくもない。
 が、インテグラは、違和感を感じた。
 図体はでかいが、顔立ちは10代の少年……15歳前後に見える。
 なのに、言語能力は、2歳や3歳の子供と変わらない。
 この少年に、何がある?

 やがて、その疑問は最悪の形で返される。

「ママの所へ帰してくれ。殺さなきゃ、嫌われる」
 傷を癒している間、覚えさせた言葉。
 やっと会話も出来るようになった頃、自身をフェリルと名乗った少年は、懸命にそう訴えたのだ。
 インテグラは、何もかも理解した。
 『ママ』は、フェリルへ愛情をちらつかせて殺人をさせていたのだろう。
 どのような事情で殺人をさせていたかなど知らないし、知りたいとも思わないが、『ママ』に愛されたいフェリルは人を殺さなければならなかった。
 それが、偽りの『愛情』であるとも思わず、『ママ』の愛情を離さない為に人を殺した。
 殺せば、愛してくれる、褒めてくれる…フェリルの世界は無垢な狂気に彩られている。
 正気のまま、狂気の道を疑問を持たず歩いてしまっているのだろう。
 その心は、何も知らずに歪んでいる。
 フェリルは、今、『ヒト』ではない。
 言葉も与えられないまま、無垢に狂っている。
 全ては、愛されたかった為に。

 まだ、間に合う。
 そう思いたい。

(私が正してやらねば)
 決心したインテグラは、フェリルへここで暮らすことになったと伝える。
 『ママ』に嫌われたのではないか、いい子ではなかったから捨てられたのではないか……フェリルはそう狂乱することもあったが、インテグラは辛抱強く、フェリルを『ヒト』へ戻すべく心を砕いた。 

 あれから、5年───

 フェリルは、皿を丁寧に洗っていた。
 主夫業に勤しむフェリルにとって、洗い物は日常茶飯事。
 同居人達へ夕飯の希望を聞かなければと思っていると、人の気配をかんじて振り返った。
「ぴーちゃん、何か用?」
 キッチンへ現れたのは、インテグラ。
 オカメインコの被り物をしているインテグラの表情がどのようなものか、フェリルには分からないが、何か用があるのだろうと思う。
 昼食を食べたら、創作活動を再開すると言っていたし。
「図体は最初からでかかったな」
「?」
 インテグラの呟きにフェリルが首を傾げる。
 が、インテグラはフェリルに歩み寄ると、頭をわしゃわしゃ撫でた。
 インテグラは、フェリルが心を許した者には大型犬のように懐き、撫でられるのが好きだと知っているからだ。
 外面はともかく、本性に色々思うことがない訳ではない、が。
「あの時の餓鬼が随分と成長したものだ」
 ンふふと笑い声を漏らし、インテグラは手を離す。
 自分とほぼ同じ背丈になったかつての少年は、今もここにいる。

 あの夜、路地裏の存在に気づかなければ。
 あの時、捨て置いていれば。

 きっと、今はないのだろう。
 全てが取り戻せたかどうかは分からないが、少なくともフェリルは今、『ヒト』だ。
 ルナティックであろうと、少なくとも意思を持った『ナニカ』ではない。
 奥底にある狂気が、全てを侵食することがないよう願いたい。
「何だよ、急に…気持ち悪ぃ」
「そう思っただけだ」
 フェリルの反応に、インテグラはンふふとまた笑い、背を向ける。
 さて、創作活動に戻ろうか。

「本当に、何したかったんだろ」
 見送るフェリルは、ぴーちゃんと呼ぶ男の見えない素顔を思い返す。
 よく知る血の色の髪、映えるような白い肌、ぬいぐるみと表現した縫い傷。
 帰してほしいと訴えた時に浮かんだ色が、ひどく印象的だった。
 何もしなくとも、インテグラは変わらない。
 そこで、自身が重ねた罪にも思考が及ぶ。
 既に償った罪は、時折夢として狂気を突きつける。
 けれど、ヤブ医者がたまに『気持ち悪ぃ』から、今は奥底の狂気は全てを侵食しない。
 未来の断言は誰にも出来ないにしても、侵食されていない現在があるのはインテグラが心を砕いたひとつの証だろう。
 インテグラも、フェリルもお互いそのことを口にしたりはしないけれど。
「ぴーちゃんだしな」
 それこそ、5年の時が生み出した言葉。

 あれから、5年。
 よく知る色の向こうにあったよく知らない口元を見た少年を拾った男は、今も共に暮らしている。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ka4526/インテグラ・C・ドラクーン/男性/25歳/霊闘士(ベルセルク)】
【ka4516/フェリル・L・サルバ/男性/20歳/疾影士(ストライダー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
この度は、ご発注いただきありがとうございます。
言葉では簡単に表現出来ない間柄の空気を表現出来るよう執筆させていただきました。
お気に召していただければ幸いです。
WTツインノベル この商品を注文する
真名木風由 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年07月24日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.