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『ふかふかの布団の中で、二人並んで見る夢は…… 』
シルフェ・アルタイルka0143)&龍崎・カズマka0178

○お泊りの約束
 その日は朝から雨が降っていた。しかし夕方になる頃には雨はやんで、オレンジ色の夕日が空を染める。
「この分だと明日は晴れるな。今の季節は暑いぐらい晴れる方が、夏らしくて良い」
 龍崎・カズマ(ka0178)は外に出て、眼を細めながら空を見上げていた。
「だがさっきまで雨が降ったおかげで、今夜は涼しく眠れそうだ。流石に熱帯夜は勘弁だな」
「ねぇねぇ、カズマさん」
「ん? どうした?」
 カズマにおずおずと声をかけたシルフェ・アルタイル(ka0143)は、上目づかいをしている。
「明日は晴れそうなんだよね? お布団を干したら、太陽の匂いするかな?」
「ああ、そうだな。洗濯物を干すには、きっともってこいの天気になると思うぜ」
 鼻をクンクンとさせるカズマは野生の勘が働くのか、明日の天気が大体分かるのだ。
「じゃあお布団を干したいの! お日様の匂いがするお布団で眠ったら、きっとカズマさんにギュッとされている感じがして、良い夢が見られると思うから」
「まあ確かに、太陽をいっぱい浴びた布団で眠るのは気持ち良さそうだが……。もしかして、怪談話でも聞いたのか?」
 シルフェの小さな体がビクッと震えるのを見て、カズマは自分の勘の良さを改めて感心してしまう。
「この季節だと涼しくなる為に、いろんな所で怪談話が盛り上がっているからな。さては興味本位で聞いて、夜一人で眠るのが怖くなったんだろう?」
 カズマに人差し指で軽く額を突っつかれて、シルフェはぷくっと頬を膨らます。
「かっカズマさんは怖い話は平気なの?」
「生憎と怖がる年齢じゃないんだ。それより今夜は平気なのか?」
「今日の夜はお友達が泊まりに来るから、大丈夫だよ。……でも明日は家に一人でお留守番なの」
 シルフェは義兄と暮らしているが、二人ともハンターゆえに家を空けることは少なくない。
「なるほど。シルを一人にさせるのは、いろいろと心配だしな。明日は俺が泊まりに来ようか?」
「ホント? それならシルフェと一緒に寝てくれる?」
 シルフェの思いがけない提案に、カズマは眼を丸くする。
 しかし大きな赤い両目を期待でキラキラと輝かせているシルフェを見ると、断れない。
「……分かった。それじゃあ明日の夜は、一緒に寝ような」
「わーいっ♪ 約束だよ、楽しみにしているからね!」


