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『行末 』
アルヴィン = オールドリッチka2378)&ジュード・エアハートka0410

 世界には構造がある。
 街は階層に分かれる。
 西海を臨む港湾都市ポルトワールの街並は美しい。海上交易の要衝、富み、栄え、活気に満ちている。
 だが同時に、薄汚れ傷んだ街並も内包していた。
 夏の雨上がり、この街出身の商人《ジュード》の案内で、ポルトワールを観光していた半妖の帝国貴族《アルヴィン》はそれを見た。
 家屋の陰から年の頃十二、三の少女が飛び出して来る。
 少女は、追いかけてきた大柄な男の手に捕まえられて、暴れ、泣き――早口だった為にアルヴィンには良く聞き取れなかったが――何事かの叫び声をあげた。
「暴れるんじゃねぇ!」
 男は泣き喚く少女の顔を手で張った。ぐったりした少女を肩に担ぐと、周囲へ「お騒がせしてすいませんね」と一礼してから家々の陰の間へと去ってゆく。
 何事かと足を止めていた周囲の人々は、それで興味を失ったように、また道を歩いてゆく。人が流れて行く。
「……へえ」
 アルヴィンは視線を横に巡らせる。隣には、呆気に取られたような表情で固まっているジュードの姿があった。
 問いかける。
「アレハ、何?」
「……人攫いだっ!」
 我に返ったらしきジュードは叫ぶと同時、射出された矢の如くに駆け出した。
「オヤ」
 ポルトワールには治安の悪い場所があり、スラムの子供達が被害に合っているという。
 今まさにその現場に立ち会っているというなら、これは、なるほど、火急の場だ。
 ドレスの裾を翻して駆ける洒落た帽子を被った黒髪子女の背を追いながら、アルヴィンはスラムの家と家の間の細い道を駆けてゆく。
 するとやがて幅の広い道に出た。
 視線を左右に走らせると、うらぶれた家々の間に通された道の上で、大男がぐったりした少女を担いだまま、馬の鞍上に登らんとしている所だった。傍らには仲間らしき男がやはり馬に跨っていて、何事か声をかけている。
「その騎馬、待て!」
 ジュードが叫ぶ。だが男二人は振り返らず拍車を入れ、二騎は土の道を勢い良く走り出してゆく。
 己の緑眼がすっと細まるのをジュードは感じた。
 足を止め、スカート内にスリットから手を入れ、腿にベルトで止めているホルスターから拳銃を抜き放つ。
 周囲から「銃だ!」という悲鳴じみた声が聞こえたが、無視して銃口を少女を担いだ大男の背に合わせる。
――子供を蹂躙する奴は、大嫌いだ。
 息を鋭く吐き出して止め、引き金にかけた指を
「待っタ」
 不意に横から男の手が伸びてきて、銃の稼動部分を掴み捻り、空の方向へと銃ごとジュードの腕が向けられる。
「リッチー……!」
 身が捻られてたたらを踏み、近距離から男を睨むと、ハーフエルフは碧眼を笑みに細めて見つめ返してきた。
「ハーティ、あのコ、助けるノ?」
「――この状況で、それを聞くっ?!」
「うん。ダッテ、あの時、周りの人達は、誰も止めようとしなかったから。アレハ、本当に人攫いなのカナ? 僕等ハ、事情を良く知らナイ」
 ジュードは息を呑んだ。
「……でも」
 呻くように言う。
「あの子『助けて』って言ってた……!」
 ジュードは少女の叫びを聞き取っていた。
 視線を交錯させる事しばし、
「そうナンダ。解っタ」
 半妖の貴族は頷いた。
「でも、今は銃は駄目ダ」
 道の彼方、騎馬が遠く、小さくなってゆく。
「走ってる馬から転げ落ちると痛いカラ」
 その言葉に、ジュードは騎士の死因に"落馬"の文字がそう珍しくない事を思い出す。
 意識を失っている少女が疾走する騎馬の上から放り出されたらどうなるか。
 美麗な子女は無言で唇を噛み締めた。子供が絡むと頭に血が登ってしまう。
 アルヴィンは銃から手を離すと、ぽん、とジュードの背を一つ叩き、
「蹄の跡を辿っテ、追跡しようカ」
 普段はあまり意識しないが、小隊の隊長であり帝国貴族でもある男は、道の彼方へと視線をやって、そう、いつもの調子で言った。
 ジュードは頷き、戦友と共に道を走り始めた。


 二人は騎馬が道に残した足跡を追った。
 跡が途絶えるのではないか、という懸念と不安をジュードは抱いたが、先の雨でぬかるんだ道は足跡を良く残しており、およそ四半刻ほどの追跡の末に一軒の庭付きの家屋の前に辿り着く。
 それはスラムの外れにある小屋だった。住居というよりは何か物を貯蔵しておく為の倉庫や納屋のように見える。
 二人が周囲に注意しながら納屋へと近づくと木製の戸がつっかえ棒で押し上げられている窓より話し声が聞こえてきた。
――畜生、このガキ、大人しく飲め!
――いやだ! いやだーっ!
――おい、そっち抑えろ!
――うああっ!
 何やら差し迫った調子である。
 ジュードとアルヴィンは一つ頷き合うと、行動を開始した。
 アルヴィンは左手に盾を、右手に特殊強化鋼製ワイヤーウィップを抜き放ち、刃を駆動させると、鞭を振り上げ納屋の薄い木製の壁に向かって全力で振り下ろした。
 木が圧し折れ割れる鈍く重い音が鳴り響き、鋼の束が壁を斬り砕いて木っ端が散ってゆく。ドゴッ! ミシッ! ベキィッ! と三連打の後、右足のブーツの底で力任せに踏みつけるように体重を乗せて蹴りこむ。
 轟音と共に、楕円状に切り抜かれていた納屋の板壁が内部に向かって倒れこんだ。
 盛大に埃が舞う中、アルヴィンとジュードは刃鞭と盾を構え二丁拳銃の銃口を向けながら生じた穴より納屋の内部へ踏み込んでゆく。
「な、な、な、な、なんだてめぇらあっ?!」
 恐怖を顔に浮かべた大男が叫び、大振りのダガーを向けてきた。
 納屋の中央では、少女が仰向けに転がされ二人の男に左右から両手足を押さえつけられており、一人の男が小瓶を手に膝立ちの態勢で、ぎょっとしたように振り向いていた。
 その奥には流麗な刺繍の施された白長衣に身を包んだ痩身の男が、納屋の中には似つかわしくない小奇麗な椅子に腰を降ろしていた。剣を体の正面に杖にするように立て、柄頭に両手を乗せている。
「それはこっちの台詞だね。白昼堂々、子供を攫ってこんな所に押し込めて、一体何をやっている?」
 ジュードは二丁拳銃の銃口を向け問いかける。
「――その子を離せ」
 とても冷えた声音が出た。
「ふむ……世の中、まったく、お節介がいるものだ」
 長衣の痩躯の男は、そんなジュードを見てさも可笑しそうに笑った。
「……モルモットは多い方が良い。男は殺して構わん、やれ」
 交戦の意思有りと見なしたジュードは即座に右の引き金を引く。銃声轟き、銃火が閃く。轟音と共に飛んだ銃弾を、長衣の男は椅子から転がり落ちるように動いて一回転しつつかわす。奥の壁が破砕され木っ端が散った。
 同時、大男がダガーを振りかざして突っ込んできている。ジュードは左の銃で男の膝頭を撃ち抜いた。
 膝が砕け鮮やかな赤が散る。膝を砕かれた男が倒れこむようにしながら奇声を発しつつ迫り来る。ジュードは右足を高々と振り上げた。
 一閃。
 大男の顔面を蹴り抜く。激しい衝撃に男が独楽のように旋状回転しながら地に落ちる。うつ伏せに倒れた男の頭部へと、ジュードはあげていた右足をすかさず振り下ろした。体重を乗せ、ブーツの底で踏み抜く。
 顔面が床に叩きつけられる音と、骨が砕ける音が響いて大男が動かなくなる。まず一人。
 他方、アルヴィンは刃の鞭を振るい、怪しげな瓶を持っている男の両足を薙ぎ払って血飛沫と共に転倒させていた。左へと機動しつつ返す鞭で右から突っ込んで来た男の胴体を袈裟に一閃、吹き飛ばす。
 同時、左の男がジュードへと突き出した短刀へと盾を横からあて弾く。流れるように身を捻り、右肩をブチ当てて突進を受け止める。至近戦。捻った身を再度逆へと切り替えして左の盾を振り上げる。縁の部分で顎先をカチ上げると、男が仰向けに吹き飛んだ。
 ジュードは、転倒した男達のまだ動く手足へと制圧射を開始した、銃声と共に弾丸が次々に突き刺さって血飛沫があがってゆく。
 発砲の度に硝煙が立ち、空になった薬莢が床に落ち、転がり、金属音をあげる。急速に赤色に彩られてゆく納屋内の惨状に、少女が身を震わせ両手で頭を抱えながら小さくなり盛大に悲鳴をあげた。
 その間にも、
「役に立たない連中だ!」
 長衣の男が抜刀して叫びアルヴィンへと疾風の如くに踏み込んでいた。刺突剣が閃光の如くに奔り、喉に迫り来る。
 ハーフエルフは盾を傾斜させ翳す。切っ先が鈍い音をあげて盾に激突し、衝撃と火花を巻き起こしながら滑り逸れてゆく。
 アルヴィンの得物は鞭だ。間合いが必要。だが彼は下がらず、そのまま逆に床を蹴って前に出た。態勢低くタックルするように盾を構えて踏み込む。
 男と男が激突し、長衣の男の身が一歩、二歩、三歩と転倒を堪える様に後方にたたらを踏みながら勢い良く下がる。
 刹那、精密に狙い済まされた弾丸が飛来した。長衣の男の剣持つ右手首が赤色を撒き散らしながら爆砕される。剣が床に落ち、間髪入れずにアルヴィンは刃鞭を振るった。両足を薙ぎ斬られ、長衣の男がもんどりを打って転倒する。
「――ッ!」
 うつ伏せに倒れた男は、上体を起し叫び声をあげ、なおも左腕かざした。指先に光が集まってゆく。だが、それが放たれるより前に、ジュードが駆け込んでブーツの底で頭部を全力で踏み抜いた。
 顔面を豪速で床に叩きつけられ、長衣の男はついに気絶したのだった。