☆そして翌日の夜
「カズマさん、浴衣ありがとう!」
 カズマは浴衣に着替えたシルフェに笑顔で抱き着かれて、小さく硬い頭が腹にめり込んだが悲鳴を必死に我慢する。
「おっおう、良く似合っているぞ」
 泊りに来ると約束した翌日、カズマはシルフェに寝間着用の浴衣をプレゼントとして持ってきた。
 水色の生地に赤い金魚柄の浴衣は、見ているだけでも涼しさを感じる。シルフェの髪と瞳の色が使われている浴衣なので、とても良く似合っていた。
「カズマさんもその黒い浴衣、良く似合っているよ」
「ありがとな。でもこれは浴衣じゃなくて、甚平と言うらしい。俺は浴衣よりも、こっちの方が寝やすそうだったから選んだ」
 カズマは黒い生地に白い格子柄の甚平を着ており、男前が上がっている。
「さて、二人とも寝間着に着替え終えたし、昼間に干した布団を敷くか」
「うん! 天気の良い日に干したから、スッゴクふかふかになっているよ!」
 二人は昼間に干した布団を、寝室に運んで並べた。そして二人で一つの布団の中に入る。
「ふわぁ、お日様の匂いに包まれているみたい」
「今日一日、晴れていたからな。良い感じに仕上がっている」
 二人は太陽の光をいっぱい浴びた布団に、大満足した。
 そこでふと、シルフェは思ったことをカズマに問い掛ける。
「ねぇ、カズマさん。シルフェにくれたこの浴衣、一人で買いに行ったの?」
「まさかっ! ここに来る途中で、偶然会った知り合いの女性ハンターと一緒に買いに行ったんだ。俺はこういう贈り物を選ぶことが、あまり得意ではないからな」
 女性ハンターにこれからどこに行くのか問われたカズマは最初、長々と説明するのが面倒だったので、「十歳ぐらいの女の子が今夜、家に一人で留守番をすると言うので、泊りに行く』と言うと、女性ハンターに氷よりも冷たい視線で見られた。
 危険人物と認識されそうなことを察したカズマは、慌てて全てを説明する。
 そして数十分かけてようやく本当の事を理解してもらったが、それなら手土産を持って行くべきだと言われて、浴衣と甚平を店で選んでもらったのだ。
 今の季節、暑い夜に着ると涼しく過ごせて良いと評判になっている寝間着用の浴衣と甚平は人気が高いようで、購入する人は多かった。
「着る物は俺よりも、年頃の女性の方が良い物を選ぶからな。実際シルも気に入ったようだし……って、どうした?」
 話の途中でカズマは、シルフェがムッツリ拗ねていることに気付く。
 シルフェは眉をひそませているが、カズマは今の話のどこに怒りを感じているのか分からない。
「……カズマさんはその女の人と、よく一緒に買い物をするの?」
 今まで聞いたことがない低いシルフェに声に、思わずカズマはビクッと体を震わせる。
「いっいや、『よく』はしないな。ただたまに、贈り物選びに困った時は相談に乗ってもらっているが……」
「どういう人なの?」
「えっと……髪が長くて一見は上品なお嬢さんって感じだが、やっぱりハンターになるぐらいの素質は充分あって、肝が据わった女性だ」
 必死に思い出しながら説明をするカズマの眼には、シルフェの眼がつり上がっていく姿が映っていない。
 シルフェは突然カズマの胸倉を掴んで、グイッと顔を近付けた。
「その女の人、美人なの?」
「へっ? ……ああ、まあ確かに綺麗な顔をしているな」
 そこでカズマはようやく、シルフェが不機嫌な顔をしているのを目の当たりにする。
「シル、どうした? そんな顔をして……」
「どーせシルフェはお子様顔だもん! 大人っぽくないもん!」
「言っている意味がよく分からないが……、何か勘違いしていないか?」
「してないもん! ……はあ、もうその女の人のお話はしなくていいよ。今度はカズマさんのお話を何か聞かせて」
「俺の話か? そうだなぁ……」
 カズマは何故シルフェの機嫌が悪くなったのか分からないまま、できるだけ無難な話を語り出す。
「この前の休みの日の事だが、森林公園で一人、読書をしていたんだ。区切りが良いところで家に帰ろうとしたんだが、腹が減ってな。近くにパン屋があったからサンドイッチを買って、公園のベンチに座って食べていたんだが……うっかり考え事をしてしまってな。その隙に近寄って来た野良の猫や犬達に、サンドイッチを全部食べられてしまったんだ」
 ヤレヤレと言うように重いため息を吐くカズマを見て、ようやくシルフェは表情を和らげる。
「アハハッ、カズマさんらしいね。でも猫さんや犬さんにそんなに好かれるなんて、羨ましいなぁ」
「じゃあ今度一緒に森林公園に行くか? 食べ物を持っていれば、必ず近寄ってくるぞ」
「わあっ、楽しみ! 絶対の約束だよ?」
 シルフェが小さな小指を差し出してきたので、カズマは微笑みながら自分の小指を絡めた。
「ああ、約束だ。この季節なら、森林公園の中を散歩するのも気持ち良いぞ」
「うん! お散歩するのも良いね。それじゃあ一緒にサンドイッチを作ろうよ。猫さんや犬さん達に食べられても大丈夫な量を作っていけば、シルフェとカズマさんも食べられるよ!」
 カズマは先日、自分に群がってきた猫と犬の数を思い出して、少し顔色を悪くする。
「そっそうだな。大量に作れば……なっ何とかなる、か?」
「何とかなるよ! えへへ、またカズマさんと約束しちゃった♪」
 機嫌が直ったシルフェは、ニコニコ顔だ。
 カズマはほっとして、シルフェの頭を優しく撫でる。
「あっ、そういえば本はその日のうちに読み終えたんだ。シルが好きそうな内容だし、今度貸すか?」
「うん、読んで見たいな。どんな内容なの?」
「……それがちょっと、説明しづらい内容なんだ。一言で言うなら、摩訶不思議……か? まあ実際に読んで見れば、分かると思う」
 本を読んでいる途中で眠ってしまい、変な夢を見たカズマはモゴモゴと言葉を濁す。
「ふぅん。それじゃあ楽しみにしているね」
「ああ。意味が分からない言葉があれば、教えるからな」
「ありがとう。でも最近は、大分言葉の読み書きができるようになったんだよ。一人で本を読むこともできるようになったし」
「それはスゴイな。じゃあ今度は、シルのオススメの本を紹介してくれ」
「うん、良いよ」
 話題が尽きない二人は、夜遅くまで語り続けた。
 しかしカズマがサバイバルについて熱く語っていた途中で、シルフェは眠ってしまう。
「……っとと、もう夜も遅いな。こんなに夜更かしをして、明日は大丈夫か?」
 そう言いつつカズマは、シルフェの顔にかかった髪を指で避ける。
 シルフェは幸せそうな顔をして眠っており、時々「カズマ……さん」と呟くところを見ると、どうやらカズマの夢を見ているらしい。
「俺が出てくる夢が、良い夢かどうかは分からないが……。まっ、俺の夢の中にも出てきてくれよ」
 カズマはシルフェの額にそっと口付けると、柔らかなぬくもりを感じながら眼を閉じた。


<終わり>

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0143/シルフェ・アルタイル/女性/10歳/疾影士】
【ka0178/龍崎・カズマ/男性/20歳/疾影士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびは依頼をしてくださり、ありがとうございました(ぺこり)。
 夏の夜をテーマにした作品にさせていただきました。
 お二人のすれ違う感情や、ほのぼのしたシーンをお楽しみください。
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ファナティックブラッド
2015年07月27日

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