 その後、アルヴィンとジュードは男達を捕え軍に突き出した。
 彼等はとある薬品実験の為にスラムで人体実験を繰り返していたらしい。
 少女は口減らしも兼ねて親に売られた子であり、帰る場所がない、との事だった。
 各方面と相談の末、彼女はHSに引き取られる事になった。
 少女は別れ際、震えながらも「た、助けてくれて有難う」と二人に言った。



「あの子、これからどうなるのかな」
 帰路、一つ振り返ってジュードが呟く。
「マァ、後は、なるようにナルト、思うヨ」
 ハーフエルフは微笑した。
「明日は、明日の、風が吹ク」
 かかる運命はヒトそれぞれ。
 それをどう受け止め、抗うか諦めるか、選択するのは本人のみだ。
 アルヴィン・オールドリッチはそう思うのである。
 港湾都市の海は今日も青く輝いている。


 了




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 外見年齢 / 肩書き】
ka2378 / アルヴィン = オールドリッチ / 男 / 26才 / 半妖の帝国貴族
ka0410 / ジュード・エアハート / 男 / 18才 / ポルトワール出身の商人

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご発注有難うございます。望月誠司です。
 基本的人権とか各種権利の法の有無や社会通念によって、
「不法に人間を売買していた業者と親から子供を助けたと讃えられる」
 or
「合法的に売買契約が成立していた商品を横から略奪した強盗・傷害犯として追われる」
 が変わるので、基本中世な世界で、海上交易で栄える商人の街で、スラムの子供で、親は売買に応じていた、となると後者になるのでは……? と思い、
「どうして、この街の正義は、それではないのか……!」と嘆いたり「こんな非道を許容する法なんぞクソくらえだ!」とかそんな感じに激昂したりな展開で奴隷泥棒として軍に追われる中、三人で都市から脱出して、少女が荒野に自由と尊厳を求めて一人旅立ってゆく背を見送る、とかな展開がズババッと幻視されたのですが「普通にポルトワールじゃ人身売買とか禁止です」とFでも書かれてらっしゃるMSさんにご助言いただき前者になりました(
 あとジュードさんのキャラ、子どもが絡むと感情的な言動が目立つ、との事ですが、このくらいの匙加減で大丈夫でしたでしょうか……? さすがに感情的になりすぎ、という事でしたら申し訳なく。
 ご期待に添える内容になっていましたら幸いです。
野生のパーティノベル -
望月誠司 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年07月24日

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